ダンジョンに英雄を、伴侶を、名声を、正義を、混沌を。果ては出会いなどを求めるのは間違っている   作:七海香波

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 気づけば今週も日曜日、さあ悪夢の月曜日がやってくるぞ。
 ついで本編2章も始まるのじゃよ。
 そんな訳で、引き続き対戦よろしくお願いいたします。


双花魔人譚(モンストルム・オラトリア)』編(2)
慣らしの冒険


 

 姿見の向こうに佇む自分自身を、クレスは(つぶさ)に確認する。

 その身に纏う戦装束は、死地へ赴くための迷宮(ダンジョン)備え。

 モンスターの死骸より作られし装具を以て、同じモンスターの生ける命を御し、巡りめく大穴の未知へ挑む……それは何時の時代においても変わらない、冒険者の業。

 

「……過剰戦力になろうが、何が起きるのか分からないのが迷宮(ダンジョン)。むしろ、想定していない時にこそ牙を剥いてくる。念を入れておくに越したことはない……」

 

 己に言い聞かせるように、呟きながら彼は装備のベルトをきつく締め直す。

 これまでは何らかの見落としがあっても、最悪レベルの暴力で機転を利かせることが出来た(なんとかなった)

 しかし、レベル22(から)レベル(なし)となった今は一つの油断が容易く死を招く。

 生半可な『用意』はそれこそ、彼が常人の寿命を超えたその時から都度誘いをかけてくる各陣営(しんわ)の死神どもの御手に身を委ねることと何ら変わりない。

 彼が罪の重さをはかる女神の天秤に自らの魂を乗せるのは、迷宮(ダンジョン)の全てが明らかになってからのことだ。

 

「良し」

 

 以前ゴブニュに見繕って貰った通りの、一見して『新人上級冒険者』と見紛う外見(それ)

 然してその内側には万が一(・・・)に備えた物騒な『切り札』が複数個、秘されている。

 どうか、それらを使う機会が来ないよう――なんて、ふと心の内側に湧いた妄言を頭を振って捨てて、今再び、彼は迷宮(ダンジョン)へ挑む。

 

 規模は『小遠征』、目標は『中層』。

 その目的は、『ロキ・ファミリアとの合同遠征を見据えたレベルダウンの馴らし』。

 

 常人の身体で以て迷宮(ダンジョン)に挑む。

 それは、古代から現代に至るまで一貫して気狂いと称される所業。

 されど彼の精神(こころ)は、常日頃と何ら変わりなく平常を保っていた――。

 

 ――なお、当然の如く神カオスはこの一件について遺憾の意(*天界スラング*)を示しており。

 その機嫌を直すため、唯一無二の眷属たる彼が『オラリオの高級スイーツ30選を巡る逢瀬(デート)』を対価として支払わなければならなかったのは……ここだけの秘密である。

 

 

 

 

 

 本来のクレスが地上(オラリオ)と『深々層』の拠点を行き来する際の手段は専ら転移魔法(シュレディンガー)による移動の省略(ショートカット)であり、世間的に一般的な階層である『上層』~『深層』に彼が足を踏み入れることは皆無になって久しい。

 とはいえ、いざ潜ってみれば大まかな正規ルートは自然と思い出せるというもの。

 特に『大穴』の時代に自らの足で以て開拓した道筋は、記憶があやふやになっていたとしても身体が覚えている。

 

『グギャァッ!?』

『ガブギュッ!?』

『――!?』

 

 『ゴブリン』、『コボルト』、『ウォーシャドウ』等々。

 徘徊する上層のモンスターを≪竜小剣【臥竜】≫で手早く蹴散らして、先へ進む。

 より深い階層に生息する彼らの上位種を狩ることに慣れている身からしてみれば、フェイントも何もない力業ばかりの『上層』のモンスターたちの動きなどお粗末なものでしかなかった。

 

 剣の如き爪を構えて飛び掛かってくる『ウォーシャドウ』を、擦れ違いざまに柔術の要領でいなしつつ剥き出しの岩の角へ目掛けて投げ飛ばして。

 四つ足を忙しなく動かして顎をカチカチと鳴らし威嚇してくる『キラーアント』には固い甲殻の隙間を刳り貫くように刃を突き入れ、節が自重で分断するようにしてやって。

 集団で取り囲むように迫りくる『インプ』は狭い道に誘導して釣り上げるように分断し、一匹ずつ着実に眼窩から脳天を抉っていく。

 

 常に焦ることなく、慎重に。

 やることは『神の恩恵(ファルナ)』の活きている時と変わらない。

 耳や足裏、五感に伝わる外界の揺らぎを敏く捕まえながら、見えない視界の先を索敵して、接敵すると同時に最適解をぶつけていく。

 

 ……その感覚が、第12層を超えた辺りで彼の足を止めさせる。

 『中層』に差し掛かる位置で彼のいる地点へと徐々に近づいてくる、幾つもの慌ただしい足音。

 

「逃げる者と追う者……少し待つか」

 

 待つことおよそ五分。

 クレスの先にある曲がり角から、パーティーと思しき複数の冒険者とその人数を優に上回るモンスターの群れが現れる。

 

「――っ、へへっ! 悪く思うなよ!」

「すみませんすみませんすみません!」

「ごめんねー、でもこういう日もあるって!」

 

 大人しく立ち止まるクレスへそれぞれ一声かけて、冒険者(追われる者)たちはその脇を走り去っていく。

 その後ろに迫っていたモンスター(追う者)たちが、クレスという新たな得物の姿を認めて進行速度を緩めた。

 『怪物進呈(パス・パレード)』。

 それは迷宮(ダンジョン)内で行われる、冒険者による他の冒険者へのモンスター集団(トレイン)のなすり付け行為。

 身に余る脅威から逃れるために仕方なく行われることもあれば、自らの手を汚すことなく対象を始末するために使われることもある……一般的には悪質、卑劣とも評される行為。

 今回の件は、彼らの言葉からして恐らく前者だろう。

 

 いずれにせよ、クレスは彼らを非難するより粛々と詠唱を紡ぐことに口を使う。

 この状況はむしろ、彼にとって「腕試しにもってこい」なのだから。

 

()契約に応えよ(契約に応えよ)旭日の光。(森羅の風。)我が命に従い(我が命に従い)敵を討て(敵を薙げ)()――【ファイヤー・バレット】(【ゲイル・ブラスト】)

 

 『二重詠唱(デュアル・ソング)』。

 元より恩恵に依らない魔力操作の技法で以て、クレスは自身の生み出した炎弾と烈風を瞬時に重ね合わせる。

 【ファイヤー・バレット】+【ゲイル・ブラスト】=、

 

「――【ヒート・ストーム】」

 

 『合成魔法(ユニゾン・マジック)』を掛け算に例えるなら、単純な足し算に過ぎない『二重詠唱(デュアル・ソング)』。

 しかし、それでも『中層』程度のモンスター群を一掃するには事足りる火力を秘めていた。

 風に煽られた業火が通路を埋め尽くすように焼き払い、残ったのは、燻るようにぷすぷすと煙を上げる一部のドロップアイテムと数多の魔石たち。

 

「この程度は問題ないな」

 

 それらが冷めるのを待ってから拾い集め、クレスは淡々と次の階層へ向けて再び出発する。

 

「――コオオオォォォ……」

 

 道中、クレスは呼吸による魔力の集気――『精癒』スキルに通じる特殊な呼吸法を用いて消費した魔力の回復速度を速める。

 その傍らで、彼は頭の片隅で先ほどの冒険者たちのことを考えた。

 

「……あの連中、長くはないな」

 

 ろくに迷う素振りも見せず、平気で名も知らない他人に脅威を押し付ける冒険者たち。

 口振りからして、きっとこの程度のことは彼らにとって慣れたことなのだろう。

 自分の命を分不相応に重く見積もったあまり、他人の命を軽々しく使い捨てる味を覚えてしまった者たち。

 そのような人間の命はクレスの経験上、短いもの。

 復讐されるか、驕りによって自ら足を掬うか。

 

 ……いずれにせよ、顔を覚えておく価値はない。

 

 そう遠くないであろう彼らの冥福を一足先に祈り、用の済んだその記憶を忘却の彼方へ追いやった彼はそれ以降順調に階層を下り続ける。

 

 ――既にゴライアスの討伐されたらしき、静寂の満ちたる『嘆きの大壁』を超えて。

 

 クレスは第18階層、『迷宮の楽園(アンダー・リゾート)』へと辿り着く。

 

「『前線基地(フロントベース)』……今の時代だと『リヴィラの街』と呼ぶのだったか? 公然と血の臭いがしない辺り、どうやら今は平穏期(・・・)と見てよさそうだ。運がいい。また騒ぎに巻き込まれるのは御免だからな」

 

 望む面倒ごと(パス・パレード)であれば歓迎だが、意図しない厄介事(じけん)はお断りだ。

 そう、クレスは心の中で呟く。

 

 だが、そう考える時ほどなんとやら……というお約束(もの)

 ふと胸の内に湧いた嫌な予感に「考えなければよかった」などと手遅れな思考を抱きながら、クレスはその昔に彼も拠点を置いていた『街』へと向かうのだった。

 




《Tips》
・『誘引剤(デューザー)
 本編未登場。『キラー・アントの体液』から精製できる、『臭い袋(モルブル)』の上位アイテム。
 本来のクレスであれば、これを用いると共に自らは息を殺すことで『怪物進呈(パス・パレード)』を速やかに相手へ返礼する。
 今回も懐に入れていたのだが、彼なりの目的があったため、幸いにして相手の冒険者たちは多少寿命を延ばした。
 ただ、その猶予を彼らが有意義に活かすことは……残念ながら、難しいだろう。

今後の展開どうするべ?(参考程度に)

  • ①本編にちまちま関わる
  • ②これまで通り『深々層』攻略
  • ③ファミリアクロニクル:クレス
  • ④カオス・レコード
  • ⑤迷宮神聖譚:『冥洞一灯伝』
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