[完]黒い沈黙の娘   作:こまごめピペット

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最終話 theme02

 誰の影響か、図書館は大熱に晒されていた。頁が発火しそうな程の熱だが、調律者と爪だけに火傷を残していく。

 

 

 

 赤い霧 ゲブラーが走り出したと思えば、その後を追う様に灰の陽光 アルトリア、□□□とローランが駆け出す。

 

 

 

 ゲブラーは歪で肉々しい大剣を縦へ横へと力任せに振り回す。

 

 型も何もない滅茶苦茶な剣戟と言えど、ただの一般人ならば一撃で肉塊へと変えてしまう一撃。

 それを受けてなお、爪は原型を保っていた。

 

 赤い霧の全盛期で無いとは言え、最強の名にふさわしい力を奮い、調律者らを追い詰めてゆく。

 

 

 

 一方、アルトリアは輝く剣を手に、音を残す程の速度で線を躱し、返し、打ち落とす。

 

 蛇のようなしつこさで突き込み、影の□□□とピッタリ息を合わせ優雅にしかし激情的に剣と槍を振るう。

 

 正に技巧の極地。

 

 その一瞬を切り取り、保管出来れば十億眼は下らないだろう。燃えずに残っていたのなら。

 

 

 

 そしてローランは派手な2人とは違い、無音で近寄り的確に隙を狙って切り込み、休む暇を与えない。

 

 情報系らしく確実に消耗をさせていく。お互いがお互いの隙を補い合う。

 

 

 

 

 絶妙なバランスで成り立っていた戦闘を頭は瞬く間に崩した。

 

 気付けばゲブラー、アルトリア、□□□は線で拘束されていた。

 

 唯一無縛られていないローランは爪に頭を掴まれ、片手で持ち上げられていた。

 

「がぁっ……」

 

「……無理をした甲斐があったようだ。……ふっ、不憫な姿だね」

 

 縛られた私たちを眺め、くつくつと調律者は笑う。それとは対称に爪は揺らぐこと無く淡々と調律者の言葉を待つ。

 

「あぁ、かなり長く耐えてくれたよ。まぁ、こんな風にあっさりと終わってしまったが……これで……」

 

 

 

 パリッ、と儚い音と共に拘束具は消えてゆく。

 

 

 

「……!」

 

 異変、危険を感じた爪は直ぐにローランを離し、次元の裂け目から元の場所に戻っていった。

 

「……確かに話が冗長になると隙が見えるな」

 

 介入者は唐突に現れた。

 

 目の前に居る調律者のような装いで、大人の優雅さやミステリアスな雰囲気を醸し出す彼女。

 

「……」

 

 何事かと呆気にとられていた調律者は再び厭らしい笑みを浮かべた。

 

「ガリオン……」

 

 その声色から喜びが滲み出ていた。

 

「その名を聞くのは絶えて久しいことよ……。もはや私の為の名前では無いだろうがな」

 

「既に伝え聞いては居たけど……こんなに遅く迎えに来るとは思わなかったね」

 

 腕を組み直し、傲慢不遜な含みで言う調律者。

 

 

 

「今更何しに来たんだ……」

 

 タバコを捨て足で火を消しながらゲブラーは問う。

 

「暫くお前達の姿を見守って居ただけだよ」

 

「ここまで追い詰められるまで?」

 

「お前の娘だけが回避策を立てて居たと云うのに……咎める前に自分の身から卸しなさい。また直ちに始めなければならぬが故」

 

 ローランの減らず口に対してビナーは冷たくあしらった。

 

「責任を果たせぬのみならず……ここで眠りに就いて彼らを助けているのね。愚かな……しかし責任を問うことは後回しにしてもいいだろう。直にお前の墓を砕いてお前を引きずだしてやるから」

 

「今は殻になった存在を探している姿に遣る瀬無い気持ちしか感じないな」

 

「……処刑者、準備して。もうすぐだよ」

 

 

 

 皆一斉に構えた。

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 目を閉じ、深呼吸。

 

 良く手に馴染んだ剣の握り心地を確かめ、目を開く。

 

 

 

 目の眩みそうな光に慣れると、翠に輝くジャケットを狩る影は恭しく手を差し出してくれる。

 

 

「あぁ、エスコートしてくれるのか? パーティー以来だな……」

 

 彼の手を握り、あの時と同じ様に踏み出した。

 

 苛烈だった音速域の移動を緩め、優雅な足取りで飛んでくる障害を跳ね除けながら進む。

 

 

 指揮者のタクトの様に光の剣を振り、彼との息を併せ、爪へ迫る。

 

 手甲から煙を蒸かし、影と共に突き刺す。切り上げ、払う。

 

「ベディ!」

 

 彼を呼び、私の持つ一振、マルミアドワーズを投げ渡す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりとエクスカリバーを胸の前で鞘に収めると日が落ちたかのように温度は下がり、暗くなる。

 

 

 

 鞘口から漏れ出る光は目を潰す程、煌々と緑色に輝く。正に日の出の光の様に。

 

「フっ……!」

 

 

 

 爪に2閃。

 

 ベディと共に二方向から同時に切り込んだ。

 

 これでもまだ落ちない。

 

「……いい加減……執拗い!」

 

 父の手袋から無断接続、ホイールズ・インダストリーの大剣を引き出し、片手で叩き付ける。

 

 続け様に棒高跳びの要領で飛び、光剣を突き立てた。

 

「……ッグ!」

 

 爪は見事に突き刺さる。……だが、直ぐに抜けない程に深く刺し込んだにも関わらずダメージは無さそうだ。

 

 裂きながら引き抜いて立て直す。

 

 

 

 直後、衝撃。

 

「がっ!」

 

 頭上から面で叩き潰す圧力。

 

 一瞬の暗転後、目を開けば館内に大きなクレーターが出来上がっていた。

 

 膝を付いて落ちていた所を庇う様に前に出だベティ。

 

 それに感謝しつつ口に溜まった血を吐き棄てた。

 

 とにかく時間を稼ぐ。

 

 耐え忍んで、耐え忍んで、耐え忍んで。

 

「はぁっ……」

 

「まだ立つか」

 

 ゲブラーは鼻で笑う爪の攻撃をいなす。

 

「ぐっ……」

 

 父も耐えられなくなって来ている。どうにかして引かせれば父だけは守れるだろうが……。

 

 

 

 

 

 しかしそうは問屋が卸さない。

 

 図書館が悲鳴を上げるかのように揺れる。

 

 まるで周りの空間全てが軋む様に軋み始める。

 

 

 

 次に異変を指摘したのは父だった。

 

「……何だよ。この振動?」

 

 何かを察した様にゲブラーは醜悪な大剣を床に突き刺した。

 

「……どうやら進んでいるみたいだな」

 

「……」

 

 調律者は数秒の思考、のち見切ったかのように話し始めた。

 

「もう少しだけでも力を加えたら粉々になりそうなお前達が此の様に耐えたのも実に驚くべきだと云えるだろうね」

 

「ガリオン……最後まで砕け散ったお前の体を回収出来なかったのは惜しくはあるが……。時は来た」

 

「……」

 

「予定通り此処は放逐されるのよ。都市から離れた外郭の何処かに旅立つ準備をしなさい」

 

「お前達が元の在るべき場所に戻るだけ……。そして2度と戻っては来ないこと。都市はお前達の為の場所を明け渡すことはできないんだよ」

 

 最後に、忠告をする様に笑みを消し睨む様に言った。

 

「今は私達が自ら外郭に送るが、再び都市へ戻って来ればかかる誠意を無視したと判断する」

 

 そしてアルトリアへ視線を移し、ニヤリと笑う。

 

「どうか、居るべき場所に大人しく居て呉れぬことを」

 

 調律者達は消え去り、5人だけが残され都市のL社は丸々外郭の何処かに飛んで行った。

 

◇◇◇◇

 

 

 

 影が私の髪を撫でる。

 また何時でも呼べという風に優しく、慈しむように。

 

「ありがとう、ベディ……」

 

 フッと吹かれるように影は消え手元にジャケットだけが残った。

 

 

「……あ〜、アルトリア。ちょっと良いか?」

 気まずそうに近付いて来た父さん。私に聞きたい事がある様だった。

 

「お前、こっちに来て良かったのか?」

 色々な心配事が重なった質問だった。

 

「はい、問題ありません。妹はエレナや私の友達と一緒に成長するでしょう。

 あぁ、勿論エレナは私の血だけで過ごせます。他人を襲う事は無いでしょう。然し事務所はほぼ2人だけなので回らない可能性も捨てきれませんが、叔母様が勝手に弄るでしょう」

 

「お、おう、そうか……」

 

 やはり娘の事が心配なのだろう。

 私も心配だ。何も言わず出て行ったのだから。

 けれど、きっと立派に育つだろう……私がこれなのだから。

 

 空気を和ませるように父は質問を続けた。

 

「さっきのは……あれか? 前に言ってた……」

 

「覚えていたのですか……仕事仲間兼恋人です。父さんと一緒ですよ」

 

「がっ……面会は無いのか?」

 

「残念ながら死にました。話せる口も無い作り物の様な感じです。それと、此処に居たベディヴィエールとは別人ですから……姿形は同じなのに」

 

「……悪い」

 

「気にする事はありません。聞きたい事も多いでしょう」

 

 バツが悪そうに顔を逸らし、それ以降何も聞かれなくなった。

 

 

 

「外郭に来ましたね」

 

「そうだな……外は荒野だし、ハムハムパンパンもないし、つまらないな」

 

「私は馴染みのある場所で少し落ち着きます。唯一の楽しみは異形に合う事でしょうか……」

 

「えぇ? あの幻想体みたいな奴か?」

 って分からないかなんて続けた。

 

「あぁ、確かに……そう言われれば近いですね」

 私は立ち上がり、腰に剣を携える。

 

「何処か行くのか?」

 

「はい、探索しに行きます。カヴァスを拾いに行ってきますね」

 

「カヴァス?」

 

「はい」

 

 出口に向かい、扉を開けた。

 

 

「行ってきます。父さん」

 

「おう、気を付けろよ?」

目が眩む程の光を追い、娘のアルトリアは図書館から去っていった。




黒い沈黙の娘、これにて終い

またいつか〜

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