B(バラドル)小町と引き立て役B   作:ボンコッツ

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バラドルと引き立て役B

 

芸能界というのは、基本的に理不尽のシチューだ。

 

才能ある人間が夢を見て集まり、蟲毒のように食い合いながら消えていく。

 

ドロドロに溶けあって型崩れした野菜たちはルウの中に溶け……。

 

それでもなお溶け切らない強烈な『才能』や『個性』をもった、ごく一部だけが上澄みとして水面に浮いてくる。

 

浮いてきた一部の下にどれだけの踏み台がいるのかなんて、シチューを掬って食べるだけの『視聴者』にはわからない。

 

そういう意味では、株式会社苺プロダクションのアイドルグループ『B小町(ビーこまち)』は、芸能界の縮図と言えなくもない。

 

 

(……今日も、レッスンだけかぁ……)

 

 

視線の先にある、自室の壁に貼り付けた『空欄だらけの予定表』。

 

書かれたスケジュールは、いつもいつも二種類の事しか書かれていない。

 

『レッスン』と『B小町全体での仕事』、この2つだけだ。

 

グループのメンバーで、個別にアイドルの仕事が来るのは一人だけ。

 

『アイ』……B小町のセンターであり、間違いなく世代のトップアイドルを張れる逸材だ。

 

 

(……ずるいなぁ、アイちゃんばっかり……私だって……)

 

 

『彼女』も含めて、B小町のメンバーは『アイの引き立て役』以外の何物でもない。

 

グループメンバー同士の仲も良くはない、あるいはむしろ険悪と言っていい状態で、特に視線を独り占めするアイへの嫉妬や憎悪はヘドロのごとく積み重なっている。

 

しかし同時に、アイがセンターをやっているからこそ、B小町は有象無象のアイドルの中に埋もれず躍進しつつある。

 

こう言っては何だが、他のアイドルグループのメンバーたちが『アイ以下』だとしても、それらの基準は『彼女たち以上』がほとんど。

 

万が一にでもアイが『普通の女の子に戻ります!』なんて宣言したら、彼女たちはアイドルという夢の舞台から転落する。

 

……そう、アイという一番星に嫉妬を募らせながらも、アイがいるからこそ夢にまで見たアイドルをやれている。

 

そんな矛盾極まる現状こそが、B小町のメンバーの精神を盛大に歪め続けていた。

 

アイへの嫌がらせが原因でクビになったメンバーまでいる時点で、既にこのアイドルグループは破綻していると言ってもいい。

 

 

なにせ、アイさえいれば数字は取れる。

 

アイがいればトップを目指せる。

 

アイに全部任せていれば……そんな思考が離れない。

 

 

(なんのために、私、アイドルやってるんだろう)

 

 

光り輝く舞台に上がりたかった、子供の頃に見たアイドルのようになりたかった。

 

ライブで見よう見まねでサイリウムを振っていた、幼い頃の記憶は既にうすぼけている。

 

自分の輝きが曇ったビー玉なら、アイの輝きは夜空を照らす1等星。

 

そんな星空で星同士が争っているような世界で、ビー玉でしかない彼女は何の価値もなかった。

 

何度目かもわからない『アイドルやめようかな』という気分が、今度ばかりは離れない。

 

順調に人気を伸ばし、夢にまで見たドーム公演も目指せるんじゃないか?という所まで来て、ギリギリ保たれていた糸が軋みを上げはじめた。

 

 

【これ以上『引き立て役B』でいたら何かが壊れる】

 

【自分だって輝きたいのにアイの輝きの前では影にもなれない】

 

【輝けるならなんだっていい】

 

【輝けないのならいる意味がない】

 

【アイドルでも人生でもいいから辞めてしまいたい】

 

ぐるぐると脳の中を回り続けるマイナス思考が、負の無限ループとなって彼女を埋め尽くす。

 

アイドルを辞めるを通り越し、このまま部屋で首でも吊りそうなほどに。

 

死んだ目のまま、ああ、そういえば、と思考がほんの少し明後日の方に逸れた。

 

 

(……『やめる』にしても、今日最終回のドラマだけ、見てからにしよう)

 

 

その『やめる』がアイドルの事なのか人生の事なのか曖昧なまま、ベッドの脇にあったリモコンを手に取る。

 

アイドルとしての初任給で買ったテレビの電源を入れて、彼女の眼に飛び込んできたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『プロデューサーお前ェ!!ホントマジで日本に帰ったら覚えとけよマジで!!』

 

『大丈夫だー、まだまだ追いつかれてないぞ。走れ走れ』

 

『追いつかれたら死ぬだろうがボケ!なんでお前、世界の動物ドキュメンタリーの撮影に来て南の島でコモドオオトカゲの群れに追いかけられてんだよアタシはよぉ!?』

 

『そりゃあお前、視聴者がソレを望んでるからだろ。頑張れ【日本一のバラドル】

 

『アイドルだよぉ!大人気ユニット【B小町】のイバラちゃんだろうがよぉ!?死んだら日本アイドル界の喪失だろうがよぉ!?』

 

『大丈夫だ、お前が死んでもアイがいれば数字は取れる』

 

『テメェ言っちゃいけないことを!!』

 

 

画面いっぱいに飛び込んできたのは、某有名バラエティ番組の中継映像であった。

 

ナニコレ?とクエスチョンマークの大嵐が彼女の脳内を吹き荒れて、マイナスの無限ループを盛大に押し流す。

 

南の島っぽい景色が広がる中、大量の巨大なトカゲの群れから全力疾走で逃げている少女と、ジープに乗って先行しつつも中継映像を取り続けている番組スタッフ達。

 

そして、その少女(?)はテレビの前の彼女にとっても盛大に見覚えのある人間であった。

 

というか、B小町の『8人いる』メンバーの一人であった。

 

 

身長184㎝!体重84㎏!

 

小麦色の肌にうっすら割れた腹筋、雌豹のごときしなやかな手足、黒髪のポニーテールを結び、3サイズは上から97/65/89!

 

切れ目のイケメン系アスリート美人の名を欲しいままにして、ファイトー!いっぱーつ!の例のCMにも出演!

 

100m走11秒ジャスト!*1 

 

ベンチプレス210㎏!*2

 

高校一年生にして女子柔道インターハイ個人戦78㎏超級優勝!

 

当然のごとく強化選手に指名されるも「いやアタシ助っ人部員なんで」と盛大に辞退!

 

寧ろなんでこの女をアイドルにした!今からでも柔道やらせろ!と苺プロダクションに全日本柔道連盟から謎の抗議がくること十数回!

 

海外ロケにいくたびに放送事故一歩手前のトラブルに連続遭遇!

 

それら全部『数字取れるから』でオンエアするキチ〇イプロデューサーとコンビを組んで、今日もどこかで無茶ぶりされる!

 

 

『誰がなんと言おうがアタシはアイドルだァー!!!』

 

 

彼女が何者かって?ご存知、ないのですか!?

 

彼女こそ、初の単独海外ロケである『スペインの牛追い祭り(サン・フェルミン)』で起きた『猛牛脱走事故』からチャンスを掴み、

 

生放送中に突っ込んできた猛牛を素手で締め落としたことがきっかけでスターの座を駆け上がっている*3

 

超時空バラドル、『米金 茨(コメガネ イバラ)』ちゃんです!

 

 

今回のロケでも、本来はもっと大人しい動物とアイドルのふれあい映像を撮るつもりが、なぜか島中のコモドオオトカゲが一斉に大移動を開始。

 

『これはいつもの数字が取れる映像のチャンス!』と判断したクソ外道のド畜生もとい番組スタッフは、即座にジープに乗り込み撮影開始。

 

近くの茂みから飛び出してきたコモドオオトカゲに追いかけられるイバラを嬉々として撮影していた。

 

以前『人の心とかないんか?』と言われて『それって数字になるんですか?』と返した人間のなりそこない共だ、顔つきが違う。

 

 

『ワシントン条約だの特定動物だの個体数の減少だのが理由で反撃禁止とかクソだよクソ!!』

 

『そうだぞ、このトカゲ殺したら俺達が怒られるからやめろよマジで』

 

『お前ら日本帰ったら家の前でウ【ピーッ】してやるからな!ウ【ピーッ】しないアイドルは昭和のアイドルだけなんだからな!?アイちゃんだってウ【ピーッ】するんだからな!?』

 

『大丈夫だ、アイのウ【ピーッ】なら需要がある。でもお前のは需要ないからやめろ』

 

『ふざけんな差別だ差別!!』

 

『差別じゃない、分別だ』

 

『言うに事欠いて生ごみ扱いしやがったな!?うおおおおおお待てええええええ!追いついて車横転させてやらぁ!!』

 

 

 

 

 

(……うん、何でもいいから輝きたいとは思ったけど。もうちょっとだけ冷静になろう)

 

一度テレビを切って、何か色々と悟ったような顔で変な決意を固める『彼女』なのであった。

 

確かに輝きたいという欲求はある、あるが。

 

『バラドルとしての仕事でスケジュールが埋まっている』同僚の同類にはなれないし、なりたくないと思えるだけの人間性は持ち合わせていたらしい。

 

 

頑張れ、イバラ!負けるな、イバラ!

 

次の仕事はサバンナだぞ!!

 

 

*1
女子日本記録は11秒21。世界記録は10秒49

*2
女子の日本記録は178.5㎏。世界記録は235㎏

*3
現地の新聞では『現代の女ヘラクレス現る!』と一面に載った。なお、B小町が大人気になるより少し前の話なので、B小町初の一面はこの記事である。

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