SEに人格生やしてみた   作:ショートバウムクッキー

1 / 2
初めまして

 

 やあ、わたしは宿主の寄生虫だ。よろしく。

 今日の宿主はどうやら忙しそうだ。学校に来てから落ち着きがない。まあ、落ち着きがあった時はあるのかと言われたら閉口せざるを得ないけどね。

 そして、今は学校が終わって放課後。みな各々帰っていく中で、宿主は自分のスマホをじっと見ている。ちなみに画面には何も映ってない。面白いね。

 

「むむむ……」

「どうしたの雲崎さん。今日ずっと調子が悪そうだけど」

「あ、委員長。実は、今日なんだよ」

「……?なにが?」

「ボーダーの入隊試験の結果発表!」

「……あー、そういえばそうだった気がする。朝からうちの男子たちが受からなかったって騒いでたし。って、もう発表されてるでしょ?まだ見てないの?」

「…………怖い(震え声)」

「怖いって……」

 

 そう、今日は宿主にとって重要なボーダー試験の結果発表。それを見るのが怖くて今日ずっとおとなしかったんだよね。

 宿主は超心配してるけど、ぶっちゃけほぼ受かってる。

 ボーダーに仮入隊っていう制度があって、それに宿主行ってるんだよね。しかもその時ちっちゃいトリオン兵と戦ったりしてたけど、他の子たちよりも断然早かったからまず落とされない。というか、仮入隊できた子にとってこの入隊試験って一応するだけの形式上試験だから、心配する必要ないんだよね。

 まあ、宿主らしいと言えばらしいんだけど。遅くても今日中には見るでしょ。さすがに。

 

 ああ、しびれを切らした委員長ちゃんが宿主の受験番号聞いて勝手に見出した。

 宿主抵抗してるけど、うん。自分でもいつか見ないといけないってわかってるんだろうね、偉いね。しっかり緩い抵抗になってる。

 緩い抵抗といっても現役柔道有段者による緩い抵抗だから委員長ちゃんにとっては相当負荷がかかっているんだけどね。かわいそ。

 

「放しなさい!今見ないとあなた一生見ないじゃないのよ!」

「やめて、まだ心の準備ができてないの!お願いだから!」

「絶対いつまでたっても心の準備なんでできないでしょ」

「うっ…………」

 

 あ、敗北した。悲報、宿主賊軍になる。

 まあ仕方ないよね。今日は特に静かだったけど、ここ1週間ずっとそわそわしてたんだから。さっさとボーダー入ってって感じ。

 いや、このまま見ずにいてボーダーに入らないほうがいいのか?うーん。

 宿主の気持ち的にはめちゃめちゃ入りたいって言ってたし、柔道だってほぼそのためにやってたって言っても嘘にならないくらい頑張ってたし、勉強は全くしてなかったけど。

 うーん、考えても無駄だね。無駄って嫌いなんだよね、無駄だから。

 

「ほら、見て」

「う゛……はっ!受かってる!?受かってる!!!!!」

「やっぱり、そう思ってたよ」

「うわーーい!やったーーー!!ほーーーーい!!」

「教室で走り回らないの!」

「いえーーーい!委員長、ありがとう!えへへ」

「……はぁ、おめでとう雲崎さん。これから頑張ってね」

「うん!!」

 

 かわいい。

 可愛くない?うちの子。ハチャメチャに可愛い。委員長もかわいくないわけじゃないけどやはりうちの宿主には一歩、いや50歩くらい劣るな。50歩は100歩って古事記にも書いてあったから、実質100歩劣ってる。

 うーん、完璧なロジック。我ながらほれぼれする。

 おっと、そうこうしてるうちに宿主が帰宅するらしい。今日はwith委員長とな。頑張れ委員長、過去一テンションが高い宿主を制御するんだ。

 無理そう。

 かばん振り回しながら帰ってる。可愛い。これが行きじゃなくてよかった。弁当箱が壊滅するところだったよ。食べるの宿主だから関係ないんだけど。

 

 頑張れ宿主、真に厳しい戦いはこれからだぞ!

 

 

 

 

 入隊してしばらくたったけど、宿主は順調にレートを上げていってる。

 宿主は自分で考えることのできない馬鹿だけど、人に聞くことができないあほではないから、おすすめの武器を仮入隊の時に嵐山隊の人に聞いてたんだよね。

 その時にお勧めされたのがスコーピオン。鋭そうな名前。ピが特に鋭利。

 このスコーピオン、軽くて攻撃力が高いという性質のほかに、体からはやせるっていう特性もあるんだよね。

 んで、それが宿主とベストマッチ!ということで、仮入隊から、入隊して現在に至るまでスコーピオンを使ってるわけだけど。

 

「うう、勝てない……」

 

 そう、絶不調だった。

 いやすごい、びっくりするくらい連敗してる。もはや芸術だったね、9連敗は。

 だから最初に言った「順調にレートを上げていってる」って言うのは嘘。欠片も上がってない。

 騙された?引っかかった?

 というのも、銃が使えない法治国家日本に住んでる若人はみな銃を使いたがるんだよ。だから銃手とか射手が多いんだよね。

 それと宿主の戦闘スタイルが見事にあってない。

 

「―――――――……」

 

 宿主があしたのジョーみたいになってる間に、宿主の戦闘スタイルを言うと、超近接戦闘スタイルなんだよ。

 スコピを使ってる時点で、忍者にでもならない限り近接戦闘スタイルには変わりないんだけど、宿主の場合、さらに近い距離で戦うんだ。

 具体的には密着するくらい。

 なんでかというと、宿主柔道の有段者だから、それを生かしていこうっていう話になったんだよ、嵐山隊の人と。

 んで、体から刃を生やせるスコーピオン使ったら楽に勝てるんじゃね?ってなって、実際トリオン兵には有効だったんだ。

 人間相手にする柔道の技術は使えないけど、単純に体さばきがうまいからそれでごり押して行けたんだよ。

 ただ対人戦となって、しかも弾を連射してくるとなると話は変わってきてだな、助手君。

 近づいたら100%勝てるけど、100%近づけないから勝てないという現象が発生したんだ。

 

「―――――――……」

 

 もちろん攻撃手相手との戦績は悪くない、むしろ最高といってもいいだろう。この前なんか格上の3000台の弧月の人にギリ勝ってた。

 そんなこんなで攻撃手に勝って、銃手射手に負けるループをしていると徐々にレートが下がっていくわけだ。

 宿主は頑張った。攻撃手相手が得意ならば攻撃手だけを相手すればもうとっくに3000ポイントに到達していただろう。何ならもう一週間あれば正隊員になれただろう。

 

「あーーーーーー……」

 

 だが、宿主はそれをしなかった。

 苦手なものを克服することから逃げなかった。

 正隊員になって戦う相手なんてあのロボット兵のネイバーだけだから銃手に勝てなくても関係ないとか、そもそもなんで人同士で戦う必要があるのかとか考えても宿主は決してあきらめなかった。

 不屈の精神でこの一週間取り組んできたのだ。

 普段の生活で相対することがないであろう銃火器を持った人間に立ち向かう術を、そいつらをたたき切る術を、襲い来る銃弾におびえながら、弾き飛ばされながら考えていたのだ。

 

「ああ……あ……」

 

 だが、ただの学生、しかも女子学生にはその覚悟は重すぎた。例え武道で有段者になったとしても、本物と大差ない銃火器に立ち向かうことは着実にダメージを与えていたのだ。

 そうだ、宿主は何も間違っていない。これから先どんな決断をしようと、この決断を笑う物はいないだろう。

 少なくともこの私は寄生虫として宿主を肯定しよう。ああ、肯定しようじゃないか。

 だから、宿主よ。

 

「……諦めるか」

 

 game over.だ。

 草。

 

「おいお前。まさか弾トリガーを相手取るのを諦めるわけじゃないだろうな」

 

 おっと、ナレーションに夢中で近づいてきてる子に気づかなかった。

 ふん、中学生くらいの背で、鋭い目つきの高圧的なショタだな。

 だがこの寄生虫、人を見た目で判断するべきでないということは承知している。

 おそらくこのショタは実は女の子で

 

「え」

「質問に答えろ」

「えっと……」

「…………」

「……あ、アキラメルワケナイジャナイデスカ」

「何か言ったか?」

「あ、諦めませんよ」

「聞こえんな」

「ぼっこぼこにしてやんよあの逃げ足だけ早い弱虫どもがぁ!……ハッ!」

「フッ、よく言った。個人戦ブースで大声でそのセリフを吐けた気概はかってやろう。対弾トリガーには体さばきだけでよけようとするな。遮蔽物を使え。ランク戦が何もない仮想訓練室で行われない理由を考えろ」

 

 あ、帰っていった。

 いやぁすさまじい迫力でしたねぇ。

 なんか、面白れぇ女認定食らってアドバイスをもらえた感じなのかな?雰囲気からして強そうな感じがしたし、おそらく何らかのお助けキャラ。

 まあでももらえたアドバイスって超初歩的なものなんだけどね。

 宿主が対射手銃手に勝てなかった原因の一つが、全部見てよけようとしてたからなんだよね。馬鹿だねぇ。

 それで距離を半分までは詰めれるようになってたから宿主の体さばきもかなりすごいけど。

 回り道という物を知らないのかこの宿主は。

 

「…………」ポカーン

 

 呆けてやがる、(会話のスピードが)早すぎたんだ。

 とにかく、このアドバイスを理解できたのなら(重要)次からは劇的に改善するでしょ、知らんけど。

 近づけたら勝てるんだから近づき方を工夫しなきゃいけないのに、近づいた後ばっかり考えてレート下げまくった雑魚のたまり場はここですか?(レート1000台)

 

「……し、師匠!!」

 

 草。

 なんか勝手にあのショタ、師匠判定食らってますわ。

 お前同級生、下手したら年下かもしれん奴を師匠判定するのはどうなの?

 まあそうやって誰にでも分け隔てなく接することができる自慢の宿主なんですわぁ(隙宿語)。

 

「待っていてください師匠!!いつか必ず追いついて見せます!!!」

 

 あ、一瞬止まったな、あの師匠。

 案だけ大声で叫んだらそら聞こえるか。

 んで、この宿主は今どれだけ周りの状況を把握できてるんだろうなぁ。たぶん宿主の目には師匠しか映ってないし、耳は今だけ飾りになってるんだろう。

 ここで今の宿主を客観的に見てみよう!

 1.周りに訓練生がたくさんいる状態で銃手射手を弱虫呼ばわり

 2.なんか強そうなショタにアドバイスをもらってる

 3.そのショタを師匠って勝手に呼ぶ

 これが指し示す現在の状況とは!?ずばり、めっちゃ注目されてる。特に一部の人間から怒りの目を向けられてる。

 

「フンスフンス」

 

 あー、意気込んでるところ申し訳ないが宿主。そろそろ回り見てみようぜ。

 ヘイトがびっくりするくらい高くなってるから。

 っていうかさすがにヘイト高すぎない?そんなに弱虫呼ばわりが嫌だったのか?

 それともショタに話しかけられることがうらやましいとか?ボーダーはショタコン養成施設だったか。

 

「フンフン、あ」

 

 ようやっと気づいたみたいだねぇ、宿主。

 ここから君はどうするんだい?

 ブース内に逃げるのか、ランク戦会場から逃げるのか、会場から逃げるほうに賭けようかな。

 

「……おっしゃあ!かかってこんかい!!」

 

 ……っうえぇぇえ!嘘だろ宿主。

 ここで第三の選択肢、挑発してブースに入るを選択するのか。さすが宿主そこにしびれる憧れるぅ。

 たぶんさっきの師匠に大分影響を受けてますねぇ。今精神状態フルスロットルですわ。臨戦態勢に入った野生の猛獣、といったところか。

 周りの反応的に、何がどうなってるのかはちょっとよくわかんないけど、どっちかだろうな。めっちゃ戦うか、誰も来ないか。

 お、めっちゃ対戦申し込み来た。あの反応は前者の反応だったか。

 

「ふふふ、やってやろうじゃねぇかよこの野郎!!」

 

 さあさあ、宿主はどうなるんだろう。2500、いや2600に全財産ベット。

 

 

 

 

 今回の結末。

 まず、私が賭けに勝った。予想大外れのバーゲンセール状態だったから当てれてうれしい。宿主のレートは急激に上がって2602まで上がった。

 対戦相手全員が宿主よりもレートが高かったのと、宿主の勝率がめちゃくちゃ上がったからという理由が重なったな。

 どうやらあの師匠のアドバイスは宿主にとっては天啓だったらしい。

 視野が広がったというのか。いっつも畳の上で対戦相手と一対一しかしてなかったから周りのものを使うっていう発想に行きにくかったんだろうね。

 そこを壊したから、いろんな柔軟な動きができるようになってきている。

 まだまだ粗はあるけれど、このままいけばあと一週間で正隊員になれるんじゃないかな。ボーダー暦最速昇格なるか。

 でもワンチャンあると思う。いやないか。

 とにかくお疲れ宿主!よく頑張ったぞ。諦めなかった努力の結晶だ。誇れ。

 だから頑張って家までは歩いて帰ろう。

 頼むから。

 ねえ。

 起きて。

 宿主おきて。

 私じゃどうしようもないからさ。

 宿主?

 




なまえ:雲崎莉々
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。