ダンジョンに英雄を、伴侶を、名声を、正義を、混沌を。果ては出会いなどを求めるのは間違っている 作:七海香波
毒霧の奥に悠然と佇む異形の王。その御前に再び辿り着いたクレスの瞳には、揺るぎない自負の光が瞬いていた――「為せるだけの用意は全て終えてきた」と。
今の彼が五体に纏う武装はいずれも、目前の
それらの階層主征伐用装備をかっちりと着込んだクレスが、纏わりつく毒霧を肩で切って前へと歩み出る。
四肢に勝利への確信を。
そして気骨へと、
いざ開戦の
「(取っ掛かりだ。まずは
天蓋に開く、本来ならば
しかし今この時において、それは彼が用意した
穴の外側、現在クレスと
その光景はまさしく、藍氷の剣雨。
こと対
持てる力の限りを以て、お前を圧殺する――そう言わんばかりに容赦なく降り注ぐ青輝の魔法剣群は、着弾すると同時に
魔剣にして低位の
猛毒の沼が、霧が。
階層そのものが――極冷の白氷に閉ざされる。
「(疑似顕現、『
『
足を絡めとる毒沼はぶ厚い氷層に覆われ、肺を侵す毒霧は冷気の流れによって払われ……今や一変した環境において、この階層最大の障害であった猛毒の脅威はほぼ意味を失っていた。
「ふぅ、寒いがこれでようやくマトモに息が出来るな」
副作用として呼吸制限と視野の狭窄をもたらしていた鬱陶しい
ここ暫くの友人であった閉塞感から解放され、気分と合わせて少しばかり身軽になった彼は続けて腰の両方からしゃらん、と双剣を引き抜く。
美しき虹色の刀身を持つ姉妹剣『アブソリュート・デュオ』。
「魔剣装填完了、属性刃出力開始。――行くぞ」
それが為されるより早く第一の作戦目標を達成しようと、敵の懐へと潜り込んだクレスは猛烈な勢いで左右の剣を振るい始めた。
虹色から、藍と翠の単色へとそれぞれ色合いを変えて――透き通る氷と渦巻く風を一時的に宿した二つの魔刃。
鋭く振るわれたその二連斬が、モンスターの巨体に確かな瑕を刻み込む。
「柔らかく、されど硬くもある異質な肉体。だが、
初回会敵時における
つまり、氷結+物理攻撃。
その組み合わせを用いた時のみ、この強固なモンスターの肉体にダメージを通すことが出来る。
それを知った彼の選んだ
『アブソリュート・デュオ』。通常魔剣の芯に用いられる触媒金属『
左の姉剣が司る今の属性は氷。絶対零度の刃が、接した面を刹那のうちに凍らせる。
右の妹剣が司る今の属性は風。唸る疾風の刃が、凍結した
また、『
それらの複合した
弱点が存在しない? ならば作り出して叩くのみ。
「冒険者は
「(切断面をすかさず再度凍らせることで、肉体と地面との間に氷の層を挟み込む。……こうすれば、その厄介な
その勢いのままに、クレスはモンスターと地面との接合部を素早く剥がす。
外側から内側へと、着実に。抜かりの無いよう細心の注意を払いながら掘り進めて、肉体と毒沼の接する面積を徐々に狭めていく。
そうして切削し尽くした果ての、最後の一点を断ったところでクレスはばっと飛び退いた。
モンスターの肉体と地面との間に彼が作りだした空間、それが最後の支柱を破壊されて圧壊する。重量のある肉体が落下したことによって大きな衝撃が生まれ、小規模の地震が
その衝撃は同時に、限界を迎えつつあった
『……リ、リリリィィィー……』
「それがお前の鳴き声か。漸く聞けたが、さて……」
元より内側からの圧力で破砕寸前だった氷が、細かい飛沫となって散り果てる。
その向こうから漏れ出る、甲高い鳴き声。
それは、ついにこの空間の主が活性化したことを示していた。
クレスが
――このような残酷な仕打ちをしたのは誰だ?
――住みやすい寝床をいつの間にか荒らしていたのは、いったい誰だ?
ここまでは視線を散乱させるばかりでまったく意味を成していなかった、
『……リリリ、ケリ、リリリ・リリリ……』
ようやく
ぐにゅりぐにゅぐにゅグチュグチュぐじゅり、と奇怪な音を響かせる悍ましい肉の蠢きを以て、その身体に蛸や烏賊のような触腕を生え揃う。――その総数、太長細短あわせておよそ200と少し。
どれ一つ取っても同じ縮尺のものが存在しない歪な手足の先端が、緩慢な動きで宙を揺蕩うように這い回る。その姿は生物としてあまりに異端と言う他なく、見る者によっては恐怖による一時的
それらの触手をクレスに向けた
『ケリ、リリリ、テケリ・リリリリリ……テケ・リ・リ……!』
胎動する
その変化した異様なる威容を前に、クレスはその攻撃
続けて背から取り出した盾を右腕に構えて、防御・回避体勢に移行する。
「ここまでは実質準備運動。ここからやっと、本番が始まるな……!」
何が来ようと対処出来るよう、クレスは形態変化後の初動に備えて様子を伺う。
その視線が、まばたきで極僅かな間だけ遮られた――それは稀によくある、『深々層』における命取りの一つであって。
『リ』
気づけば既に
《Tips》
主人公の第三魔法は(設定上)決まっていて、二次創作主人公にありきたりな属性だぞ。ただし迷宮内では絶対使えない設定なので関連エピソードを書くまで登場できないであろう上に、なおかつそれに関連する神様が原作だと名前だけ出てきて詳しいことが分かっていない神様なので扱いに困っており、どうしようか悩み中だぞ。