ダンジョンに英雄を、伴侶を、名声を、正義を、混沌を。果ては出会いなどを求めるのは間違っている 作:七海香波
皆様もお疲れ様です。どうぞ無理せず、休める時に休んでくださいね。
ところでここにハーメルンっていう、休憩の時に最適なサイトがあるんですけど……いかがですか?
というわけで暗黒期、幾つかの話に分けて書いていきます。
どうぞよろしくお願いします。
決戦の予定と好ましからざる知らせ
――正義とはなにか。
――悪とはなにか。
それは数多の人間が、神が問い続け……未だ純然たる一の解答が示されない難問。
ある
またある
そしてある
ある
またある
そしてある
まさに十人十色。
それを掲げる
それらは決して譲れぬ彼らの
故に、時に異なる『正義/悪』が交わり、言葉や刃となって衝突することは世に必然の理と言えよう。
その道理がひと際大きく揺れ動いた激動の時代――
神はまた、問う。
「正義とは何ぞや?」「悪とは何ぞや?」と。
冒険者は答える。
「そんな下らない問答に時間をかけるくらいなら
その名を『
神に与えられし恩恵を悪用し
しかし、そこに先立つ『悪』があれば、後に対抗する『正義』が立ち上がるのも世の道理。
心に秘めた義憤を燃やし、世に混乱を齎す悪を討つべく一堂に会した『正義』側の者たち。
彼らの、これが最後になるであろう作戦会議が今まさに――終わろうとしていた。
「作戦の開始は――三日後」
数多の
数え切れない犠牲を積み上げてついに掴んだ敵の拠点三つ、それらを同時に叩いて今後一切の禍根を断つ。強力な冒険者を有する『ロキ・ファミリア』『フレイヤ・ファミリア』『アストレア・ファミリア』『ガネーシャ・ファミリア』を核に据えた、失敗の許されない作戦。
その実行日を力強く宣言した彼の碧眼には、「これ以上自分たちの街に邪悪なる者たちをのさばらせることを認めない」という意志が爛々と輝いていた。
「それでは、解散」
会議の主導者たる彼の決定を受けた各々が、覚悟を胸に秘めて席を立つ。
迫る決戦に備えて戦意を滾らせながら、彼らは会議室の出口へと姿を消していった。
その裏では本来非公開であるはずのこの会議を
ただ、不幸中の幸いとして。
部下が「既に会議の結論は下された」と判断してしまい、聞き逃してしまった一幕。主題の後に続く些細なそのやり取りにこそ、彼らの今後に多大な影響を及ぼす
「――む。なんだ、あれは?」
その気配に目敏く気づいたのは、フィンの横に控えていた『
天井を見上げた彼女の呟きに続いて、場に残っていた上級冒険者たちは一様にそちらに目を向ける。
彼らの集う会議室の一角、
闇の中に姿を浮かばせるその生き物の正体は……一匹の蝙蝠だった。
「あら、可愛い迷い蝙蝠さんね! まさかギルドの中に侵入しちゃうなんて、おっちょこちょいなのね! それともこの強く可愛い私に惹かれて付いてきちゃったのかしら!? うーん、私ってば罪作り!」
「アリーゼの言うことはともかく。こんなところに入ってきて、ひとりでに出ていけるのか? ……こちらで捕まえて、外へ放してあげた方がよいのではないでしょうか」
「けっ、たかが小動物如きにきゃーきゃーと……
「流石、一々他人の言うことに噛みついてばかりのやんちゃな猫様が言うと違いますねぇ」
「あぁん!?」
「……止めないか、お前たち」
主にアストレア・ファミリアを中心とした面子が反応を見せる中、蝙蝠がばっ、と羽を広げて宙に飛ぶ。
その行き先を彼らはまた自然と見つめて……小さな黒き翼は、ギルド長ロイマンの手の中に降り立った。
そして、その背に結んであった封書の筒が彼へと渡される。
「へぇ……どうやらただの蝙蝠じゃないみたいだね」
「そうだな。今の様子だと使い魔か? あの種のモンスターを使役するのは初めて見たが……送り主が気になるところだな」
フィンとリヴェリアが目を細める前で、ロイマンは手紙を開くことなく蝙蝠ごとポケットの中に素早く押し込む。その態度からして、ここで中身に目を通すつもりでないのは火を見るより明らかだった。
そのままであれば、傍から見ていた彼らもギルドの内部文書の一つに過ぎないのだろうと見逃していたかもしれなかった。
しかし、この時のロイマンは日々重なる
「ちぃっ、なぜこのような時に……ッ! 急用ができた! お前たちには悪いがここで私は失礼させてもらうぞッ!」
急に滝のような脂汗を額に滲ませたかと思えば、青褪め、続けて頬を真っ赤に染め、また蒼白になる。
青→赤→青と顔色を立て続けに変えたロイマンは椅子を蹴飛ばすように立ち上がって、まるで逃げるかのような速足で部屋の出口へ向かおうとする。
その取り乱しぶりを見咎めたフィンの親指が、ぶるりと震える。
自身の
「なにかあったのか、ロイマン?」
「い、いや……な、なんでもないぞッ!?」
「「「「「(((((いや無理があるだろそれ……)))))」」」」」
その様子は誰がどう見ても、普段の傲慢かつ図々しい在り様とは異なっていた。
あまりに精細さを欠いた彼の様子に、会議室の雰囲気が切り替わる――すなわち、詰問の時間へ。
「その
「違うッ、その類では断じてないわ! 貴様らは気にせず先に説明した作戦の遂行に努めれば良いのだ! 分かったらさっさと拠点に戻って整備でもなんでも――」
「誤魔化そうとするな。その遂行のためにも、教えてほしいと言っているんだ。この親指の感覚……恐らくその手紙は僕らにとって大きな影響を齎すものだ。君も知っての通り、この作戦は決して失敗できない。だからこそ前もってあらゆる不安の種を取り除いておかねばならない。分かるだろう?」
ピリピリとした雰囲気を漂わせるフィンの真剣度合いに、周りの者たちもまた俄然中身が気になってきたようで鋭い眼を向ける。
彼らの視線を四方から浴びながら、ロイマンは少しずつ距離を縮めてくる
「……くっ、仕方あるまい。少し待て」
観念したように、ロイマンは一度しまった手紙を取り出した。
その封を切り、中に書かれていた文字を一読する。
「やはり……やはりそういうことかッ! ええい、この忙しい時になんと忌まわしい!」
息を荒げ、手紙を瞬く間にくしゃくしゃにしたロイマン。
その目を素早く周囲に走らせた後、彼は怒り心頭と言った面持ちのまま丸めた手紙を口の中に
「――なっ!? か、返せ!」
「馬鹿が。俺たちの前でテメェ如きに隠し事が許されると思うな」
それがすかさず
しかし事実として、手紙はいつの間にかロイマンの隣に立っていたアレンの手中に収められていた。
「ありがとうアレン。それで、中にはなんと書いてあるんだい?」
「なんで俺が読み上げてやらなきゃいけねぇんだ。そっちで勝手に読みやがれ」
「……まさか呑み込もうとするとは」
「あの我執の怪物がそうまでして隠したい秘密……俄然気になりますねぇ」
どこか呆れたようなリューと、面白いものを見たと目を光らせる輝夜。
彼らへの情報共有の意を含めて、フィンは手紙に書かれていた一文を読み上げた。
「……
「……っ」
フィンの向ける厳しい視線に、ロイマンは逃げ場を探すべく視線を右往左往させる。
しかし
「……今のお前たちには知る必要のない相手だ」
「その言い分が今この時において通じると思っているのか?」
「だろうな。だが、
「ウラノスに関わる案件か。なるほど、重大だな……うん、分かった。君の言葉を信じるとしよう」
「ちっ、最初からそうしていれば良いのだ! まったく、これだから――ごほんっ! 分かったらこれ以上余計なことは考えず
どたどたと捨て台詞を残して去っていったロイマンを見送ったのち、一部の冒険者から不審がる声が漏れる。
「結局お相手は誰だったのかしら? 賢く可愛い私でも分からないわ!」
「はっ、つるし上げて吐かせりゃ良かったんだ」
「いや、残念だがそうもいかない。
漂わせていた雰囲気の割にあっさりと引いたフィンの意見を、リヴェリアが補助する。
「万が一ここで我々が敗北を喫した場合、それはギルドの魔石利権も終わることを意味する。それをあの
「うん、ここはリヴェリアの言うとおりだ。みんな、ロイマンのことははいったん置いておこう。余計なことは考えず自分の役割に集中してくれ。この決戦で、僕たちの都市の命運が決まるのだから」
彼の言葉にひとまずはこの場に漂った不穏な空気は解消されたかのように見えた。
しかし、ロイマンへ抱いた彼らの不信が完全に拭い切れたわけではない。
一つの黒い染みを残すような結果に終わった会議はその後、今度こそ自然と解散するのだった。
一方、痛む腹を摩りながら廊下を走るロイマンの顔は途方もない焦りを孕んでいた。
すれ違う職員に奇異の眼で見られるのも構わず、彼は一直線に自分の執務室へと戻ってその内側から厳重に鍵を閉める。
「くそ、すっかり忘れていた……そろそろ奴が帰ってくる頃合いだということを。あまりに直視したくなかったせいか、前回から一年が経つ事実をすっかり頭から消していた……くそっ、【
ぶつぶつと独り言を漏らしながら自室の中をあてもなく彷徨い歩く彼だったが、やがて諦めたかのようにソファーに腰を下ろした。
そう、先ほど彼が受け取った手紙とはクレスからの帰還の知らせだった。
一年に一度の『深々層』からの出張報告。それだけでも十分頭が痛い出来事だというのに、今回はよりにもよってそれが自身の膝元における一大決戦と同日というのは何の冗談か――ロイマンは割れそうなほどに痛みを訴える頭を両手で押さえつけるように抱え込んだ。
「もし奴がフィンらと遭遇した場合……まず敵対はない、はずだ。今回の作戦は迷宮攻略に利するもの、協力はせずともそれを妨げようとはしない。ただ……」
今度はぐるぐると不穏な音を鳴らし始めた自身の腹を懸命に摩りながら、想像する。
――それはクレスとフレイヤ・ファミリアが衝突するという、最悪の可能性。
ただでさえ血の気の多い連中が文字通り我が道を征くクレスと出くわした場合、どうなるか。
売られた喧嘩に買う喧嘩。つっかかる
「奴のことだ、どうせ女神フレイヤの威光も知らんとばかりに自然と言葉で連中を煽るに決まっている! そこから先は……ああ、考えたくもない! 一応事情は説明して念押しするとして……」
――無駄だろうな、と吐きかけた言葉を飲み込む。
一度口にしてしまえばそれが真実になってしまいそうだから、と。
「……願わくば、先に
そんな都合の良い妄想と異国から取り寄せた高級胃薬で頭やら胃やらその他諸々に走る痛みをなんとか抑えながら、彼は唸る。
知らせを聞いてからまだ十分も立っていないのにもう
彼の気苦労が杞憂に終わるか否か、それはクレスのみぞ知る。
そんな地上の様子も知らないまま、火が消えて窓を閉めたことを確認したクレスは拠点を入念に施錠した。
結界型魔道具による異界化――一日で階層主三体分の魔石を消費する代わりに不可視かつ自動反撃機能付きという物騒な戸締り。
透き通るように姿を消していく自分の家を見送り、彼は報告用の荷物を入れた袋を背負った。
「『
一部の下処理に時間がかかる素材の準備に、放置しておくだけで危ない特級素材の厳重封印。
それらに忘れたところがないかもう一度思い返して、これで自分がいない間の一日も大丈夫だろうと彼は満足げに頷いた。
「よし、そろそろ行くか」
そして振り返った所に、声がかかる。
「――むぅ、遅いぞ!
「そんなに待たせた記憶はないが」
「い・ち・ね・んじゃ、一年! 前の時からもう一年も経つのじゃぞ! その間妾がいくら駄々を捏ねても全部「また今度な」で済まされておった、その願いがようやく叶うのじゃ! 逸るのも仕方なかろう! ……ふふふっ、それにしても久々の
星のように透き通って輝く銀の髪をたなびかせるその人影を横に、クレスは呟く。
「最近は地上もキナ臭い。……一応
《Tips》
特に書くことが思いつかなかったので、前まで大活躍(?)だった子の設定まとめを置いておきます。
正式名:『
攻略中の仮称:『
第239層下部を根城とする
ギミック系ボスで、こおり・麻痺中にのみダメージを与えることが可能。
こういう設定考えるの楽しいよネ!