ダンジョンに英雄を、伴侶を、名声を、正義を、混沌を。果ては出会いなどを求めるのは間違っている   作:七海香波

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 やーやーどうもどうも、作者です。
 毎度脳死で適当に前書きを書き散らしてたらいい加減内容がなくなってきて、どうしようかが最近の悩みどころさんです。……え、元々中身がない? ウワァ…アッ!!
 ハハッ、どうぞ好きに笑ってやってください。
 それと、今回は大半の読者様が待ち望んでいたであろう原作キャラとの邂逅回なのでどうぞ気に入らなかったら低評価をよろしくお願いします。



情報の氾濫が齎すのは冒険者の肥沃か、それとも神々の混乱か?

 

 主神(カオス)を壊れ物を扱うかのように大切に抱きかかえ、それでいて牡鹿のように俊敏に自身の感覚の指し示す方向へ向かうクレス。

 速度を緩めることなく疾駆するその姿には、『恩恵』を封じられているとはいえ一切の澱みがない。

 まもなくして、二人はクレスが感じ取った『精霊』の気配の下へと現着した。

 

 だが、そこにあったのは一般的に想像されるような『精霊』の清廉流麗な姿などではなく。

 クレスにとっては数日前に僅かばかりの言葉を交わして以来の女冒険者たち――それぞれアイズ、ティオネ、ティオナ、レフィーヤと呼ばれていた――と、彼女たちの立ち向かう、毒々しい黄緑色の身体を振り回して大暴れする三頭のモンスターであった。

 

 カオスの安全に配慮するため、ある程度の距離をとって立ち止まったクレス。

 彼がその身体を腕の中から降ろすと、カオスは遠目に繰り広げられる激戦を見つめながら、己が眷属に問うた。

 

「……悪い冗談を言うね。あれが『精霊』だっていうのかい、君は?」

「御身も感じ取っているだろう、正確にはその『力』の破片を。――あれは『精魔種(スピリトゥス)』だ。『偽神(デミ・ゴッド)』と同じく、迷宮(ダンジョン)内に取り込まれた『精霊』の末路。神々が英雄などと持て囃す連中と共に魔宮へ挑み、それらが討たれた後、連中の亡骸に寄り添う墓標となることを選んで地上への帰還を拒んだ者たちの成れの果て。……抱く過去の幻想(オラトリア)と共にやがてモンスターとしての肉檻に囚われ、その思考を歪められた『精霊だったモノ(スピリトゥス)』は、次第に迷宮(ダンジョン)の尖兵と化して俺たちに牙を剥くようになった」

 

 二人の見つめる先に存在する、『精霊』と呼ぶにはあまりに悍ましい外見を備えたモンスター。

 彼が『精魔種(スピリトゥス)』と呼んだそれは歪に肥大化した怪物花の様相を呈しており、まるで腐りかけたような肌色をしていることと言い、『精霊』と言うよりはむしろ『呪霊』と呼称した方が相応しいようにさえ思えた。

 だが、カオスは神としての直感でクレスの言葉が紛れもない真実であることを悟ってしまっていた。

 ――本来人と手を取り合うべき『精霊』が、その宿敵たる『迷宮(ダンジョン)』に与してしまったという異常事態(イレギュラー)

 幸運なのは、クレスがそれらについての知識を有していたことか。

 

「その言い口だと、倒したことくらいあるんだろう。それで、そのまま使い回されることを予測した上で君は彼らを迷宮(ダンジョン)の中に放っぽっておいたのかい……なんて、聞くまでもなかったね」

「ああ。無理やり連れて帰る道理もない、それに落とす素材は良い武器に加工できるからな。昔は気が向いた時に狩って素材を回収したりしていたが、上位素材が『深々層』で得られるようになってからは……特に触りなし(ノータッチ)だったな」

「つまり。昔は君が討ち倒していたけれど、今はそうしたことがなくなったものだから、堤が壊れた大河のように彼らは地上に進出し始めてしまった。そういう認識であってるかな?」

「さてな。可能性としてはそれも十分に考えられるだろう。とはいえ俺が責任を負う話ではないし、そこまで理由を追求する義務もない。しかし、そうだな……」

 

 そう意見を交える彼らの視線の先では、既に戦いは佳境に差し掛かっていた。

 

 前衛として『精魔種(スピリトゥス)』らの暴威を抑え込む、ヒューマンと姉妹らしきアマゾネス。

 怪我を負いながらも後衛として莫大な魔力を注いだ『魔法』を練り上げるエルフ。

 クレスの長年の知識にある通り、『魔力』を狙う習性を持つ『精魔種(スピリトゥス)』らは結果として自らの脅威となる長文詠唱魔法を阻止すべくエルフの少女を執拗に付け狙う。

 しかし、それら悪意ある触手は全て、見事な連携を見せる他の少女たちによって阻まれる。

 

 ――そして、終焉を告げる魔法(もの)の名が高らかに、今。

 

「――【どうか、力を貸し与えてほしい】」

 

「【エルフ・リング】」

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に(うず)を巻け】」

 

「【閉ざされる光、凍てつく大地】」

 

「【吹雪け、三度の厳冬――我が名はアールヴ】!」

 

「――【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

 解き放たれるは、三条から成る極寒の吐息。

 冬の到来を思わしめるほどに強力な魔法の冷気は、瞬く間に三体の『精魔種(スピリトゥス)』の巨躯を凍結せしめた。

 そこへ続けて打ち込まれる、二つの打撃と一閃。

 響く衝撃がモンスターたちの氷像を粉々に砕き散らして、その命を完全に終わらせた。

 

「ふぅん、やるじゃないかロキのところの子供たちも。前夜祭にあんな醜態を晒していた主神の眷属とは到底思えない立派な働きだったね、うん」

「醜態? ……まあ良い。力量だけ評するならば上等だな。ただ惜しむらくは、経験が未だ不足していることか。――そら、後詰めが来るぞ」

 

 細氷(ダイヤモンドダスト)のように砕け散るモンスターたちの命の残響を前に、安心を得る冒険者の少女たち。

 しかし、その確信を覆すかのように。

 次なる地響きが、彼女たちの足元を揺るがせた。

 

「ちょっ、嘘でしょ!?」

「えー、まだいたのー!?」

 

 ――想定外の事象に戸惑う彼女たちは、「ここが迷宮(ダンジョン)の外だから」とその悪意に晒されることはないと考えていただろうのか。

 だが、モンスターがその使徒である以上は、彼らもまた一定の悪意(ちせい)を兼ね揃えていることは何ら不思議ではない。

 例えばそう、今のように。

 同族を討たせることであえて力を使い果たさせ、そうして消耗した彼女らを狙うべく、地上で行われている戦いをよそに息を潜める程度の頭を持つ個体が居たとしても……それは、おかしなことだろうか?

 

 激しく揺れる地面、目と鼻の先で盛り上がる大地。

 噴火するかの如くその奥から飛び出した巨躯は、先の三体にも優に勝る『強化個体』の様相を呈していた。

 

「ちっ、レフィーヤ! まだいける!?」

「は、はいっ! ……げほっ、げほっ!」

「あーもう、無理しちゃダメだってば! でも回復薬(ポーション)なんて持ってきてないし……アイズ、あとロキは!?」

「……私も、持ってきてない」

「まー、回復薬(ポーション)なんて見栄えせん道具(クスリ)売っとる奇特な屋台はないしなー。……どうしたモンやろ、いやホントに」

 

 少女たちの声は、聞くからに「後先考えずに戦っていましたよ」と言わんばかりのもの。

 まさか楽しむための祭りで、しかも地上で、自分たちが重傷を負うことなど考えていなかったのだろうことがありありと窺える反応だった。

 それが「油断大敵!」と責められるべきか否か、そんなことを言っていられる場合ではなく。

 ――その油断をこそ餌とする迷宮(ダンジョン)の仔が、好機(チャンス)を逃す理由(わけ)はない。

 

『キェアアアアアアアァァァァァァ―――――――ッッッ!!!』

「仕方ない、とりあえず何とかなりそうになるまでここで足止めするわよ!」

(かった)いんだけどなー、分かったよ!」

「……私も、剣がなくても囮役くらいなら務められる、と思う」

 

 女性の呻きにも似た甲高い鳴き声を叫び散らかして、その触手が少女たちに向けて躍動する。

 うねる先ほどの三体よりも黄緑色の濃い触腕が鋭い動きで放たれ、彼女たちがひとまずの的としての役割を買って出る中で、一連の流れを見守っていたクレスはため息を一つ。

 

「どうやら打つ手がなくなったようだな。……見所のありそうな後輩をこのままやらせるわけにもいかんか」

「良いんじゃないかな? 【怒蛇(ヨルムガンド)】に【大切断(アマゾン)】、【千の妖精(サウザンド・エルフ)】に【剣姫】。皆神々(私たち)の中でも有望視されてる娘たちだ。それを助けたとなれば、ここで君が手を出したところで(ロイマン)もとやかく言ってはこないだろう」

 

 カオスの助言を受け取りながら、クレスはこの場における行動指針を見定める。

 普段ならば無関心を貫いて放っておくところだが、今は彼自身『精霊』への足掛かりを探していることもあって、降って湧いたその情報の断片を易々逃すつもりはない。

 加えて、たまには後輩の見本となるのもまた先輩としての役目か。

 そんな理由を取ってつけて、フードを深く被り顔を隠した状態で彼は膠着状態に陥ってしまったロキ・ファミリアの面々の下に進み出た。

 

 荒い息を繰り返すエルフの少女レフィーヤと彼女に肩を貸す主神が突然現れた不審者(クレス)に疑惑を込めた目を向けてくる中で、彼の方からは端的に一言。

 

「俺がその娘の代役を務めよう」

「……なんや、誰やお前?」

「誰でも良いだろう。それよりさっさとこれを呑ませろ。それから見ておけ、後輩。これからより強くなりたいのならば、今から見せる技法(テク)は覚えておいて損はない」

「は、何を言って――」

 

 万が一に備えて持ち歩いていた回復薬(ポーション)をレフィーヤに分け与え、クレスは己に向けられる疑惑の視線を一切黙殺して彼女とその主神を守るように前に立つ。

 それから、耐久戦に挑む前方の少女三人へ向けて決して大きなものではない、それでいて確かな声を届かせる。

 

 察しの良いものならばすぐにその真意に感づくであろう――魔法(うた)を。

 

「【契約に応えよ、タカチホの(おろし)。我が命に従い叢雲を裂け】――【ウインド・ブレード】」

 

 手始めに唱えたのは、風の剣を生み出す魔法。

 クレスの手元に風が渦巻いたかと思えば、瞬く間に不可視の片刃剣が構築される。

 それを彼はすかさず、前線で戦うヒューマンの少女アイズへ向けて投擲した。

 

「……!」

 

 代剣を失って為す術のなかったアイズは、自身の右方を横切ろうとした新たな剣を逃すことなくしっかと掴む。

 その握り心地を確かめた後、彼女は勢いよく目の前に迫る触手へ向けて振るう。

 バターのように易く触腕を立つ風の刃の切れ味に小さく目を見開いた後、一つ頷いた彼女は、より機敏な動きで以て『精魔種(スピリトゥス)』の動きを撹乱し始めた。

 

「……今の、は」

「風の剣を作る魔法だ。恩恵に依らない『原初の魔法(オリジナル)』、再編者(ウィーシェ)の名を引くお前なら少し練習するだけで使えるようになるだろう。それから」

 

 続けてクレスは、レフィーヤとその主神ロキに見せつけるように一つの魔石を取り出した。

 それはちょうど、彼の前方で暴れ回るモンスターの肌と同じ色を持つ『極彩色の魔石』。

 

「……そいつは、アイツのお仲間のか?」

「そうだ。さっき奴のお仲間が砕けた時に転がっていったものだ。モンスターと『精霊』が交わることで生まれる『精魔種(スピリトゥス)』、その体内で生成される『精魔石』は通常のモンスターが落とす魔石より上質な魔力を秘めている。その力を使えば、只人と変わらない今の俺でも連中に通じるだけの『魔法』が使える」

「いやいやいや、待った! 何を言うとる!? モンスターに『精霊』、『精魔種(スピリトゥス)』やと!? そんなこっちの知らんような情報をさも当然と垂れ流すんやない――」

「そちらについては些事だ、気にするな。今はそれよりも、これから行うことの方が重要だ」

 

 その『極彩色の魔石』――『精魔石』を握り拳の中で砕き、溢れ出た魔力を基にして、クレスは更なる詠唱を開始する。

 後ろに控えたレフィーヤが見て学べるように丁寧な魔力の流れを作りながら、魔法陣を形作る導線を歪みなく手動(マニュアル)で引いていく。

 元より神の恩恵(ファルナ)のない時代から戦ってきたクレスにとっては造作もない、ただの小技(テクニック)

 それだけで後ろからは驚愕と感嘆の吐息が漏れ出ていたが、彼がレフィーヤに見せて学ばせるべきと考えているのはこの先(・・・)だ。

 

「【契約に応えよ、大いなる風よ。我が命に従い敵対者を薙げ】――【ゲイル・ブロウ】」

 

 その右手に宿るは、強風を吹かせる魔法。

 それを発動直前の状態で制止させながら、彼はもう一つの詠唱を追加する。

 

「【契約に応えよ、白銀の氷狼よ。我が命に従い疾く駆け抜けよ】――【アイス・ブリザード】」

 

 続いて左手に宿らせるは、銀雪を解き放つ魔法。

 二色の魔法を両の腕に宿して同時に制御する、ロキ・ファミリアの面子にとっては間違いなく『未知』の技法。

 背後から突き刺さる再度の驚愕の視線に構わず、彼はただ詠唱(ことば)で以て雄弁に語る。

 

「『遅延魔法(ディレイ・マジック)』――そして、『合成魔法(ユニゾン・マジック)』」

 

 クレスの背後で輝く、発動待機状態の二種の魔法陣。

 その光が彼の制御の下で重なり合い――交じり、そして融け合うことで、より強く輝く一つの魔法陣が新たに生み出される。

 

「――【三度(みたび)契約に応えよ、常夜の氷雪】」

 

 クレスが背に負う濃厚な魔力の気配をいよいよ無視していられなくなったのか、『精魔種(スピリトゥス)』は本領発揮と言わんばかりに追加の触腕をずるりと生やした。

 思わぬ土壇場での進化に、今ある触腕への対応に気を取られていた少女たちは咄嗟に反応することが出来ず、その横をすり抜けさせてしまう。

 

「っ、ごめん! そっち行っちゃった!」

 

 しなやかかつ猛々しい剛腕が自身に迫る中、それでもクレスは構わず詠唱を続ける。

 魔法の操作を行いながら、同時に回避行動へと以降――『並行詠唱』。

 

「【我が命に従い、攻勢を執れ】」

 

 『神の恩恵(ファルナ)』を封印されたとはいえ、その経験までもが封印された訳ではない。

 積み重なった知識と五感に裏打ちされた未来予知にも等しい直感で以て、クレスは触腕の動きを先読みして動く。

 直線的に差し迫る触腕の側面、未来に確約された安全な空間へと彼は自身の身体を先に(・・)置く。

 遅れて直前にクレスの居た場所を貫いた『精魔種(スピリトゥス)』の触手は困惑と共に再度彼を付け狙うが、既にかのモンスターの視線の先に獲物の姿はなく。

 顔の代わりである『精魔種(スピリトゥス)』の身体に咲いた大花が目を凝らせば、当のクレスはそのモンスターの触腕の先端に悠々と佇んでみせていた。

 

「はぁ!? 嘘でしょ、なんなのあの動き!?」

「……完全に、理解(わか)ってる。このモンスターの動き方を……でも、どうして?」

 

 『精魔種(スピリトゥス)』のみならず臨時の仲間内からも信じられないものを見るような視線を受ける中、クレスはそのまま最後の詠唱を終えた。

 

「――【宿れ、闇の権能、吹雪の女王。爪弾くは流離(りゅうり)の調べ】」

 

 一つ間違えるだけで魔力暴発(イグニス・ファクトゥス)を招く、繊細な魔力操作が(かなめ)技法(わざ)合成魔法(ユニゾン・マジック)』。

 無詠唱(オートマチック)スキルである【寡黙不語(カタラヌモノ)】を発現させるだけの魔法に係る経験値(エクセリア)を蓄えた彼の手動詠唱(マニュアル)は、かつて吟遊詩人に「こんなんどう詩吟(うた)えば良いんですか!?」と半ギレ気味に(さじ)を投げられたことのあるだけの精密性を有している。

 その力量を惜しみなく注がれた、【ゲイル・ブロウ】+【アイス・ブリザード】。

 

「失せろ、過去の亡霊の尖兵。一度墓標であることを選んだのなら、それらしく死者(えいゆう)の亡骸に寄り添っていれば良い。お前たちが掘り返されるのは、今を生きる者たちに薪としてくべられる時だけと知れ」

 

 強風と銀雪が重ねられた、その魔法の名こそは――!

 

「――【ニウィス・テンペスタース・オブスクランス】!」

 

 レフィーヤの唱えた【ウィン・フィンブルヴェトル】に勝るとも劣らない、魔氷の豪風。

 吹き荒れる冷気はたちまち『スピリトゥス』の全身に食らいつき、内部へと氷の牙を届かせ、容赦なく生命の熱を啜りせしめる。

 白く塗り潰されていくかのモンスターは身震いして自身に絡みつく死神の誘い手から必死に逃れようとするが、次第に動きを止めていき、最後に少しの悲鳴を上げた後、大理石で作られた彫刻のように動かなくなったのだった。 

 

(つっよ)……いえ、こんな魔法の使い手がいるなんて聞いたことないんだけど。ロキ?」

「いや、ウチも初めてや。ホンマ何者(なにもん)や、あの男……」

 

 自分たちの派閥(ファミリア)の幹部であるエルフの王族(リヴェリア)の魔法にも匹敵する、強力な魔法。

 脅威(モンスター)の去った今、それを平然と取り扱う正体不明の男にロキ・ファミリアの目線にここまでとは異なる色が宿り始める。

 それに構わず、クレスはその中で悠々と歩を進めて、凍り付いた『精魔種(スピリトゥス)』に自身の短刀『ヨルカ』を突き刺してぐりぐりと抉り始めた。

 

「……よし」

 

 先ほど彼女らの主神ロキとレフィーヤに見せつけたものとよりも少し大振りな極彩色の魔石を体内から引き抜いて、用済みとばかりにクレスは聳え立つ氷像を先の三体と同じように砕いた。

 その手にした『精魔石』の中に宿る気配に満足そうにしながら、呟く。

 

「俺もすっかり忘れていたが、こいつらの素となったのも力のある『精霊』。それも、英雄譚(オラトリア)に名を遺している個体ばかりだ――使えるな」

 

 手にした成果を懐にしまい込み、上機嫌そうに帰ろうと振り返ったクレス。

 しかし、その行く手をロキ・ファミリアの面々が取り囲んで阻んだ。

 

「……なんだ?」

「いや、なんでそんな呑気にいられるのよ!」

「『精魔種(スピリトゥス)』、『精魔石』、『遅延魔法(ディレイ・マジック)』、『合成魔法(ユニゾン・マジック)』……あんだけ訳の分からん単語をウチらの前で垂れ流しといて、「はいお疲れサマンサー」って帰られるとでも思っとったんかジブン」

「そうだが、駄目なのか」

 

 不思議そうに首を傾げるクレスに、相対する彼女たちは「正気かこいつ?」と呆れたような目を向けた。

 しかし、そのように見られた彼の方こそ、フードの奥で面倒臭がるような目をロキ・ファミリアに向けていた。

 

「主神から聞いているが、ロキ・ファミリアと言えばゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアに取って代わった今のオラリオの二大派閥なのだろう。今喋ったような情報くらい、とうにギルドから開示されていると思っていたんだが」

「はぁ? 何を言って……」

 

 そのロキの反応に、クレスはようやく自身と彼女たちの認識が乖離していることに気が付いたのだった。

 得心が言ったように、彼はポンと手を叩く。

 

「ああ、そういうことか。つまり、今のお前たちはロイマンの目から見て連中の域に未だ至っていないと言うことか。だから未だ情報を制限しているのだな」

 

 ――ぶちっ!

 聞く者によっては嫌な予感を抱かせる音がその場に響くが、クレスは構わず彼女らの地雷を踏み抜き続ける。

 

「俺はてっきり、お前たちがゼウスとヘラのファミリアの歴史を覆したのだと聞いた時、ついにあれらの壁を超えた者が現れたのかと思っていたのだが……そうではなかったのか。そう言えば、あの時期はちょうど黒龍ジズを連中が悲願だのなんだのといって討ち倒そうとしていたな。それが失敗した隙をついて下剋上を成したというのなら、確かに「根本的な力量が劣っている」と奴が判断しても不自然ではない。――すまない、そこまでは思い至らなかった」

「こ、コイツっ……! 随分と言うてくれるやないか……っ!」

 

 ピクピクと額に十字の血管を浮かばせるロキに「機嫌を損ねたのなら謝罪しよう」と素直に頭を下げ、それがまた彼女にストレスを貯めさせる引き金を引いていることなど露知らず、クレスはまたもや失言ついでに事情の説明を行うのだった。

 

「間違えているのなら否定してくれればいいのだが、そうしないということはつまりそういうことなのだろう。……まあ、そういう訳で情報公開の判断はギルドに任せている。これ以上のことを知りたいのなら、そちらの許可を貰ってからにしてくれ。俺の方は話しても何ら構わんが、世のため平和のためと立派な大義を掲げる連中からしてみればそうではないからな」

 

 ――要約すると、「後はロイマンに任せた(丸投げ)」である。

 

 騒ぎを聞きつけた警邏が駆けつける中、引き止められる謂れのないクレスは既に人知れず去っていたカオスと同様、速やかにこの場を立ち去るのだった。

 残されたロキ・ファミリアの面々は彼のことが気になりながらも、それらの対応及び残されたモンスターの始末に駆り出され、へとへとになって帰宅する羽目となり。

 その予期せぬ疲労による想念(うらみ)の矛先はなんとなく、その声からディアンケヒト・ファミリアで偽名(キアン・マッキリーニー)を名乗っていたことをレフィーヤが思い出した冒険者(クレス)と、ついでその口から発されたギルド長へと向かうのだった。

 

 ……哀れロイマン、今回もまた君の胃は荒れる。

 

 




《Tips》
・【ウインド・ブレード】
 ・『原初の魔法(オリジナル)』(ダンノ浦の海底に沈んでいた巻物に記載されていた【クサナギ・ブレード】を、リュールゥに依頼して再構築(マイナーチェンジ)させたもの。極東の人間にこのことが知られた場合、(政治的に)厄介事を引き寄せる)
 ・剣成魔法(クリエイト)
 ・風属性。
 ・詠唱式:【契約に応えよ、タカチホの(おろし)。我が命に従い叢雲を裂け】

・【ニウィス・テンペスタース・オブスクランス】
 ・『原初の魔法(オリジナル)』(クレスとリュールゥによる共同開発)。
 ・中規模殲滅魔法。
 ・嵐属性(=風属性+氷属性)。
 ・詠唱式:【三度(みたび)契約に応えよ、常夜の氷雪。我が命に従い、攻勢を執れ。宿れ、闇の権能、吹雪の女王。爪弾くは流離(りゅうり)の調べ】
 ・元ネタはもちろんネギま⁉︎から。あれとめだかボックスが当時の作者の厨二病全盛期でした。ラテン語のルビ振りって最高ですよね?

今後の展開どうするべ?(参考程度に)

  • ①本編にちまちま関わる
  • ②これまで通り『深々層』攻略
  • ③ファミリアクロニクル:クレス
  • ④カオス・レコード
  • ⑤迷宮神聖譚:『冥洞一灯伝』
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