ダンジョンに英雄を、伴侶を、名声を、正義を、混沌を。果ては出会いなどを求めるのは間違っている   作:七海香波

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 一週間ぶりの作者です。
 という訳で厳正なるアンケートの結果を参考にさせていただいた結果、③+④-①=“⑥劇場版モドキ”のスタートでございます。アンケート通りにするとは言ってないからね、セーフセーフ。
 ……石を投げるのだけは勘弁してください。

 あと今回は、字数制限のためプロローグ+第一話で纏めて投稿しますね。
 流石にあと600字も付け足すのは作者の脳ミソでは無理だったので。ぴえん。


≪あらすじ≫
 これは、少年(ベル)迷宮都市(オラリオ)を訪れる数十年前――“最盛”とも呼ばれた古き時代の断片。
 男神ゼウスと女神ヘラのもとで栄光を先駆けていた英雄都市に、第200階層を踏破して間もないクレス・カタストロフが帰還する。災厄の化身たる巨海の紅竜を打ち倒したばかりの彼は、その戦いで負った怪我を癒すべく静養に勤しんでいた。
 そこに現れた、一組の夫婦。
「「どうか、お願いします――私たちの子を探してください!」」
 始まりは単なる誘拐事件にしか見えなかったその依頼を、気まぐれに受けたクレス。
 しかしそれは、眩き神時代の陰に潜む三百年来の『亡霊』に繋がる入口でもあった。
 これは最盛期の裏に存在した、混沌の眷属による歴史の一頁――。


『カリギュラの船』編
プロローグ:夜天に囁く + 静養の冒険者


《プロローグ 夜天に囁く》

 

 

 空を見よ。

 

 

 宙の彼方に輝く無数の星々――その中に一際大きく瞬く、銀の大鏡を見上げよ。

 

 

 其は貞淑である。

 

 清廉である。

 

 下界の安眠を見守る、静かなる美である。

 

 

 汝らの快く崇める日輪と双極に位置する、高貴なる女神の唯一無二たる写し身である。

 

 

 ――されど、その()は一つにあらず。

 

 

 嘆かわしいことに、大いなる月を騙る痴れ者どもが幾つも蔓延る現状(いま)

 

 ――ああ、どうして許せよう?

 

 

 月を司る神は一柱(ひとり)で良い。

 

 

 ああ、愛しき皇帝(けんぞく)よ示しておくれ。

 

 

 かの憎らしくも誉れ高き【無双の狩人(オリオン)】にすら勝る我が象徴よ。

 

 

 息子の血を、娘の骨を与えよう。

 

 

 我が尽きぬ愛を、喜んで捧げよう。

 

 

 故に、赤き父祖の名の下に――落陽よ、二度(ふたたび)昇れ。

 

 

 偽りの月を撃ち落とし、我らが威光を今一度世にしらしめようではないか。

 

 

 【銀月の皇帝(カリギュラ)】の名を――再び!!!

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

《静養の冒険者》

 

 

 誰かが言った――迷宮(ダンジョン)の奥深くには、楽園(・・)があると。

 七彩絶華の花々が乱れ裂き、傾政無法の女たちが代わる代わる美酒を注ぐ至上の極楽。

 第176層に位置するその空間の名こそは、『幻想楽園(ファンタズマゴリア)』。

 来訪者を紛い物の(・・・・)快楽にて酔わせ狂わせ誑かした挙句、果てには魂の一片たりとも残さず喰い尽くして、己らの養分にしてしまう……そんな、魔性の者(モンスター)どもの巣窟である。

 

 そして今日も、その花園に訪れた哀れな()が一人。

 食人花(トレント)は一嗅ぎするだけで陶酔するような甘い蜜を垂らして。

 淫魔(サキュバス)は生まれ持った蠱惑的な肢体を惜しげもなく晒して。

 酒灯鬼(ドウジ)は手にした杯に、零れんばかりの薄く桜色がかった魔酒を張って。

 

 やってきた男を囲い、知らず知らずのうちに身も心も手籠めにしてしまおうと迫って――振るわれた剣の一閃が、その悉くを一蹴した。

 

「……チッ、発達部位(ドロップ)はなしか」

 

 舌打ちを一つ鳴らした『楽園』の侵入者が、刹那の内に身体を塵に還すこととなったモンスターたちの唯一の遺品(魔石)を勢いよく蹴り飛ばす。

 それらはひゅうと音を立てて風を切り、近くにいた他のモンスターたちの口元へと命中。

 食人花(トレント)の魔石は食人花(トレント)へ、淫魔(サキュバス)の魔石は淫魔(サキュバス)へ。

 酒灯鬼(ドウジ)の魔石は酒灯鬼(ドウジ)へと――彼らの顔面に、突如走る衝撃。

 

『ギィッ!?』

『ギャアッ!?』

『グォッ!?』

 

 侵入者の蹴った勢いが強過ぎるあまり受け止めようとした前歯が折れたり、喉につっかえて嗚咽を漏らしそうな感覚に襲われるモンスターたち。

 だが、その場でのたうち回りながらも、彼らはなんとか窒息せずに同族の魔石(それ)を呑みほすことに成功して……その身体に新たな『力』が漲る。

 迷宮(ダンジョン)のモンスターが共有して持つ『魔石喰らい』の能力によって、ステイタスが強化されたのだ。

 ならば次に為されるべきは、いきなり行われた狼藉に復讐することであって。

 彼らはその全身に力を込めて――一歩踏み出すことすら許されず、その『力』の源となった(同族)たちと同じ末路を迎えた。

 

『ギィィィッ!?』

『ギャアァァァッ!?』

『グォオオオッッッ!?』

 

 またしても転がる、先ほどよりほんのちょっとばかり大きくなった魔石。

 その周りに散る黒い塵の中に目的のものが落ちてい(ドロップし)なかったことを確認して、侵入者ことクレスはまたもや舌打ちを溢した。

 

「チッ。……まあ良いさ、そうはなから手に入れられるわけもない」

 

 左腕に(・・・)握った剣にこびりついた血を振り払いながら、眉を顰めるクレス。

 珍しく不機嫌な様子を漂わせながら、彼はまたもや魔石を他のモンスターらの口元目掛けて蹴り飛ばした。

 うち一体が先ほどの光景を見ていたのか吐き出そうとするも、瞬時に近づいたクレスによって脳天を殴りつけられて無理矢理呑み込まさせられる。そうして全身に魔石が取り込まれたことを確認してから、彼は再びそのモンスターを屠って魔石を回収する。

 

 今回の彼の狙いは、『魔石喰らい』を利用した効率的な希少(レア)素材目的の周回だった。

 人間には通常持ち得ない、モンスターが同族の魔石を食らうことで成長する権能(システム)

 一般的な冒険者であれば「それは避けるべき事態である」として、持ち帰らない魔石などがあればその場で砕いてしまうと言った対策を取る。

 しかし彼のようなちょっとした上級者であれば、それを利活用することもままある。

 

 わざとモンスターに魔石を食わせることで強化し、発達素材をより落ち(ドロップし)やすくする行為。

 ――いくら強化されるとはいえ、自分が屠れる範疇であればこれを利用しない手はないだろう?

 そんな持論を元に、クレスは蟲毒染みた周回をこの『楽園』で行おうとしていた。

 

「さて、今回は何体殺せば落ちるか。出来ればさっさと終わらせたいものだが……」

 

 そう思っているときほど、欲しいものは手に入らないのが世の常。

 神々曰く「物欲センサーは悪い文明」らしいが、それはさておき。

 

 モンスターたちが「どうやら目の前の来訪者には自分たちの能力が通じないようだ」と悟った時――表裏一体とばかりに、天国は地獄へと変貌する。

 見目麗しい外面を自ら引っ剥がした彼らが、その醜悪なる本性をさらけ出す。

 

 鮮やかな色彩の花弁を持っていた食人花(トレント)は、地中に隠していた丸太のような根茎を引きずり出して巨体を形作る。

 瑞々しい身体が自慢だった淫魔(サキュバス)は黒目と白目をぎょろりと反転させ、更には体皮を毒々しい紫に変色させつつ、男を物理的に溶かす毒を垂れ流し始める。

 そして女姿の酒灯鬼(ドウジ)は顎を頬の奥まで引き裂いて剣山の如き凶悪な牙を見せつけ、手に持っていた酒を浴びるように一息に飲み干して酩酊状態(バーサーカー)へと至る。

 

 それぞれ真の姿に成った『エンゼリック・トレント』『トラプトリクス・サキュバス』『ドウジ・オーガ』らが一堂に会する様は、まさに百鬼夜行さながらの光景。

 その中心に立たされたクレスは、されど呑気そうに左脚(・・)でこつこつと地面を叩いていた。

 

「ンー、今日は特に調子が悪いな。妙に疼くし、苛々する」

『キェァァアアアッ!!』

「うるさい。その猿叫にすらならないただの金切声を一々飛び掛かってくる度に上げるのはなんだ? そう迷宮(ダンジョン)に教わったのか、ええ?」

 

 鼓膜を突き破るような甲高い声を上げて、鎌のように伸びた爪を振り翳す淫魔(サキュバス)

 その鳩尾を撃ち抜くように蹴り上げたクレスは、相手が怯んだ隙にすかさず首を切り落とした。

 続く食人花(トレント)の太い茎部分による殴打を剣で真っ二つに断ち、そのまま芋類のようにでっぷりと太った根茎ごと唐竹割りにして枯らす。

 そして、この中で最も『力』の高い酒灯鬼(ドウジ)が本能のままに振るってくるラリアットを、彼は剣を槍のように突き出す刺突で以て受け止めるようにして貫く。

 

 魔石を壊してしまっては元も子もないので、そこだけには細心の注意を払いながらも。

 真っ向から相手に立ち向かって始末するという、どこか彼らしくない暴力的な立ち回り。

 鋭くも荒々しく剣を振るいながら、クレスは次なる個体目掛けて取り出した魔石を投擲する。

 

 そうして――斬って捨てては次に魔石を引き継がせて。

 

 嫌がる素振りを見せるモンスターがいれば強引にでも呑み込ませ、口からの摂食が不可能なほどに魔石が大きくなってくると、今度は直接腹を切り裂いてそこに押し込むという暴挙にすら躊躇わず手を染めて。

 彼は延々と、モンスターたちの生死を握って暴れ続ける。

 

 一帯に飛び散った淫魔の体液やら鬼の美酒やらが蒸発した退廃的な臭いが立ち籠る中、彼はまだまだ目的の素材が落ちぬと無言で語って剣を振るう。

 その目は何処までも冷静で冷淡で、そして冷徹であった。

 

「……」

 

 クレスが師スカサハより教わった奥義が一つ、『明鏡止水の奥義』。

 およびそれを元として成長した()ランクの心眼アビリティが、場を満たす淫蕩な雰囲気に彼を溺れさせない。

 彼の五感を犯そうとするこの階層のモンスターたちの能力は、残念なことに彼の魂に対してまったくの無意味であった。

 

 故にこそ叶う周回行為――徹頭徹尾機械的で、効率厨な殺戮行為。

 天国から地獄へと真なる姿を見せた第176層が、彼の手によってその上から阿鼻叫喚の第二園へと塗り替えられる。

 

『――ギャアアアアッ!!!』

「……こんなものか」

 

 最終的に都合百ほど仕留めては食わせてを繰り返して、出来上がったのは三つの異形なる異形。

 

 一つ。狂ったように咲いては枯れて、弾けた種からまた生えてを繰り返す食人花(トレント)

 

 一つ。男を魅了するだけに過ぎなかった体液(エキス)が濃縮の限界を迎え、ついに自らすらも耐え切れなってビクビクと震えるばかりになった淫魔(サキュバス)

 

 一つ。浴び過ぎて脳が完全に酒蜜(アルコール)に浸食され、ケタケタその場で笑い転げることしか出来なくなった酒灯鬼(ドウジ)

 

 既にモンスターと呼ぶことさえ憚られる姿になったそれらをクレスが仕留めれば、ようやく狙っていた素材たちが黒い塵に半ば埋もれながら姿を現した。

 『エンゼリック・トレントの種』、『トラプトリクス・サキュバスの唾液』、『ドウジ・オーガの酒雫』。

 それらを拾い集めたクレスは拠点に戻ることすらしないままに、その場で座り込んで急ぎ調合(・・)を始める。

 

 両脚で挟んだ乳鉢に種子から取り出した胚乳を入れ、そこに残る二つの液体を少量ずつ注ぎながら丁寧に磨り潰していく。

 やがて出来上がった乳白色の液体に懐から取り出したキツい薬草(ハーブ)臭の液体を同量注いで、更に念入りに掻き混ぜる。

 

「……完成だ」

 

 最後に、出来上がった()を前に座り込んだままの彼はおもむろに左手を右肩に添えた。

 ――がちゃり、と何かが外れる音が響く。

 同時にクレスの右腕が支えを失ったように、地面に落下した。

 

 否、それは彼本来の右腕ではなく、魔道具(マジック・アイテム)の義肢であった。

 更に左脚の付け根にも同様の手順を行い、繋がっていた義足を外す。

 

 そうして五体から三体となった彼は、出来上がったばかりのクリーム状の薬を指先にとって、少し前まで(・・・・・)右腕と左脚のあった(・・・・・・・・・)場所に残る生々しい傷跡に満遍なく塗り込んでいく。

 

「まだまだ先は長い、か」

 

 クレスが目をやった二つの傷跡には、うぞうぞと蚯蚓が蠢くような黒い呪詛(カース)が犇めいていた。

 それこそは彼が先日、やっとの思いで攻略した迷宮(ダンジョン)第200層『厄束の死海(カナン)』に住まう海の覇王(リヴァイアサン)の亜種、『レヴィアタン』による報復と恩讐の呪いである。

 

 おおよそ二十年がかりの大討伐――かの地に住まう原罪の黒獣を討った紛れもない偉業と引き換えに、彼は右腕と左脚を失った。

 

 とはいえ取り戻す目途はとうに立っており、今の彼は三百年ぶりの静養中なのだった。

 

 『エンゼリック・トレントの種』が豊富に持つ栄養分、『トラプトリクス・サキュバスの唾液』及び『ドウジ・オーガの酒雫』の鎮痛作用、その他諸々を配合した医神(ディアンケヒト)お墨付きの再生薬(リジェネレータ)

 それによって傷は徐々に癒えつつあるが――完治までには討伐に掛かったのと同程度の時間を要するだろうと、レベル19に(・・・・・・)達したばかりの(・・・・・・・)彼の直感は察していた。

 

 討伐を報告した当時、ウラノスは『リヴァイアサン』の主たる生息地を突き止めたことに珍しく興奮を隠せないでいたし、主神カオスは眷属が死に体ながらも生きて帰ってきたことに涙を流して喜んでいた。

 しかしクレスの内心はただ一つ。

 その間迷宮(ダンジョン)の攻略が滞ってしまうことに対して、大きな怒りを孕んでいた。

 このような状態で新たな階層に挑む蛮行を犯さない彼の理性が、逆に今の彼を苦しめていた。

 

「……また一年が過ぎる。約束の時か」

 

 ――きっとまた、眷属を溺愛する主神にべたべたと引っ付かれるに違いない。

 大切にしてくれる分には構わないが、もう少しどうにかならないものだろうか。

 

 預言者系統のスキルを持たずとも分かる、地上に待っている面倒くささに溜息を漏らしながら義肢を装着し直したクレスは地上で使う分の薬を包んで魔法を唱える。

 

「我は此処にありて、尚あらざる者なり――【シュレディンガー】」

 

 目指すは久方ぶりの地上。

 今を生きるゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアのせいで年がら年中騒がしく、この世においてもっとも退屈とは縁遠い最盛の都(オラリオ)――。

 

 

 




 今回は重要なお知らせがあります。
 というのも、実はこの作品について運対を受けてしまいました。
 そう、前話の内容で“R-15”タグをつけてなかったからです(←大々馬鹿)。
 いつも大体どの作品でも脳死でつけていたハズなんですが、本来は一話限りのネタにする予定だったということで付け忘れていたようです。
 本当に、申し訳ない(←無能)。
 いずれにせよ、これは問答無用で全力土下座以外ありえない案件でございます。
 今回の件におかれましては、作者の性癖に意図せず被弾してしまった読者の皆様方と、何より偉大な至尊たる運営様にご迷惑をおかけいたしましたこと、誠に申し訳ございませんでした。

 なんとか運営様にはタグ付けで見逃してもらったので、今後は付けて頂いたタグの名に恥じぬよう一層精進する次第でございます。

《Tips》
 今回のここはお休みです(ネタ切れ)。
 なお、感想欄で話の展開をぴったんこ当てたりするのは作者が悲しむのでやめてください。

今後の展開どうするべ?(参考程度に)

  • ①本編にちまちま関わる
  • ②これまで通り『深々層』攻略
  • ③ファミリアクロニクル:クレス
  • ④カオス・レコード
  • ⑤迷宮神聖譚:『冥洞一灯伝』
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※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。