性別不詳両声類系Vtuberなんだが、現実でも性別不詳でいてくれって言われた 作:甘朔八夏
妹の、貼り付けたような笑顔に、覇気とまで言えそうな背後の青いオーラ。泉さんの赤い顔との対比が美しいね。(現実逃避)
咄嗟に扉の方へ視線を向けると、顔だけを覗かせたマネージャーさんが派手にサムズアップ。なめんな。
と、扉を睨んでいると妹が俺の頭を掴んで自分の方を向かせる。怖いし強いよぉ………
「ねぇ周ちゃん。今、休日のお昼。これ、配信。コンプライアンス。わかる?」
:え、これ周の妹さん!?
:乱入キタコレ
:スタジオで配信してるんじゃないの?
:流石に真っ昼間から同人の雑談はやばいから止めてもらおっかなって<virtual box公式>
:同人ってなんですか?
:知らなくていいから…(善意)
:というか周ガチ説教食らってて草
:でもコンプラは今更な気がする
:まあ時間帯がアレだし…
ぐぅの音も出ない正論パンチにしょぼくれることしかできない俺。これは企画が悪いと思うの……まじで。
「この配信、小学生も見れるんだからね?」
「ラインは守ります…」
「よろしい…それじゃあ、私が言いたいのはそれだけだから。お邪魔しましたー」
速攻去っていく妹の背中をぼんやりと見つめる。マネージャーさんと互いにぺこぺこしあっているのを見るに、マネージャーが俺たちを止めるように頼んだのだろうか。
そんなに白昼堂々とわいせつ物の話で盛り上がることはいけないだろうか。…いや、改めて字面で見るととんでもねぇな。本当に根掘り葉掘り聞いて動画が強制終了とかなったら洒落にならんし。
「それにしても」
嵐が過ぎ去って恥から抜け出した泉さんが、微妙な顔でこちらに話しかける。
「すごいね、周ちゃんは。私なら絶対家族には言えないよ…」
「まあ、そもそも妹にお願いされて応募したからね」
「え?ってことは、今回散々私をたぶらかしたのも妹ちゃんの指示?」
「……… いや、あの。それは自分の意志です…」
「え?」
目を丸くしてこちらを見る。からかいも何もないただ驚愕の目線に、居た堪れなくなってさっと目を逸らす。
俺は自身の配信のアーカイブは自分で見ていない。そんなことしたら恥ずかしさで10回は死ねるからだ。だから、あまり過去の言動を振り返らないでいただけると…
「ロリまねちゃんって、自分でやりたくてやったの?」
「ぐああああああ!!!!」
楽しくなってやっちゃっただけですが何か???(ヤケクソ)
:草
:これは自爆
:素の性格がこれはえっちすぎ
:これは中身もロリ確定
恥も外聞も捨ててスタジオの床を転がり回る。おっ、このスタジオ、すごく綺麗に清掃されてますね。おかげで罪悪感なく転がれるわ。
加速するコメント欄と、俺の下半身をガン見する泉さん……あっ。
慌てて起き上がってスカートの裾を押さえる。そういえば今、女装してたわ。
「……見た?」
「!? いやいや!見たいなんて思って無いから!!」
ギャルゲーの主人公みたいなこと言いやがって…
こちとら性別バレのリスクのせいでヒヤヒヤしてんだよ!!(自業自得)
まあ、発言的にギリギリセーフっぽいか…?
:見たって何を?
:なんかよくないことしてる?
:見たいなんて思ってない…そして今はオフコラボ…あっ
「そこ!詮索しない!」
全く油断も隙もない…
とりあえず全部泉さんのせいということにして、彼女にじろりとした目線を向ける。が、泉さんは何やら満更ではない、と言ったご様子。喜ぶな。
「… やっぱりコラボの時はずっとこの声が正解かもな」
「勘弁してください」
うわっ。椅子の上に座った状態から地面で土下座までの動きが滑らかすぎる。この人Vtuberになる前は何なってたんだろう。忍者?
「ええ〜、どうしよっかうおっ」
土下座体勢のまま俺の足に縋り付いてくる。予備動作がなさすぎて本当にビビった。
「私のロリまねちゃんを返して!」
「泉さんのじゃないし!後俺のメインの声ロリボじゃねえし!…ああもう、わかった戻すから!」
泉さんを引っ剥がそうとしながら「この声でいい?」と聞くと、まあそれなら、と俺の足から手を離す。俺の周り、強い人多すぎ…
「もう結構いい時間だけど、どうする?」
やっと常識を取り戻した泉さんに話しかける。
:続けろ
:ゲームはもういいから暴露だけして?
:名案
:なんかノリでスルーしてたけど、やっぱりオフコラボで性別わからんのはおかしくない?
:それな
:周の性別暴露ですか!?!?
:周くんちゃんの性別は「周」だから…
「じゃあもう少し雑談してから終わろっか」
泉さんの言葉に頷くと、再び俺の性別の話題へと戻ったコメント欄を見ながら唸り始める。
「いやぁ…さっきスカートの中見えそうだったんだけどねぇ…惜しくも分からなかったよ」
「!?」
改めてそこに触れますか!?
:ガタッ!!
:詳しく
:周ちゃんスカートなんか…
:周くんはショタ!!だからこれは女装!!絶対にショタ!!
:ショタコンさん発狂で草
:実際女装してんのかな
:普通に考えたら女だろうけど
「それがねぇ…さっきもちょっと話したんだけど、配信前に一緒にご飯食べに行ったんだよ。その時は男の子だったんだ」
:どっちにしろ異性装してるのは確定、と。最高か?
:結局わからないってこと?
:それこそ自慢の水晶玉で見ろよ
:男装女子もいいな…
:それでも流石にロリ媚び声でスラブラ勝っといて男は無理では?
:ぶっちゃけ周は男モードでもチワワだからかっこいいイメージゼロかも
おいこら。なにやら聞き捨てならないコメントを発見。だれが小型犬だ!!
「あっ、そうだよ!!周ちゃん約束してくれたじゃん!ロリママになってくれるって!」
同じくコメントを見ていた泉さんが思い出したかのようにこちらを向く。
チッ。このまま忘れててくれたら良かったのに…
:なんやそれは
:周の了承をすでに得ている…だと!?
:散々たぶらかした責任を負わないとね
:相変わらずロリママというパワーワード
:なんか慣れてきたかも
「ご飯食べる前に、配信の時にロリボで甘やかしてくれるって約束したよね?…あっ、あとさっきのスラブラの時も「後で」って言ってたよね?後って今のことだよね?」
じりじりと、しかしそこそこの速度でこちらににじり寄ってくる泉さん。圧が!!圧がすごい!!
たまらず男モードになって後ずさる。
「覚えてる!守る!約束は守るから一旦離れてくれ!」
「じゃあ今すぐお願い。膝枕ね」
そのままシュバっと俺の膝に頭を下ろす。本当に気づいたら自分の膝の上に彼女が移動していて、思わず「ひゃっ」って悲鳴が漏れた。動作が速すぎる。あと結局、離れてって言ったのに離れてないし。
「むっ…先ほど触った時とは印象が違う。触るとすべすべ、頭を乗せると細くてやや硬め…大変健康的でよろしい」
うわぁ…(ドン引き)
なんで俺の同期は真面目な顔をしている時の方がキショい発言をするのだろう…
さっさと終わらしたいので、彼女の欲望を満たすために頭に手を伸ばす。
「…いつも頑張っててえらいね」
「さっきとセリフ同じじゃん。違うのでお願い」
厳しっ。無垢な目でダメ出しで…視線が真っ直ぐすぎて怖いって…
んで、別のセリフね。えーっと、それじゃあ…
「泉は本当にかわいいね。ほら、ママがよしよししてあげる」
「はわぁ〜まま〜」
:てぇてぇ…のか?
:幼児化してて草なんだ
:俺たちは一体何を見せられているんだ…?
:まあ周ママのロリボが可愛いからヨシ!
:改めてロリボでママって意味わかんねえな
あまりにも気の抜けた彼女の顔に、またもやイタズラ心が湧いてくる。
「お父さんだよ」
「ぎゃっ!」
うおっ。想像の数倍くらい驚いて飛び上がった。
「えぇ…男嫌いなの?」
「ママみを感じてバブってたのに、急にパパになったらビビるでしょうが!」
:それはそう
:そもそも同期にママみを感じるな
:ガチ年下に甘える成人女性
泉さんの要望に応えといてなんだが、彼女の言っていることがあんまり理解できない。俺にはまだ早かったね。…できれば一生知りたくない世界ではある。
「また今度根掘り葉掘り教えてあげるね」
「もうそろそろ終わろっか!ばいまね〜!」
「教えてあげるからね」
:泉「絶対に逃さない」
:オタクの布教欲、強すぎる
:こわい
:ばいまね〜
:ばいほし〜
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