PSYCHO-PASS _Orakel und Gesetz   作:鈴夢

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魂に言葉を刻め

 

 

 

 

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「――何だ、あの戦闘機は。」

「自分も見たことの無い形状です。国防軍でもあのような……」

 

 

天井が派手に割られた建造物。それを見上げる宜野座と須郷。まだ敵らしき影は確認できないが間違いなくこれから戦闘が始まるだろう。そうでなければ、ミサイルを使ってこのビルを破壊するわけが無い。あの航空機に乗っている奴らは間違いなく敵だ――

 

 

2人は即座にドミネーターを手に取り警戒態勢に。すると刹那、先程常守達が入っていった保管庫への扉が開くと銃を構えた狡噛兄妹を先頭に6人が再び姿を現す。続いて花城と雑賀、そしてドミネーターを手にした常守と霜月も現れると宜野座と須郷は無事を確認出来たことに安堵した。

 

 

「よかった。全員無事ですね。」

「はい。」

 

「ところで文書はどうした?手に入れたのか?」

「それがまさかのダミーだったわ。ここには無し。まんまとやられたってわけ……」

 

 

轟音が鳴り響く中、刑事課の4人は情報を手短に共有し合う。早く逃げなければ全員の命に関わる事態だ。狡噛と舞白は辺りを警戒しつつ、そんな4人を傍らで見据えていた。

 

 

 

「……直ぐに雑賀先生をここから避難させます。敵の狙いは間違いなく先生です。」

「ったく……"アイツら"、信用して大丈夫なんですか?先輩。」

「こうなった以上、フレデリカさん達に従うしか無い。この状況を打破できるのは――」

 

 

常守の視線が狡噛兄妹へと向く。

つられるように3人も同じ方向へ視線を向けるのだった。

 

兄妹の目が狼のように鋭く自分達を見つめている。その目の中の恐ろしい力――

 

昔から変わらないその姿に、宜野座は一際瞳に角を立てる。そして逸らすように視線を外せば再び監視官の2人へと視線を落とした。

 

 

 

「状況は理解出来た。俺たちは敵に対処する。」

「自分たちが少しでも時間を稼ぎます。」

「分かったわ。無理はしないで。」

「ああ。」

 

 

それを最後に踵を返す監視官の2人。再び花城たちの元へ合流し、待避ルートへと向かう一行。

 

 

そんな中、舞白は銃を手にしたままふと背後の宜野座と須郷に再び視線を向ける。

 

 

「………」

 

 

舞白の瞳。鋭さの中に、深く隠された感情が垣間見える気がした。ハッキリとした感情は分からない。だが何かを感じる。

 

今生の別れではない。……だが――

 

 

 

「――宜野座さん。」

「………くっ……」

「行きましょう。」

「ああ。悪い…須郷。」

 

 

宜野座は舞白から視線を外し、須郷と共に逆方向へと姿を消す。そして舞白も同じく踵を返す。

 

 

 

 

 

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「おい!お前!何して――」

 

 

鳴り響く銃声。

それは自身の頭を貫き、男はその場に倒れ込んだ。

 

 

「ヒッ!ヒィィィィ!!やめろおおおお!!」

 

 

またひとつ。今度は隣の仲間が自分を撃ち殺した。

 

 

「うぁぁぁぁぁあぁああ!!!」

「何する!?銃を下げ――」

「やめてくれ!!!」

「誰か!止めろ!こいつを――!!」

 

 

止まらない銃声と悲鳴。

互いを撃ち合う仲間たち、自身の頭を撃ち抜く者たち。

 

あっという間に数十人の隊員たちは血に塗れ、命を落とす――

 

 

 

「……く……ふ……

……ふははははははははは!!!!」

 

 

 

最後に残った隊員は不気味に笑いを浮かべ、自身の顬に銃口を突き付ける。

 

 

 

 

「……さぁ……"その魂に、言葉を刻め"――」

 

 

ギョロっと開く瞳孔。男はまるで憑依されたかのように人相を変え、そのまま人差し指に力を込めた――

 

 

 

 

 

 

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待避ルートを順調に進む常守達。

敵らしき影も見当たらず、このままいけば無事にこのビルから抜け出す事が出来るはずだ。

 

しかし……脱出手前で無数に倒れる死体を目にする事に。しかも全員が行動課のジャケットを着用した隊員だったのだ。

 

 

 

 

 

 

「――ッ!この人達は行動課の……」

 

 

死体が身につけていた"SAD"と記された帽子。それは不気味な程に殆ど全員が赤く染っており、まるで"自害"したかのようにも見える。

 

「皆死んでるじゃない!殺されたってこと?」

「そんなはずは無いわ。まだこの場所に奴らの痕跡は……」

 

霜月は足元に転がる屍に恐怖の表情を浮かべていた。ここがこんな状態なら敵が近くに居るとも考えられる。しかし花城はそれを否定した。

 

 

「…"仲間殺し"にも見えるな。…この男は自害。こいつもそうだろう。」

「…………」

 

雑賀と常守も足元の屍に視線を落とす中、不可解な死に方に気づくと"これは仲間殺し"だと断定した。理由は分からない。可能性があるとすれば行動課の隊員の中に裏切り者でもいたのか?

 

 

 

「……舞白。気をつけろ。」

「うん。」

 

 

 

ルートの先頭を歩く舞白と狡噛。2人は銃を握り締め、周辺の警戒を怠ることなく突き進む。倒れる複数の屍に動揺すら見せる事もなく、ただただ敵の襲撃に備えていた。

 

 

 

するとその時、狡噛兄妹の視線が一点に注がれる。

 

 

 

「「―――ッ!?」」

 

 

 

1人の死体の体に取り付けられていた黒い物体――それは起爆装置。チカチカと怪しく赤いランプを点滅させると2人は勢いよく踵を返し、背後の4人に声を上げた。

 

 

「離れろ!」

「逃げて!」

 

 

機敏に反応した花城は直ぐに雑賀を支えるように離れる。しかし常守と霜月は呆気に取られその場に立ち尽くすのみ。そんな2人を狡噛兄妹は衝撃から守るように"それぞれ"に覆いかぶさる。狡噛は常守を、舞白は霜月へ。

 

あまりのスピード感についていけない監視官の2人はそんな兄妹に守られる他なかった――

 

 

 

「「――――ッ!!!」」

 

 

 

そしてその瞬間、起爆装置は重々しい響きとともに大爆発を起こす。熱風と黒い煙が辺りを歪ませ、爆風によって硝子窓も大きく割れてしまっていた。パラパラと星屑のように舞い落ちる硝子の破片。割れた窓から入り込む暴風。事態は明らかに悪い方向へと向かっていた。

 

 

 

 

 

「――大丈夫?」

「ぅ……うん。助かったわ……ありがと……」

 

 

霜月の頭部に手を添え、ゆっくりと身を離す舞白。どうやらお互いに怪我を負っている様子はない。あと少し遅れていたら……想像するだけでも恐ろしい。

 

少し離れた場所では、常守を守るように覆いかぶさる狡噛の姿も確認できた。2人もとくに問題なさそうだ。

 

 

 

「おい!無事か!?」

「怪我は無い!?」

 

 

辺りに砂煙が漂う霞んだ空気の中、花城と雑賀が姿を現す。それぞれが狡噛と舞白に手を伸ばし、4人はゆっくりとその場から起き上がった。

 

 

「ああ、問題ない。」

「課長と先生もご無事で良かった……」

 

ホッと安堵の笑みを浮かべる舞白。しかしそれもつかの間、爆発によって閉ざされた待避ルートを見据え、より一層悪化した状況に眉を顰ませた。そして同じく狡噛も閉ざされたルートを目にする。

 

 

「ここに来る事は既に読まれていた。となると、待避ルートはもう使えない。」

「じゃあどうするってのよ!?このままじゃ……」

「別ルートで行くしかない。道はひとつしかないが……そうだな?花城。」

「ええ。」

 

 

狡噛の言葉にハッキリと頷く花城。

そして常守達に向けて口を開いた。

 

 

「"事態が収まるまで"先生、常守監視官、霜月監視官をお守りします。」

「…それは、ここから退避するという事は諦めるということですか?」 

「はい。常守監視官の言う通りです。……残念ですがエレベーターは止まってます。ビル中央に連なるエスカレーターを使って1階まで降りるのは危険すぎる。となれば、敵の襲撃に持ち堪えるしかありません。」

 

 

常守は冷静に花城の言葉に耳を傾ける。

 

 

「幸いにも隊員を既に各所に配置しています。矢吹局長の指揮もあればここが陥落することはまず有り得ない――」

 

 

秘密裏に動いていた計画。それはピースブレイカーを迎え撃つことでもあった。となればこちらとしても十分な準備をしている。だから問題ないと、花城は口にしたのだった。

 

しかし狡噛兄妹は2人揃って険しい表情を浮かべていた。そしてその時、舞白が1歩足を踏み出すと花城に向けてある盲点を衝く。

 

 

「……ですが課長。既に仲間が数十人規模で死んでます。しかも原因不明。ここから先何があるか分かりませんよ。」

 

 

原因不明の大量死。

自害とも、他殺とも、仲間殺しとも見て取れる状況。万全とは言い難い作戦に反論したのだった。

 

 

「リスクを負ってでも、何とかしてでも3人を早くこの場所から離脱させるべきです。……長期戦になった場合、残って闘っている執行官も下手をすれば死にます。」

 

 

間違いなく正論だった。

自体が悪化する前に、せめても逃がすことが出来る人員は逃がすべきだと。それは巻き込まれた雑賀、そして身を守ると約束した公安局刑事課の刑事達。彼らは必ず生きて返さなければならない。

 

 

上司に対しても引く気を見せない舞白の強い意志。霜月はそれを横目におどろいた表情を見せた。

 

 

「((……この子――))」

 

 

年相応とは思えない言動。本気の彼女の顔に霜月は胸打たれるものを感じたのだった。

 

 

 

 

「とにかく!早くしないと手遅――――」

 

 

 

舞白の声が轟いたその時。再び大きな爆撃音が6人の鼓膜を叩く。地響きと大きな揺れ。どうやら既に手遅れかもしれない。

 

 

 

「――っ……分かったわ。急ぎましょう!!」

 

 

花城はデバイスで再びルートを再変更し、誘導することに。その道は険しく危険なものに違いない。

 

だが、ここで立ち止まる訳にはいかなかった。

 

 

 

再び走り出す6人。

舞白は再び後方に回り、最後尾から襲撃に備えていた。

 

 

 

 

「……こんな時に悪いけど。"狡噛舞白"」

「?」

 

 

すると前を走っていた霜月が舞白の歩調に合わせ、隣を走る。

 

 

「あなた、結構ハッキリ言えるのね。見直した。」

 

 

宜野座とのやり取りを見ている限り、ハッキリものを言わない"鬱陶しい子"だなんて思っていた。だが先程の冷静な分析と発言から彼女を見た時、霜月は彼女に対する見方が180°変化したのだった。

 

 

「ありがとうございます。"霜月美佳"さん。」

 

 

ほんの一瞬、彼女の頬が優しく緩む。ニッと口角が持ち上がったその顔は"年相応の少女"だった。

 

視線は合わないが、そんな優しい声色と横顔に霜月はどこか安堵したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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天井から無数のラペリングロープが垂れ下がる。そしてそれを伝い、懸垂下降する敵の姿――あれは間違いなくピースブレイカーだ。硬そうな鉄の鎧、顔も全て覆われており中の人間の素顔は確認できない。

 

それに中の人間の情報さえも――

 

 

 

 

『―――犯罪係数 アンダー20 執行対象ではありません―――』

 

 

宜野座と須郷は物陰に隠れドミネーターの銃口を向けるも意味をなさなかった。ドミネーターで奴らを裁くことはできない。有り得ない状況に2人は青い瞳を光らせ、苦しげに表情を歪める。

 

 

「なんだと!?」

「自分のドミネーターも同じく使えません!」

「奴らのサイコパスがアンダー値だとは思えん。…一体何なんだ…」

 

 

ドミネーターは鉄クズと化す。2人は腰のホルダーケースにそれを収納すると屈んだ体勢のままゆっくりと前進する。既に始まっている戦闘、多方面から銃撃音が響き渡る。

 

 

「須郷!来るぞ!」

「はい!!」

 

 

そして自分たちにも向けられる銃口。2人は覚悟を決め敵の懐に飛び込んだ。

 

 

 

 

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「……始まったわね…」

 

 

物陰に身を隠す花城は銃を片手に呟く。その背後には雑賀、そして常守と霜月。先程まで静まり返っていたビルの内部があっという間に銃声と悲鳴が鳴り響く戦地へと様変わりした。

 

 

「2人は道を作って!幸いにもこの階にはまだ奴らは辿り着かないはずよ!」

「了解!」

 

花城の指示の元、狡噛兄妹は先陣を切って走り出す。長く続くエスカレーターを登る狡噛、その背後では舞白が援護に回っていた。

 

 

そして雑賀と共に身を隠す監視官の2人。常守は直ぐに上層階に残っている執行官2人へと通信を繋いだ。

 

 

「2人とも!状況は!?」

 

 

『ドミネーターは使えず、敵は重武装で襲撃中!』

『くっ!奴らはかなり戦闘慣れしてる!気をつけろ!』

 

 

宜野座の言葉を最後に途切れる通信。デバイスから漏れていた環境音は物々しいものだった。銃声が飛び交うリアルな音。宜野座と須郷の余裕のない呼吸。

 

常守と霜月は視線を合わせ、緊迫した状況に表情を更に曇らせた。

 

 

 

「ドミネーターが使えないって……ヤバいんじゃ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

霜月の眉間に胸騒ぎめいた黒い影が漂う。

そして同時に、物陰に潜んでいた4人の鼓膜に何かが弾ける軽い音が飛び込む。花城が3人を背に腕を広げたその瞬間――

 

 

真っ白な煙にあっという間に覆われてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……美佳ちゃん!?」

「先輩!」

「((まずい!発煙弾……一体どこから))」

「くっ……」

 

 

 

既に奴らの掌中にあった。文書のキーマンである雑賀をここで強襲するに違いない。

 

その事態に気づいた狡噛兄妹。2人は急いでエスカレーターを駆け降りるも敵の攻撃に見舞われてしまう。

 

 

「――っ!」

 

 

上層階からこちらを目掛けて発砲する"金髪の男"。顔の半分が火傷のような痕に覆われた"あの男"だった。

 

舞白と狡噛はハッキリと見覚えがあったのだ。先日のグローツラング号で見た、一際異彩を放つ人物――

 

 

 

「チッ!……クソっ!!」

「ぐっ……」

 

 

耳を塞ぎたくなるほどの銃声。

そんな中、狡噛は後方の舞白に直ぐに視線を落とすと必死に名を叫んだ。

 

 

 

「っ…舞白!!!」

「分かってる!!こっちは任せて!!」

 

 

転がるようにエスカレーターを降りる舞白。獰猛な獣のように、全身全霊でその身を奮い立たせる。エスカレーターを転がり落ちていく時点で体は酷く痛むはずだ。しかしそれを感じる間もなく、身体中のアドレナリンが湧き出ていたのだった。

 

 

 

「((絶対……誰も死なせない――!))」

 

 

煙に覆われた空間に飛び込む舞白。

4人の位置は大体しか把握出来ず、無我夢中でその場を駆け抜ける。

 

 

するとその時、聞きなれない男の雄叫びが鼓膜を叩いた。

 

 

 

「ウォオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

まるで獣の遠吠えのような叫びだった。低くドスのある男の声の位置は意外と近い。必死に声の方向へと踏み出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――先生!逃げて!!」

 

 

 

何者かに襲われている花城。必死に応戦するも相手の体格差と力の差にねじ伏せられてしまう。繰り出される一つ一つの攻撃が容赦なく花城の体に打ち付けられていく。

 

 

「先ずは貴様だ!」

「――うっ……」

 

 

喉元に突き付けられたナイフ。花城の細い白い首に刃が張り付いた次の瞬間――

 

 

 

 

「――狙いはこっちだろう!?」

 

 

雑賀の蹴りが見事に男へと落ちる。怯んだ相手はそのまま花城を突き飛ばし、そのまま雑賀へと襲いかかった。

 

 

 

「っ!先生!!」

 

 

そして常守の声が轟く。霜月は恐れを生し、ただただ彼女の背後で動くことが出来なかった。

 

 

 

 

「……っく……((遅かった――))」

 

 

舞白は常守と霜月を背に気配のする方へと歩みを進める。両手でしっかりと銃を前方に構え、人差し指はトリガーに添えられていた。

 

 

 

 

暫くすると白煙が風に吹かれ徐々に薄れていく。気づけば雑賀は謎の赤髪の男に背後を取られ、首には刃が突き付けられていたのだった。

 

そしてその2人の背後――足場は所々破壊され、存在していたはずの手摺や塀も同じく姿は無い。少しでもバランスを崩せば地面に真っ逆さまだろう。吹き抜け部分の遥か真下にはホログラムの噴水。見下ろすだけでグラッと気を失ってしまう者が居てもおかしくない高さだった。

 

 

 

「"文書"を寄越せ。」

「…何の事だ?」

「恍けるな!」

 

 

狙いは文書。間違いない。この赤髪の男はピースブレイカーの1人だろう。

 

それもその辺の雑魚とは違う。明らかに感じる圧倒的強さ。身長も2m近くあり、体格から考えても簡単に手を出すことはできない――

 

そんな相手を目の前に、常守は舞白の横に並ぶとドミネーターを構え、赤髪の男に向け言葉を発した。

 

 

 

「その人を離しなさい!」

 

 

怯むことなく立ち向かう。"やはりこの人は強い"……なんて舞白は脳内で呟くと、自分自身も銃を握りしめる手を強めた。

 

「…………」

 

その後、遅れて狡噛もたどり着くと同じく銃口を男に向ける。何も発することなく、ただただ静かに男を見据えていた。

 

 

向けられた3つの銃口、そして眼光。しかし相手の男は怯むことなく、寧ろ余裕を満面に見せていた。容赦なく雑賀の喉元にあてがわれた鋭い刃は更に力が込められる。

 

 

 

 

「ハハッ……少しでも動けばこの男を殺――」

 

 

「――ッ!」

 

 

 

刹那、狡噛は先手を打つかのように行動に出る。放った銃弾が男の頭に見事に命中。そして怯んだ瞬間を逃すことなく舞白は即座に銃を投げ捨て、男に向かって一気に駆け抜けた。雑賀の身体を義手の右手で引き剥がし、勝ち誇った笑みを浮かべると舞白は男に体ごと掴みかかる――

 

 

 

「はぁああああああ!!!!」

 

 

 

凄まじい大声を上げたと思えば背後に回りこみ、羽交い締めにしたその瞬間――首の骨が折れる独特な嫌な野太い音が辺りに響き渡った。

 

 

赤髪の男は呆気なくその場に倒れると既に息絶え、瞳からは光が失われていた。真っ黒に染る瞳孔を横目に、去った脅威に安堵したのか舞白はその傍らで力なく座り込んだのだった。だらりと首を倒し、力の抜けた声を漏らす。

 

 

 

 

 

 

「はぁーー……危なかった……」

 

「ったく…相変わらず"お前達"は無茶しやがって…」

「最善策をとった迄です。」

「本当本当…」

 

 

明らかに無茶で軽率な行動をとった兄妹。やれやれと言わんばかりにため息を漏らす雑賀は舞白の側へと向かうと半ば呆れたような笑みを零した。

 

「…………」

 

そして常守と霜月も一瞬の出来事に呆気に取られるも狡噛兄妹の行動に対し微細ながらも心強さを感じていた。禾生局長の言う通り"獰猛な獣"に違いは無いが、彼らがいることによって雑賀の命は救われた。

 

何年経っても"この兄妹は変わらない――"

 

 

「先輩!怪我は!?」

「大丈夫。美佳ちゃんは?」

「私も大丈夫です。……にしても、早く宜野座さん達とも合流しないと……」

 

 

一旦過ぎ去った危機的状況。未だに辺りからは戦闘音が響いていたがどうやらまだ時間はありそうだった。このままいけば無事ここから脱出も可能だろう。そして同時に、執行官の2人とも合流しなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

「――うん、完全に死んでる。…事態が収まったら回収させないと。」

「しかしこのスーツ……狡噛が撃った弾は頭以外貫通してないな。かなり強力だぞ、この素材。」

「だと思って真っ先に首を折りました。お兄ちゃんの射撃能力があったからこそ、私も踏み切れました――」

 

 

赤髪の怪しい男。開ききった瞳孔、停止した心機能。しかしこの死体は調べる価値はありそうだ。それに着用していた特殊なスーツも。奴らの情報を少しでも掴むための情報源だった。

 

 

 

「――助かったわ。狡噛、舞白。」

「課長!怪我を…」

「大丈夫よ、これくらい大した事ないわ。……寧ろ、奇襲に充てられて何も出来なかったのは私よ――」

 

 

舞白は花城に駆け寄ろうとするもそれを制止する花城。僅かに怪我を負っていた彼女は何も出来ず不甲斐ないと頭を下げた。しかし花城の守りがなければ既に雑賀も含め、常守や霜月も命を落としていたに違いない。

 

 

 

「……ていうか本当に無茶しすぎ…。もし弾が外れてアナタの攻撃も交わされたらどうなってたか。」

 

 

舞白から数m離れていた霜月がわざとらしく声を上げる。素直に助けられたことを口にすることもなければ彼女らしい台詞だった。

 

対し、舞白は雑賀と死体の傍らで呑気に笑みを零のみ。

 

 

「そんなヘマはしませんよ?私達兄妹は最強なの…………

 

 

 

 

 

…………で――」

 

 

 

余裕そうな笑みを浮かべていた顔が瞬時に歪む。そして刹那、舞白はその場から立ち上がるとふらふらと覚束無い様子で左首を強く押さえつけた。首から脳天にかけて酷い鈍痛――視界は白く靄がかかっていき、真っ直ぐ立つことさえままならない。

 

 

 

「んっ……ぐ……」

「どうした?舞白?」

「せん、せ……」

 

 

心配そうに舞白の背中に触れる雑賀。気づけば彼女の額からは汗が流れ、瞳はガクガクと揺れているようにも見えた。

 

 

 

 

「舞白さん?」

「…何?どうしたの……?」

 

 

異変に気づく常守と霜月。まるで人が変わったかのように震える舞白に駆け寄ろうとするも、それを近くにいた狡噛が制止した。

 

 

 

 

 

 

「せん……"離れて"…」

「舞白、どうした?首の傷が痛むのか?」

「っ……ぁ……はぁ……」

 

「狡噛!直ぐに舞白を診てやってくれ。様子がおかし――」

 

 

その時、舞白の右腕がジャケットの中に差し込まれると何かを取り出す。その動きに気づいた狡噛は目の色を変え、雑賀に向けて大声を上げた。

 

 

 

「先生!舞白から離れろ!」

「何!?」

 

 

しかし時既に遅し。

舞白の無機質な右腕が容赦なく振りかざされると雑賀の胸を容赦なく刺したのだった。

 

 

 

「――ぐぁああっ!!」

 

「「――ッ!?」」

 

 

その行動に呆気に取られる一同。

雑賀はそのまま吹き抜けの空間に体を投げ出されるも、なんとか左手で崩れた瓦礫に掴みかかる。

 

手を離せば、間違いなく死――

 

 

 

 

 

続いて舞白はそのまま雑賀に襲いかかろうとするも、狡噛の攻撃によって制止されたのだった。

 

掴みかかる狡噛の両手。舞白はそれを見上げ、不気味に笑みを浮かべていたのだった。

 

 

「ッ……舞白?舞白!?」

「クッ……くく……ッ……」

「((何が起こってる!?))」

 

 

"まるで何かに取り憑かれている"

それほどに有り得ない様子を漂わせていた。

 

 

「"…まだ……まだ終わっていない"。」

「!?」

 

 

舞白の口から放たれた言葉。

それは間違いなく舞白の声なのだが"舞白ではない。"

 

別人の――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと…一体何なの!?」

「まずいわ!直ぐに先生を…………ッ!?」

 

 

霜月と花城が動き出そうとしたその時、今度は背後から銃撃に襲われてしまう。現れたのはピースブレイカー数人、そして金髪の男――2人は物陰から身動きをとる事ができない。

 

 

 

 

「――先生!!」

 

そんな中、常守は必死に駆け抜け雑賀の手を掴む。しかし成人男性を引き上げる程の力は常守にある筈が無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!狡噛舞白!!目を覚ませ!」

「…………」

 

 

 

兄を見上げる虚ろな瞳。

そしてその妹の手が容赦なく兄に襲いかかったのだった――

 

 

 

 

 

 

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