視界がグラついていく。形見のジャケットを握り締めて、ベットの上で震えていた。懐中時計を眺め、自分を保つ。
何の為にここに居るのか、誰の為にここに居るのか、其れを思い出す。
……何日此処に居るのだろうか、時間感覚が分からない。飲まず食わずで自分の部屋にこもって、自分を失わないように……。
あの夢から眠れない。自身を眠りから遠ざける。きっと夢を見てしまうから。
怖い。彼がまた死んでしまう。
支離滅裂な自問自答を繰り返し、気付けば4日が経っていた。
躰は固まり、古びた筋肉は激痛を伴って新しく生まれ変わる。
ベディがここで生きている事が嬉しかった……嬉しかったのに……
「どうして……」
彼はねじれてしまった……あの叔父が引き連れたねじれ集団。奴らのせいで。
それ以外に考えられない。
……彼は私の事など知らない。それが少し苦しい。
私は……
「ん……誰かが来る……」
玄関前に誰かが来たのを察知して、動き始める。
突然体を動かし、悲鳴を上げる筋肉を他所に自分の部屋を出て、リビングに入るとエレナが夕飯を作っていた。
「うわぁ?! あ、アルトリア?! ど、どうした?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔でこちらを見る。
「……エレナ、ローズの様子は?」
「あ、ああ……そこですやすや寝てるよ。風邪も引いてない」
「……良かった……済まない、エレナ」
ロンズデールの顔を眺め、生え揃ってきた髪の毛を撫でる。
「……エレナ、私が図書館に向かった時。1人の『人間』として……『友達』として、この子達を守ってくれるか」
「ああ? お前は出ていって私にチビ共の子守をさせる。いつもの事だろう? 任せな」
少し文句ありげに、だけど了承するエレナ。
私は少し頬を緩め、ローズから離れる。
そして、誰かが必ず居る玄関の前まで行き、扉を開けた。
「……おや、随分とやつれてるじゃないか」
私の顔を見るなりニタリと蛇のように笑い、心配する母親のように私の頬を撫でるのは紫の涙だった。
「……イオリ叔母さん……別に顔は変わってないと思うが……」
「はっ、何年一緒にいたと思ってんのさ、アンタの疲れた顔は見慣れてる」
納得せざる負えないか。先を知っている叔母には何も隠せないようだ。
「……上がっていくか?」
「いや、今から腹黒小僧に会いにいく予定でね」
そう言ってヒラリと見せられる黒く、高級感のある招待状。
それはいつかに見た図書館の招待状だった。
「それは……図書館の……私も行っ、んむ!」
指先で塞がれる口。叔母は顔を近づけ、私に囁くように話す。
「いいかい? これはあくまでも私からの招待状だ。お前に来たわけじゃない。自分のが来るまでお利口にお留守番してな。……さようならだ、アルトリア」
肩をポンポンと叩かれ、次元を飛び越えて行った。
まるで最後の別れの様に告げられた一言に固まり、追い掛けることも出来なかった。
「っ……イオリ叔母さんまで……」
もう誰もいない玄関で私はただ、呆然とするしか出来なかった。
「アルトリア? どうした」
……声がボヤける。美しい声が私の耳元で囁いている。
「あぁ……見て見ぬふりを、しているか……」
「アルトリア? おい」
「私はもう……何者かも分からない……禁忌に触れるこの身体……今を生きる父の為、ベディヴィエールの為に……」
「おい」
破裂音。私の頬を何かが強打する。
何が起きたのか痛みと爆音に震撼して、段々目が覚めていく。
「いっ……」
「何をほおけてる。起きろ」
「……エレナ?」
目の前にはエレナが居て、私の頬をペシペシ叩いていた。
「……飯食うぞ、腹減ってるだろ?」
「あ、あぁ」
「……あんまり背負い込むな、お前しか出来ないことも有るだろうが……私が背負ってやる」
彼女はそう言って玄関を閉じた。
「さ、肉だ肉。こういう事は牛肉が1番だ」
エレナは私の背中に周ってリビングの奥へと連れていった。
まだ私は待つ事しか出来ない……。
胸の銀時計は秒針を一定の感覚で刻んでいく。
if、若しくは補填が必要か
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必要
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不必要