6月10日(雨)
大変なことしちゃったよ。
アンモナイトの化石をこわしちゃった。
すごく高そうで、どうしたらいいのか分からなかった。
そしたらタケルちゃんとカケルちゃんが来て、助けてくれると思ったのに、タケルちゃんは先生に言いふらした。
ひどいよ………カケルちゃんはいつの間にか取り出してたせっちゃくざいでアンモナイトをくっつけようとしてた。
ア○ンアルファはいだいだとか言ってたけど、ムチャだよ。
きっとベンショーだよ。
わたしのおこづかいじゃ足りないよ~。
タケルちゃんがカタツムリ(生)でごまかそうとしたけど、ムリだよ。
ちがう先生がきて、すっごくこわかった。
タケルちゃん、生まれ変わったとか、だっぴしたとか言って、もっと先生を怒らせてた。
けど、さいごにカケルちゃんと自分がやったって、言ってくれたよ。
カケルちゃんもうなづいてた。
ありがとう、タケルちゃん、カケルちゃん。
すっごくうれしかったよ~。
それと、
ごめん………
どっかべつのところにつれていかれちゃったけど、平気だったのかな?
帰り道で聞いても教えてくれないし、カケルちゃんも気にしなくていいって言ってたし。
ほんと~に、うれしかったんだよ。
ありがと。
3月10日(晴れ)
どうしよ~、どうしよ~。
たいへんだ!たいへんだ!
事件だよ!
タケルちゃんってば、白陵柊目指すとか言った。
カケルちゃんにも聞いたら、カケルちゃんも同じところ行くみたい。
そんなの聞いてないよ~!
私の成績じゃ白陵柊なんてムリだよ。
タケルちゃんも今のままじゃムリだけど。
カケルちゃんはきっと普通に合格しそうだな~。
どうしよ~、どうしよ~。
勉強するしかないよ~。
死ぬ気で勉強してやるんだから!
カケルちゃんにも勉強教えてもらわなきゃ!
そういえばカケルちゃんが変なこと言ってた。
「行かなきゃストーリーが成り立たない」ってどういう意味だろ?
小説でも書いてるのかな?
ってこんなこと日記に書いてる場合じゃないって!
寝る!
2月25日(雨)
やった!やった!やったよ~~~!
白陵柊合格だよ!
どうだ!見たか!
タケルちゃんが「純夏落ちてる」とか言うから、すっごくびっくりしたよ。
カケルちゃんにウソだって言われるまで、心臓止まったかと思ったもん。
本気で、まじで、しょんぼりしちゃったんだから~。
タケルちゃんってばわたしのこと裏口入学呼ばわりまでしてさ。
せっかくの喜びがだいなしだよ。
でもその後カケルちゃんに「お前は書類の手違いじゃない?」って言われてぎゃおーとか叫んでた。いい気味だ。
けど、これでまた三年間、一緒だね。
ザマミロ。
う~、ほんと~に、うれし~~~っ!
今日は寝られないかも!
10月21日
「ほっほっほっ」
朝。まだ太陽が昇って間もない時間にトレーニングウェアを着込み、街中を黙々と走る。
少なくとも走ることを始めた日から殆ど休んだ事のない俺の日課。今では苦になるどころか、やらないとやけに落ち着かない程だ。
「ふぅ」
我が家の屋根が見えてきた辺りでスピードを緩め、後は徒歩で進む。
今日も充足感が体を包む。・・・なんちゃってな。
僕の名は白銀翔。
読み方は「しょう」ではなく「カケル」です。そこんとこ間違えないよーに。
僕はなんの因果か前世で一度死に、別世界に転生した人間だったりする。
僕を送り込んだカミサマによると、因果律が誤作動とか何とか言ってたが、まぁとにかく俺はこうして文字通りの意味でセカンドライフを歩んでいる。
今は前世の経験を生かし、体を鍛えるためランニングの真っ最中だ。
怠惰な生活は後々が怖いからね。
ガタイは恵まれてるのに現在も爆睡中であろう俺の兄はそこんトコが分かってないらしい。
兄の名は白銀武。
「この世界」の軸といっても過言ではない、本当の主人公だ。
お気楽な性格したおバカのくせに、無意識に女の子を自分のところに引き寄せる最強の恋愛原子核。男の敵。
そして、唯一無二の、僕の双子の兄だ。
「しかしいくら同じスキルを組み込むからって、双子として誕生させるなんてなぁ」
そう、僕の中には主人公の武と同じ「恋愛原子核」のスキルが眠っている。ただし(弱)だが。
多分血統が近い方がスキルを組み込み易いからではないかと思うが、まさか双子にしちゃうとはアージュもびっくりな超展開だわい。
カミサマの最後のサプライズだろうか?確かめようがないけど。
『なにするかーーーっ!』
『チョバムッ!?』
と、いきなり我が家の方から叫び声が聞こえたと思ったら、直後間の抜けた断末魔と共に空に飛んでいく光がひとつ。
同じ飛んでいく光でも、某星雲からきた宇宙人観測員とはエライ違いだ。バカバカしいという意味で。
全く、仲の良いこった。あの二人は。
「カケルちゃん聞いてよ、タケルちゃんがエッチなんだよ!?」
「今に始まったことじゃないでしょ?この兄がド助平だなんてのは」
「寝ぼけてたって散々言ってるだろうが。てか双子のお前にそこまで言われたかねぇよカケル!」
「知るかい」
頭からプンプンと湯気っぽいものを発しながら僕に訴えるのは、お隣の家に住む我がツインズの幼馴染にして物語のメインヒロインが一人、鑑純夏。アホ毛っ子。
気立て良し、見た目良し、料理の腕良しの優良物件だが、その拳の内には物理法則すら無視する謎の怪力が宿っていたりする。
僕たちは現在、いきなり夫婦水入らずで海外旅行に行くとか決めた両親の荷物を買いに、電車に乗った後橘町のTQアームズに向かっている。
因みに僕は両親から普通に頼まれてたが、武は全然聞かされてなかったとか。あいつの信用のされてなさが浮き彫りだな。
「ちっ、オヤジ達も何が『極寒のシベリア満腹体験』だよ!いっぺん死んで来いっての!」
「え?『シルクロードで行くエーゲ海の伝説と神秘ツアー』じゃないの?おばさんからそう聞いたよ?」
「俺は親父から聞いたが?…カケルは何か聞いてないか?」
「昨日の夜、二人から『アフリカ縦断動物触れ合い旅行』に行くとか聞いたな」
流れる沈黙。3人が出し合った情報が全部食い違えば、そりゃまぁ混乱もするじゃろて。
「ま、気にしないで行くぞ」
「おいおい、ちょっとまて」
「確認くらいとろうよ~」
考えるのを放棄した武はあっさりスイッチを切り替えてTQアームズへと歩いていく。メンドくなったんだろう。
だが、武と純夏は知らされてないだろうが、僕はそのいきなりな旅行の「真実」を知っている。
そして明日からこの世界の「本当の始まり」が起こる事も。
で、僕としては恐らく本格的に恋愛原子核が発動を始めると思われる、言わば「本シナリオ」の時期を利用し、前の人生からの願望でもあった彼女を作って幸せに生きる。これが最大の目的だった
・・・んだけど。
(考えてなかったなぁ。20年近く経たなきゃ原作が開始しないって事)
そう。生まれた時点で既に、俺の精神は17歳チョイのそれであった訳で。
そこから更に18年が経過している訳で。
──結果。俺の精神年齢約35歳。どう考えてもおっさんですね本当に(ry
当初は今度こそと考えていた彼女作りも、最近では志が微妙になりつつある。感覚的なギャップもあるしね。
肉体だけは若者の物だし、出来るのならば作りたいとも思うけど……
「どうしたものかなぁ・・・」
「ん?なんか言ったカケルちゃん?」
「ん、何でもないよ」
まぁ、平凡で平和に暮らせるならそれだけでも良いしね。今は買い物に行きましょか。
「それにしても、タケルちゃんとカケルちゃんって双子なのに色々違いすぎるよね。今更と言えば今更だけど」
「そうだな。兄が僕と比較してスカポンタンなのは傍から見ても明確だね」
「うんうん。タケルちゃんお間抜け過ぎるもんね~」
「いきなりツープラトンで貶められましたよ!?」
そりゃお前が普段からそう見られる事ばかりやってるだからだ。
「おばさんたちの呼び方からして違うもんね。カケルちゃんはそのままだけど、タケルちゃんは『バカ息子』が基本的な呼び方だし」
「これ以上なく的を射てるね」
「うるせえ!バカをやるのは若者の特権だ!」
「兄は若さをバカな事にしか使ってないだけでしょ」
「カケルゥゥゥゥ!!?」
いやはや、兄ってば反応がいいもんだから弄り甲斐があるわ~。
いつちょっかいかけてもバッチリ返してくれるもんなぁ。
「あはははは!カケルちゃんってば上手い!」
「お前も笑ってんじゃねえよ純夏!てい!」
「あいたーーっ!?なにするよー!」
「生意気にも笑うからだ!あと朝のお返しだ!」
心狭っ!そして余りにもみみっちぃぞタケル!
「胸触ったタケルちゃんが悪いんじゃん!」
「あれは不可抗力だと言ったろーが!そもそも胸ってのは、もっと大きくて豊満で色気があって、少なくとも今の純夏では比べ物にならない・・・はっ!?」
「タケルちゃんのぉぉぉ………」
キジも鳴かずば撃たれまいに、余計な事を次から次へと口から放つタケルに、純夏は目に炎を灯らせ、右手という砲弾の発射体勢に移る。
俺も純夏をからかい過ぎて何度かもらったが、あれの威力は中々で済むもんじゃない。今度こそあの世行かとも一瞬思った。
このままではちょっと、と思った俺は武がまた大気圏突破する前に二人の間に体を滑り込ませて、純夏の手を押さえる。
「まぁまぁ純夏、ちょっと待ってよ」
「カケルちゃんはタケルちゃんの肩を持つの!?」
「さすがカケル!お前なら何とかしてくれると思ったぜ!」
純夏からは非難の、武からは喜びの声がかかる。
が、甘い。
武、お前まだ僕の性格を分かってなかったのかい。
「いいかい?純夏、拳はただ強く握れば良いんじゃない。ギリギリまで軽く握って、インパクトの瞬間だけ握り締めるんだ」
「ふむふむ」
「ん?」
硬く握り締められた純夏の手をほぐしてやり、卵を握るように軽く力を込めさせる。
「そんで重心は左足に。右上半身を捻りつつ、手は脇腹の辺りに」
「なるほどー」
「おい?」
セクハラと言われない程度に肩を軽く触って上半身を動かし、腕の位置を直してやる。
「そして足腰のバネを利用して、下から掬い上げるようにして放つんだ。これが効率のいいアッパーの打ち方だ。さあ、思う存分放つが良い」
「分かった!ありがとーカケルちゃん!」
「カケルてめぇ?!」
うん、このままじゃちょっと「足りない」と思ったんだ。
──どうせ飛ぶなら、ラグランジュポイントまで行ったらんかい!
「そんな訳でタケルちゃん!改めて吹っ飛べーーーっ!」
ドコォォォォン!!!
「アームストローーーングッ!!」
そして原作のシーン以上のスピードと威力のどりるみるきぃパンチを食らって、武はお空の星になりましたとさ。どっとはらい。
「勝手に終わらせるんじゃね~よ…がくっ」
そんなこんなで、一通りの買い物を終わらせた俺たちは、現在臨海公園で昼休み。
ハンバーガーなところは原作と変わりなかったが、原作知識持ちの俺が余分に持ってきてたので満腹になる程度は飯を買った。
この位の変化は問題なかろうて。俺もハラヘリは御免だ。
「ふー、カケルが金持ってなかったら今頃空きっ腹だったぜ」
「ごめんねカケルちゃん、奢ってもらっちゃって」
「こんなこともあろうかと思ってね。気にしなくても良いよ。」
「そーそー、気にしない気にしない」
「お前は後で食った分の金徴収な」
「なして!?」
言い方がムカつくんでな。
一言多いんだよお前は。
「やっぱりお金出すよ」
「変に律儀だね純夏は。遠慮することないって」
「あ……」
俺はポンポンと純夏の頭を軽く叩く。年は同じだけど、やっぱ精神はおっさんに近いからな。
ガキの頃からの成長を知ってるこちらからすればこいつらは子供、とは言わないが、年の離れた弟や妹のように見えてしまう部分がある。
その所為か偶にこういう風にしてしまうときがあるのだ。
「…えへへ、カケルちゃんに頭触られると、なんだか昔お爺ちゃんに撫でられた気持ちになるよ」
「そ、そうか・・・」
「あれ、どしたのカケルちゃん?」
いやぁ、ただでさえ年食ってる自覚があるのに、そうですかお爺ちゃんみたいですか……。
グサッと心に突き刺さる一撃に、失意体前屈を取る俺。そしてそこにかかる馬鹿笑い。
「ぶっはははは!カケルがお爺ちゃんか!ぴったりじゃん、だはははは!」
「血祭りに上げてやる」
「ってちょっと、カケル?何故そんな怖い顔で近づいてくるんだ!?俺のそばに近寄るなぁー!!」
お前だけは簡単には死なせんぞ...。
「あはは、それにしてもなんだか懐かしいね」
「ん?何がだ純夏?」
タワーブリッジをタケルにかまし、背骨をいい声で鳴かせていると、不意に純夏がそう言った。
頭の横から聞こえる蛙のつぶれたような悲鳴は無視。
「こうやってさ、3人だけで一緒にご飯食べるのって、久しぶりだから」
「言われるとまぁ、そうかな」
「いちち、そんなに昔か?」
解放されたタケルが背中を摩りながら会話に加わる。
そこから昔の話に花が咲き、楽しかった思い出やバカな事した思い出やらを色々と話す。
「そういや、あの頃公園で一緒に遊んだ奴ら、もう皆いないよなぁ」
「そうだねー。最近ご近所も引っ越す所が増えたみたいだし、少し寂しいね」
それは明日以降我が家の周囲に作られるコンクリート平原の前兆だよ、なんて言えねぇよなぁ……。
ま、良いか。気にしてどうにかなることでもなし。
「変わっていくことをどう受け取るかはその人次第。でも良いことも悪いこともひっくるめた変化の中を生きるから、人生はおもしろくなる。僕はそう思うなあ」
当人には大変な事でも、そういうことがあるからこそ良いことが起きたときにそれを深く実感できるようになるのだ。
まぁ、前世で碌なことがなかった俺が言うことじゃないかも知れないが。
「カケルちゃん、なんだか大人なこと言うね」
「考えが達観してるだけだよ」
「やっぱりお爺ちゃんじゃんw」
「今度余計な事言うと口を縫い合わすぞ」
「ヒッ...何でもないですごめんなさい」
最後までバカバカしく他愛もないことを喋りながら、休日を満喫した俺たちは帰路に着いた。
そして帰宅した俺たちから荷物を受け取った父と母は、そのまますぐに旅行に出かけていった。そういやどこが行き先なのか結局聞いてなかったな。
タケルは窓越しに純夏と色々話していたようだが、俺はやることもないので極普通にベッドに入った。
途中でタケルが夜中までバルジャーノンやろうぜとか誘ってきたが、断っといた。明日の朝飯誰が作ると思ってやがる。
さて、明日からは、これまで以上にドタバタな日常がやってくる。
俺というイレギュラーがそこに加わったらどうなるのかは分からないし、それに俺の最初の目的を達成するのどうかも不確かだが・・・。
「ま、なるようになるだろ」
それだけ呟き、俺は静かに眠りについた。
プロローグだけではなんとも言えないかなと思ったのでストックを一つ投下。