10月22日(月)
今日、俺はいつも通りに起きた。ジョギングはしなかった。武の部屋が気になったのだ。まぁ、どういう展開になるのかは知ってるけど。武の部屋に向かってドアを開けるとやはりベッドには武と古風な女子が一緒に寝ていた。....見なかったことにしよ...。
そしてリビングに行くと、メイドさんが居た。
「………えーと」
「あら、おはようございます、翔様」
俺の声に気がついたのか、薄緑の髪をお団子にしたメイドさんは振り返って俺と目が合い、微笑みながら挨拶してきた。
ぶっちゃけ少し見惚れるくらい素晴らしい微笑みだったね。
「ああ、うん。おはようございます。それで、いきなりですけど一つお聞きしたいんですが」
「はい。何でしょうか?」
「ハウスキーパーを雇ったと聞いた覚えはないんですが、どちら様でしょうか?」
いや、知ってるけど。でも原作知識はあくまで俺だけの物。ここは初対面で呆然としてる風に装うのが自然だろう。
「あら、これは失礼いたしました。私は本日よりこちらのお宅で働かせていただく事になります、メイドの月詠真那と申します。以後、お見知りおきを」
といい、スーパーお庭番メイド、月詠さんは深々と頭を下げたのだった。うん、原作同様にめっちゃ美人でした。
「これはご丁寧に。白銀翔です。それで、月詠さんはどんな御用でウチに?」
挨拶は人間関係を構築するための最も基本的手段であり、礼儀だ。
俺もしっかりと頭を下げて返し、続きを促す。
「はい。実は突然のことではありますが、本日よりこちらの白銀様のお宅に、やんごとなき身分の方がいらっしゃるのです。私はその方に仕える侍従長として、こちらにお邪魔させて頂いているのです」
「ふむ、つまり月詠さんはそのやんごとない人の世話役ってトコですか?」
「その通りです。大変勝手だとは思いますが、今は白銀様ご兄弟の朝食の準備をしていたところです」
確かにまあ家人の許可なく家に入って飯作ってるってのは、少なくとも良いことではないだろて。
でも俺は目の前の人物の素性を知ってるからねぇ。
だから多少変に見られるかも知れないが、いつもの俺のスタイルで進ませてもらうか。
「さいですか。ほんじゃ俺も手伝いますよ。元々その予定だし。メニューは何です?」
「え?あ、材料は白銀様宅の冷蔵庫のものを使わせていただきましたので、トーストとサラダとハムエッグです」
洋風のオーソドックスなメニューだな。原作通りならあいつはまた純夏に打ち上げられて遅刻ギリになる筈だから、和食よかコッチのがいいだろう。
「そんじゃサラダは俺が準備するんで、月詠さんはハムエッグお願いしますね」
「は、はい。……あの、翔様?」
「何ですか?」
冷蔵庫から出した野菜を程よいサイズに切りながら、俺は月詠さんに応対する。
自分で料理する経験は前世から続いてるので、最早手馴れたものだったりする。
「自分から言うのもどうかと思いますが、私の事を不審にはお思いにならないのですか?」
と聞く月詠さんも具材の入ったフライパンを動かす手を止めることはない。この辺りはプロだと正直に思う。
「疑って欲しいんですか?」
「いえ、そうではありませんが……」
「まさかメイド服着て忍び込んでくる泥棒もいないでしょ。それに月詠さんの目はウソをついてるそれじゃないですからね。だから信用しますよ」
半分本心、半分いかにもそれっぽい事で構成されたセリフを吐く。
俺が原作知識なしの、「只の」白銀翔だったらきっと飛び上がるくらい驚いてたかも知れないが、知ってる以上こういう対応しか出来ないんだよなぁ。
とか思ってたら、隣で月詠さんがクスクスと笑いを零してた。
「失礼しました。ですが、翔様は大きい器をお持ちなのですね」
「常識が一般人のとは大きくかけ離れてるだけっすよ」
そして俺たちはどちらともなく笑いあった。
そうしている内に料理の準備が完成。一先ずタケルの分は皿にラップをかけて保存。
お先に朝食頂きました。月詠さんのメシうめぇ。シンプルな料理なのに妥協が無い。
「お口に合いましたか?」
「最高だ、とだけ言っときます」
「恐縮です」
再び微笑んでくれる月詠さん。惚れていいですか?
などとやってるウチに食べ終わり、まったり月詠さんと談笑していたら、玄関からけたたましい声が響いてきた。
『起きてー!タケルちゃん起きてよぉぉぉ!ていうか開けてぇぇぇ!』
お隣さんのアホ毛っ子が、扉の向こうで悲痛な叫び(笑)を上げている。
あー、そういやタケルの奴がチェーンロックかけといて、合鍵があっても無意味なんだっけ。俺もついうっかり無意識にかけ直したし。
確かこのままほっとくと、バールだか何だかで扉を破壊される筈だ。正直勘弁して欲しい。
『ふえーん!カケルちゃぁぁん、ここ開けてよー!入れないんだよぉぉぉ!』
「やれやれ仕方ない、開けてやるとしましょか」
「あら、うっかりしてましたわ。もうこんな時間ですね。天様、私は所用がありますので、ここで一度失礼させていただきます」
「ん。どこか行くんですか?」
「はい。色々と手配する事がございまして、その為に一旦戻らねばなりません。ですから次は学校の放課後にお会いする事になります」
「そっすか、分かりました。んじゃまた後で会いましょう」
「はい。では失礼します」
と、言い終えた直後には、月詠さんの姿は一瞬で消え失せていた。
すげえ、どこに行ったか目で追えなかった。御剣家お庭番メイド、恐るべし……。
『カケルちゃんってば~~っ!早く開けてー!もう、こうなったらお父さんの工具で……』
「今開けるから待って!」
やべえ、危うく我が家のドアが破壊しつくされるとこだった。
俺は慌てて玄関に向かい、チェーンロックを外す。
「遅いよカケルちゃん!本気で壊そうと思ったよ!」
「君は悪びれるって事をまず覚えようね。兄ならまだ上だよ、行ってやって」
「うん!タケルちゃーん、遅刻しちゃうよーっ!」
おーおー、嬉しそうにしちゃってぇ。喜色満面を絵に描いたような顔で純夏は二階に上がっていく。
尚、、武を起こすのは完全に純夏の役目として定着している。
俺が干渉すると純夏の幼馴染属性が活かせないし、俺もむさい男を態々起こしたくないからだ。
ちなみに俺はこの後起こるだろう事をすべて知っているが、そこに口出しはしない。
だってある意味序盤のイベントではかなり大事なシーンだからね。うん。それだけだよ?
別にタケルが吹き飛ばされるのを静観決め込もうって腹積もりジャナイヨ?
……精々ギャルゲ主人公としての責務を果たしてくるんだな、タケル。
玄関から少し出て、空が良く見える位置に陣取り、例の瞬間を待つ。
ん、騒がしくなってきた。もうそろそろかな・・・。
『お、落ち着いて話し合おうじゃないか!暴力で解決しようなんて野蛮だぞ!やめ─』
『おおばかものぉぉぉ~~~!!!』
『マッヅォーーーン!』
と、純夏の咆哮と共にいつもより重くて低い打撃音。そして屋根を突き破って星になったタケル。あの分ならいつもより高高度までかっとんでるだろう。
うんうん、しっかり昨日の教えを守ったようだな純夏。おじさんは嬉しいぜ。
タケルが大気圏再突入[リエントリー]を果たして我が家に戻ってきてから、俺たち三人は白陵大付属柊学園に向かって登校している。
つーかどうしてこいつの体は大気の摩擦で燃え尽きないんだろうか。純夏が容易く武をロケットの如く打ち上げられるのと同じくらいの不思議だ。
それとも、これがギャグ補正ってやつなんだろうか?謎は尽きない。
などと考え事をしてる俺をよそに、二人は不毛な言い争いを続けてたりする。
「不純だよ、不潔だよ、けがれてるよ……」
「だから純夏よ……」
「信じられないよ………信じたくないよ………」
「だぁーもー、カケルからもなんか言ってくれよ!」
「知るかよ。第一何がどうなってお前が吹っ飛ばされたのかも知らねんだぞ」
まあウソだけどね。
でも敢て事情を聞くことにする。ほっといたら武がキレて喧嘩に発展しそうだし。
「で、何があったん?」
「それがねカケルちゃん、タケルちゃんってば信じられないんだよ!」
「だから知らねーって言ってんだろうが!」
「タケル達の主観的感想は聞いてねえよ。状況を話せ状況を」
かくかくしかじか
「なるほどな、純夏がタケルの部屋に入ってみると、古風な少女がタケルと一緒にベッドインしてた、と」
「その言い方やめろ!俺がイタしたみたいだろ!」
「避妊はしっかりとしたかい?」
「話聞く気ないだろお前!?」
うがーっ!と吼える武。いかんいかん、気がついたらついコイツのことを弄るようになっちまった。
まぁ楽しいからいいけど
「じゃあ何であの女の子はタケルちゃんの部屋にいたのさ!?」
「こっちが聞きたいっての!とにかくホントに何もなかったんだ!」
必死に無罪を主張する武。そりゃまぁ謂れのない罪を問われりゃ誰だってそうするだろうが。
「……んな事より純夏、合鍵よこせ」
「やだっ。タケルちゃん起こしに行けなくなっちゃうもん!」
「それでいいんだよ、勝手に起こしに来るなや」
寝ぼすけ主人公を毎日起こしに来る幼馴染の貴重性が分からんのか、このアンポンタンは。
というか幼い頃から同じ時を過ごした女の子の友達ってだけでそうそういるもんじゃないのに、それがいるのがどうしてこんな朴念仁なんだよ。
まったく、世の中不公平にも限度があるぞ。
「ふーんだ、どうせ返してもカケルちゃんが鍵開けてくれるから同じだもーん」
「なぬ?!かけたチェーンロック外したのはお前かカケル!」
「記憶にございましぇん。」
「政治家かお前は!」
玉虫色の答弁って使う方はいい気分なんだなぁ。
これからも偶に使うか。
「んなことよりいいのか?時間がそろそろやばいぜ?」
追求の手を緩める為に、俺は時計の文字盤の所を指差して遅刻の危険性を示した。
「ちっ、このことは後でもっかい話すからな」
「それはタケルちゃんもだよ!まだあの女の子が誰なのか聞いてないよ!」
「だからそれは──!」
一生やってな、おしどり夫婦。
やがて長い長い通学路の上り坂──通称地獄坂を登りきり、校門、下駄箱を経て、何とか俺達は鐘が鳴る前に教室に辿り着いた。
「ふぅ、間に合った。」
「結構ギリギリだったねー」
「ゼェ、ゼェ……どうしてお前ら……そんなに元気なんだよ……」
けろりとしている俺と純夏とは対照的に、武はひどい息切れを起こしつつ尋ねている。
だから不摂生ばかりしてるなと言っとるにコイツは。
「オメーが体力のないモヤシなだけだ。」
「タケルちゃんはもっと運動したほうがいいねー」
「ぐぬぬぬ……」
正論故に碌に反論出来ないタケルちゃん。ざまぁ。
「あなた達、早く教室に入りなさい!もう予鈴は鳴ってるのよ!」
と、B組の扉を開いて出てきたメガネをかけたふと眉な女子生徒──榊千鶴さんからお叱りを受ける。
「榊さん。今日もバリバリで委員長してるねー」
因みに俺の中の恋愛原子核(弱)が働いているのか、こういう風に女性の友人も出来て普通に話せるようにはなっている。まぁどうでもいい話ではあるが。
「あ、榊さんおはよ~」
「おはよう、鑑さん」
「よっ委員長。朝から高血圧だとストレスで寿命がマッハだぜ?」
「誰の所為だとおもってるのよ!?まったく、白銀君は弟の翔君と違って、事あるごとにイライラさせるし……」
溜息と共にそう榊さんは愚痴る。色々と大変なんだなー。
とか考えてたら、廊下の向こうから何かがぶつかる音が聞こえてくる。あと気の抜ける悲鳴が。
「うにゃ~っ!ぢーごーぐーずーるぅぅ!」
「あ、壬姫ちゃんだ」
「え?」
俺は間もなくここに到着するであろうピンク髪の猫娘を確認するべく、廊下に出た。
「ぎゃふ~っ!」
「DOORッ!?」
ぼふっ!
あわや壁に激突するかというギリギリの所で、俺は飛んできたピンク物体に体当たりされた。
結構なスピードが乗ってたが、彼女のガタイが控えめだったのが幸いし、受け止めるのに成功した。
「いったぁ...、大丈夫...? 珠瀬?」
「にゃっ?か、かけるさん?」
下から俺をポカンとした目で見上げてくるのは、珠瀬壬姫。一度で良いから毛質を調べてみたい髪形をしている。
どうやら走るのに必死だったようで状況がよく掴めていないらしい。
「時間が押してて慌てるのは分かるけど、制御しきれないスピードで走るもんじゃないぞ?ぶつかってこぶでも出来たらどうする」
「す、すいません!うっかり寝坊しちゃって・・・」
「まぁ、無事だったんだし良いって。今後は気をつけてよ?」
「は、はい。・・・えへへ~」
と、俺はえらそうな事を言い、珠瀬の頭を撫でた。最早殆ど俺の日課だ。
珠瀬はやけに気持ちよさげな声を出していた。うむうむ、実に和む。(猫的な意味で)
「うわぁ、カケルちゃんが壬姫ちゃん愛でてる・・・(猫的な意味で)」
「やけにエロいんだよなぁ・・・」
「か、翔君!朝っぱらからあなたは何をしてるの!!」
「何って、懐いてる猫を可愛がってるだけじゃあないか。コミュニケーションだよ」
何顔を赤くしてるのキミらは?
「珠瀬さんは人間でしょ!!いいから早く教室に入りなさい!!」
「はーい。んじゃ珠瀬、また後でな」
「ふああ~~い……」
のぼせたような声の珠瀬の頭を撫で、俺は自分の所属するクラス内へと足を踏み入れた。
因みに席はタケルの前であり、純夏の隣である。
関係ない話だが、俺の名前は武と苗字が当然モロ被りするので、周囲には普通に名前で呼ばせている。榊さんあたりは最初渋ってたがね。
ガラガラッ
「はーい皆おはよー。席に着いてー」
丁度会話の終わるタイミングで、B組の担任教師、神宮寺まりも先生が入ってきた。
彼女の間延びするような声に反応し、教室のあちこちに散っていた連中が自分の席へと戻っていく。
ポワポワした雰囲気の彼女だが、これがアンリミやオルタでは泣く子も黙る鬼軍曹になってるんだから、人間て分かんないよなぁ。
「きりーつ、礼。着せーき」
「それじゃあ出席取るわね。今日の休みは……鎧衣君がまず休みね」
「ねえ、タケルちゃん、カケルちゃん、鎧衣君今度はどこ行っちゃったのかな?」
「そうだな……やれアフリカの奥地だの無人島だのに連れてかれるような奴だからなあ……」
「北極とか南極だったり?」
「いやー、あいつの場合結構洒落になってないからな〜、それ」
「確かにな」
「まりもせんせー、尊人ちゃんはどうしたんですかー?」
「ええと、南太平洋あたりだって、今朝お父様から連絡があったそうです」
珠瀬からの質問に答えた神宮寺先生の返答は、普通に普通でなかった。
あまりにも予想外な答えに絶句するクラスメート一同。
よくそんな何千海里も離れた場所から連絡ついたなとも思ったが、尊人の親父はあの「微妙に怪しい男」鎧衣左近だ。
想像もつかない手段で連絡したとしてもまったく不思議ではない。
確かオルタだと「ムー大陸のお土産」とか普通に持ってた筈だが、あの人の場合それが本物に思えるからすごい。
「あと欠席は……彩峰さんね」
「まりもせんせー、慧ちゃんはどうしたんですかー?」
「うーん、彩峰さんは連絡受けてないわね」
彩峰か。
あいつは無断でサボっても休む奴ではないだろうから、今頃屋上のフェンスの上だろうか。あいつの定位置だしね。
「それから、今日は悲しいお知らせがあります。剛田君が転校してしまいました」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」×たくさん
ああ、そういやそんな事あったね。はい、リアクションおしまい。
短いって?細かいこと気にすんなよ。暑苦しいネタキャラは好きじゃなかっただけさ。
「では、皆も精一杯悲しんだところで、転校生を紹介します」
「おお~~~っ!」×たくさん
「今度の子は女の子よ。良かったわね、白銀君」
「何で俺指名?てかカケルも白銀なんですけど」
「何言ってるの。翔君は翔君、白銀君は白銀君でしょ?さ、入ってきて」
一応区別のため、まりも先生にも俺は名前で呼んでもらってる。頑なに拒む彼女の説得には手間がかかった。
それよりも、来たか。今日からの騒がしい日々の大元が。
「ぎゃおーーーっ!?」
「白銀君、はしゃぎ過ぎよ。えー、今日から皆さんと一緒に勉強することになった、御剣冥夜さんです」
「冥夜だ。以後見知りおくがよい」
そう彼女は言い、両手で刀袋に入った日本刀を床に突いて、堂々たる佇まいで名乗った。
凛々しい顔立ち。これまたどういう毛質してるんのか知りたい髪形。何より全身から発せられるカリスマオーラ。
何もかもが普通とは違う存在。
リアルで見る彼女は、ゲーム画面のそれより遥かに美しかった。
彼女の顔を見て叫んでる武はスルーの方向で。
「席は……そうね、白銀君の隣にしましょう。ちょうど空いてるから」
「は。心得ております」
冥夜はさも当然のように他のクラスメートの間を歩いて武の傍らに進み、ヤツの顔をじっと見つめている。
そして一言。
「タケル、共に過ごせる事をうれしく思うぞ」
その一言で、教室のあちこちで驚きの声が上がる。
無理もない。いきなり3年の2学期に転校してきた女生徒が、いきなり武と親しげに会話してんだから。
「みみみ御剣さん?な、何で俺の名前を?」
「冥夜でよい」
どよめく観衆。やはりと言っていいか、隣の純夏は驚きながらこちらに聞いてくる。
「ねえカケルちゃん!?御剣さんてタケルちゃんの知り合いなの!?」
「少なくとも俺は聞いたことない。てかまだ続きがあるぞ」
ホントは彼女と武の出会いのくだりは知ってるけどね?
でも俺は当時に殆ど介入してません。遠巻きに覗いてた程度です。
「い、いや、だから……」
「そなたに感謝を。昨夜は……夢心地であった。傍らにそなたの温もりを感じて眠れたのだからな」
爆弾発言一丁入りましたー!
その効果は絶大で、教室中でああだのこうだのと騒ぎが巻き起こる。当のタケルは蚊帳の外のままで。
にしてもいやはや、御剣さんありがとう。アナタのその一言のお陰で、新しいタケル弄りのネタが増えたよ。腐腐☆
休み時間。
いろんな意味で話題を呼んだ御剣冥夜嬢はクラス内はおろか、ほかのクラスからの見物人まで呼び寄せるほど人気を博していた。
尚、もう一人の話題の中心人物、我が兄タケルもまた人気を博している。別名、問い詰められているとも言うのだが。
「たけるさんたけるさんっ、冥夜ちゃんとはどういう関係なんですか?」
「ちょっと白銀君、さっきの御剣さんの言葉ってどういう意味?」
「タケルちゃん!結局あの子は誰なの!?絶対聞かせてもらうよ!」
ステレオどころかトリプルで詰め寄っているヒロイン三人。
同じタイミングで言うもんだから聞き取り辛くて仕方がないだろう。
「だから知らねーって言ってんだろ!俺が朝起きたら何故か御剣が部屋の中にいて」
「そのまま欲望を抑えられず押し倒したんだね分かります」
「そうそう・・・って違ぁぁぁぁぁぁう!!」
俺はその真っ只中に飛び込み、火種を更に燃え上がらせる。いやあ実に楽しいなぁ。
そしてさらにヒートアップする聴衆。慌てまくる武。大騒ぎとしか言いようがない。
元凶は俺だろって?・・・楽しけりゃいいジャん!
「し、白銀君?!あなたまさか・・・!」
「あわ、あわわわわぁ~~~」
「タ~ケ~ル~ちゃ~~~ん?」
不潔なものを見る目をよこしている榊さん。
パニックのあまり言葉を忘れている珠瀬。
額に青筋を浮かべ右手を構えている純夏。
うん、タケル、実にお笑いだぜ。
「ちょ、お前ら誤解すんなって!てかいきなり何言ってくれてんだカケルゥ!」
「だって朝の話に出てきた少女ってのが御剣なんだろ?だったら出る答えなんか限られるじゃないか」
「お前同じ家に住んでんだから何もなかったことくらいわかんだろ!」
「それが残念なことに夜は早くに寝たし、朝はジョギングに出てたんで、その間家で起きた事の証明ができんのだよ。実に残念だ」ニヤァ
「薄ら笑いして顔背けんなぁぁぁ!!俺の目を見て言ってみろぉぉぉ!!!」
「さてと、俺はそろそろおいとまさせてもらうよ。さぁ珠瀬、こんな所からはとっとと離れようぜ。目を合わせると奇声を上げてルパンダイブをやらかしそうだからなあいつ」
「にゃっ!?」
俺は珠瀬の肩に手を置いてその場から立ち去らせようとする。と、背後でガタッとイスが倒れる音。
後ろを見てみれば、立ち上がったタケルの拳がプルプルと震えていた。ちとやりすぎたかな?
「そろそろ泣くぞ?本気で泣くぞ?」
いい歳して涙目だよこの人。そろそろ弄るのも止めとこうか。
「悪かったよ。俺の知る限り、冗談抜きでタケルは昨日疚しいことを何もしてなかったと証言するよ」
俺の言葉に沈静化する榊と珠瀬、聞き耳を立てていた周囲。武も一先ず落ち着いたようだ。
が、それでは収まらないのが一人いた。
「じゃあなんでタケルちゃんと御剣さんは昨日一緒の布団で寝てたの!?」
「「ええっ!?やっぱり!?」」
「おまっ!?」
一気に状況を混ぜっ返した純夏の一言を皮切りに、消えかけた騒ぎの炎が再燃する。
お前らのノリのよさは大好きだね。
「アホかお前はっ!俺とあいつがいっしょに寝てたなんて、大声で言うなっ!」
物音一つなく静まり返る教室及び廊下。
やっちまったな。自爆発言をしたお前の姿はお笑いだったぜ、タケル。ふわぁ〜はっはっはっww
そして発生するどよめきの大波。やっちまったという顔のタケルだが、もうどうしようもないなこれは。
「マジかよ!?白銀と御剣さんてデキてんのか?」
「うそ~、鑑さんはどうなっちゃうわけ?」
あちこちで様々な憶測が飛び交う中、武は俺にアイコンタクトで「なんとかなんね?」と尋ねる。
首を横に振って返信。他でもない本人の言だ、俺がいくら言っても、もうどうにもなるまいて。
そしてそんな中、御剣がタケルの傍らに立って言う。
「どうしたのだタケル?これはなんの騒ぎだ?」
「あ、み、御剣さん」
「だから冥夜でよい」
そのやり取りが周囲を沸かせることには気がついてないんだろうな。この天然さんは。
「君とタケルが一緒に寝てたって話に、皆興味津々なのさ」
「む?顔立ちがタケルにそっくりなそなたは……そうか!そなたが話に聞いた、タケルの双子の弟のカケルだな」
話ってのはやっぱ月詠さんから聞いたんだろうなぁ。朝も俺のこと知ってたみたいだしあの人。
「改めて名乗るが、御剣冥夜だ。よろしく頼む」
「白銀翔だ。こちらこそよろしく頼むよ御剣」
がっちりと握手をし合う俺と御剣。
おっさん精神のお陰か、握手程度ではもう動じたりしません。
嬉しいような悲しいような・・・
「そなたも、私の呼び方は冥夜でよい。その方がしっくりくる」
「そか。そんじゃ冥夜、さっきの話だが、皆お前さんとタケルがどんな関係なのか気になってるんだよ」
「何だ、そんなことであったのか」
疑問の内容を俺が答えると、拍子抜けしたような表情の後、冥夜は武の方に向き直って言った。
「タケル」
「な、何かな御剣さん」
「冥夜でよいと言っておるのに……そなたに私の願いは届かないのか……?」
「え~と、あの……め、冥夜」
「うむ!」
悲しそうな顔と雰囲気に耐えられなかったようで、とうとう折れるタケル。
ようやく名前で呼んでもらえて嬉しいのか、冥夜は一気に喜びで溢れた顔になる。
そして爆弾発言がもう一丁。
「そなたと私は、絶対運命という固い絆で結ばれておる。私がそなたの隣にいて、そなたが私の隣にいる。これが私たちの関係だ」
冥夜がはっきりとそう宣言した瞬間、教室内に最大級の歓声で包まれた。
同時に純夏が真っ黒いオーラで包まれましたけど。
未だ一時間目の休み時間なのにテンションは最高潮。
物語の始まりの日は、まだまだ終わらない。
はてさて、ここからどうなるのかねぇ。
・・・ところで昼のイベントでは何頼もうかな~。