性別不詳両声類系Vtuberなんだが、現実でも性別不詳でいてくれって言われた   作:甘朔八夏

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8話 オフコラボに向けて準備しよう

 

「オフコラボ、ですか」

 

大事な話があるということで事務所に呼ばれた。なぜか家まで迎えが来て、窓が黒く塗られたミニバンで事務所まで運ばれました。誘拐か?

 

そして現在会議室で俺の前に座っている死んだ目をした男性は、我ら3期生のマネージャーさんである。

 

泉さんが告知無しで手元実写配信をしようとしたり、由良さんがオンラインミーティングの時に酔ってて話にならなかったり、周とか言うやつがTwitterでアカウントを間違えてちょっとえっちめのASMRのレビューをしたりなど色々あって本日三徹目だそうだ。かわいそう(他人事)。

 

「はい、オフコラボはvirtual box内でも特に人気のコンテンツなんです」

 

「そうなんですか?視聴者からしたら普通のコラボもオフコラボもあまり変わらない気がするんですが…」

 

「オフの方がよりねっとりとした狂人の絡みが見られるからです」

 

えぇ…言い切ったよこの人。というか、オフコラボが人気って1,2期生(せんぱい)たちのことだよな?つまり先輩たちも狂人って事ですね。もう終わりだよこの会社…

 

マネージャーさんのセリフに微妙な顔をしていると、彼は突然机をバン、と叩いて立ち上がった。

 

「そこで!貴方には是非、オフコラボでも性別不詳を維持してもらいたいのです!」

 

どう言う事?当たり前だが、俺の性別は男である。性別不詳っていうのは自分の姿が公開されてないからできるものであって、つまり何が言いたいのかというと。

 

「無理では?」

 

「いや、可能です!他ならぬ貴方ならば!」

 

なんでそんなに断言するのこの人。マネージャーさんは俺の体をざっと眺めた後にまくし立てる。

 

「だって線細いし、髭も生えてないし、身長も低いし絶対女装似合いますって!」

 

「それ褒めてます?…っていうか女装!?」

 

それは性別不詳ではないのでは…?

 

「普通に中性的な格好じゃ駄目なんですか?」

 

「中性的な格好というのは、つまりどちらの性別でも無い見た目、という事ですよね。その場合、貴方が男性の仕草をしてしまった時に男だと思われる可能性が高いです」

 

「性別を感じさせない仕草をするのって難しいですよね」と熱く語るマネージャーさんに押されて頷く。え、思ったよりガチじゃん。

 

「その点、男の姿と女の姿を両方見せておくと、コラボ相手の常識を破壊して仕草などどうでもよくさせられるのです!」

 

はぁ…理屈があることは分かった。つまり性別の真ん中を狙うのではなく、両極端をとって平均をとらせると。確かにそっちの方がバレる確率は減る気はする。

 

まぁ、

 

「嫌ですけど」

 

「えっ!?なんでですか!?」

 

普通に考えて女装して知り合いに会いに行くのは嫌では?しかも初対面よ?まぁ初対面だからこそできることではあるが。

 

「服は経費で落とせますよ!?」

 

「いやそんな使い方していいんですか?」

 

「許可、もぎ取ってみせます」

 

そんな覚悟はいらないです。唸っているとマネージャーさんが俺の肩をガッと掴んで血走った目でこちらを見てくる。

 

「ちょっ!?」

 

「貴方たちの尻拭いにこちとら参っているんですよ!まあ、1,2期生も同じような感じでしたが…

 

「う″っ…それは、申し訳ないと思ってます……」

 

だからと言ってこちらも引く気はない。と思った瞬間、突然その場で土下座するマネージャー。いやマネージャー!?

 

「僕にも役得があってもいいと思うんですよリアル男の娘を見せてくださいお願いします」

 

うわぁ…これが限界社会人の末路か…(原因の一端が自分にもあることに目を背けながら)

でも、ねぇ。女装は流石にねぇ…

 

「…首を縦に振ってくださるのなら、」

 

ぴらり。

 

「このスイーツバイキング無料券を差し上げます」

 

「やりましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———って訳なんだけどまじでどうしよう…」

 

「流石にそれはちょろすぎない?」

 

だって仕方ないじゃんか。あの人気店のスイーツバイキングだぞ?普通に予約したら6000円くらいするとこの。

 

甘味の誘惑に抗えず二つ返事でまあまあ重大なことを安請け合いしてしまった後日。女装することになったが、メイクも服もなーんも分からん俺は早速妹にヘルプを求めた。

 

「頼む…!実は無料券は2枚もらったんだ。手伝ってくれるなら1枚やろう———」

 

「仕方ないなぁ、今回だけだよ?」

 

ふっ。ちょろいぜ。

 

「女装画像ネットにあげられたいの?」

 

冗談ですごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん丸顔だし彫りも浅いし、メイクすれば顔はどうにかなるでしょ?体もそんなにガッチリしてないし…ちょっとお腹触るね。…うわ、ほっそ!え?なんでくびれあるの?…まじ?おかしくない?」

 

俺のお腹をペタペタ触った後に、自分のお腹回りを見て呆然している妹。

 

「そうか?こんなもんじゃない?」

 

「舐めてんの?それお兄ちゃんの女友達とかに絶対言っちゃ駄目だよ?殺されるよ?」

 

「今私、殺意湧いたもん」ってさらっと言う妹が怖い。

 

「はぁ…まあそっちの方が都合はいいけど」

 

呆れ顔で部屋を出ていく妹。なんで呆れられてるの俺?

とりあえず待機命令が下されたので三角座りで待つ。そういえば最近、高校の時の友達と連絡をとっていない。あいつら元気かな。まさか俺が女装しているなんて思ってもいないだろう……あっ。やべ!黒歴史を思い出してしまった。いや違う。あれはきっとネタで選ばれただけだ、大丈夫、大丈夫———

 

「準備できたから洗面所まで来て」

 

「うぉっ」

 

突然後ろから話しかけられてちょっとびびる。怪訝な顔をする妹になんでもないって言って誤魔化しながら妹と一緒に洗面所へ。本当になんでもないんだ……文化祭での悪ノリなんてなかったんだ…

 

 

「…いつも思うけど、お兄ちゃんの年でヒゲもムダ毛もゼロなのはおかしくない?」

 

まぁ除毛も脱毛も結構してるので。なんか毛だけは気持ち悪く感じちゃうんだよなぁ…

ふくらはぎをすりすりと撫でてくる妹を軽くあしらう。くすぐったいからやめなさい。

 

「じゃあメイクやってくね。教えながらやるから覚えてよ?」

 

「りょーかいりょーかい」

 

覚えるったって順番くらいだろ?そんなに難しいことはないだろう。

 

……そう思っていた時期が俺にもありました。

 

「ちょっと手首見せて…うん、ブルベかな?じゃあ私の下地そのまま使っていいかな。ほら、これ日焼け止め塗る時と同じように顔に塗って」

 

「ファンデはリキッドの方がいいかな。頬はしっかりめに、輪郭は軽めにつけてね」

 

「お兄ちゃん眉の形けっこう綺麗だね。これならカットはいらないかな。こっちのブラシの方で毛先を整えてから反対のペンシルで一本ずつ描いていってね」

 

「アイシャドウはくすみを帯びた色が似合うと思う。…あっ!今は瞬きしちゃ駄目!」

 

「マスカラはどれにしようかな…うわ。まつ毛バサバサじゃん。なんでそんなに素材いいの…むかつく。もうビューラーだけでいいんじゃない?」

 

メイク、大変すぎ。「お兄ちゃんは初心者だから基本だけ」ってマジ?これで基本なの?

 

その後もチークやらリップやらを塗られて、髪も軽く編まれて。そういえば受験の1ヶ月前に切った以来ずっと放置してたなぁ。前髪だけうざいからヘアピンで止めてたけど、今回妹にカットされた。普通に上手い。なんでそんな技術持ってるんですかね…

 

「よし、いい感じ」

 

洗面所に連れられてから40分ほど経っただろうか。想像の倍は長い妹のメイク講座が終了した。

 

「だいたいわかった?…って、聞いてる?」

 

「…なんとか」

 

メモとっといて正解だったわ。こんなん覚えれる訳がない。慣れないことをして疲れ切った俺に、妹が手鏡を渡してくる。促されるままに自身の顔を見ると。

 

「誰?」

 

「メイクってこんなに印象変わるんだよ。すごいでしょ?」

 

すごい。首から上だけ別人のようだ。流石に知り合いに見られたら普通にバレるだろうが、初対面の人ならこの顔と元の顔を隣に並べても同一人物だと気づかない人もいるのではないか。

 

満足げにむふー、と息を吐いている妹に感謝を述べようと振り向くと、妹は手に持っていた服を俺に差し出していた。とりあえず受け取って広げて見る。レディースのニットに、ズボンのようなスカートのようなよく分からないボトムス。

 

「…これを、どうしろと?」

 

「着て。今から出かけるよ」

 

???

待って待って待って。妹の服を着て妹と外出はハードル高すぎでは?

 

「…今日はメイクだけで大丈夫。ありがとな!」

 

滑らかな動作で妹の脇を抜け、自室へと逃げ…自室へ…

 

「こんなに時間かけたのにメイク落とす気?バカなの?」

 

首根っこ掴まないで…じりじりその服を近づけないで…

 

「流石に覚悟が!まだ覚悟が足りてないから!!」

 

「それでぶっつけ本番まで外に出ないつもり?」

 

「ぎくっ」

 

図星である。だって怖いもんは怖いじゃん。責めるような視線から逃げるように目を逸らすと、妹は露骨にため息をついた。

 

「これでもお兄ちゃんに譲歩して、トップスはシンプルなニットだし下もキュロットなんだけど」

 

「そもそも目的なく外出しても何すればいいかわからないだろ…」

 

「いや、女装用の服買わないと駄目でしょ」

 

「…ネットショッピングじゃだめ?」

 

「それ以上ごねるならミニスカ履いてもらうことになるけど」

 

 

折れた。

 

 

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