ダンジョンに英雄を、伴侶を、名声を、正義を、混沌を。果ては出会いなどを求めるのは間違っている   作:七海香波

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お待たせしました、作者じゃよ。
GWって最高だよね。純粋な連休ってもうそれだけで心躍りまくりんぐ。
学生の時の長期休暇……失ったヤツの尊さを、社会人になって初めて知る……人間とは実に愚かなものじゃありゃせんか?


Walk in the daylight①

 

 【迷宮愛好家(ダンジョンフィリア)】、【攻略中毒(アタック・ホリック)】、【三度の飯より深淵を覗く(ノーダイブ・ノーライフ)】……。

 それら(不名誉な)呼び名は全て、クレス・カタストロフと言う冒険者を指す形で使われる。

 

 そんな彼がまさか、『地上で、しかも主神に付き合える時間がそれなりに存在する形で一日以上を過ごす』という異常事態(イレギュラー)

 それは彼の習性を最もよく知る主神(ところ)のカオス曰く、「明日は天からどっかの巨神でもまーた(・・・)降ってくるかもしれないね。だって、確率的に言えば、そうだねェ。これはゼウスがヘラにぞっこんな姿を見せるくらい希少(レア)なんだよ。そ、つまりは『まず有り得ない』ってことさ……同じ神族として真に遺憾ながら」とのこと。

 

 そのような根っからの冒険者気質であるクレスだからこそ、当然本拠地(ホーム)の彼の自室には最低限度の日用品しか持たない。

 正確には、着替えるための肌着が数着だけ。実に容量の九割強が無駄となっている箪笥の隅にちょこんと纏められているだけという始末。

 それらを使い回すだけで一年を過ごす……と言うのはあまりに無味乾燥というもの。

 彼本人としては一向に構わない。

 だが、一緒に過ごす女神カオスの精神衛生上、それが勧められたことではないことをクレスは承知していた。

 そういう理由もあって、当面の生活に備えるべく彼は諸々の買い物に出る必要に迫られた――。

 

 ロイマンへの帰還報告は「今回は大した内容を持ち帰ってきた訳でもないから」と、擦れ違ったハーフエルフの職員に彼宛の手紙一つを託して割愛。

 バベルの外へ繰り出したクレスはオラリオ北西の大通り、通称『冒険者通り』へ向けて歩を進ませる。

 時刻は昼下がり。

 天高く昇った太陽が人々の生活を遍く照らし出す中を、クレスもまた影を引き連れて歩いていく。

 その身体は一時的に吸血鬼(ヴァンパイア)のものになっているとはいえ、元の力の持ち主が真祖の吸血鬼(ハイ・デイライトウォーカー)であるので、彼もまた同じく日光の下で活動することが可能となっていた。

 とはいえ『なんとなく肌がムズムズする』程度の嫌な感覚はどうしても拭えない。

 いつにも増してフードを深く被る不審者スタイルで、彼は手始めにと【ディアンケヒト・ファミリア】を訪れた。

 

 踏み込んだ途端に鼻をツンと刺す、消毒液の臭い。

 どことなく冒険者たちが毛嫌いしてしまうような、外界と隔絶された雰囲気の漂う白い建物の中で、クレスは空いていたカウンターに座って職員に主神との面会を希望する旨を伝えた。

 見るからに怪しげな風貌の彼に、当然の如く相手は怪訝そうな顔をした。

 

「ディアンケヒト様との面会、ですか? 失礼ですが、お名前を聞かせていただいても?」

「キアン・マッキリーニー。そう言えば伝わる」

「はぁ……、分かりました」

 

 クレスが暗号符にもなっている偽名の一つを告げると、職員は奥の方へ引っ込んでいった。

 奥へ通されることを待つまでの間、暇になったクレス。

 その目がふと、隣で行われているやり取りに惹かれた。

 

「――お戯れを。八〇〇までは出しましょう」

「アミッド? さっき貴女の言った通り、この皮膜の品質は今まで出回った物の中でも抜きんでて良いものよ。一四〇〇」

 

 どうやらドロップアイテム――『カドモスの皮膜』の買い取り交渉を行っているようだ。

 種族が混在する数名の少女が連れ立った中で、リーダー格らしきアマゾネスがディアンケヒト・ファミリア側の職員に中々の価格を吹っ掛けている。

 一方、人数差の圧にも負けず職員の少女も負けじと抵抗しているようだが……。

 

「八五〇。これ以上は難しいですね」

「今回倒してきた強竜(カドモス)は活きが良かったし、私たちも危うく死にかけたのよ。その過程で流してきた命の値段も加味してもらえるとありがたいんだけど? 一三五〇。これが駄目なら、他のファミリアに行くわ」

「……一二〇〇。これで買い取らせていただきます」

「ありがとうアミッド。持つべき者は友人ね」

 

 今回は冒険者側に軍配が上がったようで、アミッドと呼ばれた少女が諦めた顔で他の職員に決まった金額を用意させていく。

 交渉をしていたアマゾネスの少女がほくほく顔になるのを見て、クレスは脱いでいたフードの代わりに口元まで上げたマフラーの下で「まだまだ青いな」と小さく笑った。

 

 冒険者の少女は『カドモスの皮膜』を入手した経緯について「活きの良い奴だったから死にかけた」などと途中言っていたが、カウンターの上に置かれていたそれには戦いの中でついた刀剣類による切り傷など一つもなかった。

 連れ添いの少女たちからの小さく非難するような視線も相まって、大方モンスター同士の縄張り争いなどで敗れた末の自然死で落ちていたものを運よく拾っただけに過ぎないのだろう。

 まあ、よくあることだ――そう思っていると、少女側の一部からクレスに視線が向けられる。

 

「……」

「……なんだ?」

「……貴方、前にどこかで会ったことがある?」

 

 そう話す金髪の女剣士に、クレスはなんとなしに己の記憶に目を巡らせる。

 彼はどちらかと言えば記憶力の良い方だが、出会った相手の一人一人を厳密に覚えられるほどの完全記憶能力までは持ち合わせていない。

 しいて言うなら、彼女によく似た『精霊(・・)』ならその夫経由の付き合いで数度会ったことはあるが――目の前の少女は見る限り只人(ヒューマ)なので、別人だろう。

 

「いや、俺に覚えはない」

「そう? ……その、すみません」

「構わない。そういうこともあるだろう」

 

 どこか釈然としない様子の彼女から視線を切って、クレスはドタドタと遠くから近づいてきた聞き覚えのある足音の方へ顔を向けた。

 鼻息を荒くしたこの建物の主人が、バカ高い笑い声を上げながらクレスのいるカウンターへと向かってきていたからだ。

 

「フハハハハハっ、待っていたぞォ! さあ来い、今回は何を持ち帰ってきた!? 隠すことなく全て儂に見せるが良い! ――ム、アミッドよ、その皮はどうしたのだ?」

「ああ、今行く。……放っておいてやれ。少々痛い目を見せられたばかりだ」

「ハ? お前たち――まさかロキ・ファミリアの連中になにかケチでもつけられたのか!?」

「違う。それよりもさっさと部屋に案内してくれ」

 

 迎えに来た目的の神物であるディアンケヒトを急かす形でクレスはファミリアの奥へと向かう。

 悩まし気だったアミッドと彼女の相手をしていた少女たちが、一斉に彼の方へ意識を向けたことを無視して。

 

 

 

 

 

 普段使っている応接室に入ってウキウキ顔で今回の冒険内容の共有を求める老神にクレスが「残念だが」と前置きしつつ現状をかいつまんで話すと、途端に彼は眉をひん曲げて激昂した。

 

「なにィッ!? 呪われただと!? それで一年以上地上(こっち)にいるなど――儂の実験にも支障が出るではないかァッ! 貴様ともあろう者がなにをしておるかァァァッ!!!」

「なってしまった以上は仕方ない。解呪が終わるまで大人しく待て。それまでは俺の血液サンプルでも使って遊んで(実験して)いれば良いだろう」

 

 現在進行形で彼の魂を蝕む呪詛(カース)のことなぞ知ったことかと言わんばかりに、自己都合で唾を飛ばして食って掛かる神ディアンケヒト。

 そこへすかさずクレスが自身の身体から抜いた血液――見る者が見れば一目で分かる『魔』に侵された闇色の血液が納められたガラス瓶をちらつかせると、彼は瞬く間に顔色を変えてそれを引っ手繰った。

 

「おお、これがか! ――ふむ、肉体への呪いではなく魂を侵食するタイプか……実に面白い! これはそそるぞォォォッ!!」

「現金だな。まあ良い……それはそれとして、今日は相談をしに来た。その上位呪詛(ハイ・カース)を解く『儀式』に必要な、各種の素材を貴神のファミリアに発注したい。中々に面倒な代物ばかりだが、これらを揃えられるのは俺の知る限りディアンケヒト・ファミリアを置いて他にはないと思う」

「ほォ? 言ってくれるではないか。よかろう、なにが欲しい?」

 

 機嫌を直すどころか、もはやクレス本人よりもその血に目を向けるばかりのディアンケヒト。

 欲望に忠実なその姿は実に神らしいと思いながら、クレスは自身の求める物を並べ立てた。

 地上(オラリオ)に帰還する前に引っ張り出してきた『精霊』の儀式の概要……その中で求められる素材はいずれも、彼をして「一人で集めきるのは中々に手間がかかる」と言わしめるものばかり。

 顎をしゃくってその説明を促すかの神を前に、クレスは遠慮なくその一覧を口頭で並べ立てた。

 

「一つ、死の影に聳えるイチイの枝。

 

 一つ、祭火に育まれた月桂樹の葉。

 

 一つ、王墓を仰ぐタイヨウコガネの目玉と薄羽。

 

 一つ、千の生贄が捧げられた祭壇の碑石。

 

 一つ、燃えるトサカを持つ雄鶏の生き血。

 

 一つ、温厚なる白き蛇の羽毛。

 

 一つ、高潔なる貧者の黄金片。

 

 一つ、イルコスサフランの白き花弁。

 

 一つ、イエルグランドに住む白竜の肝。

 

 一つ、黄き河の源流に成る桃を使った古酒。

 

 一つ、西の海に住む黄金鹿の角。

 

 ……計11個。そちらに任せたいのは、こんなところだな」

 

 要求する品々を言われた通り淡々と述べたクレス。

 しかし、それを聞いたディアンケヒトはまたもや表情を一転させ、不機嫌と困惑を露にして叫んだ。

 

「ふむふむなるほど――いや待てィ! 静かに聞いておれば儂も知らん素材をつらつらと――と言うか名前がざっくりとし過ぎておろうが! そんなあやふやなモノをどう集めろと言っておるかッ!」

「仕方ない。今回の『儀式』は普段此処でも取り扱わないような概念的な代物、それ自身の物質的な効能ではなく、本質(イデア)に付随する情報が……つまり『神秘』が重視される。とはいえ、採取できる場所にはある程度絞っている。後は純粋に人手と時間ばかりが足りなくてな、御身を頼ったのだが……」

「うぬぬ……」

 

 その言葉を受けて、ディアンケヒトは顎髭を撫で擦りながら小さく唸る。

 ――天界でも選りすぐりの高潔にして聡明なる最高医神として名高い(※自称)のは勿論のこと、下界の素材事情にも精通している己であっても心当たりがまるでない素材の数々。

 食指が動かないと言われれば、嘘になる。

 だが、それでも今回の仕事は相当彼のファミリアにとって面倒なものになると彼の神としての直感が告げていた。

 少なくとも、身内をフル稼働させるだけでは終わらない。

 最低でもヘルメス・ファミリア、場合によっては他のオラリオ外の探索に優れたファミリアの力も頼らなければならないだろう。

 それらを取りまとめる手間と自身の好奇心をじっくり天秤にかけた結果……、

 

「……よかろう! ただし、金はたっぷりと寄こすことだ!」

「分かっている。とりあえず前金として一〇〇〇、貴神(あなた)個人の口座に振り込んでおく。残り二〇〇〇は完遂され次第速やかに支払うと約束しよう」

「んなッ!? い、いやそこまではだな……」

「なに遠慮することはない。これは正当な報酬だからな」

 

 下界の『未知』(己の好奇心)に敗北を喫した目の前の神に満足そうに頷いて、クレスは支払金額を提示した。

 なお言うまでもなく、ここで彼の挙げた金額(ヴァリス)の単位は先ほど少女たちが行っていた『万』ではなく『()』である。

 これには驚かされたことへの意趣返しに吹っ掛けようとあくどい顔を浮かべていたディアンケヒトも、思わず目玉が飛び出そうになってしまっていた。

 それもそのはず、金にがめついと噂の老神はその含有する意味についてもよく知っている。

 ここまで金払いが良いということは即ち、裏を返せばそれだけの信頼を預けられているということ。

 「きっちり依頼をこなさなければどうなるか分かってんだろうなぁオイ」――そんなクレスの副音声が聞こえたところで、今更引き返せない神ディアンケヒトは頷くより他なかった。

 

「……よ、良かろう! 我がファミリアの全力で以て貴様の依頼、受けてやるわァ!」

「その言葉を待っていた。これで安心できる」

 

 神々の視点だからこそ分かる、嘘偽りのないクレスの言葉が逆に重圧(プレッシャー)になる。

 『やる時はやる』実績を持つ子供(クレス)なりの交渉技術に、ディアンケヒトはせっかく大金を手に入れる確約を得たというのに内心大きく舌打ちをせざるを得なかった。

 

 

 

 

 

「そうだ。ついでに万能薬(エリクシル)を五つ仕入れていきたいんだが」

「一本五〇万〆て二五〇万! キッチリ別で支払ってゆけィ! あと今時(イマドキ)の発音は万能薬(エリクシル)ではなく万能薬(エリクサー)だ覚えておけ!」

「分かった。では一〇〇〇億とんで二五〇万だな。明日中には入金が確認出来よう。帳簿につけやすいよう2回に分けて振り込んでおくのだったな」

 




《Tips》
・ネタ切れ
 そう言うことである。はいはい店じまいだよ!
 次回をお楽しみにね!

今後の展開どうするべ?(参考程度に)

  • ①本編にちまちま関わる
  • ②これまで通り『深々層』攻略
  • ③ファミリアクロニクル:クレス
  • ④カオス・レコード
  • ⑤迷宮神聖譚:『冥洞一灯伝』
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