マブラヴEXTRA 〜白銀武の双子〜   作:Gセイバー

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第4話

 

 

 

昼休みである。

午前の騒ぎの興奮も冷め遣らぬまま、相変わらず教室内はがやがやと喧騒でごった返している。

では、そんな中で最も騒がしくなっていると予想されるポイントに目を向けてみましょう。実況の珠瀬さーん?

 

 

「はい、こちら珠瀬リポーターです!私は現在B組の白銀武さんの机の前に来ております!」

 

ボールペンをマイクのように口元に近づけ、俺のネタにしっかりと付き合ってくれる珠瀬。俺は嬉しくて涙が出そうです。

 

 

「ここでは現在、学食に行こうとするたけるさんと、持ってきたお子様ランチをたけるさんに食べさせようとしている純夏ちゃん。そして背後にコックさんの大群を従えた冥夜ちゃんが集うという、大変混沌とした様子が展開されています!」

 

そう、現在のB組は御剣が呼び寄せたコックさんの大群で犇いている。

食堂は戦争状態だとか耳にした冥夜が、タケルの為に御剣家ご用達の料理の鉄人たちをここに集めたのだ。

ぶっちゃけクラスメートの人数より多い。廊下の向こうまでいるし。

 

 

「すごいです!どこを見てもTVで見た有名人ばかりです!ていうかミキもう我慢できませ~~~んっ!」

 

「落ち着いて、」

 

「ふにゃっ」

 

珠瀬リポーターが仕事を投げ出してしまったので、中継を打ち切ります、ってか。

俺もスタジオのカケルさんではなく普段のカケルに戻り、食欲に目が眩んだ腹ペコ猫をの頭を押さえてストップさせた。

 

 

 

 

「さあ、好きなものを頼むが良い」

 

「アホかぁ!撤収させろ!今すぐに!」

 

どうやらアホの子タケルにも僅かながら調子に乗らない理性はあったらしく、よく分かっていない冥夜に抗議の声を上げている。

しかし残念だがタケル、そうは問屋が在庫切れだ。

 

 

「何故だタケル?」

 

「何故だもなにもない!いいからお引取り願え!」

 

「そうそう。この後も授業あるんだしね。という訳で冥夜、フカヒレ料理一人前を作ったら撤収してもらってくれ」

 

「よし、分かった。料理長!」

 

「はっ」

 

俺のオーダーを聞いた冥夜が指パッチン一つで命令を下し、あっという間に鉄人たちが動き始める。

いやあ完成が楽しみだ。前世で一回だけ食ったけど、あの感動が忘れられないんだよなぁ。

 

 

「おまえは何を注文してんだカケルゥゥゥゥゥ!!」

 

「耳が遠くなったのかい?タケル。フカヒレって言ったじゃないか」

 

「メニュー聞いてんじゃねえよ!頼むなって言ってるんだ!」

 

「・・・・・・いいかいタケル、よく聞いて」

 

「な、何だよ?」

 

俺はタケルの両肩に手を置いて深刻そうな顔(笑)で語り始める。

今までに高級食材なんて何度口にしたことがあったか。

そしてこれからの人生で、一体どの程度それを食べる機会が巡って来るか。

俺の経験則から言うが、よっぽど恵まれてるトコじゃなきゃとても無理な事だと。

そして今!そのチャンスが巡ってきているのだ。しかもタダで。

これを逃すのは馬鹿のする事だと、得々と言って聞かせた。別名、洗脳中。

 

 

「おまえは良いのか?折角のチャンスを棒に振ってしまっても?」

 

「チャン、ス?」

 

「そう、チャンス。それに冥夜は好意でこんなに人を動かしてくれたんだよ?他者の好意を無碍にするのはよくない事じゃないか?」

 

「そう、なのか?じゃあ俺は、どうしたら・・・」

 

「何、簡単だよタケル」

 

俺は天使のような悪魔の笑顔を作って一気に畳み掛ける。後一押しだ。

 

 

「好きなものを、お前が食いたいものを頼みゃいいんだ。それだけで冥夜は報われるし、お前も幸せになれる筈だぜ」

 

北風と太陽だ。真正面から否定しても反発を受けるだけ、ならばゆっくり搦め手から攻めれば簡単に事は済む。

人間ほど甘美な響きに弱い生き物はいないのだから。

洗脳は怖いねぇ~~、いやホント。

 

 

「いいのか、冥夜?頼んでも」

 

「何でも構わないぞ。元よりその為に呼んだのだからな」

 

「そうか・・・そうだな、よし!」

 

墜ちたな。腐腐☆

タケルからは見えない位置で邪笑を浮かべながら俺はそう確信した。

俺の半分も生きてない小僧っこを墜とすなぞ容易い事だ。ふわ〜っはっはっはっwwあ~う☆

 

 

「ヘイシェフ!満漢全席一人前プリーずもらばっ!」

 

だが、欲望に忠実になったタケルが希望する料理を頼もうとした瞬間。

高速で飛来してきたタコさんウィンナーと顔つきおにぎり、ミートボールなどで構成された飛行編隊が、タケルの口内にスーサイドアタックを敢行してきた。高速の奇襲に対応できなかったタケルはその勢いの余り仰向けに倒れる。

その飛行編隊を送り出した母艦ないしカタパルトの名は、「鑑純夏」と言った。

 

 

「タケルちゃんは私のお弁当食べるの!御剣さん、いいからコックさんたちはカケルちゃんの分だけ作ったら帰ってもらって!」

 

「しかし、よいのか?タケルの昼食が……」

 

「大丈夫大丈夫!タケルちゃんは何も言わなかったし、お弁当があればお腹いっぱいだから!」

 

「もごがが・・・違、俺は満か・・・」

 

「ほらタケルちゃん、次はゆで卵だよ!おいしいから食べて!さあ!」

 

「むごあああああぁぁぁーーーーっ!!」

 

いつの間にかタケルに馬乗りになり、タケルの口内のキャパシティを超えてもなお純夏は弁当のおかずを“これでもか”と詰め込み続けた。

なんかタケルの手足がぴくぴくと痙攣してる気もするが、まあ大丈夫でしょ。俺はシラネ。

その内に、頼んだフカヒレ料理が完成したようだ。

 

 

「冥夜様、ご注文の品が出来上がりました」

 

「うむ、ご苦労だった。後は下がってよいぞ」

 

冥夜がそう言うと、来たときと同様にすばやく撤収する鉄人達。あっという間にいなくなった。

そして後に残ったのは俺が頼んだフカヒレ料理のみ。

出てきたのは中華どんぶりに入ったフカヒレラーメン。見たことも無いほど巨大なフカヒレが乗っかっちょります。しかも複数。

出すところによっては値段が5桁に達すると聞くが、果たしてここにある分だけでおいくら万円のフカヒレが使われてるやら。

否、そんな事は今は関係ない。今重要なのは、ただ目の前にある素晴らしき存在と一つになることだけだ!(胃の腑に収める意味で)

 

 

「さあカケル、思う存分食べてくれ」

 

「応よ。頂きま〜す」

 

両手を合わせ、人生二回分の万感の思いを込めて言う。そして一口。

 

 

うはwフカヒレうめぇw

 

 

思わずVIPPERみたいな言い方になってしまったが、俺は冗談抜きで感動している。

食感と味がダブルパンチで食欲中枢を攻め立て、筆舌に尽くしがたいハーモニーを奏でている。

黄金色に輝く半月状のそれは舌の上で踊り、えも言われないそれは正に至高。

スープや麺のほうも厳選したものを使っているらしく、そこらのラーメン屋じゃ間違いなく味わえるもんじゃない。

あ、今背中を鳥肌がぞわわって上っていった。

ショックの余り箸を落とさなかった自分を褒めたい位だ。

ここまで完成した料理をあの短時間で作る御剣家料理人衆、侮りがたし・・・。

 

 

「うわあ、良い香り~。かけるさん、ミキにもミキにも~~」

 

「うむ、この感動は独占するものじゃないな。ほれあ~ん」

 

「あーん。・・・わああ、とってもおいしいですーっ!」

 

珠瀬にフカヒレの一部を切って摘まんだのを食べさせる。そうかそうか、お前もこれが分かるか。

共感出来た嬉しさでまた頭を撫でてしまった。後悔はしていない。むしろ和んだ。

 

タケルはどうするのかって?知りませんよ。幼馴染の手料理食えることの幸せを文字通りかみ締めろってことで。

いいじゃん、原作みたいに辞書食らって昏倒するよっか。ねぇ?

 

 

「ほらタケルちゃん、デザートもあるよ!さあ食べろ~~~!!」

 

「もぼおおおぉぉぉぉーーっ!」

 

 

 

 

 

 

下校時間である。ってかこの出だしもマンネリだなそろそろ。

さておき、何とか一日の授業を終わらせた俺は、いつもなら武たちと一緒に帰宅するところだが、生憎掃除当番にヒットしてしまい、一人遅れてしまった。

ので、遅れついでにちょっと寄り道して帰る事にした。どうせあの三人は公園に寄って原作と同じルートを通ってるだろうし。

寄り道、と言っても何のことはない。屋上からの景色を眺めにいくだけなのだが。

 

自販機から購入した缶コーヒーをもって、階段を一歩づつ上って行く。

扉を開いて外に足を踏み出し、フェンスに近づいていく。

周りを見渡したが、人っ子一人見当たらない。どうやら焼きそば娘ももう帰ったらしい。

 

まぁその方が落ち着いて考え事出来るし、いいっちゃいいけど。

プシュッと空気の抜け出る音と共にプルタブが開き、一口目を口に含む。

うん、新しいやつだったから味がどんなのか知らなかったが、これはお気に入りラインナップに新人さんご案内だ。

微妙に嬉しく感じながら、フェンスの向こうの景色を傍観する。

 

住宅街と、その奥のほうにある歓楽街及びビル街。そして更に向こうにある大海原。

等しく夕焼けの橙に染まったそれらは、高台にあるここの校舎から見ると、まるで一枚の絵のようにも映る。

この視界の中の情景だけでもそこの中に人々が生きているんだと感じさせる。綺麗なセカイ。

ここの景色を見るのが好きで、一人でここを訪れるのが癖になった。

 

 

「でも壁を一枚越えれば、廃墟だけがある死の世界に早変わりしてるんだよな・・・」

 

ふと、思ったことを呟く。

冥夜がやって来たことで改めてここがマブラヴの世界だと自覚させられたからだろうか、とにかくふと頭をよぎった。

ここではない「隣」の世界。そこには平和なんてなくて、ただ終わりに向かうカウントダウンと戦う人々が住んでいる。

宇宙からの侵略者。それと戦う人間。

シチュエーションだけならばありふれているが、そこには侵略者と戦ってくれる銀色の宇宙人も、何度負けても立ち上がる善い神様もいない。

人と言う種は余りにも無力で、愚かで、弱くて、やがては侵略者の手で全てが終わってしまう。

 

 

「他は知らないが、この世界のタケルも時が来たらあんな世界に送り込まれるのか・・・?」

 

マブラヴというゲームのもう一つのパート。アンリミテッド編。

「向こうの」カガミスミカに呼ばれた白銀武の物語。

右も左も分からない世界に送られた武はその世界で必死に生きようとするも、結果は敗北。

オルタネイティヴが始まるまで、終わらないループを繰り返している筈だ。

少なくとも今の俺に、あいつをあんな地獄に送り出すなんて認める気はない。

 

だが、同時に思う。俺があれこれ介入したとして結果が変わるのか、と。

「向こう」に呼ばれる武は、無数の平行世界から少しずつ集められた「シロガネタケル」の要素の集合体、とかだったと思う。・・・多分。

サプリメントというおまけシナリオの世界では、そのまま「こっち」に居続ける武がいた筈だ。つまり肉体丸ごと送られるワケではない。

だとするなら、俺には止めようが無い。出来ることがあるなら、精々論文回収をしに戻ってくる武に助言をしてやる程度か。

ん?でも来る日はいつだった?そもそもこの世界は・・・。

 

 

「ちっ、20年という時間のもう一つの弊害だな・・・」

 

近頃俺は、自分の過去の記憶に自信が無くなって来ている。

自分でも驚くことに、昔の自分の名前すらも一瞬間をおかないと思い出せないのだ。

今の世界が俺の生きる場所である以上、過去の事は忘れて当然なのかもしれない。人の脳は不必要な記憶を切り捨てるようにできてるのだから。

それでも俺は忘れたくない。消えてゆく記憶の中に良くない未来を変えられるものがあるかもしれないのに、無くしてしまったら何も出来なくなる。

 

・・・何も出来なくなる?

 

 

「ただ見ているだけの傍観者が、何を口走っているんだか・・・」

 

吐き捨てるように自嘲の言葉を口にする。

結局俺は、ただの臆病者だ。

過程や結果を全部知っていながら深く関わる勇気のない卑怯者。

「話の本筋を変えたくない」と言えば尤もらしいが、所詮は言い訳に過ぎない。

結果を良くしたい。でも深く関わりたくない。どっちかを決められない優柔不断な人間。それが俺だ。

 

 

「・・・やめよう。考えても欝になるだけだ」

 

大きくかぶりを振って余計な考えを追い出す。

少なくともここで一人で悩んで何かが変わることではない。それに今考えてたのは殆どが俺の推測だ。

実際にそれらしい動きがあった時に判断すればいいだろう。

それに今のはただの自虐だ。しても無意味なことは、するもんじゃない。

 

 

「…ん、もう無くなったか」

 

いつの間にかチビチビと飲んでいた缶コーヒーが空き缶になったことに気付く。

暖を取れるものが無くなったと気付いたら、やけに夕暮れの風が寒く感じた。

 

 

「……帰るか。そしてタケルちゃん弄りでもしようかなっと」

 

踵を返してドアに向かう。その途中に呟いたことがどこか空しいことは、忘れようと思った。

 

 

 

 

 

「うえ~~~ん!おかあさ~~~ん!」

 

ウチに帰宅してみると、漫画のような滂沱の涙を流しながら自分ちに駆け込む純夏の姿が見えた。

ちと遅かったようで、タケルはもうノックアウトされた後のようだ。

止めるつもり?あったと思うかい?少し見たかったけどね。

きっと明日になれば普通にやって来るだろうから純夏のことは一先ず置いといて、俺はそのまま玄関のドアをくぐった。

 

 

「ただいま~っと」

 

「おお、帰ってきたかカケル」

 

「お帰りなさいませ、翔様」

 

リビングに入ると、私服に着替えた冥夜と、朝と変わらぬメイド服姿の月詠さんが迎えてくれた。

俺は特に慌てたりすることも無く普通に応対する。

 

 

「よう冥夜、やっぱりお前さんだったかい。それと月詠さん、約半日ぶりですね」

 

「はい、またお会いしましたね」

 

「む?驚かんのだな。それにカケルと月詠は、互いのことを知っておるのか?」

 

「ん。朝にちょっとあってな。一緒に朝飯作って、今日ここに高貴な身分の人が来るとか聞いたんだわ。そこに今日転校してきた冥夜という因子を加えれば、大まかに予想はつくさね」

 

これまた半分事実、半分ウソのセリフを聞かせる。

正直罪悪感はある。周囲の人間を皆騙してるようなものなのだから。

だが、俺自身の本当の事情は誰にも言えないし、言ってすぐ信じてもらえる内容でもない。

ゆえに俺は仕方ないと分かっててもウソをつく。それが自己擁護に過ぎなくても。

 

 

「そうであったのか」

 

「そうなんデス」

 

「あの時は私のほうが驚かされました。翔様は前触れも無く家の中にいた私に驚くことも無く、淡々と朝餉の準備を進めになられたのです。それに私が不審者とは思わないのですかと聞きますと、目がウソをついてないから信じる、と」

 

「なんと。それはまた豪胆な気質の持ち主なのだな、カケルは」

 

「月詠さんにも言ったけど、俺の感覚は普通のよりズレてるんだよ。だから余り驚くってことがないだけさ」

 

「それでも、私はそれが純粋にすごいことだと思うぞ」

 

「そっか・・・」

 

他人の手柄を自分のものとして褒められているような微妙な気分になり、堪らず俺は話題を転換する。

 

 

「それよか冥夜、一つ聞きたいんだが」

 

「む、何だ?何でも申せ」

 

「お前さんはどういった理由で俺んちに来たんだい?」

 

「うむ、その事か。月詠、例の物をここに」

 

「はい」

 

冥夜に促された月詠さんはいつの間にか取り出した一枚の紙を手に持ち、それを俺に手渡す。

書面を見てみると、デカデカと「不純異性交遊許可証」と綴られた文字と、その下にウチの親父と小湖首相の名前とハンコがそれぞれ押してあるのが目に映った。

これがあの伝説の許可証か。しかしチャランポラン親父と首相の名前が同じ場所にあるというのもシュールだな。

俺はそれをしげしげと眺めた後に尋ねる。

 

 

「つまりここにあるように、タケルと不純異性交遊をしに来たと?」

 

「うむ。我らがここを間借りする間、そなたらのご両親には海外旅行を楽しんでもらっておる」

 

「世界一周となっておりますので、お戻りは早くて年明けになるかと思われます」

 

「情報が全部食い違った旅行の謎が解けたわ」

 

全てのことを知っている俺ではあるが、知っててもこれは呆れる。

いきなり差し出された世界旅行に飛びついちゃう両親も、好きな男の為にここまで大規模なことを平然とやらかす御剣にも。

この世界にゃ良くも悪くも規格外な存在が多すぎやせんか?

 

 

「それにしてもエライもん携えてきやがったな・・・内閣総理大臣のサインとか」

 

「タケルとの未来を歩む為なら、私はどんな苦難の道でも進む覚悟がある。それに比べれば、この程度は苦難の内に入らん」

 

そう言う冥夜の表情は、それが当然!と言わんばかりの自信に溢れている。

小さい頃の約束を、片方が忘れているようなちっぽけな希望をカンダタの蜘蛛の糸の如く手繰り寄せ、ここまでしてくれる一途な少女。

目の前のそんな存在に想われているタケルが、少しだけうらやましく、同時に嫉妬を覚えた。

 

 

(俺も、いつも寂しかったあの頃に、こんな子と出会いたかったな・・・)

 

去来する前世の記憶。湧き上がる寂寥感。

様々な意味で何も持っていなかったあの頃を思い出しそうになり、夕暮れのように頭を大きく振った。

 

 

(なんで今日はこんなに欝にばっかなるかな・・・少なくとも今は違うんだ、今は過去のことは置いとこう)

 

「どうしたカケル?急に頭を振ったりして」

 

前に向き直ってみると、冥夜と月詠さんがふたりして怪訝そうな顔をしている。

会話の途中でいきなり頭を振ってればそりゃ変にも思うか。

 

 

「ん、何でもないよ。まぁ大体のトコは分かったし、親父たちも許可したみたいだからね。・・・ようこそ白銀家へ。歓迎するよ、冥夜」

 

そう言って俺は口の端を持ち上げて、朝のように冥夜に手を差し出す。

新しい始まりを記念して、ってな。

 

 

「うむ、これから世話になるぞ、カケル」

 

冥夜もは微笑を浮かべながら、がっちりと俺の手を握り返した。

何と無くだが、この握手の瞬間、ようやく俺も物語の中に加われたような気がした。

 

 

「勿論、月詠さんもね」

 

「まあ。わたくしの事も歓迎して下さるなんて、嬉しゅうございます。翔様」

 

と言って、月詠さんも同じように微笑みながら握手に応じてくれた。

それと月詠さん、無闇にその微笑を向けんでくだせえ。あなた学生キャラよりは俺の精神の年に近いんで、かなりキてしまいますから・・・。

 

そしてこの日は小規模ながら白銀家にて、冥夜と月詠さんの歓迎会が開催されたのであった。ご馳走美味かったです。

 

 

 

 

 

10月23日(火)

 

 

『だあああぁぁぁぁぁっ!!』

 

明けて翌朝、リビングにてまったりしていると、二階からタケルのバカ声が鳴り響く。

毎度毎度騒がなきゃ気がすまんのか、あ奴は。

 

 

「やっと起きたか、あの寝ぼすけ」

 

「この分ですと、どうやら冥夜様の作戦が成功したみたいですわね」

 

「作戦て、また布団に潜り込んだとか?」

 

「ご名答ですわ」

 

「ムッツリ君には極めて有効な作戦ですな。いつまでもつか見ものだな、腐腐☆」

 

リビングでジョギング後の牛乳をチビチビ飲みながら、俺と月詠さんはそんな他愛も無い会話を楽しむのだった。

やがて下りてきたタケルと冥夜を加えて3人で食卓を囲む。残念ながら月詠さんは侍従という立場上、主人と一緒に食事は出来ないとか。惜しい。

 

 

「なぁカケル。俺の目がおかしくなって無いなら、この部屋の中にメイドさんがいるように見えるんだが・・・」

 

「タケル、前々から危ないとは思ってたけど、とうとう頭の中がソッチ方面のことでいっぱいになっちゃった・・・。可哀想に、月に一度くらいは病室に行って見舞いの品食い尽くしてやるからね」

 

よよよ、と目の辺りを片手で覆って泣き崩れる真似をする。

 

 

「うおーい!?いきなり脳の心配されたよ!!つか後半何かおかしかったよ!?」

 

「翔様お戯れを。武様が混乱しておられますよ?」

 

「残念。もうちょっとでタケルを自分が妄想癖のある人間だって騙せるかと思ったのに」

 

「お前はいつもいつもよぅ!!」

 

キレたタケルが襲い掛かってきたので、受け流して転ばせた後サソリ固めをかける。しかも長州力の元祖のやつ。

「運動」だの「体力」だのが最も縁遠い言葉であるお前に後れを取るほど軟じゃないんだなこれが。・・・・・・その程度のパワーで俺に勝てると思っていたのか!(一度言ってみたかった)

 

 

「あ゛~~~~っ!!!ギブ!ギブぅ!」

 

「ギブ?なに、もっとか。そ~れ」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!そっちのギブじゃねぇぇぇぇっ!!」

 

「二人は兄弟仲がいいのだな」

 

「ええ。朝からあんなに楽しそうに」

 

などと言ってらっしゃる主従コンビ。少しだけこの人らが遠い世界の住人なんだと思えた。

価値観や感覚の違いって言葉だけじゃ測れない何かを感じたよ。

 

 

タケルを解放して冥夜に布団侵入禁止令が出された頃、例の如く玄関ドアの向こうから喧しい声が聞こえてきた。

冥夜の許可をもらった月詠さんがチェーンロックを開けると、弾丸の如きスピードで純夏が飛び込んでくる。

 

 

「おはようカケルちゃん!おわっ、タケルちゃんまで起きてる!しかもご飯まで食べてる!!」

 

「俺が起きてたらいけないのかよ」

 

「用意させるゆえ、鑑も一緒にどうだ?今朝の献立は中々のものだぞ」

 

「本日は、松輪より良い真鯖が届きまして」

 

「え、え?まつわ?まさば?」

 

「松輪は神奈川県の三浦半島にある地名、真鯖はそこの特産品だ」

 

「そーなのかー。カケルちゃん物知り・・・じゃなくて!」

 

見事にノリ突っ込みする純夏。小さい頃から少しずつ教えてきた甲斐があったわい。

突っ込みの何たるかをあれこれ言い聞かせてきたからなぁ。言葉的意味でも物理的意味でも。

俺が努力の実りに感動している中、隣では二人が冥夜に「不純異性交遊許可証」を見せられてアホのように騒ぎ立てている。

 

 

「カケル、お前は何でんなに平然としてんだよ!?」

 

「昨日一回見せられたし、家主である親父が許した以上俺らが口出しすることでもないでしょ」

 

「そういう事だ。これらを行うに当たって万事抜かりは無いぞタケル。・・・そ、それはそうとタケル、そなたはもう少し、その・・・優しくするがよい」

 

「は?」

 

「あ、いや、胸を触るのは構わないのだ。むしろ嬉しい。ただ、もう少し手加減を頼む。今朝は少々、痛かったぞ?」

 

「は・・・・・・はあああああっ!?」

 

「男子たるもの、夜の営みにおいては多少粗野な方が良いとは聞いておるので、そこは構わんのだが・・・な、何分初めてだったもので、戸惑ってしまうところも有ってだな・・・」

 

「な、な、な、な・・・」

 

心から思う。こちらの御剣冥夜嬢は、実に爆弾発言の宝庫だと。

 

 

「まぁ、何と荒々しい!武様、男らしいですわ!」

 

「ちょ、ま、ええええ!?!?」

 

月詠さんのナイスアシスト。タケルは未だに脳が状況を理解しきれていないようだ。

好機を逃すものかと、俺も流れに乗っかる。俺はこういう爆弾に火をつけるのが大好きなのだから。

 

 

「タケルはベッドの上だと性格変わるタイプだったのか。普段はヘタレなのに」

 

「おまっ!ヘタっ!?」

 

混乱が極まって言語能力が機能していないらしいな。良い傾向だ。

 

頬を赤らめる冥夜。喜んでいる月詠さん。大慌てのタケル。外的要素として邪笑する俺。正にカオスだ。

現在リビングでは冥夜を中心に絶対桃色領域、APフィールドが展開されている。ラブコメ率99.89%である。それなんてギャルゲ?って元々ギャルゲか。

 

だが、100パーセントではない。残りの0.11%がここには存在しており、現在それは急速に膨れ上がっていたりする。

そう。最後の要素、暗いオーラを纏った鑑純夏嬢が。

 

 

「タ~~ケ~~ル~~ちゅ~~わぁ~~ん?」

 

まるで地獄の底から響くような昏い声。

本能に訴えるような恐怖に正気に戻ったタケルがギ、ギ、ギと油の切れた機械の如く振り向く。

そこに居たのはエルクゥもかくやという「鬼」だった。

 

 

「覚悟は、出来てるよね・・・?」

 

「ま、待て純夏!これは誤解なんだ!」

 

「5回もしたのか?すげえなぁ。お前に絶倫男の称号を進呈するよ」

 

「お前はだぁってろカケル!!!純夏頼む、俺を信じて・・・」

 

「バカーーーーーーーーッ!!!!!」

 

ズドギャーーーーンッ!!

 

「くれねぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

いつも通りの断末魔を残して、タケルは横方向に回転しながら外に吹っ飛んでった。

 

素晴らしい朝の一幕を見終わり、俺の心は実に晴々としている。昨日の欝がウソのように。

やっぱりこいつらは最高だ。いろんな意味で。

さ、今日も平和にまったり過ごしましょうかね。

 

 

「綺麗にまとめてんじゃねぇよ・・・がくっ」

 

 

 

 

 




次回も楽しみに〜
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