[完]黒い沈黙の娘   作:こまごめピペット

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38話 人差し指 執行者

 カチカチと時計の様な音が車内に響き、私は腕を組んだまま目が覚める。

 

 車内を見回すと大きな窓ガラス。

 

 それにつり革。

 

 そして数人の囚人。

 

 何人かは珍しそうに、いや、畏れ多そうに私を見つめている。

 

「やっとお目覚めか」

 

 低いドスの効いた声。

 

 その男の瞳は赤く光り此方を見てくる。

 

 私はこの男の名前を知っている。

 

「……おはようございます、ヴェルギリウス先生。それに皆。あと管理人殿」

 

 そういった風に挨拶すると管理人と呼ばれる時計頭が急かす様にカチカチと歯車を回していた。

 

 先生の様に、何を言っているのか聞き取れないわけじゃない。ある程度のニュアンスは分かる。

 

 まぁ無視をするが。

 

 立ち上がり注目を集め、静かになるのを待つ。

 

「ん、んん、さて管理人様。囚人の皆様。あらためて御挨拶を……LCDからの派遣されました。私はアルトリアと申します。特色、緑を付与された1級フィクサーでございます。

 

 この度は地獄へ運行するバス、メフィストフェレスのアナウンサー、そしてサブマネージャーとして勤める事になりました。

 馴れ合うつもりはありませんが、車内環境の為仲良くはしましょう。それと、あなた達囚人の為に振るう剣はありません。

 

 飽くまでも管理人の危機が迫り、その頭を潰そうとした瞬間のみ、だということを、頭に刻んでおくように」

 

 そう言ってお辞儀をし、さっきまで寝ていた席に座る。

 

 周りを見渡すと不満そうな顔、怪訝な顔。興奮や、無関心など様々だ。

 

 なんというか、烏合の衆といった所か。

 

 何人か見込みのある奴は居るが……

 

 

 

 そんな事は気にせずまた眠りに着いた。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 ベットからのっそりと起きる。

 

 時間は5時前。日の出と共に目が覚める。

 

「変な夢を見た……」

 

 なんか時計頭の義体とか本当に訳が分からなかった……。

 

 カサカサの喉をいっぱいの水だけで潤し、キッチンに向かうとランスロットが料理をしていた。

 

「おはようございます。アルトリアさん。やはり火があると便利ですね」

 

 暫く外郭で過ごしていた彼は楽しそうに語る。

 

「……おはようランスロット。何とか直ぐに宿泊場所取れたのは不幸中の幸いだったな。ただ相手はシ協会だいつなん時も戦闘になっても可笑しくない。ひきしめ……ふぁ……ん、引きしめてくれ」

 

「ふふ……はい……」

 

 ランスロットは笑いながら、フライパンを再び振り始めた。

 

 そういえば……叔父様が定期購入し続けている銃弾、いっぱいあるな……税金も払ってるだけだから使わないと勿体ないだけか……。

 

 母と同じモデルのショットガンにライフル、それとシングルアクションの単発式拳銃。

 

 このどれもがロジックアトリエのメンバー限定品だ。

 

 幾ら金持ちでも積んだところで買えない代物ではあるが、それはそれとしてかなり高いのは確かだ。

 

 しかしながら、高い高い税金を掛けられた銃弾は1級フィクサーに対しては特になんの効力も無い。

 

 自分がそうである様に避ける事も弾く事も容易に出来るからだ。

 

 つまり、特別高価なだけで武器として効率は非常に悪い。

 

 その辺の木の棒を振り回している方が幾分かマシだろう……。

 

「ふむ……」

 

「……考えているのは良いのですが早く着替えないんですか? 次いでに起こしてきてください。2人を」

 

 ランスロットは何もせず座る私に向かって呆れながら言った。

 

「そうだね……」

 

 よっこらせと立ち上がり、ドンキとエレナ、ついでにローズを起こしてご飯にしよう。

 

 ◇◆◇

 

 食後、外でこっそり買った新聞を開くと、見出しに1週間ほど前南部の親指が崩壊しかかっていると書かれていた。

 

 大方親指の上が情報規制していたが何処かで漏れた……といった感じか。

 

「今日から荒れそうだな……エレナ」

 

 彼女を呼ぶと赤く光る瞳がじっとこちらを見つめる。寝起きで機嫌も悪く、かなり目つきが悪いから噛み付いてきそうだ。

 

「親指が潰れ掛けらしい。恐らく治安維持はツヴァイだけでは賄えないだろう、一応私達も介入する。いいね?」

 

「……ふん、いつ殺されても可笑しくない。事務所も帰れない。それなのに他人の心配をするのか……?」

 

 少し怪訝そうな顔だった。

 

「……今までもそうだっただろう? この都市は今、図書館のせいで皆ぐしゃぐしゃだ。頑張ってくれたらご褒美もあげるし……」

 

「……今日だけだ。明日からはローズの世話に戻る」

 

「済まないな、妹を任せっきりにして、頼りにしているよ」

 

 私がそう言って謝ると彼女は諦めた様に首を横に振る。

 

 謝意を込めて頬っぺたをムニムニとして、出掛ける準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「よし、そろそろ行くか。……ドンキ、困ったらランスロットに頼るんだ」

 

「はい!」

 

「ランスロット、君に妹を預けるよ。シ協会には気をつけて」

 

「はい、アルトリアさんも気を付けて」

 

 ドンキホーテがパタパタと手を振って見送っている。

 

 私は軽く手を振り返し、足を進める。

 

「さて……行こうか。エレナ。私の影に」

 

 カルンウェナンを手渡して、エレナを影に潜ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 ……嗚呼。悲鳴が聞こえる。静かな所に向いたい。

 

 騒がしいのは嫌いだ。

 

 これを止ませるには……守らなければ……。

 

 悲鳴に誘われる様に着いたのは折れたL社前の裏路地。

 

 

 

 巨大な木の様な建物がそびえ立つのは図書館。

 

 濃い血の匂いが漂う。

 

 赤いコートを狩る人が眼帯を着けた奴らに串刺しにされていたり、脊椎を抜かれ殆どが虫の息だ。

 

「ここは日が届かない。エレナ、普通の人は保護してやれ、親指は捨ておけ。人差し指は私が殺ろう」

 

 

 

「……はぁ……」

 

 

 

 エレナは血の枝を伸ばし、包む。

 

「ひっ、やめ……死にたくっ!」

 

 閉じたと同時にに声は消えた。

 

 

 

 

 

 目隠しをした者共。人差し指の奴らがぞろぞろと私を囲み、小さな紙切れを読む。

 

「指令。特色、灰色の陽光を足止めしろ。1人30秒内」

 

 その言葉を皮切りに、剣を持った人差し指が襲いかかってきた。

 

 私の"足止め"ね? 

 

「じゃあ、押し通るよ」

 

 ◇◆◇

 

「なんでしょうか……」

 

「んー? どうしたのー?」

 

「いえ、何だか……暑くて……」

 

「そっかー……わかんないや。あ、早く親指吊るさないと!」

 

「あぁ、俺たちは指令を遂行するのみ……」

 

 冷徹に親指の手足を切り取っては串刺しにして吊るしていく代行者のエスター、グローリア、ヒューバート

 

 それをただ見守るだけの伝令のヤン。

 

 そこに、本来居てはいけない異物が突然エスターの目の前に現れた。

 

「こんにちは」

 

 輝く剣を持ち、皮膚がひりつく程の温度を発するジャケットの人物がエスターを遮るように立った。

 

 蒸発した血の香り。明らかに手練だろう。

 

「修行者は何処だ?」

 

「……10秒も持たなかったな……?」

 

 人物は悠々と手に着いた血を拭う。

 

「……指令の完遂に邪魔だ」

 

「……それは失敬。でも私はそれ、嫌なんだ」

 

 堂々と人物が言うと、ヌルリと言う表現が相応しい動きと足運び。ヘビのようなしつこさで輝く剣が差し込まれる。

 

 不意をつかれた訳でも無いのにエスターは完全には反応出来なかった様だ。

 

「……っ指令遂行の障害と判断する。グローリア、ヒューバート」

 

「うん〜邪魔だからね〜!」

 

「此奴も串刺しが丁度良いだろう」

 

 瞬間。人物は緑の残光を残し、一瞬にしてグローリアの目前まで迫る。

 

「つよっ!」

 

 グローリアは5本の剣を束ねて防御の構えを取る。

 

 剣は激しくぶつかり合い、辺りに高周波の不快な金属摩擦音が響く。

 

 火花が散り、両者とも後ろへ押される。

 

「……見た目の割に機敏な……随分高級品だ」

 

 余力のある振る舞いは全力ですらないという事を人差し指のもの達は感じ取っていた。

 

 カチャと何かを込めたような音の次には皆が一斉に動き出した。が

 

 光剣は軽々と大剣や幾つもの斬撃を受け流し、間を突くようにゼロ距離で銃声。

 

「……ロジックアトリエ」

 

 フッと銃口から出る煙を払う。

 魔弾の餌食に遭ったのはグローリア。

 

 

 頭のパーツが凹み、目に当たる部分を潰していた。

 

 緊迫する空気。

 肌がひりつく程の殺気。

 

「うーん、話が違うなぁ〜、死体すら見当たらない。これは困ったなぁ……」

 

 それを弛緩させたのは間延びした男の声。

 

 その声のする方に目線が集まれば、そこには青いコートが特徴的なフィクサーとその仲間たち。

 

「青い残響……」

 

 光剣を持った人物は驚いた様子もなく呟く。

 

「うーん、シ協会も役に立たないなぁ……持つべきものは友と言うけれど、自慢の1課が意味を成してないなぁ」

 

 ニコニコと笑みを崩さず、困ったように話す青い残響、アルガリア。

 

「確か1課は……1人を置いて、みんな死んだんだったね? あー、残念だったなぁ〜、これで一課所かシ協会南部も潰れちゃたみたいだし、彼には悪いことをしてしまったかな?」

 

 思ってもないであろう事をペラペラと喋るアルガリア。

 声色からは反省の念など微塵も感じられなかった。

 

 他の仲間たちもベラベラと好き勝手に喋り出す。

 

 サメの頭や、髑髏、多面体や、歯車に兎の被り物、そして片腕の甲冑。アルガリアの連れだろう。

 

「……喧しい……お前も、そういう風になってしまったのか……ベディヴィエール……」

 

 黒い人物は光剣を鞘に収め、甲冑の方を見てポツリと呟く。

 

 その一言からは様々な複雑な感情が込められているようだった。

 甲冑の方もそれに呼応するように……或いはそれを裏切る様に嗤う。

 

「もういい……一般人は保護する。またどこかで会おう。エレナ」

 

 ジャケットの人物は血煙に包まれる。

 

 それが晴れた頃には血鬼の眷属となった親指達が人差し指らに襲いかかる。それら以外に其の人らの痕跡は無くなった。

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