ダンジョンに英雄を、伴侶を、名声を、正義を、混沌を。果ては出会いなどを求めるのは間違っている 作:七海香波
書けちゃったので出しちゃうぜ☆
この度は読者の皆様を裏切ってしまい、真に申し訳ございませんでした。許して?
「御身も既に察しているとは思うが――改めて名乗ろう。オレこそは栄えあるロマーナ皇帝、ガイウス・ユーリウス・カエサル・アウグストース・ゲルマニクスである。またの名をカリギュラ、此度は我が子孫たるこの娘の身を借りて一時的に顕現した」
「……」
少女ユリアの身体を使う何者かは、自身のことをそう名乗った。
それを聞いても無表情を保ったままのクレスを「突然のことに困惑している」と勘違いしたのか、彼は下げていた頭を上げ直して、慣れない少女の肉体でぎこちない身振りを示しつつ説明のために口を開いた。
「ああ、この身体の本来の精神のことを気にしているのか? 心配せずとも良い。我が女神の《魅了》による自我の封印が逆に強固な盾となって、オレの精神による上書きを防いでいるが故な。それとも次なる
その情報を流し聞きつつ、クレスは相手の発した名を頼りに記憶を手繰り寄せていた。
カリギュラ――山ほどいる古代ロマーナの皇帝のうちの一人。
大した功績も残さず歴史の露と消えた者もいれば、そうでない者もいる中で、彼の名が後世に残すところの意味と言えば……。
「……思い出した。銀月の狂気に堕ちたと評される、ロマーナ屈指の暴君か」
彼から見て遥か後の世の評論家がそう纏め上げた、侮辱とも言える評価。
されどクレスが発したその評価を、とうのカリギュラは否定する素振りを一切見せることなく受け入れた。
「しかり。賢帝と呼ばれ調子に乗り、月女神を口説いたまでは良かったが、しょせんはその愛に応えきれずに呑まれてしまった愚帝よ。その後のオレが女神に捧ぐ愛を勘違いしてしまったせいで、民に苛政を敷いてしまったことは今でも深く悔やむところである。だが、オレの後悔よりも今は現状をこそ語らねばなるまい」
借りた少女の顔に深い自責の念を浮かび上がらせながら、カリギュラは
「既にオレと言う皇帝の概要は知っていよう、その末路もな。女神の寵愛に魅入られ過ぎたオレはその愛に相応しい国を作ろうと独裁を強化した結果、当然の如く暗殺された。死の間際に正気を取り戻したオレとしては「それで良い」と受け入れられたのだが……しかし、我がディアナはその終わりを良しとしなかった。本来ならば天に還るべきオレの魂を、その
「それだけでも既に神々に許された範囲を超えているな。見逃されていたのは……ああ、まだ具体的な下界での
神々が現代まで続く『下界の
その当時の
カリギュラもその神ディアナの判断そのものは特に非難するつもりがないようで、話を続ける。
「うむ。そして、当初は手元にひっそりと隠したオレの魂を愛玩する程度で収まっていたのだが、我が女神の愛は次第に膨れ上がり、それだけでは満足できないようになっていったのだ。オレの肉体的不在と併せて……とうに絶頂期を過ぎ、衰退していくばかりのロマーナを眺めながら。あの憎き
「……」
「その『時代の移ろい』が、不変を是とする女神には耐えられなかった……それと同時期に、ロマーナ外で名声を高めつつあったアルテミス・ファミリアという名の派閥があったのだが悪かった。同じ事柄を象徴する女神アルテミスは隆盛を極めていくのに、自らの
「……ただでさえ心が弱っていた時期に他者との比較を覚えて、下へ降りるばかりの螺旋階段から思考が抜け出せなくなってしまったのか」
「そうだ。神と言えど人と同じように思考するのだと、あの時ほど強く実感したことはない……。それから更に経って、いつからだったか……あの御方はかの正当なる時代を復活させようと、
当時を思い返すかのように、瞼をキツく閉じて顔を顰めるカリギュラ。
彼は女神ディアナのお膝元で長きに渡り彼女と視界を共にしていたからこそ、その
生の後半ではその在り方こそ歪んでしまったとはいえ、その口振りから、彼が間違いなく自らのロマーナを愛していたことは疑いようがない。
それが目の前で廃れていく光景をまざまざと見せつけられることに彼自身、「思うところがなかった」とは言えないようだった。
しかしそんな己の思いの丈を語るよりもあくまでも現状を語ることに徹しようと、彼は閉じていた目を一瞬の逡巡の後に開いた。
「魂は既に
「この艦の連中が全て似通っていたのはそのためだな。果てしない近親相姦を繰り返してきた結果、ここでは誰しもが親であり子であり兄弟であり姉妹である。全ては求めるただ一つの器のため……」
「しかり。それこそがこの艦の正体。女神ディアナの神殿《ネモレンシス》――そちらは内実を覆い隠すための虚構の偽名に過ぎん」
ここに至って、クレスは漸くこの艦の真名を知るに至る。
「またの名を、《エーゲリアの受胎儀式》。あの方はかつての分御霊であった水の精霊エーゲリアの『繁栄』の権能を用いて母胎の受精出産を加速させ、愛して病まぬオレを再びこの世に産み落とそうとしているのだ……!」
それこそが、神ディアナが少女ユリアを攫った目的。
彼女の中に眠るカリギュラの遺伝子をも計画に組み込み、祖先の肉体を再構築するための
クレスも薄々感づいていたこの場所の正体がカリギュラによって詳らかにされたことで、彼が女神の様子に対して抱いていた疑問も腑に落ちた。
「神ディアナはオレを復活させるためだけに、オレの子孫を生まれながらに《魅了》に墜としては愛のない家庭を無理矢理築かせていた。愛のない交わりなど、本来我がロマーナに有り得てはならぬ……あのお方にはもはや、愛すべきロマーナの姿が見えてはおらん。オレを取り戻す、その一点以外全てが些事に過ぎんのだ」
「……それが最初に言った、「狂っている」ということか」
「業腹だが、そう言わざるをえまい。現実に干渉する術を持たない魂のオレは、あの方が狂うまでの全てを側で見ていることしか出来なかった。悔しいことにな。――だが偶然にも、こうして御身が現れた。【
「……」
――かつての話だ。
そして、地上に溢れるモンスターのせいで人々の心に無限の暗雲が立ち込めていた当時、その旅の過程で数々の
ある国に、シルウィアという一人の女がいた。
本来の立場を奪われ、望まぬ地位に押し込められかけていた不幸な女。
それを当時下界に降りてきたばかりだった神アレスが――美女と言うこともあって――気にかけ、当時旅をしていたクレスに加護を与えることと引き換えに彼女の救出を依頼したのだ。
結果クレスは色々とすったもんだの挙句に彼女を神アレスと共に祖国から連れ去り、ついでとばかりに二人の仲人を務めさせられたりして、その果てに彼らの息子……のちの初代ロマーナ皇帝ロムルスとその弟レムスの養育係を任されたりしたのだが。
子の養育と言えば通常何年もかかるものであり、それを
「神祖はついぞ、貴方に助けを求めることなくその生涯を終えたと遺された書簡にあった。ならばその血を引くオレが残ったその権利を行使したとしても父祖はお許しくださるだろう。――故に、頼む。どうか御身の手であの狂われた女神を討ち、我が大切な子らを救うと共にこの悪しき儀式の場を終わらせてはくれまいか」
再び頭を下げて、カリギュラはクレスに懇願する。
そこには派手に着飾った皇帝の見得等はなく、真摯に主神の安寧を願う一人の眷属の姿があった。
神殺しという下界最大の咎をクレスに押し付ける傲慢さ――それを他者に委ねることしか出来ない己の無力感を押し殺して、希う。
その心からの願いが彼の心に響くかは分からなくとも、尽くせるだけの誠意を尽くして、カリギュラはクレスからの答えを待った。
「むろん、報酬も与えよう。この船には失われた本来の動力源の代替として、かつてオレが設計した対
――投げうてるならば五体を投げ出してでも構わない、それこそ命を捧げたとて惜しくはない。
ただ、間借りした
だからこその、今のカリギュラに出来る精一杯の誠実な対応として、頭を深く下げる。
そんな誇り高き皇帝の遜った態度に、クレスは。
「良いだろう。依頼の目的は子孫の救出と神殺しだな。請け負おう」
カリギュラの浮かべる真剣さとは裏腹に、明日の天気を確認するくらいの気安い口調でその依頼を受領した。
「え?」とトントン拍子どころか坂道を転げ落ちるような速さで都合よく進んだ展開にカリギュラが目を丸くする中、クレスは久々の『破神』へ向けて計画を頭で練りつつ理由を教えた。
「あの様子だと、どうせ殺さねば何処までも追ってくるだろう。下界の規則にも抵触していることだし、お前からの依頼があるにせよないにせよ、少女ユリアを送り届けた暁にはウラノスに言われてやっていた。その『咎』も今更問われるまでもない。なにせこの身は既に神殺しだ」
「――っ」
下界の住人にとっての最大の禁忌であるはずの事柄を、悔いる素振りもなく、かといって自慢げにする様子もなく、淡々と口にするクレス。
その己の常識とは大きく異なる在り様にカリギュラが思わず息を呑む中、クレスは背に負った
「それが一つ二つ増えたところで変わらん。お前の言う子孫の保護も――数こそ多いが、まあやってやれんことではない。女神の庇護下を離れた後の生活もメーヴに任せれば、愚痴を言いつつなんとかするだろう。強かな女だからな、あいつは。……そら、背中を見せろ」
クレスが少女の服を捲って後ろ側を見れば、そこには女神ディアナの眷属の証であるカシワの葉の冠と月、弓の紋章が刻まれていた。
「やはり《魅了》の媒介として『
例の如く抜き取った
じわりと滲むようにして出来上がった簡素な血地図を見やって艦全体の人員配置を把握しつつ、クレスはこれからの自身の振る舞いを確定させた。
「数は……3万と少しか。連中を一人残らず救い、ついで神を一柱殺すだけと。ここへ来るまでにもう十分時間を無駄にした、暇じゃないんだ……さっさと済ませるか」
気怠げな声色によって示される
数多くの矛盾や悪徳を孕んだ
神々の見せるそれに等しい、下界の常識を易く踏み躙るクレスの『傲慢さ』に彼は
――己が主張するまでもなく、その背中に他者が勝手ながら見出してしまう
人はそれを、『
《Tips》
・とある賢い老狼の精霊
『先読み』の権能によって、後に降臨する本体が将来クレスに迷惑をかける可能性を知っていたため、その謝礼の先払いとしてロムルスとレムスへの教育係を引き受けた。
クレス曰く「そもお前が変な気を起こさなければ『
外見は白く艶のある毛並みに覆われており、生まれながらにして右目が潰れ、また首の下に一周するように強いうっ血の痕が浮かび上がっている。
今後の展開どうするべ?(参考程度に)
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①本編にちまちま関わる
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②これまで通り『深々層』攻略
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③ファミリアクロニクル:クレス
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④カオス・レコード
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⑤迷宮神聖譚:『冥洞一灯伝』