ダンジョンに英雄を、伴侶を、名声を、正義を、混沌を。果ては出会いなどを求めるのは間違っている   作:七海香波

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 今朝に引き続きおはこんばんちはにございます、作者です。
 本日二度目の投稿になりますが、皆様は良い一日をお過ごしになれたでしょうか?
 え、なんでこんなに早いのかって?
 とりあえず書けたから、なだけです。以上。
 それではどうぞ。


捜索依頼:【消えた少女の行方を追え】

 

 バベルに向かうクレスの目的は二つあった。

 一つは主神カオスに一年ぶりに顔を見せて、無事を報告すること。

 もう一つは当代のギルドの長と意見を交換すること――彼からは『深々層』で得た諸々の知見を提供し、代価として彼女(・・)からは上層で新たに発見された未開拓領域等の情報を貰うことである。

 

「しかし、どちらから先に済ませるか……難しい問題だな」

 

 段々と近づくバベルの陰を前に、クレスは悩まし気に自分に問うた。

 と言うのも、何しろ現在――彼からしてみればどちらの対応も中々に面倒臭いのだ。

 

 主神カオスは言わずもがな。

 片腕片足を失うといった通常の冒険者であれば引退間違いなしの大怪我を負ったクレスのことを大切にしようとするあまり、帰った時には限界を超えて必要以上にベタベタと引っ付こうとしてくる。

 とうに過ぎ去ったはずの思春期における親への反抗期が蘇ってしまいそうになるくらいには、ごほんごほん(うざったい)

 

 そして当代のギルド長である小人族(パルゥム)の女。

 彼女は種族由来の(さか)しさで以て、口八丁と手練を駆使してあの手この手でクレスに厄介な話を押し付けようとしてくる。しかも毎度彼の許容範囲をギリギリで超えてこない辺りが、特に面倒なことこの上ない。

 

「それはそれとして、攻略出来ない暇に調合をし過ぎたせいで素材も枯らしかけているからな。そっちも買い集めなきゃならん。ふむ、いっそそちらを先にして面倒は後に回すか?」

 

 嫌いなものを先に食べるか、後に食べるか。

 そんな次元の話をぐるぐると頭の中で堂々巡りさせているうちに、いつの間にかクレスの足はバベル前の大広場まで辿り着いていた。

 辺りを見渡せば、今日も今日とて迷宮(ダンジョン)に潜ろうとする勤労勤勉な冒険者たちの姿が見受けられる。

 その中で、彼に見覚えのある紋章(エンブレム)とそうでない紋章(エンブレム)の割合はおおよそ7:3といった所か。

 また彼の知らない内に、新たな神々が着々と地上に根を下ろしてきているようだ。

 

 ――さて、その新興ファミリアの中でいったいいくつが名を上げ、いくつが歴史に一文すら残さず消えていくのか。

 彼としては、願わくはなるべく多くの後輩が育ってほしいと考えているのだが……そんな先達としての祈りは、得てして届かないことが世の常だ。

 

「ま、そんな下らん常識に捕らわれないよう精々頑張ることだ。俺も頑張るからな……よし、と」

 

 希望に燃えた若人たちを前に、クレスもウダウダと悩んではいられない。

 まずは特に厄介そうなギルド長との情報交換から先に処理してしまおう……そう考えて巨塔の門を潜ろうとした矢先、その前で一組の男女に呼び止められる。

 

「あの、すみません――この女の子を見かけませんでしたか!?」

「む?」

 

 同じデザインの指輪を左の薬指に嵌めているところからして夫婦であるらしい、壮年の男女。

 その彼らが、クレスに対する声掛けと同時に胸元に抱えていた紙束のうち一枚を彼の手に押し付けてくる。

 それを仕方なしに受け取った彼は、さっと中身に目を通した。

 

 そこに大きく書かれていたのは、大きなはしばみ色の瞳を持つ可愛らしい少女の似顔絵。

 名はユリア・ダルシア、年齢は5歳。

 その彼女が、三か月ほどまでにお使いを任せたっきり姿を消してしまったのだとか。

 ――よくあることだな、とクレスは特に目の色を変えることもなかった。

 

 強い光はより濃い陰を生むと言ったように、一見して時代の最先端を行く輝かしいオラリオの裏側にも何時の時代においても相応に黒い陰が付き纏っている。

 例えば悪派閥(イヴィルス)に代表されるように、実際の所はこの英雄都市も誘拐や暴行、建造物の爆破に至るまで犯罪とは無縁でいられないのだ。

 ガネーシャ・ファミリアなどが治安維持に走ってはいるが、人数に限りがある以上、手を伸ばせる範囲にも当然限度がある。

 

 そして冒険者たちは本業が犯罪の取り締まりではなく迷宮(ダンジョン)の攻略であるから、知り合いがその禍に巻き込まれない限りは基本的に発生した事件の解決に自ら関わろうとはしない。

 現に、先ほどからクレスが眺めていた冒険者たちはみな夫婦の訴えに耳を貸すことなく側を通り過ぎていくばかりだ。

 

 未だ天界に居ると言う『正義』や『秩序』を司る神々が地上に降りてくれば、またこの状況も少しは改善されるのだろうが……神の御心は人たるクレスには分からない以上、いったい何時になることやら。

 

「あの……」

 

 ずっとチラシを手にして佇みながら世の無常について考え込んでいたクレスを「心当たりがあるようだ」と勘違いしたのか、通りすがる冒険者たちに声をかけていた夫婦が話しかけてくる。

 

「もしかして、見覚えがあったりしましたか?」

「いや。悪いが、普段は迷宮(ダンジョン)に籠りっきりで地上のことはあまり気に留めていないものでな。考えていたのも別のことだ」

「そうですか……すみません冒険者様、お邪魔をしてしまって」

 

 クレスの答えに落胆し俯く妻の肩を、夫が慰めるようにそっと抱きしめる。

 その際にちゃりっ、と彼の胸元に下げられた飾りが小さく音を鳴らした。

 ついそちらに目を向けたクレスは、思わぬ物を目にしたとばかりに今度は彼の方から夫婦に声をかけた。

 

「すまない。貴方たちの娘の話とは別件で申し訳ないが、そのペンダントを見せてはもらえないか?」

「は? 構いませんが……」

 

 夫の方が不思議に思いながらも、クレスに首の細鎖を外してペンダントを手渡す。

 その持ち主の気軽さとは裏腹に、彼は慎重な手つきで以てそれに目を凝らした。

 手触りと質感からして、単なる木製の彫刻のようにも見える装飾具。

 丸い球状に削った表面の上から複雑に絡み合う蔦のような保護具が取り付けられており、その奥にはよく見れば隠されるようにして神聖文字(ヒエログリフ)が書かれていた。

 

「――『我、麗しき金枝の使徒なり。偉大なる女神のために祈りを捧げん』」

「おや、なぜその文言をお知りに? それは我が一族に伝わるお祈りの言葉なのですが……」

「ここにそう書いてあったからだ。しかし、この祝詞は……なるほど、そういうことか。これは『聖金樹(ウィスクム)』、エルフの崇める『大聖樹』と祖を同じくする代物。そしてその枝を加工した装飾品を持つことを許されたのはひどく限られている――そうか、古きロマーナの末裔か」

 

 クレスの発したその問いかけに、夫は妻と一度顔を見合わせてから確と頷いた。

 

「よくお分かりになりましたね。その通りです、貴方の仰った通り私はかの偉大なるクラディウスの末裔。とはいえ今はこの街のしがない一大工をしておりますがね」

「大工か、この街ではおおよそ仕事にこと欠かない重要な職だな。しがないなんて評価は相応しくないだろう。それに、建国王である初代は同じ造る者として良い仕事を選んだと喜ぶはずだ。最もクラディウス朝の面々は顔を顰めるかもしれんがな」

 

 なにしろ彼らの祖先であるところの皇帝の一部は、とある大工の息子が率いたとされるファミリアとよく争っていたことで知られているからだ。

 かつての宿敵が腕を磨いた仕事に自らの子孫が携わることになったと知れば、今頃彼らの中には冥界でキレ散らかしている者もいるかもしれない――それはさておき。

 それにしても、とクレスは手にした『聖金樹(ウィスクム)』の宝玉をよくよく観察して考える。

 

「(この『聖金樹(ウィスクム)』、当時のロマーナにおいて再生と繁栄の象徴として崇められただけあってまだ生きている(・・・・・)な。大元は既に戦火に焼かれてとうに消えたと聞いたが、例え破片になろうと、潤沢な魔力があればすぐにそこに根を生やして元の大樹の姿を取り戻すだろう……それに)」

 

 『聖金樹(ウィスクム)』、別名『聖なるヤドリギ』は優秀な回復薬(ポーション)の素材として、当時のロマーナでも大変重宝されていた素材である。

 今のクレスにとっては喉から手が出るとまでは言わないものの、それでも手に入れておいて損はない代物だ。

 

 ――更につけ加えるなら、オラリオで起こる犯罪と言えば大抵が悪神の眷属どもが関わっている。

 再生薬(リジェネレータ)の調合実験の過程で失った検体の確保もちょうどしたいと考えていた矢先に、それが叶いそうな話が舞い込んできた。

 ならばせっかくだ、とクレスは夫にペンダントを返すと同時に口を開いた。

 

「先ほども言った通り、俺は貴方たちの娘を見ていない。しかし、良ければその捜索を依頼として請け負おう」

 

 どうせ現状では迷宮(ダンジョン)攻略も満足に出来ない身なのだ。

 ならばせめて身体を鈍らせないよう、たまには冒険者らしく普通の依頼を受けてみるのも良いだろう。

 そう軽く考えて提案したクレスの手を、夫婦は驚きと共に喜びを浮かべて強く握りしめた。

 

「それは本当ですか!? ……ですが、申し訳ないことに私たちの血筋は元皇帝一族のものとは言え、とうに落ちぶれた身。大した遺産を引き継いだわけでもありませんし、冒険者の方に満足いただけるだけの報酬を用意することが出来るかどうか……」

「金は不要だ。ただし、事後報酬としてそのペンダントを譲り受けたい。全体とは言わない、極僅かな一部分を削り取らせてもらうだけでも構わない。ただ、代々受け継いできた家宝に傷をつけることに変わりはない。それでも良いのであれば、だが」

「構いません!」

 

 まず間違いなく、あのペンダントは彼らにとって家宝に等しい代物に間違いない。

 クレスの見立てによれば、当時皇帝に仕えていた由緒正しき彫金師一族の手による代物である。歴史的価値は勿論のこと、売却すれば彼らの孫世代まで不自由しない暮らしが保証されるだろう。

 それをいきなり「寄こせ」と言うのだから一晩くらいは迷う時間が必要かもしれないとクレスは考えていたのだが、しかし夫婦は構わず彼の提案を即座に受け入れた。

 

「娘が戻ってくるのであれば、装飾品の一つくらい喜んで差し出しますよ。お婆様やお爺様が生きていればそれはもう盛大に怒られたかもしれませんが……娘を取り戻すためとなれば、きっと偉大なる父祖もお許し下さるでしょう」

「そうか。――娘も立派な親を持って誇らしいだろう」

 

 娘の身柄と家宝を天秤にかけて、迷わず娘を選ぶ。

 世の全ての親にとって鏡となるべきその選択は、クレス個人としても好ましいところであった。

 悪意を向けられれば容赦なく悪意を返す彼だが、人の善意を見せられれば相応の善意を施してやりたくなるくらいの心は残っているつもりだ。

 

「良いだろう。では当時の状況について、知っていることを一通り話してもらおうか。場所はギルドの一室を借りるとして……ついでにあの女(ギルド長)にも情報を出させるか」

 

 ――きっと「迷宮(ダンジョン)狂いの貴様らしくもないですね。さては拾った雲菓子(ハニークラウド)でも食べましたか?」などと揶揄われるかもしれないが、どう返してやろうか?

 そんなことを頭の隅で考えながら、夫婦をつれてクレスは改めてバベルの門を潜るのだった。

 




《Tips》
・とある大工の息子のファミリア
 言わずと知れた『《三位一体》のあの方』を団長とするファミリア。
 最も現在では三つの宗派に別れて争いを繰り返すようになったため、いつしか主神は呆れてどこかに姿を消してしまったとされる。それぞれの宗派の中には稀に『聖人』『聖女』として眷属が生まれるため、一応送還はされていない様子。

今後の展開どうするべ?(参考程度に)

  • ①本編にちまちま関わる
  • ②これまで通り『深々層』攻略
  • ③ファミリアクロニクル:クレス
  • ④カオス・レコード
  • ⑤迷宮神聖譚:『冥洞一灯伝』
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