マブラヴEXTRA 〜白銀武の双子〜   作:Gセイバー

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それではどうぞ〜


第5話

 

自宅前に停まってた60メートル級リムジンを見送ってから、俺らは今日も登校する。

あの巨体が「曲がっていく」所を直視してしまったシーンは一刻も早く忘れようと思う。心の安寧に良くないな。

 

 

 

 

雲も無く程よく晴れた朝。

その空の遥か下、高台の高校に続く坂を上る4人の学生が歩いている。ただし、少々歪に。

 

「おい純夏、いい加減に離れろっての」

 

「や」

 

「冥夜も手ぇ離してくれね?」

 

「そなたと共に歩くことに、何の問題がある?」

 

「だーかーらー・・・」

 

男2人女2人のバランスの取れている集団だが、その女性2人は一人の男を奪い合うかのようにその身を引き寄せあっている。

本人の意思はどうだか知らないが、少なくともそれは傍から見れば女の子を両腕に侍らせているスケコマシに映ること請け合いと言えるだろう」

 

「おい、カケル。途中から声に出てるんだが」

 

「おっとつい本音が。まぁ気にするなよスケコマシ」

 

「誰がスケコマシだ!こちとら望んでこんな状態になっちゃいねぇっつの!」

 

「じゃあジゴロ」

 

「意味同じだろそれ!」

 

知らんがな。ギャルゲ主人公がヒロインにくっつかれるのを嫌がってんじゃねぇやい。

特にテメェは無意識にそういうのをやるから性質が悪いんじゃ。このフラグ野郎が。

 

おおっといかんいかん、プレイヤーだった頃の負の感情が湧き出てきやがった。

もっとKOOLに行かないとな。

 

 

「あっそうか!分かったぞカケル!」

 

「あん?」

 

俺が心構えを新たにしていると、いきなり我が意を得たと言いたそうなうざってぇ顔をしたタケルがそんなことを言ってきた。

 

 

「お前自分が女の子とこういう風になった事無いからって、俺が羨ましいんだな!だからんなこと言ってきてんだろ!」

 

いや、別にそれに限ったわけでもないんだが。お前の事弄るのなんてもはや日常茶飯事だろて。おじさん精神の俺に今更羨むような心は殆どありゃしない。

ところがこの勘違い野郎はまったく止まる気配が無い。

いつもやられてるの事の仕返しのつもりだろうか?

 

 

「いやぁ悪いね~。目の前でこんな所見せ付けちまってさ~」

 

両側の二人を見せ付けるように引き寄せるタケル。

純夏と冥夜は何が起きているのか分かってないが、タケルが自分達を近づけているという事実に頬を赤らめてらっしゃる。

更に続けるタケル。

 

 

「まぁお前にもいつかこういう事できる日が来るんじゃね?その性格で来るかは知らないけどさ~」

 

やべい。うざい。殺したい。

『その通り だから余計に 腹が立ち』という訳じゃないが、ここまで調子に乗られてムカつかないなんて選択肢はあるまいよ。

つかそのニヤケ顔が冗談抜きでうざい。殺意すら覚えるわ。

 

やれやれ、ここまで言われたからにはただじゃ済まさないよタケル。テメーは調子に乗りすぎた。

年季の違いってヤツを見せてやろうじゃねぇか。

 

 

「まぁ確かにな。生まれてこの方、女性にそんな風に寄られたことはないな」

 

「あれ?認めんのかよ。女日照りは大変だねぇ」

 

「まあ同時に、男に寄られた事も無いがね。お前みたく」

 

時が止まった。あ、でも違う。音は無いけどタケルが目を見開いている。

 

 

「はあああ!?何をいきなり言ってんだ!?俺がいつそんなことしたんだよ?」

 

覚えが無いとは言わせんよ。こちとら元は全てを知るカミサマ同然の立場だったんだから。

 

 

「中学2年。男の先輩。体育館裏。さて、これなーんだ?」

 

今までで最大級の邪笑を浮かべて俺は言う。

言われたタケルは顔中から汗が流れている。あれは間違いなく脂汗だ。

 

 

「何で知ってんだ!?あれは誰にも言った事は・・・はっ!?」

 

語るに落ちたな。今まで主張してるかのようにくっついていた純夏も、しっかりと手を握り締めていた冥夜も、不審者を見る目つきで武から微妙に距離を取っている。

俺に口で勝とうとしたのがそもそもの間違いだ。20年早いんだよ、小童。

にしても僅かこれだけの語りでラブコメ空間を破壊できる自分の才能が怖いw

 

 

「あわわわわ・・・タケルちゃんて変態さんだったの!?」

 

「タケル、そなたの事は何でも知っているつもりであったが・・・そなたは衆道者であったのか?」

 

青ざめた顔のヒロイン二名。

好意を抱く男がモーホーさんだった。これほどショックなこともあるまい。

そしてノンケにも関わらずその疑いを持たれてしまった男は殊更に。

 

 

「ま、待て!?あれは違うんだ!あれは俺がしたんじゃない!」

 

「ほうほう。した方じゃないって事は、つまりお前は受けなんだな。後ろはもう開発済みかい?」

 

「だまりゃああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

ざまぁみさらせ。俺にそんな偉ぶった口を叩くから悪いのだよ武。フゥハッハッハッハァー!あ〜う☆(^qメ)

 

青筋を浮かべて鬼の形相で追いかけてくる武からすたこらさっさと逃げる。掴まってもやられるつもりはないけどね。

そんな中遥か後方から車の低いエンジン音が耳に届いてくる。

ん?なんだかやな予感がするんだが。

 

 

「確かこの後は・・・あ、そうだった。こうしちゃいられん。ふっ」

 

「ぺろぽねそすっ!?」

 

急にスピードを落として地面に低くしゃがみ込んで勢いを殺す。その時後ろに居たタケルが俺に引っかかってすっ転んだが、この際無視。

ズシャアアアアア!と顔面から落ちたようなすんごい音がしたけど、大気圏の突破と再突入を普通にこなすあいつのボディならきっと無事だろて。

 

 

「おお!あれこそ古来忍者が逃走に用いたと言う『狸退き』!この目で直に見られるとは!」

 

冥夜が何だか感激したような声を上げている。侍なのになして忍術に詳しいんだろう?時代劇かな?

 

 

「狸の木?たぬきが木から生えるの?」

 

純夏、お前はいつまでもピュアなままで居てくれよ。アホの子じゃないお前はお前じゃないんだから。

 

さておき。

 

 

「純夏、お前の右足の下に黒くてでっかいゴキが!」

 

「キャーーーーーっ!!どこどこどこどこ!?」

 

俺は純夏の足元を指差して大声で言う。仰天した純夏は慌てて歩道側に飛び退る。いい動きしてるぜ。

ゴキが平気な女の子なんてそうはいないからな、咄嗟に言ったがうまくいったわい。

 

そして次の瞬間、ランチアストラトスがたった今まで純夏の歩いていた所を、道交法に喧嘩を売る速度で通過していった。

間一髪、純夏轢き逃げ事件は回避されたのである。

ギャグ補正の力と原作知識からたとえ起こっても無事だとは知っているが、やはり直に見て気分のいいものではない。

それに俺の前世での死亡原因も交通事故だったから、わざわざ起こると分かってて見逃したくは無かった。

間に合って良かった・・・。

 

 

「鑑、大丈夫か!?」

 

さっきとは別な意味で顔色を真っ青にした冥夜が純夏に詰め寄っている。

目の前で人身事故が起き掛けたのだ、至極自然な反応だろう。

でも当の本人はと言うと

 

 

「ねぇカケルちゃん!ゴキどこ!?ゴキどこ!?」

 

涙目な状態で俺に急速接近してそう聞いてきた。あくまでゴキの事だけを。

おい純夏さんや、例の黒いヤツが嫌いなのは分かるが、自分の周囲で何が起きたのかちっとは分かろうや・・・。

 

 

「いや悪い、見間違いだったみたいだ」

 

「んもー!脅かさないでよね!本気でびっくりしたんだから!」

 

プンプンと怒りながらそうおっしゃる純夏さん。

おじさんはお前の天然っぷりにびっくりだ。まだ気が付かんのかい。

 

 

「鑑、無事か!?」

 

「ふえ?どうしたの御剣さん?」

 

「何を言っている、今車に轢かれかけたではないか!」

 

「え・・・えええええええ!?」

 

地面に付いたタイヤ痕と、少し先のほうに停まっているストラトスを目にしてようやく気が付いたらしく、純夏はあごも外れよ言わんばかりに大きく口を開く。

ああ、そうか。これが純夏の真骨頂なんだな。もう笑うしか出来ないよ、ははははは・・・。

 

とかしてる内に、停車したストラトスから一人の人影が降りてくる。

 

 

「あらカケル、おはよ」

 

「おはようさんです夕呼先生。して、110番される前に言っておきたいことはありますか?」

 

と、俺はその教師らしからぬ格好の女性教師、香月夕呼先生に尋ねるのだった。感情を込めずに言うところがミソだ。

 

 

「何よ、無事に済んだんだから良いじゃないの。鑑だって今の今まで気づいてなかったんだしィ~」

 

「笑いながら言っていいことじゃないでしょ、それは!」

 

リカバリーがあらかた済んだのか、復活したタケルがいきなり話に混ざってきた。コイツが居るのを半分くらい忘れてた事は忘れておこう。

 

 

「どーしたのよ白銀ぇ~?まるで顔面から地面に落ちて擦りむいたみたいなとんでもない顔してるじゃない」

 

そのものスバリだよ夕呼先生。いい観察眼だ。

 

 

「カケル、こちらの婦人は教師、なのか?」

 

思い切り疑念を込めた声で聞いてくる冥夜。

そりゃ普通こんな破天荒な人物が教師だと思うやつはそうはおるまい。

 

 

「ああ。この人は白陵で物理教師をしてる香月夕呼先生だ。座右の銘は『天上天下唯我独尊』だ」

 

「あたしはそんなモン一度だって言ったことは無いわよ」

 

「普段の行動が全てを物語ってるでしょーが」

 

自分こそが世界のルールだと言わんばかりの滅茶苦茶な事を平然とやらかすあなたが何をおっしゃるウサギさん。

 

 

「相変わらず言ってくれるわね~。それより、コレが噂の転校生?」

 

彼女は微妙に眉根を寄せた後、冥夜の姿が目に留まったらしく、遠慮のえの字もない視線で見回している。

にしても言っちまったな香月さん。これでアンタは一回休みだ。

 

 

「ご訂正なさいませ。御剣財閥の次期当主をコレ呼ばわりとは、聞き捨てなりません」

 

風が吹いた。そう感じた時には、もう香月女史の後ろに小刀を持った月詠さんが立っていた。

そしてやっぱり今どこから現れたのか確認できなかった。

主人が規格外なら従者も規格外である。

 

 

「下がれ、月詠」

 

「ですが、冥夜様・・・」

 

「よい。今の私は一介の学園生だ。先の香月教諭の言葉、何の問題もない」

 

「はっ・・・出過ぎた真似を」

 

冥夜に命じられると、刀を下ろした月詠さんが主共々香月女史に頭を下げ、そしてまた風のように消えた。

動体視力を鍛えてみれば・・・やめとこう、何故だかしても無意味な気がする。宇宙の法則にケンカ売ってる気になった。

 

 

「ところで御剣財閥って?」

 

「私の生家だ」

 

「タケルが言外に自分をアホだと認めたようです」

 

「何でだよ!?」

 

「日本でも有数の巨大財閥の名前を一度も聞いたことない奴なんてただのアホだろ」

 

「私がご説明致しましょう」

 

「んげっ!月詠さん!?」

 

またしても瞬時に現れて御剣財閥の何たるかを説明しだす月詠さん。

むしろ俺はどうやって音も無くいきなり現れるのかのメカニズムの説明をしてほしいんだが。

そして冥夜がその財閥の次期当主であること。及び御剣財閥の歴史が延々語られる。

 

そしてその隙に俺は気絶してる夕呼先生を担いで先に行くことにした。

ぶっちゃけこんなトコで15分経過するまで待ってたくなかったからね。

 

 

 

 

 

んで、物理準備室に向かってると、途中で目を覚ましたのか香月さんがもぞもぞと身動きし始めた。

 

 

「ん・・・ん?ちょっとなんなのよコレ」

 

「気が付きましたか」

 

「その声はカケルね?早く下ろしなさい」

 

「うい」

 

言われたとおりにゆっくりと床に下ろす。こんな人でも女性だからな。

まぁ正確に言うと、乱雑に扱ったら後で報復される気がするからだが。

 

 

「ふぅ。にしてもアンタ、女を米俵担ぎするなんてどういった了見?失礼よ」

 

「どういった方法なら良かったんです?」

 

「そりゃアンタおんぶとか、お姫様抱っことかしたら注目されたんじゃない?」

 

にやにやと笑いながらんな事をおっしゃる香月サン。

その手を食うのはタケルの役目だ。

 

 

「冗談でしょ?よりにもよって夕呼先生をんなやり方で運んでたりした日にゃ、どんな風説が蔓延るやら」

 

「はん、こんな美女を運ぶ機会なんて滅多に無いわよ?惜しい真似したわね」

 

「見た目美女でも中身がな・・・」

 

「なんか言った?」

 

「いえ別に」

 

そこまでやり取りを終えると、溜息を吐き出す夕呼先生。目の前で何だよいきなり。

 

 

「ホントにアンタってつまんないわねぇ。ガキのクセにみょーに枯れ果ててるし」

 

「人をジジイみたく言わんで下さい」

 

俺はまだ38だ。・・・うん、自分で言ってやけに空しくなったよ。

「見た目は若者、中身はおっさん」っていう新しいフレーズには・・・ならないだろうなぁ。

 

 

「ってかそうだ、アタシのストラトス道路に置きっぱじゃない!」

 

「早く行かないとレッカーが来るかも知れませんね。どう見ても迷惑駐車だし」

 

俺はしれっと言ってのける。

 

 

「アンタ分かっててやったわね!?」

 

「人身事故の賠償金よりは駐車違反の罰金のが少ないんだし、良いでしょう?こう見えて俺は怒ってるんですよ」

 

妹みたく可愛がってる幼馴染を轢きかけたんだ、この程度の意趣返しで済ますのは軽いくらいだわい。

 

 

「チィッ。覚えてなさいカケル!」

 

「気が向けば忘れないでおきますよ」

 

小物っぽい捨て台詞を吐き、ダッシュで校門前まで向かう香月さんを見送った後、俺はのんびりとB組の教室へと向かうのだった。

 

 

「おはよっす珠瀬~」

 

「あっ、あまつさん。おはようございま…ふにゃぁぁぁ~~」

 

そして到着後、例によって珠瀬の頭を撫でるのだった。

 

 

 

 

 

昼休み。一日の学校の時間の中で最も長く、もっともくつろげる休み時間。

俺たちは弁当を持ち寄って机を寄せ合い、固まって弁当を食べる。

純夏が昨日と同じ構成の弁当持ってきたり、冥夜が豪華松茸御膳を持ってきたり、二者択一の選択を決められずに結局両方食うことにしたバカがいたりというシーンはあったが、概ね平和だった。

現在は俺、武、純夏、冥夜、珠瀬の5人で一塊になって駄弁っている。

 

 

「それでね、冥夜ちゃんが来るより先週に、文化祭でお店を開いたんだよー」

 

「文化祭?祭の字が入っているという事は、学校で神輿を担いだりしたのか?」

 

「違う違う。俺らのやる文化祭ってのは・・・」

 

昼休み、俺たちは机を寄せて持ってきた弁当を食べている。

その途中で冥夜が来る2,3日前まで行われてた文化祭のことを純夏が話し出した。

冥夜はその話に興味深そうに食いついている。

 

 

「成程、クラスや倶楽部ごとに娯楽や食事の店を開いたりする行事なのか」

 

「うん。私たちのクラスはね、『ダンシング焼きそば喫茶』をやったんだ」

 

「だんしんぐ・・・何?」

 

「もぐもぐ・・・『ダンシング焼きそば喫茶』だよー。焼きそば屋さんだけが最初は企画されてたんだけど、かけるさんが途中から企画を増やしたんだー」

 

俺の名前がそこで出ると、冥夜が俺に視線を向けてきた。

 

 

「カケルがか?」

 

「ああ。ただ単に模擬店だけやっても客の入りは増えないからな」

 

「コイツが途中から『歌って踊れる焼きそば屋にしようぜ!』とか言い出して、純夏たち集めてダンスの練習始めたんだよ。何考えてんだと思ったよあの時は」

 

「うるせえよタケル」

 

「私は結構楽しかったけどな~。あれなんて名前の踊りだっけカケルちゃん?」

 

「『ハレ晴れユカイ』だ」

 

そう。ぶっちゃけた話文化祭で焼きそば屋なんぞやっても在り来たりすぎて集客率が悪いと思い、未来知識を使うことにしたんだなこれが。

音楽は軽音楽部に依頼して何とか近いものを用意。

消えかけてる記憶を総動員して振り付けを思い出し、時間の許す限りメンバーで練習を繰り返した。

 

出来ればマブラヴメインヒロイン5人でやりたいとも思ったが、当然冥夜は居る筈なく、榊さんはやや難色を示したのでパス。

なので、メンバーは純夏、彩峰、珠瀬の3人で、本来の5人ではなく青い髪のオタク少女が喫茶店のバイトでやった略式のものになった。

彩峰は焼きそばパン1日5個を報酬に契約を結んだ。このときに壮絶な交渉合戦があったことはここでは割愛しよう。

 

衣装は鑑にヘアバンドと「団長」腕章、彩峰に黒いマントと魔女帽子、珠瀬に最小サイズのメイド服を渡した。

体の某部分の大きさで言うなら彩峰がメイドかとも思ったが、他に寡黙キャラに適任な人物はおらず無理。

ある意味“逆”朝○奈さん体型といっても過言ではない珠瀬にメイド服を渡したのは必然であった。本人には言えないけど。

短い練習期間にもめげず、何とか完成させたダンスを店内で披露したところ、これが大当たり。客の大雪崩が発生した。

いつの時代も人を引き寄せるのは女性と歌だからな。相乗効果は半端じゃない。踊りが加われば尚更だ。

結果として我が3年B組は後夜祭の売り上げ集計で、見事クラス別部門一位に輝いたのだった。懐が暖かいです。

 

 

「そのようなことがあったのか。私も一度見てみたかったな」

 

「そのときの映像がウチに置いてあるから、後で一緒に見ようよ御剣さん」

 

「おおそうか。鑑、そなたに感謝を」

 

「あ、私も見たいですー」

 

「じゃあ壬姫ちゃんも一緒にね。ふんふんふふん、ある~晴れ~た日~のこと~♪」

 

一番の主役を任されたからか、純夏はえらくあれを気に入ったようだった。

と、不意に肩を揺らし始める純夏。

 

 

「そ、それとね・・・もう一つ面白いものが・・・うぷぷぷ」

 

「鑑?そなた何故笑っておるのだ?」

 

「だ、だって・・・ぷははは!だめだよ、思い出したらお腹が、あはははははは!」

 

急に腹を抱えて笑い出す純夏。どうやらツボに嵌ったようでしばらく帰ってこんなこりゃ。

 

 

「あー、多分あれの事だな。思い出してんのは」

 

「カケル、鑑は一体どうしたというのだ?」

 

「いやまぁ、今の話の裏の事というか何と言うか」

 

実はこの話には続きがある。

「ハレ晴れ」はかなり激しく体を動かすダンスなので、はっきり言って1日中女の子たちをステージに立たせ続けるのは無理があった。珠瀬は特に。

ので、午前と午後に時間を分け、午前の部を「ハレ晴れ」に。午後の部では他のものをすることになったのだ。

 

まず俺が自分で自分に白羽の矢を立てた。勝手に企画増やした責任もあったしね。

なし崩しに、というか強制的に武も参加させた。

拒否はされなかったのかって?元よりコイツにんなものはないよ。

そして2人で出来るものは何か無いかと思っていた時に思いついたのが・・・

 

 

「何で俺がヒゲダンスしなきゃならなかったんだ・・・」

 

「往年の名作を馬鹿にする気か貴様」

 

「そういう話じゃねぇ!」

 

『B組名物 白銀ツインズによるヒゲダンス』である。思いついたときはキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!! って顔になったっけなぁ。

 

燕尾服着て付け髭つけて、独特なあの動きで登場した時はその時点で観客に大ウケ。

一通りプログラムが終わった後は大爆笑を巻き起こし、別な意味で大当たりしたのだった。

純夏がこうして大笑いしてるのを見るにしても、やった甲斐はあったというものだ。

 

 

「機会があるならまたやりたいな」

 

「二度とやって堪るかあんなモン!!絶対に御免だ!!」

 

「なしてそこまで嫌がりますかねタケル君?何かいやな思い出でもできたんかい?」

 

大変だったんだぞ?純夏達の練習を監督しつつ自分の練習もすんのは。それでも楽しかったじゃないか。

 

 

「お・ま・え・の・せ・い・で・な!本番の時、渡された台本のとおりになんて殆ど進まなかったじゃねぇか!!」

 

「ああいうのは多少即興でやった方がウケるんだよ。アドリブだアドリブ」

 

「お前は即興で顔に投げるパイを用意出来んのか!!どう見ても前もって独断で計画してたろうが!!被害にあったの俺だけだし!」

 

「次のバカ殿様やるのっていつだったかなぁ」

 

「話を聞けぇぇぇぇぇっ!!」

 

聞きたくない。

 

 

「あ、そうだ。冥夜、少しだけなら当時のコントの再現できるぜ」

 

その時ふとあることを思い出した俺は、興味深そうに話を聞いていた冥夜にそう言う。

 

 

「真か?ならば見てみたいのだが」

 

「おっけ〜。ちょっと待ってな」

 

立ち上がり、教室の前のほうに歩いていく。そしてカーテンの陰に隠れるように存在していた紐を見つける。

 

 

「よし。お~い皆の衆。タケルに注目だ」

 

教室にいるほかのクラスメート達に呼びかける。

何事かと思いつつも、皆一斉に武へと視線を向ける。

全員の目がそちらを向いたことを確認し、俺は思い切りその紐を引っ張った。

 

 

「あらよっと」

 

ぐいっとな。

 

ヒュ~ン・・・グワァ~~ンッ!!

 

「ハチジダヨッ!?」

 

真上から降ってきた金ダライが見事、武の頭頂部にクリティカルヒット。

直後、教室内は爆笑の渦に飲み込まれる。ドリフターズは最高だ。

 

これは文化祭のときに使った仕掛けをこっそり残しておき、かつポイントをタケルの机のところにセットしておいてそのまま忘れてたものだ。

何故ずっとばれなかったのかって?細かいこと気にしちゃいけませんよ。

さてメモメモ、「ネタとしての金ダライはまだいける」っと。

 

 

「あはははは!タ、タケルちゃんの今の顔、あっははははは!」

 

爆笑する純夏。チアノーゼを起こさないか心配だ。

 

 

「うーむ、「こんと」というのはいきなり起こる物なのだな。驚いてしまった」

 

微妙にズレた事を言っている冥夜。世間ズレしているお嬢様に名作コントはハイブロウだったかな。

と、頭を両手で押さえていた武が突然立ち上がった。

怒りがオーバーリミットしたらしく、顔を真っ赤にして猛然と俺に走り寄ってくる。コッチ来んな。

 

 

「やろう、ぶっころしてやる!!!」

 

「やべっ」

 

ぶち切れたタケルの猛攻を回避しながら、ちゃっかり自分の弁当を持って俺は笑いが渦巻く教室から退避する。

 

 

「そんじゃな」

 

「待てやゴラァァァァァァッ!!」

 

 

 

 

 

「ふう、やっと撒いたか」

 

いつもよりしつこく追いかけてきたタケルを振り切り、俺は屋上に避難してきた。

怒りがエネルギー源になってか普段より高速を出してたが、鍛えてない体のスタミナはそう多いモンじゃない。どう頑張ろうと、限界はあっという間にやってくる。

走ってる間にスタミナが尽きたらしく、途中で蹲ったところでタケルから逃げ切った。あの分なら今頃脇腹の痛みと格闘してる頃だろう。

今戻っても教室で鉢合わせるのは目に見えてるので、ここで弁当の残りを食うことにした。

 

 

「ん?あれは・・・よう彩峰。お前もいたのか」

 

「・・・翔」

 

話しかけた相手は彩峰慧。

お祭り騒ぎ大好きなB組の中で孤高を保つ、一匹狼という言葉がめっちゃ似合う焼きそば大好きっ子。生意気なほうの猫娘。

何故かフェンスの上によくよじ登っている。

 

 

「なんか用?」

 

「いや別に。走りまわってるうちにここに来ちまっただけさ」

 

「そう」

 

言葉少なげに

会話終了。どうにもこの不思議っ子とは長く話が続かない。

気は合う方だと思うんだがなぁ。

 

などと考え、俺は弁当箱の包みを開く。

俺は自分の昼飯の弁当は自分で製作している。

最初は純夏が俺のも一緒に作ってくれると言ってくれたが、自己の料理の腕の修行のためだと言ってお琴割り…じゃない、お断りした。

実際料理作りは数少ない趣味と言えるものであり、そこそこの腕もあると自負している。

日々是修行だ。

 

 

「ここは、私の領地。使うのなら使用料としてやきそばパンをもらう」

 

「誰が払うか、バカ」

 

「3コ」

 

「しかも暴利なんかい。とんだ悪徳領主だな」

 

「にやり・・・」

 

「口で言ってる口で言ってる」

 

普段はボケのはずの俺が、何故かコイツと話してると突っ込みに回ってしまう。

気が付くたびに立場を逆にしようとしても、それが叶ったことは殆ど無い。何でだ・・・。

と、彩峰がフェンスから降りてきて俺の隣にしゃがみこむ。

 

 

「代わりとして、天の弁当の中身を分割譲渡でもいい」

 

「しかたないなー。ほい」

 

おかずの所から卵焼きを一個摘んでパスする。

受け取ったそれをすぐさま口に入れて租借する彩峰。

 

 

「焼きそばパンが主食のお前さんが、自分から他のもの食うだなんて珍しいな」

 

「当然焼きそばパンは究極の一[アルティメットワン]。でも、偶には変わったものも食べたくなる」

 

「人の弁当もらっといて変わったもの呼ばわりとは言うじゃないか」

 

「それほどでもない」

 

「褒めてない。これっぽっちも褒めてないよ?」

 

「にやり・・・」

 

「だから口で言ってるって」

 

・・・なんとなくだが分かった。コイツに舌戦ではまず勝てないと、言葉ではなく心で理解できた。

 

 

「で、その変わったものの味のほうはどんなだ?」

 

「・・・一応、食べられはする」

 

「素直に美味いと言わんかい。人の自信作扱き下ろしやがってからに」

 

「おいしーおいしー」

 

「誠意のかけらもねえ賛辞だな」

 

もうやだこの人・・・。

 

 

「そういやお前さん、昨日はずっと来なかったみたいだが、やっぱここにいたのか?」

 

「昨日は・・・道に迷ってた」

 

「人生と言う道にか?」

 

「・・・何故わかったの」

 

冗談半分で言った事が当たっていたらしい。マジかよ。

でも実際、コイツは家庭の事とか知り合いの事とかで色々大変らしいんだよな。

普段の言動はその裏返しとかだったと記憶している。

 

 

「まぁ道だろうと人生だろうと好きなモンに迷ってて構わんが、なんかあったら俺が話くらいは聞いてやるよ」

 

「昔々ある所に、お爺さんとお婆さんが・・・」

 

「誰が昔話を聞いてやると言ったか」

 

ああもう、付き合ってられん。

俺はとっとと残りの飯をかき込んで食いつくし、弁当箱を片付けて立ち上がる。

 

 

「そんじゃあな、俺は行くぜ」

 

「ん。・・・翔」

 

ん?まだ何かあんのか。

 

 

「卵焼きおいしかったよ」

 

「・・・最初から素直にそう言えよな」

 

へその曲がった娘だよ、ホントに。

まぁ悪い気分はしないがな。

 

 

「焼きそばパンにはちょっととても遠く及ばないけど」

 

前言撤回。

 

「ソースの塩分を取りすぎて腎臓病になっちまえ」

 

「にやり・・・」

 

もう突っ込むまい。ただそれだけを思い、俺は屋上を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

放課後。

本日の掃除当番にヒットした武を廊下で待っていると、向こうから香月さんがやって来た。

朝の仕返しにでも来たかと思い、少しだけ身構える。が、それは徒労に終わった。

 

 

「やっほーカケル~」

 

気の抜ける挨拶。同時に力も抜けた気がする。

 

 

「あなたは俺の友達か何かですか。仮にも教師が「やっほー」はないでしょ」

 

「どうでもいい事気にしてんじゃないわよ。それよりアンタに聞きたいことがあってね」

 

「なんざんしょ?」

 

「朝はアンタにランニングさせられて時間が作れなかったけど・・・アンタ、あの天下の御剣財閥の人間が、白銀みたいな一般人に近づいてきた訳とか、分かる?」

 

あの程度の距離でランニング?だったら俺が毎朝してんのはフルマラソンだわい。

まぁそれはさておき。ここは無難な答えで返すとしようか。

 

 

「そりゃあ自業自得でしょうが。理由なら、昨日不純異性交遊をしに来たと冥夜本人から聞かされましたよ」

 

「あたしが聞きたいのはそんな後付の理由じゃないわよ。あたしが知りたいのはきっかけの方よ」

 

「きっかけ、ですか。・・・少なくとも俺は存じませんが、まぁ二人の間に何かあったんでしょう」

 

「アンタも知らないって訳?」

 

「そうなります」

 

そのままじぃ~っと俺を疑念に満ちた目で見つめる香月さん。

残念だが、話すわけにはいかんよ。これは他者が面白半分で口を出していいものではないんだ。

どうしても知りたきゃご自分で、ってな。

 

 

「アンタは何か隠してそうだと思ったんだけどね~・・・気のせいだったのかしら?」

 

「(変な所で鋭い人だな・・・)まぁいずれ明らかになるんじゃないかと思いますよ」

 

「あたしは人より早く知りたいのよ。こんな面白くなりそうな事を放っておく気もないわ」

 

「人の恋路を邪魔する奴は、という言葉もありますがね」

 

「蹴られる程近付くやつがバカなのよ。離れて見てりゃ面白いだけなんだから」

 

「快楽主義は行き過ぎると身を滅ぼしますよ。俺が余り言えたことじゃないかも知れませんがね」

 

タケルちゃん弄りは日課どころか、息をするも同然にやるようになったからなー。

最近じゃ楽しさ優先でやるのがクセになったし、少し気をつけるか。

 

 

「そこで『辞める』って言わない時点で、あんたはあたしと同類よ」

 

「人の思考を勝手に読まんで下さい」

 

そりゃあなたじゃなくてあなたの助手の能力でしょうが。しかも異世界の。

 

 

「ま、いっか。今日はこの位にしといてあげるわカケル」

 

「そりゃあどうも」

 

「それと、朝の事はしつこくは言わないけど、忘れないからね・・・?」

 

やけに暗い声でそれだけ言い残し、香月さんは去っていった。

結局罰金払わされたのかも知れんが、まぁ気にしないでおこう。

 

 

「カケルちゃん、掃除終わったよ~」

 

「ん、ほいじゃあ帰ろうかね」

 

教室から出てきた三人と合流し、下駄箱に向かう。

その下駄箱で鎧衣の下駄箱におホモ達からの手紙が入ってるのを見つけて、俺が「実は偽名を使ってタケルが書いたんだろ」とか言って場を混沌の渦に叩き込んだり、朝の騒動を思い出した純夏と冥夜からタケルが距離を取られたり、再びぶち切れたタケルが襲い掛かってきたりしたが、極めて平凡な一日の終わりであったとさ」

 

「どこが平凡だぁぁぁっ!!待ちやがれカケルゥゥゥッ!!」

 

とっぴんぱらりのぷぅ。

 

 

 

 

 

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