「……へー、ほー、ふーん。なるほどなるほど。ハーレム計画、ですか」
「………………一応、俺は反対したんですよ」
「一応?」
「ごめんなさい」
ごめん王様。俺は命が惜しい。計画のこと、クローン関連以外は全てゲロっちまった。
……ん? というか、あのクソ王に俺が謝らなければならないの冷静に考えてオカシクないか? 俺に落ち度とか一切なくない? 全部周りの奴が悪いのでは?
「ま、兄さんが首謀者でない事くらいは分かりますよ、流石に」
む。これは許される流れかも?
それなら……
「じゃあ、この重石を外してくれない? 流石に痛いんだけど」
自分の足の上に積まれた、長方形の石に目線を合わせて懇願する。
そう。俺は“石抱”なる拷問を行われていた。喋らなければ石が増えて重くなっていくという方法で。
「は? 今、何か仰いましたか? まさかとは思いますが、ここまでガッツリ加担しておいて無罪放免だとでも考えているんですか?」
「イエナンデモナイデス。重石を増やしてくださいと言ったんです」
「殊勝な心掛けですね。……よいしょっと」
「ぐえ」
おい。
この妹、躊躇なく兄の上に重石を追加しやがったぞ??
「とりあえず、メス豚共は全員屠るとして……」
「待て待て待て!」
「何ですか?」
「落ち着け! お前が手を汚したと知ったらディンが悲しむぞ! かつて仲間として力を合わせたり、宿敵として高め合ったりした奴らばかりなんだろ!? 円満な夫婦生活にヒビが入ってしまうかもしれないぞ!」
「……む。一理ありますね。困りました」
この情勢下で姫様とかが暗殺されてみろ。この国が間違いなく疑われて、戦争の口実を与える事になる。そんなの絶対に駄目だ。
「兄ちゃんが必ず何とか穏便に解決して見せるから、もう少しだけ猶予をくれないか」
「……もうダーリンにハーレム作らせようなんて馬鹿な事は考えませんか?」
「考えない! 絶対に考えない! だから任せてくれ!」
「そうですね……」
頼む。具体的に何をどうすれば良いか全く分かっていないけれども。
でも、殺して解決なんてバイオレンスな方法を許容する訳にはいかない。やっと世界は平和になったんだ。再び戦乱の時代になんて突入させてたまるか。
「あ!」
すると。あざとく小首をかしげて悩む仕草をしていた妹が、素晴らしい案を思いついたとばかりに声を出す。……嫌な予感しかしない。
「それならいっそ、兄さんが寝とっちゃえば良いんじゃないですか?」
「は??」
アホ妹が急にバグったんだけど、何が起きた?
「ほら、兄さんもそろそろ所帯を持って身を固める年齢でしょう? 私はずっと心配していたんですよ」
心配? 何を?
「父も母も私が物心つく前に亡くなって。それで兄さんはずっと私を守ってくれていました。流石に孤児へ縁談を持ってくる人は居なかったですし、私の面倒を見て恋愛にかまけている余裕も無かったですよね」
……む。
まぁ、確かに。
この混迷の時代、結婚は経済的な問題抜きに語れない。両親も親類もいない俺は物件としては最低で論外だった。朝から晩まで畑仕事に内職と励んでいたので恋愛なんぞに現を抜かす余裕も無かったな。
「だから同性の親友とただならぬ関係になりそうで、ずっと警戒……心配していたんですけど」
「……はい?」
んんんんんん??
なんか話が逸れてない?
「私、兄さんには心の底から感謝しているんですよ。いっつも支えてくれて助けてくれて。だから、私という枷が無くなった以上、兄さん自身の幸せを掴んで欲しいなって思っているんです」
イイハナシダナー。
その感謝してる兄の足に重石が乗っているのと、妹の手に鋭利な包丁が握られているのを除けばハートフルな家族の絆ストーリーなんだけどな。
「だから、兄さん! レッツNTRです!」
「ごめん。本当にそこだけ意味が分からない」
何が「だから」なんです? 今の会話で十分な説明を済ましたとか本気で思ってるんじゃなかろうな?
「鈍いですね。要するに、ダーリンに好意を寄せているメス豚共を兄さんが食い散らかしていけば良いんですよ。性的な意味で」
「前から思ってたけど、お前って頭おかしいよな。もう何処から突っ込めばいいかも分らんわ」
「より取り見取りですもんね。確かに、どの女から突っ込むか悩むのも無理ないです」
「そういう意味じゃねぇよ」
本当に何から指摘すべきだ?
俺みたいなド平民がハーレムなんぞ作れんし、そもそもの話――
「ディンに惹かれた女性が俺なんぞを好きになるわけないだろうが」
「そうですかね? 私と血の繋がりがあるだけあって、ダーリンとは月とスッポンですが整った顔立ちですし、ダーリンには負けますが優しい心根ですし、ダーリンには遠く及ばないし比べるのも烏滸がましい程ですが頼りになりますし」
「俺、遠回しにディスられてる?」
そんなに本当のこと言わないでも良いじゃん。事実だけどさ。
「あ、でも兄さんは純愛モノが好きなんですよね」
「待って。まさかとは思うけど、俺の押し入れの中身――」
「えぇ、前に掃除している時に見つけましたよ。常に金欠状態だったのに何て無駄遣いをしているんだと殺意が湧いたのを覚えています」
「待て。あれ1冊だけだし、可哀そうだからって村長がくれたんだ。断じて買った訳じゃ――」
「まぁ、大丈夫ですよ。ダーリンは私と幸せゴールインしてるんです。もうNTRじゃないですし、純愛の範疇です」
何が大丈夫? 何にも大丈夫じゃないよ?
「ただいまー!」
「あ! おかえりなさい、ダーリン!」
おや。我が親友ディンが帰って来たか。兄妹水入らずで話せるようにとか、本当にガチでいらない気を回しやがって。
だが、これで拷問も終わる……あれ? 石どかす前に玄関へ駆けて行っちゃったけど良いの? この拷問場面見られたら色々とややこしいのでは?
だが、今の俺は石の重みで一歩も動けない。困った、どうしよう。
「……おや、ミスル。その恰好は」
そうこうしているうちに、俺の目の前へ金髪碧眼のイケメンが現れる。
何を隠そう。そのイケメンこそ、剣を鍬に、盾をジョウロへと持ち替えて、怪物の血では無く畑の土で汚れた勇者……もとい、元勇者にして新婚農夫真っ最中のディン・オーディネスその人。
彼はまじまじと足に重石を乗せた俺を見て、それからニコリと笑って言った。
「それは新しい修行法かい? 凄く脚力が付きそうだね」
「眼科に行け。お前の奥さんに無理矢理やらされているんだ」
「なんだ、いつもの兄妹のスキンシップか。相変わらず仲が良いな2人は。親友としても夫としても嫉妬しちゃうよ」
「そうだったな。お前もそういう奴だったな。ホントお似合い夫婦だと思うよ」
「何だか照れるな、ミスル……いや、義兄さん」
「これっぽっちも褒めてねぇよ」
「そうだ。今日取れた新鮮なトルトがあるんだ。早速食べようよ」
「何でも良いが、まずは石をどかしてくれ。頼むから」