ダンジョンに英雄を、伴侶を、名声を、正義を、混沌を。果ては出会いなどを求めるのは間違っている 作:七海香波
前書きなんていらないという読者様方が九割九分九厘だと思いますが、まあ落ち着きなすって(下手)。
という訳で最新話をどーん。
港町メレン。
オラリオの目と鼻の先にある海洋の出入口に辿り着いたクレスは、休む間もなくガネーシャ・ファミリア所属の『
支部長を務める
紙の劣化を防ぐための、潮風から隔離された黴臭い部屋の中で彼らは再び書類を漁る。
クレスが目をつけた
「足は個人所有の小型
「おお、もう見つけたんだな! では早速、他の港に着港履歴を確認して――」
「いや。その必要はない」
クレスの呼び止めに、喜び勇んで記録庫を出ようとしたメルギィの足がキキーッ、と音を立てるかのようにして止まった。
勢いよく振り向いた彼の顔には、ありありと疑問符が浮かんでいる。
「何故だ!?」
「ギルド職員が検査したこの船の
「……そういうことか! なら確かに無駄足だな! しかし、だとしたらそのマルクス・ドルゥーススとやらの船は何処へ行ったと考えられる!?」
「普通に考えれば、その距離の半径内に存在する小島のいずれか――もしくは、
可能性の話を論ずることの無意味さを認めたクレスは、口に出しての考察を止め、手元に開いていた書類の綴りを棚に戻した。
それから彼は少し考えた後、メルギィの心身に漲る溢れんばかりのやる気に水を差すような問いを発した。
「確認だが、海中もしくは海上戦闘の心得はあるか?」
「俺はない! 『潜水』アビリティの持ち主が必要か? それなら別途手配するが……」
「海は
「ぬ――残念だが、ウチにそこまでの者はいないな。そちら方面の能力を求めるならむしろ、
「だが、こちらは逆にレベルの高が知れている、か。……分かった、ここから先は俺一人だな」
クレスが持たない、公での権力の出番は恐らくここまで。
これから先は地位でなく技術、彼の秘する
しかし、彼の保有する
表立って話すことの出来る『潜水』アビリティ云々を付き添いを断る理由にして、クレスは最後に感謝を伝えるべく手を差し出した。
「ここまで世話になった、メルギィ・ヴァルマ。初孫が生まれた暁には出産祝い……そうだな、
「そうか……力不足ですまん! 初孫が生まれた時には、是非顔を見に来てくれ! 歓迎するぞ!」
一瞬悔し気な顔を見せるも、メルギィはすぐに気を取り直して笑顔に戻った。
暗に「役立たず、足手まとい」と言われて腹の立たない者はいない。
特に実力主義に基づく
しかし、その腹に据えかねる想いをすぐさま「己の努力不足にある」と呑み込んだメルギィは、流石ガネーシャが眷属にしただけのことはあるとクレスは感心した。
その彼に再び握られた手を邂逅時の二割増しの勢いで振り回された後、「またなー!」と激励を送られてクレスはギルド支部を後にした。
それから彼が向かったのは、ここメレンにも当然設けてある
東部の波止場の一角に建てられた、一見宿のようにも見える木造の古家。
数十年単位で利用していないせいで外壁が黒く変色しかけているその建物の正面に立った彼は、玄関の鍵穴に数多のひっかき傷がついているのを見てとった。
やはりと言うべきか、ろくに管理もされていない様子のこの家に不法侵入を試みた連中が数多くいたらしい――もっとも、全て無駄骨に終わったようだが。
建物の裏に回り、人目につかないことを確認してから彼は
「【シュレディンガー】」
一般的な家屋に見せかけるための
唯一の正しい入り方である
共に向かうのは、大海へと繋がるロログ湖の入り江――その
唯一水中の
「前に使ったのが残ってたか。……ま、これだけあれば足りるだろう。長引けばまた持ってくればいい」
魔石を燃料に駆動する
『深々層』の亀型モンスター『アクバーラ・タートル』の甲羅を利用したクレス特注の船だ。
外周を軽く視認して疵や経年劣化がないことを確かめ、その船先につけられた対リヴァイアサン用の試作撃竜衝角の輝きにも欠けがないようだと小さく頷いて、彼は眠る
――かくて炉が稼働を始めた
動力源より伝わる振動にかすかに揺れる操縦桿をしっかと握り、クレスは彼女に出港の合図を下す。
「発進」
ゴポゴポ……と
船室にて窓の外側が水面下に潜る様子を尻目に、クレスは操縦桿を前に倒した。
彼の目の前に広く展開された
船後方の
やがてロログ湖の湖峡を超えて大海原へ飛び出したところで、彼は船を浮上させた。
水平線上に幽かにメレンが見えるくらいの位置まで到達したところで、彼は一度手元の小型船舶用
「……この辺りにはモンスターどもしかいないか。まあ、漁師の行動範囲に腰を据えるはずもなし。遠洋まで出なければ話にならんだろうよ」
クレスは再び
海面をV字に切って快進する船、その真横で激しい白波が弾けては消えていく。
その道中で適宜
――しかし当然のことながら、相手方の痕跡は中々見つからない。
途中で見つけた小島には漂着した漁師たちが浜辺に残したのであろう焚火の痕跡くらいが辛うじて見られたものの、島の奥部へと続く足跡などが見つからない以上は実質的な無人島だ。
見つかるのは、そんな島々ばかり。
となれば、ギルドでメルギィの前にて口に出さなかった別の可能性が考えられる。
例えば、常人の目には見つからない海底基地。
しかし 念のためにとその存在は海上と並行して別途海中にも音波を走らせることで潰していたのだが、その類のものは見つかっていない。
他には例えば、行動範囲の広い大型船舶や飛行船への収容。
より大きな輸送機関への乗り換えが行われた……こちらの方が怪しいか、とクレスは海原を駆けつつ唸る。
「ふぅむ……よし、物は試しだ」
現在彼が使用している汎用の
――だがこんなこともあろうかと、《ナキア・ラクリミス》には別の探知機構が搭載されている。
《学区》をモデルとしてこの船を開発した
出力こそ船体のサイズ相応に落とされているものの、その探索範囲はクレスたちが今立つこの星の
『深々層』に生息する
「――む?」
幸運にも、一回目からクレスの目は魔道具の
一つは国家にも匹敵する多くの魔力の集合体――恐らく《学区》だろう。
クレスの放った
ちょうどオラリオ近海を航行していたようだが、そちらの動きは捨て置くとして。
――その世界最大の『船』に迫るかとも思われる、もう一つの大きな光点はなんだ?
こちらは光粒の数こそ少ないが、その中央に一際大きな魔力の反応が瞬いている。
「確かめてみるか」
《学区》に匹敵するほどの巨大船が建造されたなどと言うニュースがあれば、まず間違いなくカオスが彼に伝えるはず。しかしクレスは、そんな話を聞いたことがなかった。
善は急げとばかりに、彼はさっそく不審に思った謎の光点へ向けて舵を切る。
距離にしておよそ5,000
その大陸一つ分に相当する距離を、《ナキア・ラクリミス》は一挙に踏破する。
半ば海面から浮くほどの勢いで、自動操縦形態に切り替わった彼女は大気の壁を突き破りながら一時間と半で光点の近くまで駆け抜けた。
その間手持無沙汰だったクレスは船内に常備していた非常食で腹を満たし、目的地に到着した頃には、既に空は暗くなっていた。
水平線の彼方で、赤く燃える太陽が没する最中。
紫茜に染まる空の向こうに、クレスは肉眼でその光点の正体を捉えた。
「……ほぅ?」
それは、全長500
とはいえ
その周囲を幹と見紛うほど極太の植物の根らしきものが這って補強しており、それがヤドリギのものであることをクレスはすぐさま看破した。
そして偶然にも、彼はこの『艦』を――『陸』の本来の姿をかつて目にしたことがあった。
「何処のどいつだ、こんな遺物を引っ張り出してきた奴は。……前に俺が沈めてやったはずだが」
それは――かつてこの海の上に存在した
ムー・ファミリアの国土として利用され、そして八百年もの過去に『
恐らくはその残骸の一部を
ただしそこに刻まれているのは、かつて彼が見た太陽の紋章ではなく、真円――満ちた《月》。
そしてご丁寧に側面に書かれていた船体の名前を、朧げに降り注ぎ始めた月明りの下でクレスは眉を顰めながら読み上げた。
「――《ネモレンシス》」
《Tips》
・ムー・ファミリア
太陽神ラ・ムーを祀っていた、数百年前の国家系ファミリア。
《アトランティス》の先住民族である3つの種族はかつて互いを尊重し絆の輪を築いていたが、神の下界への降臨を切っ掛けに、「己の種族こそがラ・ムーの
事態を憂いた神ラ・ムーは3種族の諍いを収束させるべく「己以外の神を信仰する不忠者たちに天罰を与えよ」と彼らに『共通の敵』を作ったのだが、それは次第に「最も戦果を挙げた種族こそが神の御心に沿う」と曲解され、3種族はやがて本能の赴くままに世界中で戦争を引き起こし始める。
その過剰なまでの信仰心が回り巡ってファミリアそのものの破滅に繋がったことは、本来住まう場所の異なる神々が下界に降りた弊害の一つなのかもしれない。
今後の展開どうするべ?(参考程度に)
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①本編にちまちま関わる
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②これまで通り『深々層』攻略
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③ファミリアクロニクル:クレス
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④カオス・レコード
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⑤迷宮神聖譚:『冥洞一灯伝』