ダンジョンに英雄を、伴侶を、名声を、正義を、混沌を。果ては出会いなどを求めるのは間違っている 作:七海香波
細やかながらお年玉(更新)を用意させていただきましたので、どうか受け取っていただけると幸いです。
一発目の
その内側にいたクレスたちの視界が確保されていく一方で、神ディアナもまたカリギュラの認識阻害魔法の影響から脱したようだ。
再び
その白く滑らかな指先に、命を奪う『狂気』を宿して。
『――《精神汚染》の解呪を確認しました。標的を再捕捉します。《
抑揚の喪失した哀しき天上の調べが、世界に響く。
二度
海に大穴を開けるほどの大破壊をもたらす神の主砲の
並の冒険者にとってみれば絶句に値し、見慣れた神々からしてみれば「『
しかし、ことこの期に及んで――それは融通が利かない『
「歯を食い縛れ、俺は女とて容赦はせん」
『な――!?」
彼我の距離、およそ200
その長距離を詰めるのに、
一足。
二足。
『っ、【
そして三足目。
バリバリバリィッッッ!!! と雷鳴のような衝撃波を伴うクレスの
怒る
それをなす術なく正面から受けてしまったディアナは、理不尽なまでの勢いで遥か後方へと蹴り飛ばされることと相成った。
「ガッ、ア゛ア゛ア゛ッ―――――――ッッッ!?!?!?!?!?!?」
「――柔い、同じ神とて
スカサハ直伝、《蚤撥ねの妙技》。
脚の関節を寸分のズレもなく同時に駆動させることで、自身の背丈を超えるものさえ容易く飛び越える脚力を生む奥義。
その武の粋が生み出した
更には水切り石のように何度も水面に跳ねさせて、彼女を遥か大洋の彼方にまで送り届けるのだった――。
「――がふっ! げふっ! ごほっ! ……神の尊顔を躊躇いなく蹴り砕くとは、なんたる不忠ですか。神意に従うことも知らぬ、下界の恥晒し者……! お前のような人間に、決して我が『計画』を中止させはしません――私は絶対に我が愛を取り戻しましょうっ。我が愛こそが、世界の全てなれば!」
「不忠? 俺は別に、
クレスはディアナの吹っ飛んで行った先に、少しばかり遅れて海面を駆けることで追い付いた。
何のことはない、片足が沈むより先にもう一方を踏み出すだけの《妙技》とも言えない力技だ。
辿り着いた先は一面見渡す限り遮るものが何もない、水平線を仰ぎ見るだけの
そこで、彼は空中に姿勢を整え直した神ディアナに分析の眼を向ける。
その端麗な顔にはレベル19の蹴撃を見舞ったというのに、傷一つついた様子がない――今も尚彼女の周囲に後光のように噴出してる
神々を
「この、不義、不誠、不信心、不忠不孝反道徳――神を崇めることを忘れた愚か者。御覧なさい、汝の攻撃は私に通用しませんよ。諦めるのです。膝をつき、泣いて許しを請いなさい。さすれば一瞬の痛みもなく、死の神プルートの下に送り届けて差し上げましょう。……ああ、待っていてください我が愛。ようやくここまで辿り着いたのです。貴方に相応しい
「長いな、話が。更年期か? 妄想は頭の中だけにしておけ、おかしな目で見られたくなければな」
ディアナの告げた降伏勧告を、クレスは鼻で笑う。
そも、先ほどの蹴りに彼女を殺す意図など毛頭なかった。
彼はただ戦場を《ネモレンシス》から移したかった、それだけだ。
――血地図で把握した《魅了》兵の配置は艦全体に広く散らばっているもので、女神と戦火を交えるのに先んじて一人ずつ避難させるのは面倒だった。
――加えて、下界での
そんな訳で彼にとって色々と不都合の多い巨艦から、神ディアナを別の場所に
故に「
とことん不遜な態度を崩さないクレスにディアナは眉を吊り上げながら、蹴りで意識を逸らされたことで中断していた月矢の充填を再び始める。
「どこまでも苛立たせてくれますね――その顔、今に恐怖に歪むことになるというのに。座標再々修正、中断中のエネルギー充填を開始――」
「……ここからが本番だな」
自らの手元にも『神殿』内で扱っていた弓を出現させ、ディアナはクレスに牽制の矢を連続して放つ。
しかし彼も、対獣用の単調な射掛け程度にみすみす仕留められはしない。
爪弾くように連射される狩女神の矢は、彼の動きを先読みするかのような巧みな軌道を描いて
彼が《魅了》下のディアナの眷属に行った「移動先に攻撃を置いておく」程度のことなど造作もないのだぞ、とでも嘲笑うように。
まるで詰将棋のようにクレスの回避先へ放たれる光輝の神矢。
その神意の鏃が作り出す白き檻を、クレスは人体の可動域を無視した動きで潜り抜ける。
「……なるほど。自ら関節を外し、内臓まで動かして重心を操ってみせますか。気味の悪い」
「冒険者なら普通のことだ」
「ですが、そのような軟体類の如き動きでも範囲攻撃は避けられないでしょう? 先ほどの不命中は不意の錯乱魔法によるもの……本来、神々の攻撃とはそれ則ち必中なのですから」
見上げれば、月光を貯め終えた【
極光が収縮し、一拍の隙間を置いて、神意の下にクレスに吸い込まれるように放たれて――。
「我が愛のために消えなさい――【
「『隕鉄の剣』+『ネガ・ファトゥム』――【契約に応えよ、
握り締められた
そこへ身を躍らせ、クレスは断罪の光から間一髪で脱出した。
またもや目標を打ち漏らした月よりの御柱は海を深くまで抉り、幾つもの海流の層を突き抜けて、一瞬だが白砂の底を露出させてみせた。
彼の態度の通り、真っ向から立ち向かえば到底敵わない
――ただし、『必死』を『生』に転じたことの代償は決して小さなものでは済まなかった。
「動きが多少おかしいと思えば、義手、それに義足でしたか。その偽物の身体で我が光を耐えたことは素直に認めてあげましょう。しかし一度は耐えられても、あと何度耐えられるのでしょうね? ふふっ、ふふふふふ――見るのです、我が愛よ! 私と貴方の前に立ち塞がるものなど、こうして滅びゆく定めなのです! ふふふ――あはははははっ!」
自身の優勢を示す敵の姿に、ディアナは高笑いを隠さなかった。
あくまでも代替品でしかないクレスの義肢は(彼基準で)そこまで強固なものではなく、神の一撃の余波を受けた段階で半壊していた。
表面の偽装皮膚は溶けたチーズのように焼け落ち、露出した内部機構も悲鳴を訴えるようにバチバチと火花を散らしている。
神の威光を迎え撃てるのも、もってあと二度か三度が限度だろうか。
そしてそれを斬った二つの名剣も、その刃先が僅かに溶融を始めている――いかに『深々層』に適合し得る聖剣と魔剣と言えど、そう何度も『運命』を斬り抜けないだろうことが窺える。
その悲惨な予兆を流し見たクレスは、それでも余裕を崩さなかった。
「なに、十分だ」
「……っ、生意気な! 下界の人間如きが、こうも神意を軽んずることなど――ああ、気に入りません! 気に入りません気に入りません気に入らない気に入らない気に入らない――滅びなさい! 疾く滅べ! 死して我が憤懣を慰めなさい下郎!」
女神ディアナは三度、己が腕による牽制を行いつつ、成層圏に浮遊する神創兵器にエネルギーの充填を命じた。
心なしか苛烈さを増した矢雨を《矢除けの妙技》で回避しつつ、彼はいよいよ先ほど切ろうとしていた『切り札』を出すべく、片目を閉じて己が内側に意識を集中させる。
彼は強く想起する。
背中に負った『
――その瞼の裏に、複雑な色彩を湛える『光玉』が揺れ浮かぶ。
その『焔』は、計3つの頑丈な
「一つ。これは『
もしこのまま女神ディアナの狼藉を見逃せば、世界は
それは神々の悲願を阻害する危機であり、であれば、今この場において暴走する女神を完膚なきまでに滅ぼすことは世界の正義となる。
「一つ、これは『人』としての戦いである」
かの女神は冷徹な使命を以て敷かれる天上の『法』ではなく、多少危うかろうと前へ進む下界の滾る『意志』こそを求めた。
――女神の暴走に伴うムーの二の舞が起きれば、また
その前に禍根も遺恨も諸共に消し飛ばさんと、クレスは己が熱意を燃やす。
「は、下らない――なにを企もうと無駄なことです! 下界の者がいくら抗おうが、我々の導き示す運命の流れから逃れること能わず……充填完了、主砲発射。【
「【ソード・オブ・ハートゥーシャ】ッ!」
三度放たれた
「一つ、これは『誇り』に背かぬ戦いである」
最後に残る、
「たとえ間違っていても構わない、それが君の、恥じ入ることのない本心に由来するものであればね」……かつて聞いた
それに「当然だ」と彼が心の中で返した時。
「――
三神による厳重な
彼の背中から業火が怒濤の如く噴き出し、一帯の海面を煌々と照らしだす。
その様子に女神ディアナは何故か、不吉な予感を抱かされた。
まるで、カリギュラの後を継いだ皇帝ネロの治世に
「……なんです、なんなのですか、それは――まさか!?」
遅れて『焔』の正体を理解した彼女は、感情を超越したはずのその顔に大きな驚愕を浮かべた。
「その『焔』は……何故、
瞠目を禁じ得なかった彼女の前で、今にも荒れ狂いそうな『焔』の手綱を握るクレスはその額に珍しく脂汗を滲ませていた。
――『恩恵』の内側から漏れ出づるその『焔』が、ついには
『焔』は彼の装着していた壊れかけの義肢を焼き落とし、代わりの二肢として形を成す。
そうして炎によって形作られた彼の新たな右腕には、今や
これこそは砲ではなく『
採火したオリンピアの『聖火』を灯すための『薪束』。
「拘束、完全解除……
その先端に坐す『焔』こそは、女神プロメテウスの名の下にクレスが『
「何故、何故何故何故何故何故何故――理解不能です。まさか下界の命如きが、その『焔』を制御できるはずが……!」
「さてな」
ディアナの無意識から出た問いかけを短く打ち捨て、クレスは『焔』の制御に集中する。
――どうせ、今から死にゆく者に知らせたところで意味はないのだから。
「っ、充填完了、発射っ! 【
降り注ぐ、四度目の女神の神意。
これまでは所詮矮小な下界の人間、との蔑視が抜けていなかったディアナによる、ここへ来て初めて
一方、『焔』の操作に集中するクレスは対抗する素振りを見せぬまま、その極光に呑み込まれ――。
「ふふふ――あーっはっはっはっはっは!!! 如何に神を殺す『焔』を担うとはいえ、死ねばそこまで……なっ!?」
――されど、
神をも殺す『焔』がクレスを覆う盾となり、彼に害を及ぼすものを触れた先から滅却させる。
それは
「そんな、馬鹿な――神ならぬ人の身が、我が神意に抗うなどと――そのような運命など、あって良いわけがないのです! 何故、何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故――何故なのですプロメテウス――ゼウス、
決してあるべきではない目の前の光景に激しく取り乱す、神ディアナ。
これまでの余裕ぶった仮面がはがれ、およそカリギュラの言う通り「正気を失った」とでもいうべき彼女の本来の有様をよそに、クレスは厳かに口を開いた。
元より彼女を弑することは彼の中で決定づけられていたのだから、そこに同情も憐憫もなく、彼はただ面倒ごとを片付けることにのみ集中する。
「――【不滅の光焔、天に叛きし叡智の女神よ。我が人志を此処にくべる】」
これは詠唱であって、詠唱にあらず。
この『焔』は彼の魔法でなくて、本来人の手に余るべき『奇跡』。
そこに『理想』をくべる祝詞を以て――クレスとしてはこの表現は誠に遺憾なのだが――人の卸しうる『英雄譚』に降ろす。
「【運命よ、汝の
古代の哲学者が火に万物の源を見出したように、火という『力』は何にでもなり得る。
時に破壊を呼び、時に命を育み、時に嘆きを与え、時に安らぎを誘う。
全ては持ち得た者の『想い』次第。
ならばクレスの思う『焔』とは……即ち、『人の意志の具現』である。
「【我は
そこにいかなる障害が立ち塞がろうと、諦めが悪く、愚直ながら先に進み続ける者。
諭されようと、嗤われようと、責められようととも、「
その身体は小さく儚くとも、
だからこそ彼は、神々の定めた身の丈を超えて歩むことを是とする『意志』を以て、『天上の火』の欠片を振るう――「
「【破滅の烈火よ、我に下れ。共に、創造の燎原をこの星に
そこでクレスは一度、言葉を切った。
――本来ならば身の丈を超える『焔』を彼が操れるのは、ひとえに神プロメテウスが認めたからだ。
その為に払った採火の代償は決して安いものではない。
その一つとして、彼は今一度、彼女お手製の仮面を被らなければならない。
――こんなもの、第一俺には似合わんだろうが。
内心そんな思いを吐き捨てながら、彼は内心渦巻く嫌悪と共に最後の一節を告げた。
「――【我、『
天空の神、知恵の神、混初の神に見初められた者の一人として、ここに『
がしゃり――赤金に染まるトーチの灯炎孔が、神ディアナへと向けられる。
そこに込められたるは彼の手に堕ちた『奇跡』。
「さらばだ、月の女神ディアナ。巡る悠久の果てに、正気を取り戻すが良い――神焔、発火」
「何故!? 何故!? 何故!? 何故!? 何故!? 何故!? 何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故―――――――――――ッッッ!!!!!!」
「【
クレスの腰だめに構えた神器から、『焔』が放たれる。
それは天上天下の条理悉くを焼き尽くす、
光輝紅蓮の軌跡を描いて空を駆ける叛天の赫柱は、もはや避ける余裕すら見せなかった神ディアナに、何事もなく命中した。
その勢いは天上由来ということもあって凄まじく、瞬く間に彼女の真体を地上に留めるための人型の『殻』を引き剥がし――天に還らんとする
極炎の果てに、女神ディアナをその『神核』ごと虚空の果てと葬り去ったのだった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛――――――――――――――――あ、ああ……」
時に――炎とはまた、『邪』を払うもの。
最後に僅かながら聞こえたのは、正気を取り戻した女神の嘆きか。
「カリ、ギュラ――我が、最愛……」
その遺言を聞き届けると同時に、ちょっとばかりの感傷を手向けてやって、クレスは女神ディアナの完全なる消失を確認した。
――極論、彼は女神ディアナが自分の領地で血の厳選行為をやっていたところでどうでも良かったのだ。
今回の件はただ、運悪く地上に帰還した彼と少女の夫婦が邂逅しただけ……その上で、彼が攻略に注力できない事情があった……それらの偶然が重なっていなければ、彼は女神の悪行を知った所で放置していただろう。
その不運に同情を捧いで、それからもう少しだけ「念のために」と暫く照射した後、本当に終わったことを確信してから、彼はようやく『焔』を終息させた。
「終わったか。まったく、まさかこんなことになるとはな……」
そうボヤきつつ、クレスは己が身体に起きた
「……またか。だが、今回は前ほどでもない」
これまで外見上25歳程度を保っていたクレスの身体は、およそ2、3歳ほど若返っていた。
加えて、『レヴィアタン』の呪詛により失われ蝕まれていたはずの右腕と左脚が、健全な形で復活を遂げている。
それが、時に『不死』をも意味するところの天上界の『焔』を扱ったことの『
「面倒だが、仕方ない……また感覚を慣らしていかないとな」
騒がしい光が消え、夜の海には静寂が戻る。
空に輝く星々の瞬きが水面に乱反射して、見る者の心を揺さぶる風靡な光景を生んでいた。
その中に独り立つクレスの瞳はしかし、その自然の神秘とはまったく別のところに向いていた。
「戻るか――俺たちの
その前にやらなければならない諸々の雑務(ギルドへの報告、神々への言い訳等)が残っていることを思い出して、クレスは今度こそ大きく顔を歪めた。
《Tips》
・『
クレスが『
普段はクレスの第一魔法スロットを埋める形で封印されており、所有者である彼に『不老』の効果をもたらしている。長生きなのはこの神器に内包された『焔』のおかげ。
更にはそこへ
今後の展開どうするべ?(参考程度に)
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①本編にちまちま関わる
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②これまで通り『深々層』攻略
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③ファミリアクロニクル:クレス
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④カオス・レコード
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⑤迷宮神聖譚:『冥洞一灯伝』