「……アルトリアさん、起きて下さい」
「ん……ベディヴィエールか……」
目を開けると、漆黒の髪を持った隻腕の青年が私を起こそうと揺らす。
ふわふわとした現実感の中、ベッドからのっそりと起き上がり、目を擦る。
「相変わらずの寝起きですね」
寝癖で跳ねに跳ねまくった髪をベディの片手で梳かれる。
「……ん、おはよう」
「おはようございます」
「ふぁ〜っ……」
大きく欠伸し、ベッドから降りる。
「今日の予定は……」
私が欠伸をしている最中、ベディが今日の予定を読み上げてくれる。
ベディは円卓事務所が設立して以降、私と行動している。
私の身の回りの世話をしたり、依頼を持ってくるのが仕事だ。
「はぁ、お偉い方と会合するのか……あれらは回りくどくて面倒だ……うん。ガウェインに丸投げしよう、それがいい」
「残念ながら、今回は貴女が名指しで指名されています。代役は難しいかと……」
「……大きくなってしまったばっかりの弊害か。直ぐにカタをつけよう……」
「その後に立食パーティーも御座います。リウ協会のロウェル、シャオ夫妻もご出席なされるとか」
「ん……そうか、それは行かねばな……クリーニングに出してあるパーティードレスを出しておいてくれ……」
「はい、承知致しました」
私がベッドから下りると、ベディは着替えの服を持って私の後ろに控える。
「でもまぁ、まずは始末書かな……トリスタンとイゾルデの痴話喧嘩には困ったものだ……店を荒すなんて……弁償代は彼等から引いておくか……」
「はは……全くです……そういえばガウェイン、ガラハッド、パーシヴァルが新たな遺跡を攻略してきたそうです」
「ん、そうか、あのトリオは優秀だな……仕事始めるか……」
「その前に顔を洗った方が良いと思いますがね」
「ん……」
とぼとぼと寝室を出てフラフラと歩くが、ペディに其方ではありませんと、首元を持たれ、猫のように洗面所まで運ばれた。
「そろそろ目を覚ます時間です……何時まで夢を見てらっしゃるのですか?」
ベディらしくない少しトゲのある言い方に、私は寝ぼけた声で返す。
「ん……もうちょっと……」
「……少しくらい自分のことを大切にしてください……貴女は私達の希望なのですから、さ……起きて下さい」
「ん……」
私は冷水を顔に浴びせて、やっと目を覚ます。
視界が白黒になり、まるで幽体離脱したかのように自身の身体が透けて見えた。
「……ベディヴィエール」
「はい。私は、此処にいます」
私が手を伸ばすと、直ぐにベディヴィエールは優しくその手を包み込み引き寄せられる。
「済まない……済まなかった……ベディ……」
彼に抱き着き、細々とした声でベディヴィエールに謝る。
そっと背中を撫でられ、落ち着く様に促される。
「はい、そのジャケットは大切になさって下さい……」
そこで途切れ、私はベットの上で目を覚ました。
「……らしくない夢を見た……」
ベットから降りて、部屋にある姿見に自身を写す。
そこにはげっそりと痩せこけた私が写っていた。
「本当に……らしくない……」
自分を大切にしてくださいか……。
それは……無理そうだ……
「ローズの世話の準備をしなきゃな……」
妹のことを思い出し、顔を洗って支度を始めた。
◇◆◇
「アルトリア殿! エレナ殿! 図書館なるものが都市伝説に指定されたようでござる!」
何時も元気なドンキホーテの声が事務所に響く。
「……そんなもの、何処にでもあるだろう……」
少し呆れ声のエレナはローズを愛でながら答える。
「図書館か……また珍しいものが都市脅威として認定された様だね……」
そんな事を言いつつ、そうなるだろうとは思っていた。何せあの紫の涙も確認しに来たぐらいだ。粗悪な義体施術をしていた彼らも、図書館の招待状と言ってよく分からない技術で消えたし、遅かれ早かれ都市脅威には指定されていたはずだ。
「い、いやいや、それがそれだけではござらぬよ! なんとL社跡地に建った巨大な塔が図書館だと……!!」
「……L社か……」
あまり縁起の良くない場所に建ったものだな。あの塔は。
「L社? そんな企業があったのか?」
どうやらエレナは知らなかったようだな……
「光の柱。知らないか?」
「ん〜……あぁ、あの白夜とかいう事象か?」
「はい! あの光のを出してから急に倒産したL社! あそこが図書館になったという噂が! それにどれだけ図書館へ向かって歩こうにも、霧に阻まれて辿り着けぬと!」
ドンキホーテは興奮した様子で語る。
「……らしいぞ? アルトリア」
ローズを抱えながらエレナは私に話を振った。
「ん……しばらく様子を見よう。恐らくこれから大きな渦になる……今のうちに備えておいた方が得策だろう」
「そうか……お前がそう言うのならそうなのだろうな……」
エレナはそれ以上は何も聞かなかった。
「そろそろ人員も増やした方がいいか……? 悩ましいな……翼や事務所の差し金が来ても厄介だ……な〜ローズ」
「う〜」
私はローズの元まで行き、頬で遊ぶと、彼女は楽しそうに声をあげた。
「むむ、難しいのですな……私も一緒に案を考え致します!」
「あぁ、ありがとうな、ドンキ」
近付いてきたドンキの頭をポンポンと軽く叩く。
今日の昼は出前でも頼んで過ごそうか。ふと机に散らばった新聞を見ると見出しには『湖のフィクサーまたも活躍か』と書かれていた。
「湖、か……」
少し頬が緩んだ。
if、若しくは補填が必要か
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必要
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不必要