PSYCHO-PASS _Orakel und Gesetz   作:鈴夢

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奇妙なあの子

 

 

 

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外務省との合同捜査が決まり、特別管理特区でもある"出島"への出立も決定した矢先――

 

常守は東京に残る霜月達とのブリーフィングの為、一度解散した一係オフィスへと向かっていた。

 

薄暗い局内の通路。自身の足音だけが響く中、突如背後から声が響く。

 

 

 

 

 

 

「――朱さん。」

 

 

 

 

少女の声。

常守は自分の名前を呼ばれ、反射的に背後へと振り向く。

 

 

 

 

「…舞白ちゃん。」

 

 

3mほど距離を取り、そこで会釈をする白髪の少女。その表情は冷静沈着な落ち着いた顔つきをし、真っ直ぐと常守の瞳を見据える。

漂う雰囲気は"やはり兄妹"。まるでそこに狡噛が立っているようだった。

 

そして、そこには初めて会った頃のような昔の少女の面影は無かった。

 

 

「フレデリカさん達は?」

「既に専用機で待機してます。」

「…そっか。待たせて申し訳ないわ。私たちは最後にブリーフィングだけしたら向かうわね。」

「…………」

 

 

表情を変えないまま口を紡ぐ舞白。

そして何か言いたそうに瞳が揺れると、意を決したように息を吐き、言葉を発する。

 

 

「あの……今しかタイミングが無いと思って。少しいいですか?」

「うん。どうしたの?」

 

 

"今しかタイミングが無い"

きっとそれは常守と2人っきりで何か話したい、と言っているようにもとれる。再会して間も無い今。何となく彼女の様子から常守は嫌な予感を察知していた。

 

 

 

「――"厚生省大臣官房統計本部長 慎導篤志"。」

「本部長がどうかした?」

「あの方は…私の事をどこまで知ってますか?」

「……待って、どういう事?」

 

 

突然彼女の口から零れた慎導の名前。そして意味深な台詞。直ぐに事を理解出来ず、常守は戸惑いを見せながらその声は微かに動揺しているようにも感じる。

 

 

唐突すぎて事情が飲み込めないと言わんばかりの常守の様子に舞白もまた不思議そうに表情を曇らせた。

 

 

"厚生省の本部長が自分のことを知っている。ならばそこに常守が絡んでいると予測していた"――しかし常守の様子を見る限り彼女自身もわけが分かっていない様子。

 

ならば何故。あの慎導という男は自分の事をあたかも全て知っているかのような口振りで振舞ったのか。

 

 

 

「朱さんと何か繋がりがある訳じゃ無いんですか?」

「…ごめんなさい、あまり理解できてなくて。」

「いえ、私も説明足らずですよね。」

「……詳しく教えてくれる?」

 

一歩、常守は舞白へと歩み寄る。

戸惑いすら感じる少女の瞳は何かを訴えている様子だった。

 

 

 

 

「…実は、その慎導という方が―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩!まだですか?出島へ発つ前に今一度ブリーフィングするって言ったのは先輩ですよ?」

 

 

話を切り出そうとしたその時、常守の背後から現れたのは霜月美佳。腕を組み、明らかに苛立っている様子を見せる。常守は背後へと振り向くと眉を下げ、申し訳なさそうに声を漏らす。

 

 

 

 

「ごめんね美佳ちゃん。直ぐ向かうわ。」

「早くしてください!私も急遽出島に向かうことになって、やる事山積みなんです!」

 

腕を組んだまま指先をトントントンと何度も叩く。通路で呑気に会話している様子の2人に対し、さらに怒りを募らせていた。

 

 

「舞白ちゃん。また後で。」

「…はい。」

 

 

急ぎ足で踵を返す常守。そんな相手に霜月は相変わらず文句を言いながら彼女と共にオフィスへと向かう。

 

 

 

 

「(("外務省海外調整局"――どいつもこいつも"いけ好かない"。胡散臭い奴ばっかり……なんなのよ…))」

 

 

 

通路に立ち尽くし、こちらを静かに見据える舞白。霜月はそんな彼女を睨みつけるような視線を向けたのであった。

 

 

 

 

 

 

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ブリーフィング後、ヘリポートへと向かうためエレベーターに乗り込む常守と霜月。乗り込んで数秒後霜月は隣の常守に視線を向け、ずっと原の奥底に隠していた事を口にする。

 

 

 

 

「――狡噛舞白。彼女については私も調べさせてもらってます。」

「…舞白ちゃんのIDの閲覧アーカイブ履歴。美佳ちゃんの名前はよく残っていたし、知ってたわ。」

「ていうか!なんであんな怪しい兄妹と組むことになったんですか?そもそも外務省に居るなんて意味不明ですし。それに、狡噛舞白に関しては過去に厚生省の機密機関との関わりがあったことも、閲覧制限のあるアーカイブも存在していることも分かってます。

 

―――あの子、結局……何者なんですか。」

 

 

"免罪体質"である事は元々知っていた。

シーアンでの犯罪係数の記録。アンダー値から変化することなく、最終計測は"ゼロ"。直接的に常守その話をしたのは1度だけだ。常守自身もその事について深堀することも無ければ他人に話している様子も見られない。

 

 

あの少女に何か隠されていることは明白だった。

 

白銀の髪を持つ、どこか陰をも感じさせる不思議な雰囲気を纏う少女に対し、霜月は例えようのない感情を抱く。

 

 

 

「何者って…美佳ちゃんと何ら変わりない普通の女の子だよ。」

「いやいや、そんな訳ないでしょ!誤魔化すの下手すぎません!?普通の女の子が片腕義手な訳ないし、何か異様な空気感が有るというか……とても同い歳で同じ国の出身とは思えません。」

 

 

自分と同じ普通の女の子"なわけが無い"。

確かに年齢は同じことも確かだ。国内の高等教育機関にも通っていた経歴もあり"あくまでもID上の情報"は普通だ。

 

 

冷徹な黒い瞳。雪のように白い肌、髪の色。切りそろえられたボブヘアから覗く細い首、特徴的な涙ボクロ。そしてジャケットの下に隠された偽物の右腕。

 

その風貌は人間味のない気味悪ささえ感じるものだが不思議と目を引くものがあった。決して口にしたくは無いが"綺麗"だとは思う。実兄の狡噛慎也、切れ長の瞳は兄妹そっくりで

 

 

「――それに、あんなに取り乱した宜野座さんは初めて見ました。」

「………」

「宜野座さんから狡噛舞白の話は今まで何度か聞いた事はあります。でも……あんな取り乱すような事は口にしてなかったですし……」

「…そうね。」

「そうねって…。……はぁ…先が思いやられます。」

 

 

エレベーターの扉が開き、2人は同時に足を踏み出す。そしてその先の扉が開くと暗闇に染る空が現れ、強い風に一瞬体が持っていかれそうになった。

エンジン音を響轟々と鳴らす外務省の専用機。その傍には同じく出島に同行する執行官2名の姿があった。

 

 

 

 

 

 

「…先輩。無茶して面倒事増やさないでくださいね?雑賀教授はともかく、危険分子の兄妹も居るんですから―――」

 

「………」

 

 

足早に歩き進む霜月。常守は一瞬ピタリと足を止めるも遅れないようにと再び足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

「宜野座さん、須郷さん。お待たせしました。」

「遅かったな?」

「私たちはやる事も多いんです!執行官2人を連れて出島まで行くんですから、それなりの用意が必要なんですよ。」

 

宜野座の言葉にいつも通りの反応を見せる霜月。不愉快さをできるだけ表したいとでも努めている如きその表情。それを目の前に3人は"やれやれ"と言わんばかりの様子を見せた。

 

元々、霜月は東京に残る予定だったのだが"いけ好かない奴らと先輩を組ませたら何が起こるか分からない"と半ば強引に自らも出島に行くと志願したのだった。どうせ文書を手に入れるだけ、何ら問題はないだろう。

 

 

 

 

 

「監視官。ドミネーターは既に専用機に搭載済みです。」

「ありがとうございます。須郷さん。」

「ドミネーターの携帯?出島で可能なんですか?そもそも必要です?」

「フレデリカさんに許可申請を取ってもらうようにお願いしてるの。備えあれば憂いなし…でしょ?」

「………」

 

 

温和な表情で霜月の顔を覗き込む。ただでさえいけ好かない外務省の案件…言わば彼らの尻拭いともとれる今回の事件。"何もそこまでする必要ないだろう"なんて露骨な嫌そうな表情で霜月は眉をひそめていた。

 

 

 

 

「では改めて…。霜月監視官、宜野座執行官、須郷執行官。私たちは出島にてストロンスカヤ文書の入手及び今回の事件捜査の為、外務省行動課と行動を共にします―――」

 

 

4人のデバイスにブリーフィングで取り纏めた情報が浮かび上がる。今後のスケジュール、行き先の情報などが次々と表示され最終確認を行う。

 

 

「ブリーフィング通り、東京からの支援は志恩さんと六合塚さんに。それと、万が一に備えて――」

「ただ文書を取りに行くだけですよ?終わったらさっさと東京に戻るんですし、万が一なんて怒った場合アイツらに全部責任とらせればいいんですから。」

 

「「………」」

 

 

どうやら本当に彼らの事が嫌いらしい。彼女の気持ちも分からなくもないがあからさま過ぎて言葉も出てこない3人。

 

いつも以上にトゲのある発言が多い霜月を3人は心の奥底で心配していたのだった。

 

 

 

 

 

「――では、行きましょう。」

 

 

常守を先頭に外務省専用機へと向かう面々たち。

 

 

冬の夜更けの冷たい空気。それは風で更に舞い上がり、硬い粉のように瞼や頬に痛みを感じさせた。

 

 

 

 

 

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外務省の専用機に乗り込んだ一行。

2列のシートにそれぞれ腰を下ろし、離陸してから暫く、特にこれといった会話もなく機内で過ごしていた。

 

 

常守、宜野座。

狡噛、花城。

雑賀、須郷―――そして舞白と霜月。たまたまこうなってしまった席順に霜月が一番嫌そうな表情を浮かべていたのだった。

 

 

 

 

「((…せめて先輩の隣が一番按配だったのに。宜野座さんが座っちゃうし…須郷さんは雑賀教授の隣だし…まあ雑賀教授の隣も嫌だったけど―――))」

 

 

左隣の窓側席に座る舞白にチラッと視線を向ける。窓枠に肘をかけ、真っ暗闇の外に視線を落とす白銀の少女。

 

 

「((この子の隣が一番嫌だったわ。…最悪。))」

 

 

情報通りであれば彼女は自分と同い歳だ。だがどう見ても同い歳に感じない。妙に"大人びており、落ち着いている"。第一印象はそれだった。

 

細い髪質の白髪に白い肌。瞳の色は対照的で漆黒。色彩を失ったかのような闇に染った瞳の奥底。

 

「((シーアンの時よりも……何だか気味が悪いわ。まだあの時は幼さがあった。だけど今の彼女にはそれがない。))」

 

そして無意識に霜月の視線が舞白の右腕に向けられる。ジャケットの下に隠れた無機質な機械の右腕。右手には黒い革製のグローブが嵌められておりパッと見義手であるとは分からない。

 

 

「((……一体この子は―――))」

 

 

様々な考えを巡らせていたその時。舞白の漆黒の瞳が隣の霜月へと向けられる。

 

 

「―――あの。」

「なっ…何?」

 

 

別に脅されている訳でも睨まれている訳でもないのだが反射的に体がたじろいでしまう。ただたた不思議そうな視線を向ける舞白は先程から向けられる視線に疑問を抱いていたのだった。

 

 

「何かついてます?私。」

「…べつに…何も…」

 

 

ムスッと口を尖らせ上半身ごと通路側へと向ける霜月。そんな彼女の行動を特に気に留める様子なく舞白は再び窓の外へと視線を戻す。

 

 

「………」

 

 

一瞬だけ目が合ったその時。ドキっと心臓が大きく脈打った。それは単に驚きのせいか何かはハッキリと分からないが、ただただ不思議な感情の渦巻の中に心を浸していた。

 

そんな時、ふと霜月は通路を挟んで斜め前の席に座る宜野座の後ろ姿に目を向ける。角度的に若干横顔が確認できたのだがその表情はどこか納得いっていないような寂しげな印象を受ける。

 

やっぱり"こんな宜野座さんをみるのは初めて"。狡噛慎也はともかく狡噛舞白と何かがあるのは違いない。なんだか隠し事をされているようで霜月は気に入らなかったのだ。

 

 

 

 

 

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「―――容疑者の情報は?」

 

 

出島への到着時間が迫ったその時、機内の沈黙を打ち破ったのは宜野座だった。

 

今回の海外船舶の強襲、及びストロンスカヤ博士の殺害。これに関わっている大元の黒幕について問いかける。

 

 

 

 

 

「――隊長は砺波といって」

「お前に聞いてるんじゃない!」

「………」

 

後部の席に座る狡噛が説明しようと口を開いたその時、宜野座の怒号にも近い声が機内に張り詰める。その語気には顔色と共にかなり険しいものがあった。狡噛は諦めたようにため息を漏らす。

 

 

 

「((…これじゃ、私が話しても同じか…))」

 

 

次に自分が口を開けば火に油を注ぐ事になるだろう。容易に想像がつく。舞白は花城に視線を向け困ったように首を傾げる。同じく花城もその様子を察するとやれやれと露骨な表情を浮かべデバイスに手を伸ばす。

 

 

 

「…なら、私が説明するわ。」

 

 

機内全員のデバイスに転送されるデータ。それぞれがそのデータに視線を落とすと花城は簡潔に情報を述べる。

 

 

 

 

「"砺波告善"。元国防軍の兵士。上司の推薦によりピースブレイカーに転属。特に目立った人物ではなく大人しい性格だったみたいよ―――」

 

 

映し出されるID情報。そこには国防軍の軍服を纏った男の写真も添付されていた。見た目は沈毅な人格を持っているような穏やかな人相で"ごく普通の人物"。どこからどう見ても犯罪を犯すようには見えず、当時の色相や犯罪係数にも一切問題がないことが分かる。

 

 

 

「そして、唯一残っている記録は…」

 

「「!?」」

 

 

全員のデバイス画像がとある映像へと変わる。その映像を目にした刑事課の4人は酷く険しい表情へと変化していく―――

 

 

邪智暴虐、残虐非道な映像。

 

東南アジア連合、スリランカ、北インド、パプアニューギニア、北インド ……様々な土地で行われていたのは"殺戮"だった。

 

手足を縛られ1列に並ばされた人間を撃ち殺していく映像。森林や町が火の海に覆われ逃げ惑う人々。異国の人々の屍、悲鳴、銃声―――そして最後に、空爆映像らしきものが映し出されるとそれを最後に停止した。

 

 

 

 

「ッ………ぅ…」

「狂ってるな……」

「あまりにも残酷すぎます。」

「…最低……何なのこいつら…」

 

常守、宜野座、須郷、霜月。その映像を初めて目にした4人は苦し気に言葉を吐く。耐性がない一般人がこの映像を見たら色相悪化は免れないだろう。

 

 

 

「さっき話した通り、残っているのは奴らが起こした破壊活動の記録のみ。―――ちなみに、一番新しい記録だと舞白が新疆ウイグル自治区で彼らの残党と思われる組織と対峙してる。状況を調べた結果、かなり大きな組織化が進んでる事は間違いないわ。」

 

 

続いて画面が切り替わると一面真っ白な雪に覆われた怪しい建造物の画像が映し出された。画面の端には"新疆ウイグル自治区"と表示されており、次々と画像が切り替わっていく。

 

手足をもぎ取られた死体や血に濡れた監獄の内部。映像でも無ければ音声がある訳でもない。だがその画像を見るだけでその時の状況が全て体に流れ込んでくるような感覚に陥る。

 

 

「ッ……」

 

 

霜月は思わずデバイスから視線を外すと気分を害したのか深く息を漏らす。力なく頭部を下に向け何度も何度も呼吸を繰り返した。

 

 

「大丈夫ですか?」

「……ええ……大丈夫。」

 

 

舞白は霜月の背中に手を伸ばし優しく摩り始める。彼女の意外な行動に若干戸惑いつつも霜月は抵抗することはなかった。どうやら冷徹な人間では無いみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…舞白さんが遭遇した新疆ウイグル自治区の組織。そこから何か掴めた情報はあるのですか?」

 

「それが、残念ながら直接的に砺波に関わるものは見つからず。しかもその組織のリーダーは日本人ではなく外国人。外務省の人間でも何でもありませんでした。砺波という人間を神格化した、云わば宗教みたいな派生組織だったんです。」

 

 

常守の問いかけに舞白が答える。

その答えを聞く限り、事は単純なただの武装組織が単独で行動を起こしている訳では無さそうだった。外務省の組織ピースブレイカーはただ破壊活動を行っている訳ではなく新たにその火種を生み出しているのだと。

 

 

 

「その派生組織というものはまだ点在しているのでしょうか?」

「殆ど壊滅させました。残るは砺波が率いるピースブレイカーの中心組織のみです。あくまでも推測ですが。」

「…なるほど。」

 

須郷は険しい表情でデバイスの情報を読み込みながら舞白の答えに小さく頷く。

 

 

 

 

 

"砺波告善"

特に目立たず、平凡だった男に何があったのか。

人物像すら想像がつかないその男は何故殺戮を繰り返しているのか―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この男のプロファイリング、俺に任せてくれ。…博士の仇討ちだ。」

 

 

雑賀は神妙な面持ちでタブレット端末を片手に砺波のプロファイリングを始めるのだった。顎に指を添え、集中して砺波の顔写真をじっと見据える。

 

ただでさえ数少ない砺波に関する情報や資料。だが雑賀は統計データや心理学的手法等を用いて分析をするスペシャリストだ。犯行の連続性の推定や次回の犯行の予測――― 雑賀に一任するのは間違いないだろう。

 

 

 

 

そして再び流れる沈黙。

暫くすると航空機は高度を下げ始めると外の景観が変わっていく。暗闇に浮かぶ光を放つ人工島。雨が降っているのか降下する程に窓に水滴が転がっていく。

 

 

 

常守と宜野座はそんな外の景色を見下ろすと互いに言葉を零す。

 

 

 

「――ここが"出島"。外務省の特別管理特区。」

「ほとんどが入国審査前の移民の居住区。…公安局との相性は最悪だ。」

 

 

 

長崎県"出島"。江戸時代に西洋の窓口として築かれた人工島。約200年にわたる鎖国時代で唯一西洋諸国に門戸を開き、貿易の玄関口としての役目を果たしてきた歴史を持つ。

 

宜野座の言う通り今では外務省の管理下に置かれた移民の居住区だ。数年前、狡噛と縢を連れて事件捜査の為に訪れたこともあるがドミネーターなどの公安局で扱っている機器は許可が無ければ安易に使うことができず正にアウェイな場所だった。治安も良いとは言えない。

 

 

「まさか、本当に出島に来ることになるなんて。」

「不安ですか?」

「なっ……別にそういう訳じゃないわよ。」

 

霜月の呟きに反応する舞白。独り言のつもりだったのだがついつい口に出てしまったらしい。窓の外に向けていた視線がバッチリと隣に座る舞白に重なる。

 

そしてふと、霜月は疑問に思ったことを彼女に問いかけた。

 

 

「…ねぇ。移民の人達が暴動を起こしたりした時ってどうやって対処してるの?」

「基本的に鎮圧は昔の"警察"と同じですよ。私たちはドミネーターは支給されてないですし。」

「てことは…本物の銃とか?」

「はい。まあ基本的に銃なんて使いたくないですけど、身一つでねじ伏せるのが普通です。」

「治安は?」

「場所にもよりますけど危険な地区もあります。相手は紛争経験のある人達ばかりですからね。」

「………」

「心配しなくても滞在は基本的に出島の中心部ですし、宿舎も外務省管轄の安全な場所です。」

 

 

"ご心配なさらず"と最後に付け足すと舞白は口角に微笑を浮かばせた。一見、笑わなさそうな冷徹な人物かと思っていたが向けられた優しい笑顔に霜月は目を丸くし驚きを見せる。

 

 

 

 

 

 

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濡れるほどでは無い霧のような小雨。航空機から降り立った刑事課の4人はひんやりとした空気に白い息を吐き、見慣れない景観を見渡す。

 

ライトアップされた外務省庁舎。それは雨に濡れて妖しく光りを放ち、神秘的な印象さえ感じる。

 

 

 

刑事課の4人の先を歩く兄妹。

狡噛に関しては降りて早々にタバコに手を伸ばし、癖のある煙の匂いを漂わせた。

 

 

「……お兄ちゃん。少しは我慢すればいいのに。」

「別に誰も咎めないだろ。」

「……」

 

呆れたような視線を狡噛に向ける舞白。

そしてその2人の後ろ姿をどこか腑に落ちない様な、納得いかないと言わんばかりの鋭い視線を向ける宜野座。霜月は敏感にその空気を察していた。

 

 

 

 

 

 

「ここでの行動は制限されますが、既にドミネーターの使用許可は申請済みです。」

「助かります。フレデリカさん。」

「他になにかあればいつでも連絡してください。…今日はもう遅いですし、このまま宿舎にご案内します。頼めるわね?2人とも。」

 

 

「はい。」

「……あぁ。」

 

 

舞白はくるっと背後へと振り向くと小さく笑みを浮かべる。その反面、狡噛は振り向くことなく返事だけをするとタバコの煙を吐き出した。

 

 

 

「………」

 

 

一瞬交わる宜野座との視線。

舞白は特に言葉を発することなく前方へと向き直った。

 

 

 

妙に雨音が耳を掠め、心情が荒らされていくような気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

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