義娘がひとり……"友達"を連れてきた。
本来は歓迎すべき事だが、この都市のフィクサーにおいて、信頼、友達、それ等は足を引っ張り、時には命を落とす理由にもなり得る危険な要素だ。
そして娘が連れて来たのは……血染めの夜。
「……何故生きているんだ。俺が、俺たちが、殺したはずだ……なんでお前も連れてきた。前に言ったろ……」
その血鬼に俺は問う、デュランダルを構える。
「……あぁ、私は死んだも同然だ。ちゃんとお前達に殺されたよ。ただね……ちょっと事情が変わっただけさ……」
「何はともあれ、俺達は迎え入れる事は出来ない、どの面下げてやって来てるんだ……アルトリア。元の場所に返してきなさい」
娘を叱る親のようにそう言い、アルトリアの方へ向く。
「……事務所を建てるには人手も必要だろう?父さん、少しだけでいい……ダメだろうか……?」
申し訳なさそうな表情をしながら娘は言った。許したい所では有る。娘からのどうしてもの願いだ。だけどな……。
「……いーやダメだ、アンジェリカに何かあったらどうするつもりなんだ!3000人も殺した奴なんだぞ!」
「精確には4172人だ」
「黙れ、それお前の寝床だった所の話だろ」
俺は少し怒鳴るように言った。
悪いが都市の星まで行った奴だ。妻も身重だ、受け入れ難い。
アルトリアも操られてる線もなくはないが、此奴の実力だ。早々ないだろうが、もしそうだった場合俺だけでは手に負えない可能性もある。
「……ローラン、そこまで言わなくても……」
「アンジェリカ、部屋に戻ってろ。俺はコイツと話をつける」
嫁の言葉を遮るように俺は言う。
するとアンジェリカは腕を振り上げ━━━━━━━━━━━━
「っ、ふん!」
「━━━━━━━痛っ?!」
ズガンと金属のような拳が頭に振り下ろされた。
痛みがジンジンと広がる中、 俺は思わず声を上げた。
「アンジェ……何すんだよ……!」
「全部抱えるなって昔にも話しましたよね?」
「っぅ〜……それは……!」
そう言われてしまうと何も言い返せない……。
ただ俺は……アンジェリカを守りたいだけなんだ。
するとアンジェリカは、ふーっと息を吐くと、口を開いた。
「……わかりました、1度話し合いましょう。ローラン、お茶をいれてきて下さい。高い茶葉ですよ」
「え?あ、あぁ、わかった……」
アンジェリカの対応に困惑しつつその場を離れようとする俺の背中に向かってアンジェリカは言った。
「……私の為に何とかしてくれるのはとても嬉しいけど、少しは私も頼ってください」
俺は、何も言えなかった。
◇◆◇
「まさか黒い沈黙が親だとはな……似ている訳だ……」
「……まぁ血が繋がっている訳ではないがな……私も驚いたよ、血染めの夜だったなんてな……」
『血染めの夜』ことエレナをリビングに招き入れた。彼女は父さんから渡されたお茶を一口飲むと一息ついた様子を見せた。
「状況を分かってるのか?血染めの夜」
エレナの様子に少しムカついた父は圧力をかけるが、
「分かっているさ、ローランだったか?落ち着いてくれ、話し合いに来たんだろう?」
エレナは父を意に介さず、目を見据え、そう答えた。
普通に煽ってるだけだ……父さんが仮面被り始めたらもう擁護出来ないからな……?
とりあえず私から切り出さないとな。
「とりあえず現状を話すと……瀕死の血鬼を1日放置してたら助けを求めて来たから私が拾って来た。まだ事務所も建てられて無いから此処で住まわせるのはダメだろうか?という相談だ」
「……血鬼は危険だ、血の渇望があるだろ、誰かを救うのはお前の美徳かもしれんがそれで俺らが危険に晒されたら本末転倒だろ」
父が言う。
安全のある巣に引越しできたのに危険因子を取り込むのは嫌だと。
それもそうだけれど……此奴が罪を償うと言った。だからそれを見守らなければ私は気が済まない。
「エレナ、私の血だけでは駄目だろうか……少しずつでも何とかなるだろうし、私が鞘を持っておけば問題は無い……コレで血の事は問題ないだろう」
「……アンジェリカ……」
父さんは顔を顰め、母に決断を仰ぐ。エレナは血鬼として多くの人間を殺してきた。そんなものをはやはり受け入れられない、だが決定は母に任せる様だ。
エレナは静かに目を閉じ、黙っていた。
「……分かりました……私はアルトリアを信じます。エレナ、これからよろしくお願いします」
母さんは立ち上がり、エレナに握手を迫った。私とエレナが目を見合わせる。
エレナは小さく笑い、握手に応えた。
これで良かったんだ……と思うことにしよう。少なくとも、もうエレナは人を喰ったりしない。多分
「じゃあ早速……」
「え?ちょ、寝る時にでも良いのではないか?」
吸血するためにエレナは私にジリジリと寄って……ガブリと首に噛み付いた。
「いたぁ!!?」
私は家中に響く叫び声を上げたのだった。
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