救世のハーレムメイカー   作:夢泉

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1話:勇者が一途で世界がヤバイ。

 

 勇者ディン。ディン・オーディネス。

 彼が波乱万丈の大冒険を乗り越え、数々の出逢いと別れの果てに世界を救って早1年。

 長くノルディアナ大陸を覆っていた暗雲は晴れ、人々は着実に復興の道を歩み続けている。

 そして。

 そんな良き日に、俺、ミスル・ミミルンドは正しく人生の絶頂にいた。

 大陸広しといえども、今の俺以上に幸せな奴はきっと数えるほどしかいない。そう断言できる程に、俺は幸せだった。

 

「よぉ、ミスル! おめでとう!」

「フリカちゃん本当、良かったなぁ! 良かったなぁ!」

「主役の御登場だぜ! マスター、店で一番高い酒出しやがれ!」

 

 今が夜だと忘れてしまいそうになるほど光溢れる街。

 煌々と照らされた道を歩けば、酔っ払いたちが野太い声をかけて来る。

 顔見知りもいれば、そうじゃない奴も多い。でも、誰もが満面の笑みで祝福の言葉を投げかけて来る。

 

「おいおい、主役は俺じゃなくて妹だって!」

「ばっか、お前! お前ら兄妹が苦労してきたことは皆が知ってんだ!」

「そうだぜ! フリカちゃんの結婚式ならお前だって主役だろうが! 良いから飲め! 俺の奢りだ!」

 

 そう。

 今日この日。幼くして両親を亡くして以来、支え合って生きてきた妹フリカが結婚した。

 しかも、その相手は――

 

「フリカちゃんの花嫁姿、綺麗だったなぁ」

「うわ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛! フリカちゃあああああああん!」

「てめぇ、まだウジウジしてんのか! いい加減に諦めやがれ!」

「わがっでるよぉ゛! ゆうしゃ様ぁああああ、フリカちゃんを任せたぞぉおおお! 泣かせたら許さないからなぁあああああ!」

「ひゃははははは! 一体全体、誰目線だよ!」

 

 ――結婚相手は1年前に世界を救った勇者。

 最愛の妹を、この世界で最も実力も人間性も信頼できる親友が娶った。こんなに嬉しいことが他にあるだろうか。

 救世の勇者の結婚式という事で、国王様主導で国を挙げての祝祭が執り行われて。美味しい料理に美味しい酒があって。祝福の言葉が飛び交って。

 もうずっと胸がぽかぽか温かい。あぁくそ、また涙が溢れて来やがった。

 

「あっはっは! また泣いたぜ! いい加減、体の水が無くなっちまうぞ!」

「それはいけねぇ! なら酒だ! 酒もってこい!」

 

 あぁ、本当に。こんなに幸せで良いのだろうか。

 酒を飲まされ浴びせられ。肩を叩かれ、胴上げされて。

 へべれけになりながら、ゆっくりと喧騒冷めやらぬ夜の街を練り歩いていく。ゆっくりゆっくり幸せを噛みしめるように。

 

「――失礼。ミスル様ですね?」

 

 そんな時だった。紫紺の長髪の女性に話しかけられたのは。

 えらく別嬪な人だった。どこかで見たような気もするけれど、こんなに綺麗な人なら忘れるはずも無いし。多分、気のせいだろう。

 

「えぇっとぉどちら様ですかぁ~?」

 

 とりあえず答えなければ失礼だと、呂律の回らなくなった舌を必死に動かす。

 

「少しお話を宜しいでしょうか?」

「いぃですよぉお~」

 

 あれ、会話が繋がっていない気がする。

 うーん……? ま、いいか。

 ちょっと飲み過ぎたな。頭がグラグラして思考がまとまらない。

 

「ここではちょっと。どこか人気の無い所で」

「わかりましたぁあ~。じゃ、あっちでぇ~」

 

 それで俺はノコノコ人目のない路地裏へと行って。

 この日の記憶は其処で途切れた。

 

 

***

 

 

 明くる日。俺はやたらと広くて豪華な部屋のふっかふかの布団で目覚めて。

 あれよあれよという間に知らない人に無理やり着替えさせられ、ドナドナと連行されて。

 気付けば――

 

「ミスル・ミミルンド。よく来てくれた。まずは妹フリカの結婚を祝そう」

 

 この国の王様の前にいた。

 ……何がどうしてこうなった??

 

 

***

 

 

「ははぁ! 此度は妹の結婚式に多大なご助力を頂きましたこと、謹んで感謝申し上げます!」

 

 状況は意味不明過ぎたけど、とりあえず土下座。何はともあれ直ぐ土下座。

 少しでも不快な思いをさせれば打ち首なのだから当然。

 ド平民なめんな。平伏する速度だけは、勇者の神速の剣にも負けない自信がある。

 

「構わん。国を救ってくれた勇者の結婚じゃからな。あれくらいは当然じゃよ」

「誠に勿体なきお言葉です!」

「そも、民たちは長く絶望の中にいたからのぅ。あの祝祭で民たちの心を照らすという政治的な側面も大きかったのじゃ。……して、そろそろ顔を上げてくれぬかのぅ」

 

 いやいやいやいや。何言ってんの、この王様。

 勇者ディンならいざ知らず。俺みたいなド平民が王様の前で顔を上げるとか冗談にもほどがある。

 ……が。ここで上げないと却って気分を害する可能性も捨てきれない。

 そう考えた俺は恐る恐る顔を上げ、そして――

 

「お主を呼んだのは他でもない。どうか世界を滅亡より救って欲しいのじゃ」

 

 ド平民に頭を下げる国王オウマ・ケラレ3世という、ありえない光景を目にした。

 

 

***

 

 

「その…そ、そういった話は勇者にするべきでは御座いませんか?」

 

 本来、国王の言葉に疑問を挟むなどあってはならない。

 だが、動揺し過ぎていた俺は国王に意見するという不敬極まることを平然とやってしまった。

 それでも、国王は一切の不快感を表さなかった。それどころかニコニコして言うのだ。

 

「いいや。これは主にしか出来ぬ事じゃ。勇者の親友であり、その妻となったフリカの兄である主にしかな」

 

 怖い。怖すぎる。

 ここまで来ると国王が寛大とか優しいとかの次元じゃない。

 間違いなく、とんでもない事態に俺は巻き込まれている。

 逃げたい。脇目も降らずに逃げだしたい。

 

「…第一、世界は既に勇者によって救われております」

 

 もう良い。不敬とか気にするな。

 何としても、この申し出を断らなければならない。そんな気がするのだ。

 

「……ヘルニシオネ、例の書状を読み上げよ」

「――は」

 

 国王の言葉に応じてスッと出てきた女性は、紫紺の長髪が美しい女性。

 ……ってこの人、昨日の。というか、思い出した。この国の舵取り全てを任される宰相様じゃねぇか。

 成程、つまり俺を連行してきたのは彼女か。完全にしてやられた。

 

「――前略。我らエルフ族および世界樹同盟は貴国メルハイトに対し、宣戦を布告する用意がある。――中略――我は此処に戦争回避の条件として、勇者の身柄の引き渡し及び勇者と我が娘エメラルシアとの婚姻を要求するものである。世界樹同盟盟主イズムルード――以上になります」

 

 彼女は騙して拉致して来た俺を一瞥する事すらなく、スラスラと手に持った書状を読み上げた。

 ふーむ。なるほどなるほど。宣戦を布告ねぇ……

 

「宣戦を布告っ!? 戦争が始まるんですか!? あのエルフたちと!?」

 

 一年前、世界の危機を前に力を合わせた異種族の内の1つエルフ族。

 勇者の活躍と説得により、ヒトとエルフは敵対した歴史を乗り越え、未来へ向かって共に歩み始めた……そういう話だったはず。それがどうして。

 

「これ以外にも、あらゆる国・組織から届いておるよ。どれも、勇者の身柄を差し出せと、そう言う内容で。差し出さねば侵攻するだの、経済制裁を加えるだのと言ってきおったわい。この世界を滅ぼすと宣っている者もおったな」

 

 それが本当なら世界の危機という言葉も納得かもだけど……。

 駄目だ。全然理解が追いつかない。つまり、どういうこと?

 

「勇者がモテるのは知っておるな」

「……は、はぁ。そりゃあ、まあ」

 

 アイツは昔からモテた。心根は真っ直ぐ誠実で、馬鹿が付くお人好し。誰よりも強く、冗談も言えて、ついでにイケメン。あれがモテない訳がない。

 俺が女だったら間違いなく惚れてたね。

 

「あのポテンシャルに勇者という箔まで付いておるのじゃ。本人のお人好しの性格も合わさり、旅の最中も大陸各地で多くの女性の心を盗んでおった」

 

 まぁ、そりゃそうだろう。

 アイツの事だ、行く先々で多くの人々を救って回ったのは想像に難くない。

 当然その中には女性もいるわけで、あのイケメンに命の危機とかを救われたら惚れちゃうのは何も不思議じゃない。

 

「しかし、あの男は実に一途な男じゃ。数多の魅力的な女性に見向きもせず、世界を救うや否や幼馴染のフリカを娶った」

 

 そうだ。その通りだ。

 そういう男だから、俺も妹を託せる。アイツは絶対に不倫とか二股とか不誠実な事はしない。超が付くほど鈍感で人の好意にも自分の好意にも疎いが、一度決めたら一途なのだ。

 

「それが問題なのじゃ。そのせいで、各地で勇者に振り向いてもらえなかった女たちが恨みを募らせておる。救世の物語に深く関わった、英雄クラスの女たちがのぅ」

 

 あ、何となく話が見えてきたぞ。それで嫉妬に狂った女性たちが動き出した、と。国王様はそれをどうにかしたいと、そういう事か。

 え? じゃあ俺が呼ばれた理由ってまさか……?

 

「そこでじゃ、お主には勇者ディンと妻のフリカを説得、勇者のハーレムを築いて欲しいのじゃ」

 

 なるほどなるほど。よーく分かりました。

 ま、確かにな。嫉妬に狂って暴走中の女性たちを正論で諭せるもんじゃない。「勇者は幼馴染と結婚しました。彼は一途なので諦めてください」なんて告げたら間違いなく事態は悪化する。

 かといって、あの一途勇者が妹と別れるはずも無し。第一、仮に別れさせても結婚したいって女性が複数いる以上、どうしようもない。

 ならば勇者に複数の妻を娶らせ、王族みたいにハーレムを築かせちゃえば良いじゃない、と。そういうことか。

 なるほどなるほど。そういう事なら――

 

「――嫌です。お断りします」

 

 断るのは不敬だとか首切られるとか知った事じゃねぇ!

 そんなの絶対にNOだ!

 

「そこを何とか! どうか世界を救ってくれぬか! 結婚式の費用払ってやったじゃろ!」

「さっきと言ってる事が全然違うじゃねぇか!」

 

 恥も外聞も無く泣きついてくる王様を力づくで振り払い180度反転。一目散に入口へ向かって走り出し――

 

「衛兵!」

「ぐぇ!」

 

 ――宰相の一言で迅速に動いた衛兵たちに取り押さえられる。

 

「嫌だ嫌だ嫌だ! 貴方達は()()()()()()()()()()()()()!」

 

 そう。別に俺は勇者がハーレムを作る事に反対なのではない。

 貴族や王族で一夫多妻は普通だし、勇者の功績を考えれば貴族になったって何も不思議じゃない。

 それに、ディンならば妻が何人いても全員幸せに出来るだろう。奴はそれだけスペックの高い男だ。

 でも。それでも――

 

「知っておる! 知っておるからこそ、お主に頼んでおるんじゃ!」

「じゃあ尚更無理だって分かるだろ! 俺の妹はヤバイんだよ!」

 

 ――それを妹は絶対に許さない。

 

「お主は妹と支え合って来たんじゃろ! 強く結ばれた唯一の肉親の言葉とあれば、流石に聞く耳を持つはずじゃ!」

「ばっかやろう! アイツにとって世界の中心はディンだ! ディンとそれ以外の間には超えられない壁がある! ディンとのラブラブ夫婦生活守るためなら兄なんて簡単に切り捨てるぞ!」

 

 そう、文字通りに切り捨てる。ディンに複数の妻を娶らせる提案なんてモノを俺がしようものなら、即座に俺の上半身と下半身が別たれる。

 あれはもう一種の怪物。幼い頃ディンと二人だけで遊んでいたという理由で実の兄を半殺しにしてきたような女なのだ。

 

「お主の言いたいことは良く分かる! じゃが、儂らも後には引けんのじゃ! 儂らには世界を守る義務がある!」

「そんなの……!」

「お主とて、自分や妹、親友が生きる世界が滅びるのは嫌じゃろう?」

「……くっ、卑怯だぞ」

 

 そりゃあ、俺だって死にたくないし。

 あんな妹でも最愛の妹だし。ディンは大切な親友だし。

 みんなが生きている世界を守るために出来る事はしたいよ。でも、流石に妹の説得は……!

 

「じゃがの、一応はそれ以外の道もあるのじゃ。――入ってよいぞ!」

 

 ……あ? それ以外の道、だと? 一途な勇者とヤンデレ妹を説得する以外の道があるってのか?

 ややあって。俺の目線の先。逃げ出すべく目指していた大扉が開き、一人の少年が入って来た。

 これが別の道、か? …………おい。待て待て待て待て。

 まさか。まさかとは思うが。

 

「あの…えっと…よろしくお願いします!」

「……おい王様。俺の目が確かなら、幼少期のアイツが…勇者ディン・オーディネスが目の前に居るんだが?」

「流石は親友、一目で見抜くか。これは勇者のクローン・ホムンクルスじゃ。逆に女性たちの方を説得して、見た目さえ同じなら構わんと思わせられれば万事解決じゃ」

 

 魔術分野に疎い俺でも知っているぞ。確か、ヒトの血肉からコピーを作り出す技術。倫理道徳に反しまくるって事で永遠に禁止された禁術だな。

 確かに、この技術なら記憶と性格以外の全てを再現できる。

 ふむふむ、なるほど――

 

「てめぇええええええ! 何してくれとんじゃああああああ!! 超えちゃいけないライン軽く3つくらい飛び越えたぞ!」

 

 このタイミングで何故か衛兵たちが拘束を緩める。

 ……いや、理由なんて明白だ。君たちの想いは受け取った。後はこの俺に任せろ。

 

「顔だけ同じなら良いやって、恋愛ってそういうモンじゃねぇだろ!」

「儂は見合い結婚じゃったもん! 恋愛なんて知らんもん!」

「知るかあああああああ!」

 

 国王の胸倉を掴んで持ち上げる。

 この邪知暴虐の王は一発殴らないと気が済まねぇ!

 

「命弄んでんじゃねぇよ! 何なの? 腐敗した体制側として第2部のラスボスにでもなるつもりなの!?」

「正直、儂もこれはやらかしたと思っておる。山ほど届く脅迫状に精神がおかしくなっておった」

 

 ……でも、うん。

 近くでよく見ると、国王の眼もとには深い隈が刻まれている。顔もやつれているし、身体も異常に軽い。食事も喉を通らない程に相当追い詰められていたんだろう。

 駄目だ。こんな状態の老人を殴るなんて俺には出来ない。

 

「……で、どうじゃ。やはり引き受けては貰えぬか。お主が最後の頼みの綱だったのじゃが」

 

 ゆっくりと国王を椅子に降ろして、真正面から向き合う。

 もう平伏も逃避も無しだ。

 国王は俺の命を奪うと脅す事だって出来たのに、そうしなかった。最後まで頑なだった。

 少なくとも、その誠実さには真正面から答えなければならない。

 押し売りとはいえ、あんなドデカい祝祭を開いてもらった恩もあるしな。実際楽しかったし。

 

「……いや、引き受けるよ。ただし、やり方は全て俺に任せてもらう。あと、このクローン勇者も俺が引き取る。それで良いな?」

「こちらに異論などありはせぬ。有難うミスル・ミミルンド」

「失敗しても文句言うんじゃねぇぞ」

「はっはっは、その時は世界ごと滅んでおるからの。文句など言いたくても誰も言えんわい」

「ブラックジョーク過ぎて笑えねぇよ……」

 

 こうして俺の、俺達の“ハーレムを作る”旅路が始まる。

 救世。滅亡。ド平民の肩に重すぎる荷を背負わせて。

 

 

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