[完]黒い沈黙の娘   作:こまごめピペット

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握らんとするものシンクレア欲しいですね


12話 普通に誘拐犯

「ん……はぁ……」

 

 ベットから起き上がり、壁掛け時計を見る。まだ寝坊はしていない。

 

 ……寝汗が酷い。

 

「シャワーを浴びないとな……」

 

 私はノロノロと部屋を出る。

 

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「おぉ、今日は早いな、アルトリア」

 

 

 1階に降りると父がキッチンで料理をしていた。

 

 私は父に挨拶をして顔を洗いに洗面所に行く。

 

 蛇口を捻り水を貯めて手で掬い顔に当てるとひんやりとして気持ちが良い。

 

 寝汗を流すために服を脱ぎ捨て、浴室に入りシャワーの栓を捻る。

 

 無駄に流れる水。温まるまでの時間待ちきれず、私は身体は石鹸で泡立て、すぐに流し終えてしまう。

 

 髪は丁寧にトリートメント等でケアをする。いくら丁寧にしようが変わらないが、あくまでも万全にしておく。

 

 脱衣所でタオルを取り、それで濡れた身体や髪を拭く。パンツとブラだけして着替えを取りに行く。

 

「うぉ?! あ、おまえ! 少しぐらい隠したらどうだ!?」

 

 慌てふためく父をスルーしつつ、箪笥を開けるが……母の服ばかり。

 

「うん……困った。そういえば服が無い」

 

 とりあえずドライヤーで髪を確りと乾かし、鏡を見て整える。

 

「ん……おはようございます、アルトリア……」

 

 少しぽやぽやとした様子の母が部屋から出て来た。

 寝起きなのだろう。

 

「おはよう、母さん」

 

 寝癖のついた母の髪を手で梳かしてやる。

 

「……なんだか不思議ですね、本当に大きくなった娘がいる様な感じがしますね……」

 

 母は目を細めて私を見つめて来る。

 

「血は繋がってないが……ちゃんと娘だ、それに……見た目も似てしまったから、親子にしか見えないだろう……」

 

「ふふ、そうですか……所で裸で何をしてるんですか?」

 

 母に服が無くて歩き回っていた事を説明すると少し怒られた。

 そんな子に育てた覚えはありませんって……

 

「じゃあ今日は私の仕事服を着ていって下さい。実は娘に同じ服を着せるのが夢だったんです」

 

 そう言い母は箪笥から仕事服を引っ張り出した。

 

「良い生地で作られてますから動き易いですよ?」

 

 私は母に言われるまま服に袖を通す。

 

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 ・

 

「ピッタリじゃないですか、良いですね。今日はそれを着ていって下さいね」

 

「おーい……アルトリア、着替えたか? もう朝食出来たんだが……お? なんだ、アンジェリカも起きてたのか」

 

 父が扉からひょっこりと顔を出す。

 

「えぇ、今行きます」

 

 母と一緒に部屋を出て、ダイニングへ向かう。

 

「おぉ? アルトリアか、似合ってるな……出会った頃のアンジェリカみたいだな?」

 

「……ローラン」

 

 父は母のジト目に慌てて手を振った。

 

 食卓には既に父が作った朝食が並んでいた。

 焼きたてのパンに、カリッとしたベーコン、目玉焼きにサラダ。

 紅茶のポットから湯気が立ち昇っている。

 母が椅子を引き、座るように促す。

 

「今日は何時まで出るつもりだ?」

 

 父が私の前に座りながら聞いてきた。

 

「そうですね……7時には帰るつもりでいます」

 

「そうか、じゃあ俺もそれまでにやることやるかな……」

 

 父は紅茶を飲み干すと、席から立ち上がった。

 

「アルトリア、少しだけアンジェリカ見ててくれ、すぐ戻る」

 

 返事をする間もなく父さんはデュランダルを持って出て行った。

 

「……ローラン……私別に子供じゃないんだけど?」

 

 母は呆れた様子で呟いた。

 

「まぁまぁ、早く食べてしまいましょう母さん」

 

 私は母を宥めつつ、目玉焼きを口に運んだ。

 

 今日の卵は半熟だ。

 

「……美味しいですね」

 

「えぇ、そうですね」

 

 母は私の反応を見て嬉しそうに微笑んだ。

 

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 ・

 

 朝から裏路地の巡回中。

 

「……いい天気だ……」

 

 雲ひとつない快晴。風が気持ち良い。私は裏路地の巡回をしながら空を見上げていた。

 

「そろそろ事務所作るか入るかで腰を据えたい所ではあるな……」

 

 そんな独り言を言いながら、行く宛てもなくぶらついていく。

 

 正直非効率だ。

 名前がある訳でも無く、なにかの専門家でもない、偶にかかってくる電話は動物探し。

 

 策略暗殺略奪なんでもござれの都市なのにも関わらず、来るのは平和な物ばかり……。

 

「……まぁ、それでいい」

 

 良い事だ。私はそう思いながら巡回を続ける。

 子供達が私の前を走り抜けていく。

 

「……ふむ、元気なのは良いことだが……」

 

 眼をスられてしまったようだ。流石に取り返さねば不味いか。

 

 焦らずゆっくりと、回り込むように裏路地を進み立ち塞がる。

 

「わっ!?」

 

 子供達は私の姿を見ると驚いて声を上げた。

 

「どうした? 慌てているようだが……何かいい事でもあったのか? 例えば……そうだな、いい財布を見つけたとか……?」

 

「え、あ、いや……」

 

 本当、子供から金を集ってるみたいで嫌になってくるな……

 

「まぁ、なんだ……そんなに慌てる必要は無いだろう? ほら、その手に持っている財布を私に返してくれれば良いんだ」

 

 

 

 子供達にそう言い聞かせると、怯えた表情をしながら、一人が財布を差し出した。

 

 これで良し……

 

 私は受け取った財布の中を確認すると、紙幣は入っておらず、硬貨だけがジャラリ、と音を立てた。

 

 全く……困ったな

 

 溜息混じりにそう呟く。

 

 3人か……よし。

 

 フードを脱ぎ、素顔を見せ目を合わせるようにしゃがみ込む。

 

「全部出してくれるか?そうだな……私と一緒に食べに行こう。勿論おごりだ。どうだ?」

 

 

 手を出すと黄色い髪の子が恐る恐る私の手を握った。

 その子の手を引き、他の子も着いてくるよう伝え、ハムハムパンパン(お気に入りのサンドイッチ屋)へ向かう。

 

 裏路地の子供だ、誘拐されても殺されてもおかしくは無い。けれど、偶には優しい言葉をかけてやらないとな。

 

 それに、子供に手を上げるなんてのはあまりしたくないからな。

 

 まぁ、私はただの偽善者なのだろうけど。

 

 怯えた子供達を連れてハムハムパンパンに到着し、席を取る。

 周りの客や店員からも奇怪な目で見られるが、金は落とすから許して欲しい。

 

「……好きなのを注文するといい」

 

 そう言ってメニューを渡したが子供達はまだ緊張した様子だ。

 

 まぁ仕方ないか……と思いながら私もメニューを手に取る。

 

「……ふむ、どうしたものか……」

 

 正直に言えばなんでもいいのだが……ここは子供達に合わせるべきだろうか……

 

「決まったか?」

 

「は、はい……」

 

 私がそう聞くと黄色い髪の女の子がそう答えた。

 

 よし、じゃあ私は……

 

「すまない、いいだろうか?」

 

 私はそう言いながら店員を呼んだ。

 

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 ・

 

 少し談笑しながら食事していたら3人のフィクサーが私たちを囲むように現れた。

 

 服装から見てもツヴァイ協会か……

 

「何用だ? 今は食事を楽しんでいるんだが……」

 

「一応通報があったものでな……」

 

「……協会は大変そうだな……なに、ちゃんと金は落とすよ。もう用は無いだろう?」

 

 少し圧を掛けながら睨みを利かせる。

 

「ま、まぁ落ち着いてください。一応身分を確認出来るものはありますか?」

 

「あー、そうか……コレでいいだろうか」

 

 最近発行したばかりのフィクサー免許証を懐から取り出し渡す。

 それをまじまじと見て、3人はコソコソと話し合っている。

 

「……良いだろうか?」

 

「あ、あぁ、はい大丈夫です、アルトリアさん。ご協力ありがとうございます」

 

 そう言ってツヴァイ協会の3人は去っていった。

 

「……災難だな君達も、私に絡んだのが運の尽きという訳だな……」

 

「えっと……」

 

「ああ、気にすることはない。お金は置いておくよ、残りも好きに使うといい。また会う時に出世払いでもしてくれればいいさ」

 

 そう言って私は席から立ち上がり店を後にした。

 

「……ふぅ……」

 

 私は息を吐きながら空を見上げる。

 稼げる依頼探さないとな……

 

 

 

 ◇◇◇

 

 月が登った夜道を歩く。

 猫を追い掛けていたらこんな時間になってしまったな……

 

 

「ん……死んでるな」

 

 帰り道の裏路地を通ると濃い血の香りが漂ってくる。

 

「……黒い沈黙?! いや……あの時のか……」

 

 赤い血が蠢く様に現れた。

 

「……あの手負いの血鬼か……それはお前が殺したのか……?」

 

 威嚇程度にエクスカリバーを出しつつ聞くと彼女は首を横に振った。

 

「……違う……ネズミの喰いかけだ……」

 

 そう言いながらそいつは死体の腹を指差す。

 確かに内蔵は空っぽだ。

 血の水気が無いのは此奴が食べた後だからか。

 

 

 

 私は目の前の女を無視して帰ろうとすると腕を掴まれた。

 

「……なんだ……」

 

「……何故私を殺さなかった……」

 

 ……何を言ってるんだ……此奴は。

 

「……お前が生きたいと言っただろう……?」

 

「私は血鬼だぞ! 恐くは無いのか!」

 

 血鬼は気を立てて血を、影を纏う。

 威嚇しているつもりなんだろうが。

 

「……泥水啜って生きてる様なプライドのない血鬼……そんな仔犬が吠えた所で……たかが知れてるだろう?」

 

「貴様ァッ!!」

 

 血鬼は私に向かって飛び掛かってくる。

 私は血鬼の腕を掴み、そのまま壁に投げつける。

 

「ぐっ……!?」

「……血鬼らしく増えたらどうだ……まぁ、許さないが……カルンウェナン」

 

 短剣を取り出し、壁に磔にする。

 

「何がしたいんだか……」

 

「……何故だ……何故、私を助けた……?」

 

「お前が死にたくないと言ったからだ……」

 

「……私は血鬼だぞ……」

 

「……だからなんだ……あぁ、思い出した、何処かの宗教ではこれを禅問答とか言うんだったかな……? 血鬼がなんだ私はお前が生きたいと言ったから見逃した。ならば私がその道を示さねばか……ふむ、生きる術が無ければ私が雇おう。此方には人手も名前も無い。

 お前を野放しにすれば、いずれ皆を殺すだろう……いやもう殺してるのかもしれないな? けれど私の所に来れば人助けしか出来ないようにしてやる。私はお前を人として扱い、お前は人として全うする。……どうだ……?」

 

 血鬼は暫く黙っていたが、やがて小さく口を開いた。

 

「……分かった……あんたに付いていくよ……」

「……そうか」

 

 随分とあっさりだ。

 私は血鬼の手からカルンウェナンを抜き取り、解放してやる。

 

「……アルトリアだ」

 

「あぁ、私は……エレナだ」

 

 確りと手を握り合い、友好を示した。




アルトリアの勝手な解釈に困惑するエレナさん

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