[完]黒い沈黙の娘   作:こまごめピペット

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44話 肩透かし

図書館は燃えるように熱い。

 

熱い、リウから来たシャオの比ではないほど。

対面には特色 灰の陽光。

 

陽光の名に相応しく、その手には太陽のように黄金に輝く剣が握られていた。

 

彼女は走り出す。光を置き去りにしながら。

 

 

 

確実に1人、また1人と、眼前にいる司書補達を切り裂いて行く。

 

司書補達から飛んだ血飛沫は、床に落ちる前に蒸発し、煤のように吹かれて消えた。

 

 

 

圧倒的なのにも関わらずまだ本気ですらない事が分かる。まるで型に嵌められた様な振り方で感情を揺らさず機械の様に、淡々と潰して行く。

 

気付けば……アイツとオレの二人きりになっていた。

 

「……後は父さんだけだ。」

 

カーリー程の力押しは無く、ビナー程の特殊さもない。

 

殺して行く。唯堅実に、唯確実に、唯効率的に。

 

実に特色らしくない普通のフィクサー。

 

けれど何故かアンジェリカを彷彿とさせる。

 

「……ったく、誰に似たんだか!」

 

デュランダルで攻撃を弾く、弾く。

 

蛇のようにヌルりと差し込むようなある突き。

 

身体の軸を丁寧に使い筋力に物を言わせた加速。

 

どれもこれもが見た事のある動き。

 

「ふっ!」

 

出来た隙を見逃さず、切り込むがヒラリと躱され、いつの間にか元の場所に。

 

「っ……」

 

 

 

息を吸うだけでも喉が焼けるように痛い。

 

こちらが息を切らしているというのに、向こうは疲れた様子も見せない。

 

 

 

互いに武器を構える。

 

ゴーンと図書館には似つかわしくない、鐘のような音が響いた。

 

「っ、ばっ、ぐぅ!?」

 

何が起こったか分からない。目の中にはあの眩しい剣の輝きがチラついて、身体に衝撃が走った事しか理解できなかった。

 

ただ分かる事はオレが壁に叩き付けられ、床を転がった事。

 

 

 

「……父さんを止めるには……」

 

ゴト、ゴト、と熱源が近づいてきた。

 

目が痛い。瞑っていても蒸発していく水分。

肌を刺激し、髪が焼けた臭いがする。

 

 

瞼の裏からでも見えるほど眩しい剣を振り上げた。

 

「ごめんなさい……」

「ぅっ!」

 

本能によって、間一髪で避けた

その一撃を掠め、頬が焼け、つぅと赤い血が流れる。

 

「……っあぁ!!」

 

勢いのまま体当たりするかのように刃を突き立てた。

 

 

なんの抵抗も無く、ザクリと手袋越しに肉を裂く感触が伝わる。

 

赤い血が刃を伝い、黒い手袋を汚した。

すっぽりと抜け、煙掛かった記憶が晴れていく。

 

「……ぁ、……な、アルトリア……」

 

今、俺は……施術すらない綺麗な娘の身体に、剣を突き刺した。

アルトリアの血が滴る。

 

記憶を封じた箱が開いていくように、記憶が鮮明になっていく。

 

「……父さんはいつも……一足遅いですね……」

 

彼女は微笑んだ、アンジェリカのように。

 

「っ……あぁぁ!!」

 

 

 

力いっぱいに剣を振り、俺の手で……娘を殺した……。

 

 

 

光が霧散し本が落ちた。その本は深く焼け焦げていた。

 

 

 

あっさりと決着が付いた。着いてしまった。

驚く程呆気なかった。

 

妻を助けられず……娘をこの手で殺した……。

家族にまで手を掛けた俺に……何が残った……。

 

 

 

いや、それはそれ、これはこれ……だな……。

 

今ではなんの効果も無い魔法の言葉を頭の中で繰り返した。

 

「……アンジェラ……全部終わったぞ……」

 

「えぇ、そうね」

 

俺は平然とアンジェラに話しかけた。

 

内心は平静を装っているだけで、悲しみや虚しさで今にも叫びだしそうだ。

 

これで……やっと終わるんだ。

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