[完]黒い沈黙の娘   作:こまごめピペット

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25話 4'33

「オリヴィエ、資料だ」

 

「あぁ、すまないハロルド」

 

 彼女から封筒を受け取り、封を剥がし、中の書類に目を通しながら報告書を打ち込み始める。

 

 

 

【報告 巣の中で甚大な被害を出した新たなねじれ、通称『エンバーマー』。雪の様な体毛を散らし、皮膚接触した人を繭に包むような現象を起こす。

 

 しかし、この繭に包まれた人は外傷を負わず安らかに絶命する。それだけではなく、元あった外傷や古傷は治療され、より健康的な状態となり、見た目は生きている様に見える。

 

 

 

 約二十余万人を一掃し、ピアニストの次に被害を出したねじれである。

 対処に向かったフィクサーの多く殺害した。

 

 その後、対処に付近に居た黒い沈黙と思われる人物によって、エンバーマーは討伐された。

 

 エンバーマーが討伐された後、繭に変化が有り、繭に入っていた人物は全て黒く溶解を確認した。

 

 この現象は、エンバーマーが討伐されたことによるものか、それとも繭に変化したことによるものかは不明。

 

 以後巣の中に発生するねじれにも注意する必要が有る。

 

 以上 ハナ協会3課南部支部】

 

「はぁ……巣の重鎮(じゅうちん)が死んだとなれば、流石に大事(おおごと)だな、巣が荒れるぞ」

 

 資料を読み終えたハロルドは、そう呟きながらエンバーマーについて記された書類を封筒にしまう。

 

「……ローラン……」

 

 黒い沈黙は身重だ、ローランがやったに違いない。

 

 データバンクで親友の名前を打ち込む……と、見慣れない人物がでてきた。

 

「……アルトリア……? 誰だったか……うちで登録したようだか……ハロルド、来てくれ」

 

「どうした? オリヴィエ?」

 

「コイツ、見た事有るか?」

 

「……いや、知らんな……で、どんな奴だ?」

 

「4級だそうだ。元都市脅威。血染めの夜と事務所を立ち上げたらしい。覚えてるか?」

 

「……」

 

「だよな……」

 

 

 

 ……養子か……。俺の知らないうちに……

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「師匠、アルトリアさんに連絡しないと……」

 

 

 

「ふむ……? 誰かね?」

 

「え? この前一緒に仕事したじゃないですか……」

 

「この前?」

 

「ほら、膵臓バーガーの事件の時の……」

 

「はて……? 済まない、覚えがないな……フィリップ君の友達の話かな?」

 

 ……そんなはずはない。あんなに華麗で、技を体現した戦い方をする人物を忘れる訳がない。

 

 しかし師匠が嘘をつく筈もないが……流石に埒が明かないか。僕は頭の中を切り替えて何も無かったかの様に振る舞う。

 

「いや、何でもありません……ところで双和茶のおかわりはいりますか? 師匠」

 

「あぁ、頼むよ」

 

「はい、分かりました」

 

 そう言って僕は、師匠に双和茶を出した。

 

 

 

 何故、彼女の事を忘れていたのか……しかし契約書を探して見れば当然彼女のは有る。

 

 

とりあえず後で連絡してみよう……。

 

 ◇◇◇

 

 

 

「……エレナ……帰った」

 

「ん……おかえり……と言いたいところだが、ランスロットはどうしたんだ? 帰ってはきてない様だが。それに血だらけだな……その匂いは……」

 

 スンスンとエレナは鼻を鳴らし、 すぐに答えを導き出す。

 

「黒い沈黙か」

 

「っ……ああ、そうだ……」

 

 扉を背にもたれかかり、ズリながら座り込む。

 

 ある者を起こさない様にゆっくりと。

 

「……」

 

「……」

 

 気まずい沈黙が流れる。

 

「……先ずランスロットは、外郭に置いてきた……あいつは強くなれる……間違いない。彼処で死ぬような男では無い……」

 

「見て来たかのように語るな……?」

 

「あぁ……」

 

「ふん、まぁいい……。それで? 何故黒い沈黙の……いや、そのお前の腕の中にいる赤ん坊は何だ……」

 

「……死にかけの母から取り上げた。……時計を使った。殆どは私を忘れるから父にも頼れず……な」

 

 私の腕の中でスヤスヤと眠っていた。とても小さく、暖かく、そしてか弱い。

 

 私では無い、名前もない小さな私。

 

「で、その子をどうするつもりだ……?」

 

「この子は、私が育てる……母と約束した。『私が守る』と。そう、約束した……。私は、その約束を果たさないといけない……から……」

 

 喉が震える。視界が滲む。

 

 私が守る、死に際の母と交わした約束。

 私は、その約束を守らないといけない。

 

「……この子の名前は……ロンズデールだ……私と同じ道を辿らないように、そして純粋で美しくある様に……」

 

 誰にでも愛される様に、と願う。

 

「……裏路地でそんな名前聞いた事あるな……」

 

「……色々と買って来てくれ……腹が減った……」

 

 ……この子の母親になるんだ……しっかりしないと……

 

「……わかった、リストアップしてくれ」




E.G.O.:『4'33』 銀時計を模し、その見た目は使い古されつつも持ち主が丁寧に磨かれた時計。存在する時空をずらして、時間を無理やり留めるという物。制限時間は4分、其れ以上長くとめるほど存在が希薄になる。少女は願った、歪な音の無い綺麗な場所に行きたいと。


『星の楔』 アルトリアが持つエクスカリバーの鞘。其れは自身の存在を固定する物。老いや死をも跳ね除け、在るべき姿に固定する。
彼女の血に触れた物こそ強者である。然し傷付きはせど、不死身の彼女をどうやって殺せようか。

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