[完]黒い沈黙の娘   作:こまごめピペット

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42話 灰色の陽光

人を殺すことへの躊躇いが消えたのはいつからだろう。日常の一部となった「殺人」という行為。それに慣れてしまったのは、いつからだろう。

 

「人を殺した」という事実、その行為、そして「殺人者」である自分自身を、「罪」として認識できなくなったのは、いつからだろうか。

 

 

 

この都市では、呼吸をするように人が死ぬ。人を殺すことに悲しみも感じない。そんな中で「罪」という言葉を考えること自体が、滑稽に思えるかもしれない。

 

見て見ぬふりをしていた。感じているふりをしていた。そんな言い訳では片付けられないほどの多くの命を、この手は既に奪ってきた。

 

彼処だって幸せの為にやっていた。

 

気づけば卑劣だと、そう思う感覚すらも消え失せていた。

 

私は、私の幸せのために人を殺している。

 

それは紛れもない事実で、変えようのない、拭いようのない現実だ。

 

 

 

事務所も大きくなった。漸く……裏路地を綺麗に出来た。

金持ち達が圧力を掛けてくるが……

 

此方も金でどうにかすればいい。

 

 

 

「……だが、宣戦布告……か。なら戦争しかないな。……仕方あるまい。」

 

妖しく翠の光を放つ形見のジャケットに袖を通す。

翼は安全が確約されている。なら裏路地は私が保証しよう。

 

緑の閃光として、守ると誓おう。

其れが人の命を背負った分の対価だから。

 

 

 

ベディ。私はどのように見えるのだろうな。お前はこの私をどう思うのだろう。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

私の銀時計はカチカチと時を刻んでいく。

 

事務所の椅子に揺られ、待つ。

 

 

 

……焦れったい。いつまで経ってもあの黒い招待状は届かない。

 

いつの間にやら、ハナ協会が動き出したそうだ。

図書館ももう不純物として指定された。

 

「……いつの間にやらヤエも図書館の餌食にされていた……か」

 

連絡の取れなくなったウチの工房担当に対して手を合わせる。

 

 

 

……前に新作のテストもしなければ、なんて愚痴っていたから其れも兼ねて行ったのだろう。あの仕事人間め……。

 

「……母さん。もう、どうしたら良いんだろうな……」

 

 

 

唯一私の手元に残った母の仕事着へ縋るように思いを馳せる。

 

袖を通せば母に包み込まれるような安心感を得られる。

 

何となく内ポケットをまさぐると、明らかに自分が入れた覚えのない黒い紙があった。

 

「……皮肉かな……私と父を繋ぐ道標がこの服に有るなんてな……」

 

 

 

《招待状》

 

あなた◻️図書館のゲストと◻️て招待致します。

 

図◻️館の本をお望◻️であれば

 

知識、◻️◻️、名誉、または力になり得ます。

 

しか◻️図書館には試練が待ち構◻️ています。

 

試練を乗り越えられないのであれば、ゲストは本に◻️◻️されます。

 

 

 

アンジェ◻️より。

 

 

 

あぁ、漸く……。

 

私はペンを執った。

 

◆◆◆

 

静まり返っていた図書館の入口。

 

突然の轟音。

 

骨の男、プルートが高らかに言う。

 

「叩けよ。さらば開かれん!」

「ぉぉー!内装は如何にも高そうねぇ!」

 

続けてキャッキャとはしゃぐ猫の女ミャオ

 

『……お静かに、あくまでも図書館なのですから、礼節を以て対応してください。』

 

籠った声で語るは隻腕兜のベディヴィエール

 

「あんたが力でぶっ壊してこじ開けたのに礼節もクソもあるかよ隻腕野郎が」

 

鳥仮面で言うカァカァ

 

「カッカッ!騒がすからこそ私たちだろう!」

「ベディヴィエール君の言い分理解出来ます。ゲストとして迎え入れてはくれないかもしれませんよ。」

 

その他ガヤガヤと騒ぎながら『葬儀屋』は図書館に入ってきた。

 

「おや、迎えが……」

 

 

青い残響 アルガリアの声がはたりと止んだ。

彼の目先には白髪の女性が剣を床に突き立て佇んでいた。

 

 

奇しくも彼女の服は彼の妹の物と酷似しており、其処に立っているだけなのに、彼女の存在を強く美しく、刻み付けていた。

 

「……アンジェリカ?」

 

 

アルガリアの口から既に死んだ筈の妹の名が零れる。

後ろではギギッと妹の肉人形が、動いてそこに居ることがわかった。

それは、目の前のが妹では無いことを暗に示していた。

 

「……叔父様。随分と乱暴ですね」

 

瞳の色すらも同じ其れはアルガリアを叔父と呼んだ。

 

「……あんた達正気?力でこじ開けて入ってくるとか。」

「こんなふうに入ってくるゲストも初めて……」

 

館長であるアンジェラと一緒にその召使いローランが降りてきたが、途中でその言葉が止まる。

 

「……アンジェリカ」

 

愛する妻と瓜二つのその顔が、目を細めてローランの顔を見つめてきた。

 

記憶には無いのに懐かしさすら感じる風貌に気味悪さを感じた。あの煙戦争で感じたのと同じ感覚に。

 

理解できない気味悪さと目の前の現物にローランは苦悶の表情を浮かべる。

 

「……叔父様。その人形はなんだ」

 

"ソレ"は徐々に語気を荒らげていった。問い詰めるかのように。

呼応するかのように図書館の温度が徐々に上がっていく。

 

「あ、あぁ、葬式っていうのは、家族みんなでするものだろう?ローラン。せっかくだから俺の友達に化粧して貰ったんだ、なぁアンジェリカ」

 

愛しそうに呟くアルガリアの声に反応してソレはギギッと動いた。

 

「そうか……母さんか……」

 

"ソレ"は人形を見つめ母と呼んだ。

 

「……は?……何が、どうなってんだ……」

 

ローランは困惑した、まずアルガリアが愛するアンジェリカの死体を弄んだ事への怒り。

そしてアルガリアの事を叔父、人形に向けて母と呼んだ"ソレ"への異物感。

 

「……お前は……誰だ……」

 

"ソレ"は問いに答える。

 

「私は……黒い沈黙の娘だ。」

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