[完]黒い沈黙の娘   作:こまごめピペット

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40話 眠りの中

 

 

 パチパチと薪か何かが爆ぜる音と、暖かくて明るい橙色の光

 

 

 

 轟轟と、獣が猛るように炎が燃える音

 

 

 

「がっ、がはっ、あ……?」

 

 喉に詰まって固まった血を吐き捨てると、周りを見渡す。私の腹や胸に夥しい程の裂傷や、剣が刺さり床に縫い付けられていた。

 

「はぁ……いたい、いたい……」

 

 水溜まりが出来るほどの出血。刺さった剣を無理矢理引き抜き、投げ捨てる。

 裂傷は痛みを伴いながら巻き戻るように傷が塞がり、出血も止まる。

 

「ぐっ、はぁっ……」

 

 

 フラフラとよろけながら立ち上がれば、事務所が半壊していた。

 飾ってあった母の手袋も燃え崩れ、棚の上に置いていた何かも燃えてなくなっていた。

 

 仲間だった物が辺りに散らばっていた。

 

「ぁ、あぁ……ベディ、何処だ……」

 

 火の粉が舞う。

 見た感じは居ない。彼からの返事が無いと言うことは、少なくとも此処で死んでいる訳では無さそうだ。

 

 

 

 手元に何時もある筈の剣は無い。

 

 こんな事をするとしたら思い当たるのは1人……

 

「……モードレッドか……」

 

 

 大方『翼』に寝返って剣を盗んだのだろう。……まさか事務所を焼かれるとは……剣は別に不死の元では無いのだが……

 

 父さんの愛剣を湖に落として出来てしまった大切な物なのだが……

 

 あぁ、懐かしい。父も母も外郭には連れて行ってはくれないが叔母さんにねだって良く行ったものだ。怖いもの知らずと言うかなんというか……

 

 

「そんな事を考えている場合では無いか……」

 

 首を振って思考を切り替える。

 燃え盛る事務所から抜け出して、ベディを、皆を探さないと。

 

「おい、大丈夫か? あんた! 良くあんな火事から出てこれたな!」

 

 ゾロゾロと野次馬がやってくる。

 人の波を搔き分けてベディを探そうと歩き出せば、肩を掴まれた。

 

「待っていろ! 今救急車を呼んでやるから!」

 

 周りの野次馬が心配して声を掛けてくる中、誰かがそう叫んだ。

 ……心配してくれているのはありがたいが、必要無い。

 

 私はもう死ぬ事が出来無いのだから。

 

「放っておいてくれ……」

 

 手を払い除けてより騒がしい、剣の弾ける音の方に走り出す。

 薄暗い通路。時折剣が飛び交う中に隻腕の彼の姿を見つけた。

 

 

 その時、

 

 

 音も無く、彼の胸を穿く光の剣

 

 

「……は、?」

 

 赤い花弁が舞い、地面を彩る。

 

 

 

 その美しい赤は、彼を引き裂きながら止まることなく私のもとに流れてくる。

 吐き気を催す様な鉄の匂いが鼻腔を刺激する。

 

「やっぱり……生きてやがる……あんだけミンチにしたのに……」

 

 ヌッと彼の胸から抜かれた光の剣を持っていたのはやはりモードレッドだ。

 

 視界が赤く霞む。

 口の中に広がる鉄の味。

 仇は目の前にいる。

 

 その事実だけで十分だ。

 

 足を一歩前に出せば身体が勝手に動き始める。

 口内に鉄の香りが拡がる

 

「モードレッド!ゆる……さん」

 

「あん?」

 

「……許さん!」

 

「いひー怖いねぇ……んじゃ部下共。あとは頼んだ」

 

 モードレッドが後ろにいた部下達にそう言い捨てると入れ替わる様に下っ端の連中がベディとモードレッドの前に立つ。

 

「んじゃ、また何処かで〜」

 

 モードレッドは踵を返して歩いていった。

 

 

 奴を追いかけようとするが、行く手を塞ぐのは奴の部下。

 

「どけ、邪魔だ。死にたくなければ……去れ」

 

 素手だから楽には殺してやらん。

 ◇◇◇

 

 

 

 ユラリユラリと足元が揺らめくような不鮮明な視界の中、倒れているベディヴィエールの姿だけが鮮明な輪郭を保っていた。

 

「……ベディ……ヴィエール……」

 

「……ぁ、アルトリア……」

 

 朦朧とした意識の中で彼は辛うじて私の名を呼んだ。

 

「アンプルを持ってくる、それまで……」

 

「い……え……コレを……預けます……」

 

 握らされたのは彼が羽織っていた緑に輝くラインの入ったジャケット

 

「できれば……一緒に居たかったです……貴方は……1人ではありません……私がついています」

 

 その後、彼の瞳から光が消えた。心臓の鼓動も体温も消え、その体から徐々に温度が抜けていく。

 

「……っ! まて……待ってくれベディ……!」

 

 自分の生気の抜けた様な声が喉から漏れる。

 何が起きたか、理解している筈なのに認められない。

 

「ベディヴィエール……行かないで、置いてかないでくれ……」

 

 そう呟きながら、彼の冷たい体を抱きしめた。

 深い絶望は体の中の体温を急速に奪い、唇を震わせた。

 歯を強く噛みしめることでそれを抑えようとするが意味が無い。

 身体の芯から冷えていくような感覚に胃が痙攣し吐き気がする。

 

「……」

 

 父が言っていた。

 

『お前を分かってくれるやつは世の中に四~五人しか居ないんだ。其れは俺達両親と親友と伴侶だ。俺達の事は気にするな。どうせもう死んでくだけだからな、だがあと二人そいつらは大切にしろ。お前を止めるヤツも慰めるヤツもそいつ等しか居ないんだ』

 

 言っている事が漸く分かったよ。父さん。

 

「ベディ……もう私は止まれない。このくそったれな翼を折ってやる……指の連中も……全て殺してやる……」

 

 それでこの都市が変わるなら。この泥沼のような世界で、どうにか生きる理由を見つけられるなら。

 

 この恨みを以て都市を糺す。

 

 

 

 ……先ずはモードレッド。お前を殺す。

 

 

 

 

Ⅱ▷Ⅲ

 

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