ホントになんで名前間違えてたんでしょうか……
「……足跡、無いですね」
僕は辺りの草むらを覗いては呟く。
「あぁ、この辺は生息域では無いんだろうな……ジャンクも多い。群れで過ごすには人間臭いか。はぁ……どうせなら犬や猫と戯れたいな、アイツらは素直だから可愛いんだ……」
少し愚痴るアルトリアさんを横目に分布域を書き込む。
……あんなにもカッコよくて強く、誰もが憧れそうな彼女がこうも人間臭いとは、人は見かけによらないな、なんて思った。
「さ、次……行こうか」
「はい、行きましょう」
───────我々が今何をしているかと言うと、あの老人からある依頼を受けた。
それは『猛獣狩り』だ。
話によると、巨大な猪が人を轢き殺してミンチにしたりして大暴れしているらしい。
それも群れを成して。
若い人が襲われて喰われたりしたんだとか。
少し前に来ていたアルトリアさんの噂を聞いて、祈る様に救世主の訪れを願い、運良くそれが叶った様だった。勿論アルトリアさんも優しいので二つ返事で受けたが……。
少し草が生い茂ってる所にやってきた。
糞とかでも分かるからあれば良いな……。
ん……?この足跡……
「アルトリアさん……これは……まずいです……」
僕は足跡を見てそう言う。
獣なのは間違い無いが……猪の足跡では無い……狼や熊でもこんなに大きくない。そしてかなり新しい。
「あぁ……これは……」
アルトリアさんは何かを言いかける。
その時白い影が草むらから飛び出してきた。
「ヴァゥ!」
「……っ!」
それは巨大な白い狼だった。
アルトリアさんに飛びかかり、押し倒した。
「アルトリアさん!」
水気のある音が聞こえ、彼女からの返事が返ってこない。
剣を抜いて、狼に向かい横薙ぎに振り抜く。
しかしあっさり避けられ、腹に噛み付かれた。
「いっ……たくない……」
ガブガブと噛み付いているだけでダメージはない。
「え……?」
「暫く見ないうちに大きくなったな、よしよし」
アルトリアさんは顔がヨダレでデロデロのまま、普通に起き上がり、巨大きな狼を撫で始めた。
狼は僕を離してそれを受け入れ、アルトリアさんは狼を抱きしめていた。
どうやら敵ではないようだ。
狼は僕の方を向くと「ヴァゥ」と一声吠え、こちらに来てくれた。
「アルトリアさん……何ですか……それ……」
僕もアルトリアさんもあっさり死んだと思ってたけれど、実際は全くの無傷だったのだ。
「あぁ、こいつか? 前見たときは手のひらサイズの可愛い仔犬だったのを助けてな……かなり立派になったものだ」
アルトリアさんは僕の手を取り立ち上がらせてくれた。
「んん〜よしよし、いい子だ」
狼は「ヴァフ!」と鳴いて頭を僕に押し付けて来る。
少し押し返しながら、僕も撫でる。
結構固めの毛並みで撫で心地は微妙だ……ちゃんと洗えば何とかはなりそうだ
「狼ってこんなにも懐くものなんですね……」
「いや、この子は特別だと思うよ……多分」
僕は手を下ろし狼を抱き上げた。
こんな荒れ、過酷な場所で大型の犬という癒しがあるとは思いもしなかった。これだけ持ち上げてもまだ地面に足が付くのか……
「名前はあるんですか?」
「いや、勝手に着いてくるだけだったから付けてはいない……」
「名前無いと不便ですよね……何かいいのありますか? ネーミングセンスに自信は無いですけど」
うーん……と少し考える……
馬のように疾く駆ける巨大な狼か。
そういえばドンキが良く馬の話をしていた様な気がする……。
速い動物のひとつとして馬が居るとか……見た事は無いが。
名をつけるならロシナンテかカヴァスなんて言っていた。
「じゃぁ、カヴァスなんてどうでしょうか」
「……良いね、それにしよう……今日からお前はカヴァスだ」
アルトリアさんが即答したので狼の方を見る 狼は目を閉じて尻尾を振るっていた。
気に入ったようだ。
というか言葉が分かってそうな反応だ……
「名前、本当にそれで良かったんですか?」
「ああ、私が考えた名前よりかは遥かにいいよ。それに名前を呼ぶ時に『おい!』とか『お前』だと可哀想だろう?」
そう言ってアルトリアさんは笑った。
「ちなみになんて名前を考えてたんですか?」
「……けん……」
「え?」
「忠犬……だ」
おぅ……名詞だ……もう個性を全部潰して、残った1つを思い付いたかのように貼っつけただけな感じだ……
「いや、私も流石に可哀想だと思ってな? せっかくだから……お前に任せたんだ」
……これ以上は何も言わないでおこう……
んん! っと咳払いして気を取り直す
「とりあえず……収穫では有りますから1度帰りますか……? それとも、もう少し調べていきますか?」
「そうだな……1度戻って作戦を立て直そうか。エレナ達も心配だしな」
「分かりました」
狼に近付き、しゃがんで目線を合わせる
「じゃあ、行こうか。これから宜しくね、カヴァス」
「ワフ!」
◇◇◇
鏡の前で湯気を纏う私は向き合う。鏡を見る度少しだけ嫌な気になる。
誰かの特徴を埋め込まれて、それを無理矢理貼り付けて。それでいて自分だと主張する姿。頭では分かってるんだ……あぁはなり得ないと、あれは私ではないと。
それを誤魔化して、私は『私』になる。
父のように強く、母のように気高く。
今は落ち着いているが狼のように跳ねた白い髪、母や叔父から継いだ青く澄んだ瞳。
父から継いだ、少し眠たげな眼差し。母の血が混じった、女性にしては高めな身長。
私の身体には父と母、両方の面影が残っている。それが少し誇らしいし、少し恥ずかしいような気もする。
思考を遮る様にノックされる。
『アルトリアさん、湯浴みは終わりましたか?』
ランスロットが部屋の扉越しに声をかけてくる。
「あぁ、出るよ。もう少し待っててくれ」
せっせと身体を拭き、下着を着け、服に袖を通す。
「待たせた、次どうぞ」
ドアを開ける。
カヴァスとランスロットの二人が揃っていた。
カヴァスは尻尾をパタパタ振っている。可愛い奴め。
ランスロットはいつも通りの穏やかな笑顔。だが何処か疲れが見える。
「カヴァスは元気いっぱいだな……今から洗うのか?」
「はい、流石に綺麗にしないと可哀想ですし……」
子供達に人気の様で、触れられる分には綺麗にしてやらないと、とは思う。私とて汚いままなのは嫌だ。
「そうか……任せた」
「えぇ、行ってきますね」
ランスロットがカヴァスを連れて、入れ替わる様に入っていった。
「おぉ、おかえりなさいませ……湯加減は如何でしたかな」
「あぁ、良かったよ。すまないな、寝床所から湯まで……」
「いえいえ、騎士様があの害獣共を駆除して下されば、安いものですよ……所でお酒は如何ですか? 拾い物ですがいい物がありますよ……」
……少し悪意を感じる。やはり人間の醜い処は見てられないな……。
「いや、結構だ」
「そんな、遠慮せずとも……」
「どうやら私は下戸のようでな、明日に支障が出るやもしれない。今日はこの辺りで失礼させてもらうよ」
そう言うや否や、さっさと手配された2人部屋へ逃げ込んだ。
if、若しくは補填が必要か
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必要
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不必要