性別不詳両声類系Vtuberなんだが、現実でも性別不詳でいてくれって言われた   作:甘朔八夏

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今回は特にリスペクト回です!


10話 顔合わせをしよう

 

 

 星奈 泉

集合場所のお店に到着しました。先入っとくね

 

 天津 周

了解しました!僕もあと5分以内に着きます!

 

 

来たるオフコラボ当日。俺たち3期生は事務所で会う前に親睦を深める目的で、一緒に昼食を食べる手筈となっていた。

…というのは建前で。もちろん目的は同期に男の姿を見せるため。

個人的には昼食の時だけ女装して、配信中は男の姿でいきたかったんだけど、それをマネージャーさんに話したら「は?なんのためにこの提案をしたと思っているんですか?それじゃあ僕が周さんの女装を見れないじゃないですか!」とのこと。私欲じゃねえか。

 

まあ交換条件として、オフコラボの開催地に自宅を猛烈に推していた泉さんを宥めすかして事務所での配信にしてくれたのでいいだろう。

相当に熱く推していたらしく、泉さんと交渉をした後のマネージャーの声が少し震えていた。よく勝てたな。あと怖いです。

 

結局女装して事務所に行ったり配信したりしなくてはいけなくなったが、実はそんなに気にしていない。

ぶっちゃけ慣れたしね、女装。

あの後にもう一回女装して妹に外へ連れて行かれたのは内緒だ。専門店のタピオカミルクティーがあれほど美味しいとは知らなかったよ…

 

そういうわけで、現在俺はオーバーサイズのTシャツになんの変哲もないジーンズという普通の格好である。体のラインを隠すために着ているオーバーサイズの服は男女兼用(ユニセックス)であるが、それを加味しても男の普段着と言った感じだ。

 

ただ、決定的にいつもと違うことがある。それはカバンの中身だ。妹と買いに行ったレディースの服と、何故か経費で落ちたメイク用品の詰まったポーチ。

今職質されたらなんて言い訳しよう。

 

くだらないことを考えているうちに目的地へ到着する。ちょっとおしゃれなイタリアンのお店。個室もあって便利だし、何よりここのジェラートが本当に絶品なんですよ…

 

店員さんに名前を言って席へと移動する。そこに既に座っていたのは、すっと背筋を伸ばして足を組み、珈琲のカップを傾けている長身の女性。後ろ姿しか見ていないのに、かっこいいなと思った。

 

彼女が俺の近づく気配に気づいて振り返る。ぴしりと固まった。

 

「こんにちは。泉さん…で、合ってますか?」

 

「え。…もしかして周ちゃん!?」

 

落ち着いていながらも、綺麗に澄んだこの声。間違いない、この人は星奈 泉だ。

目を丸くして立ち上がる眼前の女性を見上げる。

…ん?見上げる?

まじか。ガワが長身だったからもしかしたら…って思ってたけど、身長高いっすね…

 

「はい、俺が天津 周です。本名は——」

 

「待って。せっかく個室取ったんだから、Vネームで話さない?」

 

「え?まぁいいですけど。別に本名は名乗ってもいいんじゃないですか?」

 

「それは…ね?やっぱり秘密って言うのも楽しいじゃん」

 

少し焦ったように手をわたわたさせる泉さん。彼女の視線は、慌ただしく俺の顔と服を交互に行き来している。ははーん、そういうことか。

 

目一杯背伸びをして泉さんの耳元で囁く。それでも届いていないのはご愛敬だ。

 

「もしかして、名前聞いちゃったら男だって確定するのが怖かったんですか?」

 

「ゔっ」

 

ビンゴだ。泉さんは前々から俺にママみを求めていた。いやリアルで会ったこと無いやつにママみを求めるなよ。…まぁ、つまるところ俺のことをまだ男装しているだけの女だと思い込みたいのだろう。これは好都合だ。おちょくってやろう。

 

「まさか本当にロリだと思ってたんですかぁ?」

 

「ぐっ…!」

 

泉さんノリ良いな。めっちゃ悔しがってくれる。なんか楽しくなってきた。

 

「残念でしたね!可愛い娘じゃなくて!」

 

「いやそれは期待通りだけど」

 

「えっ」

 

「え?」

 

「「…………」」

 

…とりあえずこの話題は置いておいて。いや、これは逃避ではない。戦略的撤退である。

 

 

 

 

 

「そっか…周ちゃん、周くんだったのか…」

 

がっくり、と言った擬音がよく似合う仕草で項垂れる泉さん。男の姿で会う作戦は無事成功したようだ。

 

「…やっと、ロリママに甘えられると思ったんだけどなぁ…」

 

…え?泣いてる?なんかひどく落ち込んだ調子だけど台詞が最悪。そういうキャラ演じてるだけだよね?お願いだから素じゃないって言って。

 

ほろり。

 

「!?」

 

「あぁ、ごめんね。…気にしないで」

 

泉さんの目から、一粒涙が溢れた。そのまま両手で顔を隠す。え、本当に???

とりあえずよく分からないままに平謝りする。なんで泣いてるの!?なんか俺が悪いみたいじゃん!

 

「ちょっ、泣かないでくださいって!騙していたみたいになったのは謝りますから!」

 

まぁ正確にはこれから騙すんですけど。

 

「…頭撫でて?」

 

席を立って泉さんの隣へ行き、優しく頭を撫でる。

彼女の髪は普段のぽんこつ具合からは考えられないほどに完璧なケアがなされており、まるで絹のような触り心地だ。

 

「ハンカチ貸して?」

 

「はいはい」

 

やっぱり泣いてたんじゃないか。

 

「配信の時にロリボで甘やかして?」

 

「わかりまし…は?」

 

両手を顔から離す。彼女の目に涙は一粒たりとも存在していない。泉さんは露骨にほくそ笑んで、すぐ隣まで来ていた俺の肩に手を置いた。

 

「言質とったからね?」

 

こいつ……!!

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば由良さんは急遽欠席ですよね。どうしたんだろう…」

 

「あぁ、由良ちゃんは風邪引いたらしいよ」

 

「文字通り歯噛みしながら休みの報告入れたんだって」というのは泉さんの談。

そうか… 失礼だけど、正直あの人と対面するのはなんか怖いから助かった。

 

泉さんに嵌められて、悔しい思いをしながらも名物のピザに舌鼓を打った後。普通に雑談していると、泉さんはできる大人の女性といった風貌だ。スレンダーな見た目にかっこいい雰囲気。すごく頼れる感じがする。

…時折爆弾発言することを除けば。そんなところまでガワと合わせなくていいから…

 

コップに入った水を一気飲みして一息ついた直後、注文していたジェラートが到着した。

俺のジェラートはほうじ茶味で、泉さんのは塩味。塩味も好きだから迷ったんだけど、今回はほうじ茶の勝ち。

 

「それにしても」

 

ジェラートをスプーンですくいながら一言。

 

「まさか周くんがリアルショタだったとはねぇ…うわ、このジェラート美味しっ」

 

「いやなんですか、リアルショタって」

 

こちらもジェラートをすくう。

 

「別に幼い見た目はしてないと思いますけど」

 

「いや、雰囲気が」

 

「どういうことですか?」

 

ぱくり。 っ!!

口に入れた瞬間に広がるほうじ茶の香り。それを邪魔しない程度の程よい甘み。そして少し粘り気のあるジェラート特有の舌触り。

 

「ん〜♪」

 

美味すぎ。個人的にアイスの中でここのお店のやつが一番だと思う。ほうじ茶はあまりにも期待ど真ん中の味で最高なんだが、塩味を初めて食べた時は衝撃だったなぁ。まさかしょっぱさがこんなにもアイスと合うなんて。

 

「……私のも一口食べる?」

 

「えっ、いいんですか!?」

 

無意識に泉さんのジェラートをガン見していたら彼女からそんな申し出が。躊躇いなく頂戴しようではないか。遠慮とかしてたら溶けちゃうからね。仕方ないね。

 

差し出されたスプーンを咥える。爽やか、と表現できるような塩味(えんみ)が口内に広がり、それをミルクベースのアイスが包み込む。完璧な調和に思わずほぅ、と息が漏れた。

 

「そういうとこだよ」

 

「え?」

 

呆れ顔になった泉さんに怪訝な目を送る。………あ。普通は一応初対面の人のアイス乞食したりしないですよね……いや、あの。甘いものには弱くてですね。

 

「理解しちゃったみたいだねえ、自分のショタみを」

 

…別に、私が男だなんて一言も言ってないですけど

 

「っ!?」

 

気恥ずかしさを誤魔化すために利用したカード。泉さんが俺を男だと確信したであろう直後の女声。これには泉さんも息を呑んでいる。

気まずさを誤魔化し、かつ自身の性別も誤魔化す。いい行動なのではないか。

 

「ほら、それじゃあ行きますよ」

 

地声に戻して呆然としている泉さんに手を伸ばす。彼女が俺の手を掴む。……うわっ、撫で回してくんな!そんなことするなら離せっ!

 

 

 

 

 

「それじゃあ、また後でね」

 

「はい!今日はよろしくお願いします!」

 

お会計は泉さんが払ってくれた。申し訳ないし、一応俺も男なので払ってもらうのはなんか嫌だ。せめて割り勘を申し出たが「また今度来た時は奢ってよ」なんて言われたらこれ以上言い返せなかった。

その言葉に了承した瞬間、泉さんはほくそ笑んでたけど、何故だろうか。

 

マネージャーに呼ばれた、と言って一度泉さんと別れる。もちろん着替えをするためだ。

 

こっそりと事務所に入ってマネージャーさんが用意してくれた衣装部屋へ。

メモと鏡に視線を行き来させながら慎重にメイクをしていく。ふふふ、実はあの後も何回か練習をしていたのでそこそこ素早くできるようになったのだ。それでも20分以上かかったが。

 

あっ、しまった。着替える前にメイクをしてしまった。裾や袖に軽いフリルがついた紺のパーカーをすっぽりと被る。顔に当たらないように慎重に…よし。

下は膝下までのふわりとしたスカート。なんの躊躇いもなく履けるようになったのは果たして成長なのか、退化なのか。

 

そうして変身が完了した。鏡を見る。そこに映っていたのは少し無気力そうな女の子。人差し指で口の端を上げて笑顔を作る。

よし、可愛い。今の俺は…いや、私は『天津 周』だ。

たまに冷静な自分が「何やってるのお前?」って言ってくるがそれは無視。

 

ここまで来たなら楽しんだほうが得だろう。

 

私は胸を張って部屋を飛び出した。

 




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