ダンジョンに英雄を、伴侶を、名声を、正義を、混沌を。果ては出会いなどを求めるのは間違っている   作:七海香波

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 お待たせしました、作者です。
 前話最後に書いた通り、今回のお話はただの与太話馬鹿話の類です。
 それでもよければどうぞ。
 ちなみに全話末のアンケートはまだ受け付けておるぞよ。


幕間:それは希望が実る霊峰の巡礼

 

 求めるのなら、探すが良い。

 この世に数ある霊峰(おっぱい)の中から、最も自分に相応しい希望(おんな)を――。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 旅を、していた。

 

 古ぼけた焦げ茶色の外套と幾つかの小物に身を包み、人生の最大目的たる迷宮(ダンジョン)を離れ、クレスはひたすらに長距離を移動していた。

 足元はろくに整備もされていない、ただ人の足によってのみ踏み固められた凸凹の土路。

 周囲には見渡す限りの青々とした麦穂が風の誘いに波打っていて、それを狙う小鳥どもがしきりに宙を跳び回っては鳴き叫んでいる。

 「ここにはなにもない、だけど全てが揃っている」……なんて小恥ずかしくなるフレーズが似合うような、そんな、どこか牧歌的な春の光景。

 

 その中を歩いていた彼は、己の脚の向かう先に一つの小さな人影を認めた。

 

「アー、少し良いか? この先に村があると聞いたのだが、君はその村の――」

「こんにちは、旅のお兄さん! ところで好きなおっぱいはなんですか!!」

「――ふむ」

 

 どことなく見覚えのある(・・・・・・)白髪のその子供が出合い頭に発した、衝撃的な問い。

 相手によっては「なんだこのクソ生意気なガキは」とも取られるような唐突な問いかけに、しかしクレスの目は正しく、その後ろにいる背景(育てのバカ親の顔)を見抜いていた(を知っていた)

 

 思い浮かぶのは――口元に逞しい髭を蓄えた、老骨だが屈強な体をしている、性に関してかなり奔放であることが特に定評な、自ら口説いた妻をほったらかしにして他の女に手を出しては「前が見えねェ」となるまでボコボコに躾られて(シバかれて)いるばかりの、いっそ清々しくなるほどの好々爺(クズ)

 

 それが少年の後ろで、妙に輝かしい笑顔でサムズアップしている……そんな気がして。

 

「とりあえずお前にその馬鹿な挨拶を教えた爺はどこだ」

 

 クレスは確信した。

 間違いなく今回の旅の目的が――あの愚かしい浮気雷爺(ゼウス)が、少年の村にいることを。

 

 同時に決めた。

 先ほどふと幻想した爺神のニヤケ面に妙に腹が立ったので、とりあえず後で罰として(ヘラ)報告して(チクって)やろうと。

 

 

 

 

 

 なお、罰は既に執行されていた。

 

「お、お爺ちゃーんっ!?!?!?」

 

 家の床板をぶち抜いて、その中に上半身が埋められた所謂犬神家状態。

 帰るなり、そんな情けない姿を晒していた育ての老神の姿を見て、少年は慌ててその側に駆け寄った。

 その理想的な孫(と耄碌した祖父)の様子を家の玄関先に立たされたまま傍観していたクレスに、その惨状を為したこの家の住人が振り返る。

 

「そんな変態なぞ放っておけベル。それよりも客が来たのだろう、茶を出す準備を――誰かと思えば御身か」

「久しいなアルフィア(・・・・・)地上(オラリオ)で名前が聞こえないと思えば、こんな僻地にいるとは」

 

 彼が声をかけた、どこか幽世的な雰囲気を漂わせる女性こそはアルフィア。

 かつて【静寂】の名を冠し、オラリオに大いなる英雄譚を刻み、そして終には闇の歴史を齎さんとした女傑である。

 暗黒時代(たたかい)の終わりを経て、主神(ヘラ)の下で都合二度(・・・・)のレベルアップを果たしたはずの彼女が何故このような安穏とした場所に腰を落ち着けているのか。

 じろりとどこか暗い色合いを含めたクレスの視線に、彼女は肩を竦めた。

 

「ああ……そこの健気な子が私の甥でな。親代わり(ゼウス)の育て方が余りにも悪いもので、仕方なくここに留まっている。決して怠けているわけではない。それで、御身こそどうしてここに?」

それ(ゼウス)神血(イコル)を買うためだ。定期的に取引している。――さて、いつまでそうしている」

 

 クレスは床に突き刺さった養爺を引き抜こうと懸命に頑張っていた少年をどかして、見えているゼウスの足をむんずと掴む。

 そしてずぼっ!! と乱雑に引き抜いた。

 もとより超絶残虐破壊衝動女(ハイパーウルトラヒステリー)と言われた妻の折檻に耐え得る身体の持ち主である以上、そこまで労わってやるつもりもなかった。

 

「あ痛っ!? なんじゃ、もっと丁寧に――ってお主か」

「ああ。変わりがないようで安心したぞゼウス。顔を合わせる都度に最低評価を更新してくれる、その情けない姿に安心したよ」

「毎度思うケドお主ワシに辛辣過ぎない? ……それよりも、いつものじゃな?」

「ああ。代金は此処に置いておく」

 

 度し難い変態(こんなの)でも神峰(オリュンポス)の最高神に変わりはなく、クレスはその神血(イコル)には相応の価値を認めている。

 その対価に相応しいだけの貨幣が詰まった袋を近くにあった机に置いて――中身は現在のオラリオで第一線級と評されるファミリアのおよそ五年分の予算に匹敵する――近くの椅子に腰かけた彼は、アルフィアの甥だという少年が持ってきた茶を貰いながら話しかける。

 

「ありがとう。……しかし、まさかあの老神が直に子育てを行うとはな。下界(こちら)に降りてくる前はよく無責任に女を孕ませてはほったらかしにしていたと聞いたが、驚かされたぞ。正直今からでも神ヘラに任せた方が良いと思うが」

「それは私も同感だな。とかくこれ(・・)はベルの教育に悪い」

「嫌じゃ! こんなに可愛い孫を引き渡すなぞ例え天地が引き裂かれようと儂は断固抵抗するぞい! そう、KO☆BU☆SHI☆DE!」

「お前が夫婦喧嘩(ガチンコ)でヘラに勝てるか? 無理だろう」

「無理だな。十中八九我が主神に分がある、賭けてもいい」

「ワシってばホントどんだけ信用がないの!?」

 

 そりゃそうだろ、とクレスはここで一つ爆弾を投下する。

 隣に、というより何故かもう少し彼に近い場所に陣取ったアルフィアの耳に聞こえるように。

 

「なにせ、子供に公の場で女の乳の好みを問うように育てるくらいだからな?」

「――ほぅ?」

「あ、いやそれは……ぎゃぴぃっ!?」

 

 アルフィア、迫真の福音真拳(ゴスペルパンチ)

 本日二度目のそれは一切合切反論を許すことなく、またもやゼウスを床下に沈ませた。

 

「お義母さんっ!?」

「お前もだベル」

「ぎゃふんっ!?」

 

 ゼウスに向けられたものと比べて幾分か手加減された(それでも痛いことには変わりない)ゴスペルパンチが、ベルと呼ばれた少年の頭を正確に捉えた。

 あまりの痛さに涙ぐむ少年は、思わず余計な一言を漏らしてしまう。

 

「ひどいです! お爺ちゃんが、「最近流行の都会での挨拶はこうだ!」って言ってたのに……」

「少なくとも俺の知る都会(オラリオ)でそんな戯けた挨拶が流行った記憶は一度もないが」

「やはり殺しておくべきか」

「殺しちゃダメですよ!?」

 

 薄く開いた瞼から殺意を覗かせるアルフィアに、それでもベルは義祖父を庇おうとする。

 その必死さは少年の愛らしい顔立ちも相まって健気なものに見えた。

 

 ――親の愛情は子に表れる、と言う。

 少なくともこの様子を見る限り、幾分か……まあまあ……恐らく、それなりに……真っ当な愛情をゼウスはこの子に与えていたのだろうと推し量れる。

 

 それを見て、アルフィアは仕方なしと振り上げた拳を下げるのだった。

 

「……仕方ない、今日の所はこれくらいにしてやろう」

「おい、凄い音が聞こえたが何かあったのか!? ……ああ、いつものか」

 

 ひょこっ、とたった今農作業から帰ってきたらしい土塗れの男が顔を出す。

 クレスはその顔にも見覚えがあった。

 少し前に目の前のアルフィアと共にオラリオで暴れようとして、そして何の因果か、ズタボロになって満足げな表情で逝きかけていた所をサラが連れ帰ってきていたザルドという名の男である。

 

 こちらもアルフィアと同じように、サラ’sブートキャンプ――もとい『神の恩恵(ファルナ)』任せに陸の魔獣(ベヒーモス)のフルコースを四六時中彼女から食わされた挙句、なんやかんやでかの終末の獣の毒を克服させられ改心したという経歴を持つゼウス・ファミリアの冒険者だ。

 

 全て件の魔獣の肉で構成された満漢全席を前に「食うのじゃ」と言われ顔を青褪めさせていた光景がやけにクレスの印象に残っている。

 ついでとばかりに分不相応な『深々層』の肉を食らって腹を下していたことも彼の記憶に残っていた理由の一つであるが、閑話休題(それはさておき)

 

「で、今回はなんでこうなっちまったんだ?」

「かくかくしかじか、という訳だ」

「……あー、そりゃあ確かにお前の逆鱗に触れるのも無理はない。――ちなみにベル、俺は爆乳が良いぞ。いっそこっちの息が出来なくなるくらいの巨大な乳はそりゃあもう平らげ甲斐があってだな、なおかつ中身がお淑やかであれば猶更……」

死ね(ゴスペル)

 

 何故かキメ顔でそう言ったザルドは――やはりゼウス・ファミリアの恩恵()は争えないらしい――アルフィアの福音真拳(ゴスペルパンチ)で空の星となった。

 なんで今の話を聞いてわざわざそれを口に出来るのか、クレスにはその頭が理解できなかった。

 ――主神に倣って、()ではなく()で物事を考えているからだろうか?

 

「おじさーん!?」

 

 思わずザルドの消えていった方向へ手を伸ばすベル。

 しかし、さほど慌てて探しに行こうとするほどでもないようだった。

 どうやらこれがここでの日常的なやり取りらしい。

 

「……邪魔をした。そろそろ帰るとしよう」

 

 これ以上付き合うのも馬鹿臭くなったので、クレスはいい加減帰ろうと考えた。

 いつの間にか今度は自力で床から這い出していたゼウスを睨みつけ、彼は取引の対価を求める。

 

「で、肝心の神血(イコル)を早く出せ。金はもう渡したぞ」

「ふっふっふ……お主だけ逃げようったってそうはいかん! 答えよクレス! お主の乳の好みはなんじゃ! ――「くたばれ(ゴスペル)」――おぐぅっ!?」

 

 最後と言ったな、あれは嘘だ。

 アルフィアの福音真拳(ゴスペルパンチ)で三度沈むゼウス。

 しかし何度痛めつけられても女湯の覗きを止めなかった時のゴキブリのような生命力をいかんなく発揮して、すぐさま復活して挙句しつこくクレスに詰め寄ってくる。

 

「――巨乳か!? 貧乳か!? ぺったんか!? 爆乳か!? 美乳か、もしくは奇乳の類か!? 答えよ! さもなくば今回の取引は無しじゃあ!」

「馬鹿か?」

 

 まったく意味のない駆け引きを仕掛けようとしてくるゼウスに、クレスは呆れるばかりであった。

 そも、金は既に渡したのだ。

 しれっと机に置いた貨幣の袋は回収されており、ゼウスが大事そうに胸元に抱えている。

 だというのに品物の受け渡しを拒んで、変な追加報酬を要求してくるとは何事か。

 

「そちらがそう来るなら、俺としても容赦はせん」

 

 まともに売買の契約を履行しようとしない相手に、こうなればいっそ鋼鉄の処女(アイアンメイデン)よろしく縛って殴って直接血を絞ろうかとでもクレスは考えたのだが……

 

「……!」

 

 なぜかそこには、目をキラキラと期待に輝かせてこちらを見てくる少年(ベル)の姿があった。

 ――そこに、何故か昔見た道化(・・)の顔が重なって。

 

「そうだな……」

 

 それは、今は昔。

 古の王都ラクリオスで刹那行った、交流。

 当時、『神の恩恵(ファルナ)』に依らない原始魔法をとあるエルフの吟遊詩人から教わっている最中に声をかけてきた、やけに馴れ馴れしい白髪の男にもクレスは同じ問いをされたことがあった。

 珍しく面倒臭さよりも懐かしさが勝った彼は、一息置いて、当時の情景を思い描きながら同じように口を開く。

 

 あの時は、なんと答えたのだったか、そう――。

 

「――そも、一つの乳に拘る方がおかしな話だろう。全ての乳には個性があり、それはその女の持つ他の要素と掛け合わせることで様々な面を見せ得る。真に平らかなる乳も、天を貫かんばかりに聳え立つ巨峰も、中身が伴えばこそ如何様にでも花開く。大事なのは、そこを見極めることだ」

「誤魔化すでない! もっと欲望に素直に、正直に語れい! ――「福音(ゴスペル)二重奏(デュオ)!」――あべしっ!」

 

 単純計算で二乗の威力になったアルフィアのパンチで、ゼウスはザルドの後を追うように吹っ飛んでいった。

 残されたベルに、「それはそれとして」と前置きしてからクレスは続きを説いた。

 

「俺の好みとしては、慎ましやかな乳が良い。大きくはなく、かといって全くの平坦ではない程度で、細身でしなやかな体に控えめに主張するくらいがちょうど良い」

「御身も何を言っている! 福音(ゴスペル)四重奏(カルテット)――な!?」

 

 いつの間にかザルド・ゼウスと同じことを話し始めたクレスに、アルフィアは「御身もか」と呆れた顔で四乗轟音福音真拳(ゴスペルパンチ・カルテット)を向ける!

 

 “しかし クレスには 効果がないようだ……”

 

「ちぃっ、やはりか!」

「――ええっ!?」

 

 祖父(ゼウス)おじさん(ザルド)も何度も討ち取ってきたお義母さん(アルフィア)の拳骨が効かない!

 自分もよく知る所の一撃を、防御すらすることなく受け止めたクレスの姿に、ベルは口をあんぐりと開けることしか出来なかった。

 これまでアルフィアの天下しか知らなかった無知な少年の耳に、先祖(クレス)からの最後の言葉が厳かに響く……。

 

「初めは手の平に収まる程度の小さな蕾……それを春の日差しのように優しく慈しみ、時に凍てつく冬の如く激しく揉みしだき、愛を注ぎながらじっくりと育てる……そうすれば、いずれ己にとって最も良い乳へと花開いてくれる。覚えておけ、ベル。女の乳は恋を知り、愛を注ぐことで大きくなるのだとな。初めから完成されたことを前提に語るなどつまらん」

 

 アルフィアの福音真拳(ゴスペルパンチ)を受けてなお堂々たる威容で語るクレスに、じっと聞き入っていたベル。

 その頭をぽんぽんと軽く叩いて、彼は隣の、何故か今度は自らの胸元を見つめているアルフィアに目をやりつつ少年に彼なりの答えを与えた。

 

「世を知れ、ベル。そうすればいつかはお前にも、お前だけの希望(おっぱい)が見つかるだろう。……ただし、あまり母親(アルフィア)に負担をかけてやるな」

 

 それで、終わり。

 先ほどアルフィアが殴りつけた際にゼウスが落とした神血(イコル)入りの瓶をさりげなく回収していたクレスは「用は済んだ」とそれを丁重に懐にしまい込んで、寂れた村を後にしたのだった……。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 懐かしい記憶が、少年の脳裏を駆け巡る。

 ――どうして今、それを思い出したんだろう?

 分からないままに、少年は今日もオラリオの風を肩で切って、迷宮(ダンジョン)へ向かう。

 

『お前もいつか、望むのならば……』

 

 そう言い残して先に家を発った(・・・・・・・)家族の後を追いかけて。

 

『ベル、ハーレムを作れぃ! ワシの夢は、お前に託したぞ!』

 

 崖下に落ちて死んでしまった(妻から雲隠れした)祖父の理想を想って。

 

 

 

 

 

 

 ――全ての答えがそこ(迷宮)に待っているのだと、なんとなしにそう思って。

 

 




Q.つまりクレスの好みな○○○○って具体的には?
A.アリーゼ。クレス曰く「ほど良いサイズ」。

 ☆アンケートはここだよ(はぁと)
《Tips》
・陸の魔獣ベヒーモスのフルコース
 サラがザルドのスキルを考慮に入れて特別に調理した、ベヒーモスの毒を克服するためのフルコース。「毒もまた旨味の一つ、苦しむことなく美味しく平らげるべし」との信条の下に生まれ(てしまっ)た活毒(・・)の皿々。
 熱々毒々、美味しいうちに召し上がれ。

今後の展開どうするべ?(参考程度に)

  • ①本編にちまちま関わる
  • ②これまで通り『深々層』攻略
  • ③ファミリアクロニクル:クレス
  • ④カオス・レコード
  • ⑤迷宮神聖譚:『冥洞一灯伝』
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