[完]黒い沈黙の娘   作:こまごめピペット

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お待たせ致しました。

あと私事ですがインフルエンザに罹患しました。

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35話 モーゼス事務所

「それでですね! ユーリア工房が私たちの専属の武器工房になったんですよ!」

「そうなのですか」

 

 

 エズラの長尺な話に相槌を打ちながら、銀時計を開きモーゼスを待つ。

 

 服の至る所にステッカーを貼り付け、長い金髪を後に束ねた長身の彼女。まるで大型犬のように、従順にモーゼスという人を待っている。

 

 しかし、愛らしい性格とは裏腹に腕っ節に関してはドンキを悠々と越すほどの実力を備えているのを感じる。

 

 

 

「あ、先生! いかがでしたか!」

 

 サーカステントからモーゼスさん達と、後ろにオスカーさん達もついてきた。

 

 

「そのピエロは回収する事になった。一応連絡をとったら、セブン協会が車を手配してくれるそうだ」

 

 

 モーゼス事務所はセブンの傘下だったのか……

 私の勉強不足だな……。

 

 

「承知致しました。楔事務所の方々はどう致しますか?」

「あぁ、無力化に成功した事もう伝えてある。報酬もそのうち入ってくる……後顧の憂いを断つ為にも此奴は見張っておこう。其方も話が有るのだろう?」

 

「……感謝するオスカー氏。……アルトリア女史だったな……少し遠くで話そう。エズラはテントの解体を、ユーリアは着いてきてくれ」

「む、先生……何故私だけ解体を……」

「あの道具に関する事だ。それに解体は力有る君が頼りだ。済まないなエズラ」

「……わかりました先生! 私、やります!」

 

 

 少し不満げだったエズラは、モーゼスさんの一声でやる気を出して元気よく解体を始めたようだ。

 

 

「エレナ、4人を頼むよ」

「……あぁ」

「公園の方に行こう。ここだと騒がしいからな」

 

 

 私はモーゼスさんに連れられ、近くの公園にやって来た。

 

 

「単刀直入に聞く。何故血鬼を連れている。しかもあれをエレナと呼んだな……何故血染めの夜を殺さない」

 

 

 モーゼスさんは煙を吐いては怪訝な目でこちらを見る。

 

 

「……そうですね。生きたいと言ったからです」

 

 丁寧に、正確に。

 彼女に対して私が思ったことを述べる。

 しかし、それは納得のいく答えでは無かったのか、モーゼスさんは眉を顰める

 

 

 沈黙は大体三秒ほどだろうか。

 

 再び煙管から煙を吸い込んでは、ゆっくりと煙を吐いた。

 鋭い瞳は私を射抜くように見るが、妙に目線が合わない。

 成程……求めているのはそういう事ではないか……

 

 

「……一生をかけて償いをさせるよ。母の名にかけて」

 

 

 その言葉は重かった。

 

 心からの。本心からの言葉。

 私だけでは助けられない人々を守らせる為に。

 私の血さえあれば血の渇望で他の人が被害に合うことも無く、

 尽きる事の無い命同士永く付き合って行こうと決心した。

 

 

「……まぁこれは割とどうでもいい。どう見ても牙も毒気も抜かれているようだからな」

 

「探偵先生。本当によろしいのですか? ねじれてしまえば……」

 

「いいんだユーリア、彼女達はそんなヤワじゃないさ、その時はその時に考えよう。それよりももっと重要な事がある。アルトリア女史」

 

 

試されてたというか遊ばれただけだった様だ……真剣に応えたのに……。まぁそれよりも話を聞こう。

 

 

 モーゼスさんが合図を出すとユーリアの、ポケットからリボンの付いた可愛らしい熊の人形が飛び出して自立し、パタパタと両手を使って手を振ってくれる。

 

 

「……可愛いな……」

「確かに可愛いだろう? しかし大事なのはこれは技術でも何でもないということだ。私達はこれらを『神秘』と呼んでいる」

「神秘……ね」

「感情に呼応して動くこの人形や、私のこの煙管もそ神秘と呼ぶそうだ……話は変わるが私の私の目は少し変わっていてな、私にはねじれが見える。正確には物理的にねじれる前の状態が見えると言ったほうがいいだろう」

 

 

 モーゼスさんはゆっくりと私が噛み砕ける様に説明してくれた。

 

 モーゼスさんはねじれの前段階が見えるのを利用し、ねじれ探偵としてねじれを調査しながら働いている様だ。

 

 それを防ぐ鍵の1つが神秘というものらしい。

 

 

「……ん? 1つ確認だ。ユーリア、彼女はどう見える」

「はい探偵様。私の目には白く絹の様な髪に青い目。そして私達より背が高く見えますわ」

 

 

 そうか、と短く呟くモーゼスさんは煙を吐きながら私の足元をじっと見ている。

 

「体形は? 髪の長さ、髪型は」

「凄く胸が大きいです。腰も引き締まっていてスタイルは抜群ですね。髪は肩まで、狼の毛並みのようですね」

 

 そんなに褒められると少しこそばゆかった。

 再び煙管の煙を口に含み、口から吐き出し、暫しの長考。

 

 

「……アルトリア女史。神秘に心当たりがあるだろう」

 

 モーゼスさんは神秘という言葉を強調するように、その単語を私に向ける。

 

「そうだな……これか?」

 

 

 ポケットから取り出すのは古い銀の懐中時計。

 顔の思い出させない父との大切な宝物。

 未だ狂わず時間を正確に刻み続けている。

 

 

「あ!それには何が備わっているんですか?」

「おい、あまり……」

 

 

 子供の様に好奇心を剥き出しにして迫ってくるユーリアに気圧される。

 此方も利口だと思ったが彼処と変わらないらしい。

 

 

「そうだね……一定時間使うと皆が私を忘れてしまう、でどうだろうか。次目の前に来ても全部忘れてしまうんだ。一部の人以外は」

「一部と言うのは……」

「もうやめておけ、ユーリア。済まないアルトリア女史、ウチのユーリアが粗相をした」

 

 ユーリアさんが何かを言いかける前にモーゼスさんはそれを制した。

 この人はかなり苦労人なのかもしれないな……

 

 

「おや、あの車は……」

「我々のだな、済まないアルトリア女史。私の連絡先だ、ねじれ関連で困った事があれば連絡してくれ」

「あぁ、此方こそ……」

 

 

 

 お互い普通社員の様に名刺を交換したのち、モーゼスさんは懐にそれをしまい込んだ。

 

「それではアルトリア女史。また」

「はい」

 

 彼女らは白赤仮面のピエロを運んで帰っていった。

 

 

「すまない、円卓の方々。面倒事に巻き込んでしまってな」

 

 

 楔事務所のオスカーさんは申し訳なさそうに言う。

 

 

「問題無いこれも仕事の内だ。アルトリアが養ってくれていた分は返す。その為の肩慣らしだとも」

 

 ふんすと鼻息を荒くして胸を張るエレナ。

 

「感謝ならフィリップ君に言っておいてください」

「あぁ、戻り次第円卓事務所に送金しておくぞ」

「助かります、オスカーさん。パメラさんとパメリさんもお気を付けて」

「また遊びに言っても良いかしら!」

「勿論」

「お菓子、用意しておいてください」

「えぇ。ドンキにも伝えておきますね」

「ガキンチョ共あんま迷惑掛けんなよ……また頼むぞ円卓事務所。」

 

 

 そう言い残し、楔事務所の面々も帰って行った。

 

 

「私達も事務所に戻ろうかエレナ」

「あぁ、飯作らないとな」

 

 既にセブン協会共が片付けテントの影も形も消え、更地になった土地から私達も離れた。

 

「今日はビビンバにしようか。エレナ」

 

「そうだな」

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