[完]黒い沈黙の娘   作:こまごめピペット

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初めに。
・書き貯めはない。
・残酷な表現等
・オレ、泣きそうだよ……

OK?


プロローグ
1話 巣の娘


 

 

 

 

 9区の巣の中で私はぬくぬくと過ごす。

 

 いつも通り学校に行って、授業を受け、たまに友達と喧嘩して、普段通り家族と一緒に食卓を囲む。特に変化のない日々、それが幸せに感じた。

 

 

 夜、突然地面が大きく揺れた。

 たった一瞬だったが、戸棚から皿が落ちては割れ、本が散乱した。

 バチンと灯りが切れ、真っ暗になった。

 停電してしまったようだ。

 

 外に出て空を見上げると大きな光の柱が天に伸びていた。

 それは太陽の様にとても暖かく、裏路地ですら照らしてくれそうな優しい光だった。

 

 その時から皆が穏やかで争いも起きないような世界になった。

 いつまで続くんだろうか、みんな外に出ては空を見上げ、光を見つめていた。

 

 

 三日間続いた光は、突然消えた。

 真っ暗だった。都市が丸ごと絶望(くらやみ)に包まれた。

 怖かった。恐ろしかった。この世の光りが無くなって、世界が静まり返った。

 

 父から聞いた。L社(lobotomy)が折れてしまったらしい。

 停電もそのせいだろうと。

 

 暗闇が三日間続いた後、停電が復旧した。

 ……したにも関わらず、みんな喜びの声を上げず、静かだった。

 

 みんなが言う『白夜』『黒昼』の間もただ見上げるばかりで、ずっと静かだった。

 

 

 

 いつしか、いつも通りの生活に戻っていた。

 

 私達はあの光の柱を見たあと、何事も無かったかのように過ごしていた。

 

 あの幸せで、何も無い日々が戻ってきたのだ。

 父は仕事場へ出かけ、母は家事をする。

 私は学校へ行き、友達と話し、授業を受け、家に帰る。

 

 

 何も変わらない日常だ。

 でも、何かが足りない気がする。

 幸せだけど、少し物足りない。

 

 そんな気持ちが、何かが心を蝕んでいるような……。

 

 

 ふと、昔誕生日に貰った銀の懐中時計を眺める。

 

 父に買ってもらったものだ。

 エンケファリン電池だとかなんとか……他にもいっぱい技術が詰まっていると聞いたけれど、私にはよく分からなかった。

 

 

 ただ最後に言っていた言葉だけは覚えている。

 

『これはお前を守ってくれる、だからな。大切なモノ、人はちゃんとお前が護るんだぞ』

 

 

 元協会のフィクサーだった父がそう言って、くれたものだ。

 

 それ以来、私はお守りの様に肌身離さず持ち歩くことにした。気持ちが乱れた時はこれを眺め、心を整理した。

 

 

 私の唯一の宝物。

 

 幸せを守ってくれる大事な御守り。

 

 

 

 

 今日もいつも通り、学校へ行く。

 教室に入り、席に着き、友達と話し始める。

 

 

 いつも通りの日々だ。

 

 

 いつも通りの日々だった。

 

 

 

 家に帰って課題をしていると、電話が掛かってきた。父からだ。

 

 携帯を手に取ろうとすると、何処からか、ポロン、ポロンと鋭く歪な不響和音が聞こえ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 ━━━━私が私をみている。正確には自分に似た人を鏡越しに見つめていた。

 

 

 

 紛れもなく自分自身の姿。

 たった一つしかない、微かな可能性。

 

 それと目が会った瞬間、真っ逆さまに落ちていく、何も無い闇の中に。

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 オフィスチェアに座り、私はゆらゆらと揺れる。

 銀の懐中時計を見つめ、蓋を閉じる。

 タイミング良く、誰かが扉を叩く音がした。

 

「入れ」

 

 

 私がそう言うと、一人の男が大きな紙袋を持って入ってくる。

 その男には片腕が無く代わりに義手が嵌められていた。

 左右の重量の差から足音にばらつきが有る。

 調整をサボったか……

 

 

「ただいま戻りました。ハムハムパンパンのサンドイッチ、買ってきましたよ」

 

「あぁ、ありがとう、べディ。そこに置いてくれ」

 

 

 言いつけ通り寄り道もせず、ちゃんと買ってきてくれた様だ。

 

 

「……何かありましたか?」

 

「ん? いや、なんだか視線を感じたんだがな……気の所為だった様だ」

 

「……一応警戒をしておきましょうか?」

 

「あぁ、頼む」

 

 

 べディが部屋から出て行き、私は紙袋を漁り、サンドイッチを頬張る。

 

「……やはり、美味いな……」

 

 

 父が言うには昔よりは大分と食える様になったと言っていたが、昔の事は知らん。

 相変わらず美味しい。

 

 

 ふと、壁を見ると、黒い手袋が丁寧に飾られ、掛けられてあった。

 母の手袋のレプリカだ。

 

 金の名札が貼られているが掠れていて読めない。

 

 

 そういえば、父と母はフィクサーを辞めて一緒に工房巡りをしているらしい。

 

 この都市も平和になったものだ。 人々が自由に……とは行かないが、安く、何処へでも行けるようになった。

 

 

 ……父さん私はこの大切な都市(無垢な人々)を護れているだろうか。

 

 きっと幸せであろう親達に思いを馳せた。

 

 

「はぁ……」

 

 

 鳴る事の無い電話の受話器を取る。予め電話が掛ることを知っていた様に。

 受話器の奥からは、驚いた様な声が聞こえた。

 

 

「どうした?」

 

『あぁ、相変わらず出るのが早いな……団長』

 

「そんなことはどうでもいい、要件を言ってくれ」

 

「あぁ、ハナ協会からの要請だ、そっちの方で強力なねじれが生まれた。翼では自由に動けず、対処出来ない様だ』

 

 

 はぁ……面倒だ、今日も平和だな、なんでべディと話そうと思っていたのに。

 

 

「了解した。すぐに向かう」

 

 

 電話を切り、私は立ち上がる。

 

 母譲りの白い髪を結び、翡翠の様な輝く腕輪 を両腕に装着し、部屋の扉を開け、廊下に出る。

 

 するとべディが私を待っていた。

 

「お出かけですか?」

 

「あぁ、少し先でねじれが出たらしい。行ってくる」

 

「承知致しました。お気をつけて」

 

 

 べディと別れ、私は外に出た。

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 

 

「ん……うっ、うぇぇぇ、げほっげほっ!」

 

 

 目が覚めた。かち割れる様な酷い頭痛と胃をひっくりがえすような吐き気がする。

 

 ここはどこだ……? 私は何をしていたんだ? 思い出せない……

 とりあえず周りを見渡すと、外だった。

 あった外壁はボロボロで、外に放り出されていた。

 

「はぁ、はぁ」

 

 息が苦しい……

 喉の奥が熱い……

 寒い……

 

 空を見上げれば、身体を突き刺す程の大粒の雨が降っていた。

 

 空に浮かぶ五線譜の様に並んだ線に、人が裂け、血を垂らしながら音符のように変形していく。

 

「はぁ……? 何……これ……」

 

 

 思わず呟く。

 五線譜に沿って音符を見ると見覚えのある顔が2つ。

 

 父と母だ。

 

 

「父さん! 母さん!」

 

 叫び、駆け寄ろうとするが、体が動かない。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 自分の呼吸が荒くなる。

 

 

「父さん……母さん……」

 

 あぁ……あの幸せは……私の幸せは……

 崩れてしまった……護れなかった……

 

 涙が頬を伝う感覚すら分からない、何もかも失った私はただ虚ろで、目の前の現実を受け入れられない。

 

 こんな事、都市では良くある事だろう……誰かが死んで不幸になって……誰かが生きて幸せになる。

 

 でも、余りにもこの災害は酷すぎた。子供の呼吸など非ず、ネズミすらも現れない……もう……私も死んでいるかもしれない。日常を奪われ、生きる意味など無く……。

 

「ん……?」

 

 自分の胸からカチリカチリと歯車が噛み合って行く様な音が聞こえる。

 自分の胸をまさぐり取り出すと、風防にヒビの入った銀の懐中時計がそこにあった。

 

 

 私に残されたもの。

 私が残された物。

 壊れかけなのにも関わらず、雨が染み込み始めているにも関わらず、秒針は時を刻み続ける。

 

 

 私の幸せはどうなった? あの時の幸せはどうなった? どうすれば良かったんだ。

 私に一体何が……

 

 

 いや、こうしてる内にも……皆の幸せな日常が壊されているかも知れない。

 

 

 私は……何も出来ないのか……

 いや、違う……まだ、私はまだ終わっていない。

 そうだ……まだだ……私は生きている。

 

 

 なら、みんなの幸せは私が護らなきゃ……。

 

 

 死に体の身体を引き摺り、私は立ち上がる。

 

 

「ゴホッゴホッ……煩いっ……喧しいっ! …………私は皆を護らなきゃいけないんだ……」

 

 何処からか聞こえる声を静かにさせ、血を吐き捨てる。息を吸うと肺の奥が痛む。血が滲んでいるようだ。

 

 

 

 心臓の鼓動と共に激痛が走り抜けていく。体の端から冷えている。

 骨が軋む、肉が痛い、まるで私以外の特別な誰かに合わせて替えられていくような痛み(哀しみ)

 

 

 だが痛みを噛み殺して立ち上がり、心を燃やす。

 誰かに忘れ去られようとも、護るべき未来があるのだから。

 

 

 悠々とピアノを弾く「ピアニスト」を睨みつける。

 

 

 奴を殺す。ただそれだけを考えて、私は『ソレ』を抜剣する。

 

 

 

『ソレ』はいつか見た天に昇る光の柱以上に眩しく輝き、そして鋭い両刃の剣。

 

 

 鞘は深緑の光が漏れ、常に万全へ作り替えられ、傷付いた身体を癒していくような痛みを感じる。

 

 

 

 

 

「……行くぞ」

 

 

 淡々と呟き、大雨の中駆け出した。

 

 

 




topic L社
都市の17区に存在する(会社)
安心で安全、クリーンなエネルギーを生産し、都市に莫大な利益をもたらした

結局最強は誰なのか。

  • 赤い霧
  • 黒い沈黙
  • 青い残響
  • 朱色の十字
  • N社の奴
  • まだ見ぬフィクサー
  • アルトリア
  • 頭・爪・調律者!
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