乱暴だけれど工場のシャッターをこじ開け、中に入る。
「……名前の割には割と小綺麗だな」
エレナさんは少し拍子抜けしたかのように言った。
「……そうですね、こう、もっと血なまぐさいのかと」
僕も彼女の感想に同意してしまう。
薄暗いがしっかりと清掃された廊下、壁に取り付けられたランプ。……ただそれだけだ。
「……しまっていこうか」
先輩はそう言うと、背負っていたギターケースを構えた。
僕も先輩に習い、スティグマ工房の剣を抜いた。
だが、アルトリアさん達は何も構えずただ堂々と奥に進んでいく、何も来ないのが分かっているかのように。
死ぬことが怖く無いのだろうか……あぁ、生体保険を掛けているのか。
それにしても……
「……なんか……変な臭いがしますね」
何かが腐ったような……吐き気のするような異臭が鼻をつく。
「……あぁ、そうだな……」
師匠は顔を顰めて答えた。
「……この扉か?」
アルトリアさんは少し先のドアを指さした
「あぁ、そうだ」
エレナさんも同意するように答えた。
何か2人が察知したらしい。
師匠も身構える。
肌がひりつくような緊張感と、どこか冷たい空気が流れる。
「ここからは各々自衛してくれ……不意打ちの対処が難しいからな」
そう言ってアルトリアさんは光る剣を片手に、扉を蹴破った。
「……っ」
扉を開けた瞬間、腐ったような臭いが強くなり思わず鼻を覆ってしまう。
巨大な水槽の中に、なにかの肉がペースト状にして詰め込まれていたのだ。
その水槽の中に機械のアームが突っ込むと、目を潰す程の閃光の後、素っ裸の男が引っ張り上げられ、運ばれていく。
男は生きているようだったが、意識ははっきりしていないのか、されるがままになっている。
「エレナ……」
「人じゃないぞ、あれは」
「……わかった」
何がわかったんだ? 人じゃないってなんだ……?
考えているうちに水槽の上の穴から切り分けられた動物の四肢や、穴の空いた胴体等が放り込まれ、水槽の中でミキサーに掛けられた。
またアームがやって来ては、閃光を放ち、人の形をしたものを運んで行った。吐き気のする光景だったが目を逸らすことができなかった。
「うっ、うぇ……」
込み上げる胃液を吐き出す事で漸く目を逸らせた。
口の中が酸い匂いが染み付く。
そして気付いた、いつの間にか、ナニカに囲まれている事に。
ペチャリ、ペチャリと、粘着質な音。身の毛がよだつような異臭。
影から現れたのは、体中に目を持ち、口を持ち、ニタリと笑う豚のような異形
「っ、ししょう!」
たじろぎはするが、咄嗟に剣を構え指示を仰ぐ……そんな暇も無く、光の軌跡を残して切り伏せられた。僕には見えなかった。アルトリアさんが一閃したのだ。
「……動画か写真を撮るんだ、N社ではないから大丈夫だろう……」
少したりとも息を乱さずそう言い放つ彼女の姿はまさに最強に相応しいと思えた
まるで伝説の赤い霧のようだった。
「……観察眼は良いようだが、物思いに耽るのは命取りだぞ、フィリップ君」
「あ……はい! すみません」
吐き気のする様な光景を残すため、カメラを回す。
「エレナ、血を伝って人間以外は殺せ……こんなものを遺すな」
「あぁ、そうだな……」
アルトリアさんは冷静に、しかし怒りを込めてそう呟いた。
血に消えていったエレナさんを見た師匠と先輩は……
「……私達の出番はなさそうだな……」
「……そうですね……資料だけ持って行きましょうか」
……少し引き気味だった。
とりあえず目に見えるものを全て収め、一段落ついた所で少しだけ休息する。
先程までの緊張感が嘘かの様に、今は緩やかな空気が流れていた。
水槽を見て見ぬふり振りをしながら。
「……アルトリア君、君のその武器は何処の工房かね? 随分と切れ味も良さそうだな?」
「……これは……遺跡で拾ったんだ。実態は折れず曲がらず毀れず……っていう何処にでもありそうなただの目立つ剣だ」
「ハハハ、それは随分手入れ要らずだな、私にも1本欲しい位だ」
「なに、税金は馬鹿にならないからな、使わなければただの金食い虫だよ」
師匠とアルトリアさんが冗談を言い合っている様だ。
……僕が可笑しいんだろうか、あんなモノを直視したのに……ヘラヘラと平気そうに笑い合えるこの人達の方がおかしいんじゃないだろうか? そんな疑問を抱きつつ僕は2人の話を聞いていた……
「アルトリア、終わったぞ。人間ははっ倒しておいた。その辺に転がってるから煮るなり焼くなりするが良い」
……エレナさんが帰ってきたようだ。
「あぁ、わかった……サルヴァドールさん、尋問は任せた」
「あぁ、君達だけに負担をかけるわけにもいかないからね、私達がしっかり情報を引き出すさ……あぁ、フィリップ君はもう少し休んでなさい」
そう言って師匠達は僕を置いてどこかへ行ってしまった……
「はぁ……」
ため息を吐きつつ、血のない所に座り込んだ。
僕だけが役に立たない。まだ新人だという事は分かるが……何も出来ていない僕が惨めに思えてきてしまった……そんな自分が嫌で、思わず膝を抱えた。
「っ! フィリップ……!」
アルトリアさんの驚いた声に、慌てて立ち上がった瞬間。
目の前で暖かい血が滴った。
「は……?」
アルトリアさんが僕を庇って犬の様な生物に腕を噛み付かれていた。
「フィリップッ!」
その声でハッとする。
赤く熱せられる剣を持ち、僕はその生物の首を叩き切ってやった。
「っ……はぁ……油断は禁物だな……エレナ、ソレを片付けてくれ、まだ、伏兵も居るかもしれん……」
「あぁ、わかった」
「っ、なんで、なんで庇ったんですか……! 僕なんて……」
「……応急処置は出来るか? フィリップ君……それが今、君の出来る事だろう?」
「っ……はい、すいません……!」
包帯や消毒液を取り出し、丁寧に、丁寧に処置をする。
「……済まないな……フィリップ君……」
「……いえ、僕のせいですから……すいません……」
「良いかい……? 人とは一朝一夕で成る様なものじゃないさ……どれだけ金を積もうと、どれだけ実力が高かろうと、この都市では死ぬ奴は死ぬ……私みたいにね。ただ、その人の在り方をちゃんと、瞳を逸らさず、見て、受け止め、背負う覚悟を持てるか否か……私はそう思うよ」
その時 僕はただ、漠然と聞き、処置を終わらせた。
フィリップ君のめちゃくちゃムズい……余り見返してないせいもありますが……
18がこんな立派な事言えるのか……
Twitterとかやってます……プロフィールに書いてたりして……
if、若しくは補填が必要か
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必要
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不必要