B(バラドル)小町と引き立て役B   作:ボンコッツ

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前回のあらすじ

鬼瓦「感想で水泳の方はどうなんだ、って聞かれてるぞ」

イバラ「胸と体重があっから、泳ぎはそこまで得意じゃねーなぁ」

鬼瓦「あー、まあ水の抵抗デカそうな体だしな」

イバラ「でも素潜りなら20分以上潜ってられるな」

鬼瓦「お前クジラか何かか?」



バラドルとグッズ開発

 

 

ドーム公演、それはアイドルにとって【一流】と【超一流】を分ける高すぎる壁だ。

 

通常のライブとは一線を画す人数の人間が開催に携わり、一時の夢の頂を実現するために結集する。

 

普段とは段違いのファンたちに囲まれて、光り輝く舞台の上で最高の時間を作り出す。

 

だがしかし、高すぎる壁というのは比喩でも何でもなく、現実となってソレを目指すアイドルをはじき返す。

 

ドーム公演をしても利益をペイできると判断できるほどの人気、ドーム公演のための諸費用をかき集められる資金力。

 

必要な人員をかき集められるコネクション、ファンたちをドームへと誘いこめる宣伝力。

 

そして何より、ドーム公演という大舞台でもポテンシャルを発揮できるアイドル達も、全て揃って初めて届く領域なのだ。

 

 

(そうだ、そんなとんでもない夢の舞台がドーム公演……!そして、その夢にようやく指先が触れた!)

 

 

苺プロダクションの社長、斎藤壱護にとって、自身が育て上げたアイドルたちをドーム公演まで上がらせるのは夢である。

 

一握りのアイドルだけが登ることができる場所、そこに上るための『手札』がようやく手元に揃いつつあった。

 

 

(【B小町】結成から7年と少し、メンバーの追加や入れ替えを繰り返しながら積み上げてきたモノは無駄じゃなかった……!)

 

 

当然、彼と妻もあちこちを駆けずり回って『夢』に挑み続けた。

 

3年前に雇った鬼瓦プロデューサーも、現役時代のコネを最大限利用してくれている。

 

B小町全体のポテンシャルも、最近は『いーちゃん』*1と呼ばれている彼女を筆頭に、妙にポテンシャルが上がりつつある。

 

とはいえ、大正義センターである【アイ】を軸に、スパイスとして【イバラ】を投入することでメリハリをつける構成は変わらない。

 

アイの復帰後にこの二人の妙なシナジーが発揮され始めたことで、B小町は一年近いセンターの不在という負債をあっという間に覆しているのだから。

 

完璧で究極のアイドルと、最強で無敵のバラドル。

 

対照的でありながらあまりにも強すぎる個性同士が、B小町という宇宙の中でベーゴマのようにぶつかり合っている。

 

そこからはじき出されているのが他のメンバー……だったはずだが、最近は『いーちゃん』を筆頭に、妙に食らいついてくる。

 

 

(こういう時は大抵イバラの奴が絡んでるんだが……今度聞いてみるか。まずは目の前の事だ)

 

 

苺プロダクションの事務所内にある会議室のドアを開け、中で待機していたメンバーを見つつ……。

 

 

「ついに我が苺プロダクションでも!ドーム公演の開催が現実的になってきた!

 というわけで、今後の活動拡大位も見越して、メンバーごとのグッズ展開を考えたい。

 今日はそのために来てもらったんだが……」

 

 

「はーい!頑張りまーす!」

 

「おう、アイディアならアタシの出番だな!」

 

「準備完了してますよ、社長」

 

 

「俺が呼んだの鬼瓦プロデューサーだけなんだけどぉ!?」

 

 

何故か、鬼瓦プロデューサーの隣にアイとイバラまで我が物顔で座っている。

 

そしてこれも何故か、鬼瓦もその二人を追い出す気配がない。

 

いっつもこれだよ!と軽く頭を抱えつつ、ミヤコがいないってことは双子は大丈夫そうだな、と少しだけ思考を切り替える。

 

 

「……で、グッズ展開の件だが……アイはそもそもセンターだけあって元々グッズが多いし、

 他のメンバーも大なり小なり個別のグッズは作ってるから、それを推していけばいい。

 だが、突発的な新規加入だったイバラは、物販でメインに推せる個別のグッズが無い」

 

「名前が入ったうちわとかハチマキとかTシャツとか、他のメンバーと共通するグッズは一応あるけどさー」

 

「イバラちゃん、アイドルとして有名になる前にバラドルとして有名になっちゃったからっびゃっふぇっふ!?

 

「で、今日はアタシの固有グッズをなんにするか……って会議なワケだ」

 

「そうだ、そうだからアイのほっぺた引っ張るのやめてやれ。昔のギャグマンガみたいになってるから!」

 

 

跡が残らない絶妙な力加減で、みょいーん、とアイのほっぺたを引っ張り伸ばす。

 

指を離せばもちもちほっぺがようやく戻ってきたが、うぇーん、とわざとらしく涙目になりつつアイはほっぺたをさすっている。

 

まあ、このぐらいのイチャイチャ(強弁)はいつものことだ。

 

斎藤も鬼瓦も「まあ顔は戻ったんだしいいか」のノリで話を先に進めることにした。

 

 

「で、イバラのグッズの話ですが……私も当然案は持ってきましたが、どうもこの二人も一枚噛みたいようで」

 

「? 噛みたい、って……アイとイバラが?」

 

「そりゃそうだろ!アタシの初グッズなのにアタシの知らない所で決まるとかモヤっとする!」

 

「あー……なるほど」

 

「私は楽しそうだったから!」

 

「まあお前はそうだろうな」

 

 

確かに、一応デザイン案などが決まった時点でイバラにも許可は取るが、基本はアイドルに頼むのは最終的な決定ぐらい。

 

どんなものを売るのか、どんなデザインにするのか……等は事務所と業者の兼ね合いで決めてしまう事が多い。

 

事実、B小町の他の7人はほとんどそんな流れで決まった。最終デザインに少しアレンジを加えた程度である。

 

が、イバラの性格を考えればこうしてイチから関わりたい、と言い出すのは確かにあり得た。

 

 

「ま、それもそうだな。お前のグッズなんだ、言いたい事ぐらいあらぁな」

 

「お!今日は話がわかるじゃん社長!」「流石佐藤さん太っ腹!」

 

「斎藤だ、いい加減覚えろ。 で、何かアイディアはあるのか?」

 

「ったりまえよぉ!ちゃんと試作品まで作って来たんだぜ?」

 

 

ほぅ、と小さく感心したような声が斎藤社長の口から洩れた。

 

元々行動力がある方だとは思っていたが、まさかグッズの試作品まで自作してくるとは思わなかったのだ。

 

まあ、今時個人でもある程度それっぽいグッズは作れる。3Dプリンターその他を使えば業者顔負けのモノも作れるだろう。

 

というわけで、イバラがバッグから取り出してきた大きなプラスチックケースに視線を向けた。

 

 

(甘い匂いがするな、食い物か?……ある意味グッズとしては王道か)

 

 

イニシャルや似顔絵の入ったクッキー等、キャラクターグッズとしてはありきたりだが同時に大外れもしない。

 

原価も安いし、ハケる速度も速いので意外と重宝するタイプのグッズだ。

 

イバラは何気に料理上手なので、食えないモノが出てくる心配もない。

 

というわけで、ケースの蓋がオープンセサミ。

 

 

「イバラちゃん特製『いばらッパイ再現おっぱいチョコ大福』だ」

 

「アウトだバカ野郎!!」

 

 

ケースの中から出てきたのは、結構大ぶりなサイズの大福が二つ。

 

皮にもチョコを練りこんでいるようで、全体的に褐色……そう、『小麦色の肌』を模したモノになっている。

 

で、天辺にははちみつか何かを少量垂らし、ソコにカットしたイチゴを添えることで固定している。

 

中身は餡子ではなくホイップチョコクリームらしい。

 

が、問題は味ではなく、どっからどうみても『褐色デカパイ』にしか見えない形状ということだ。

 

 

「逆にお前これ、なんでセーフだと思った!?こんなもん売ったら即日ウチの公式SNSが大炎上するわ!!」

 

「なんだよー、ちゃんとメジャーでサイズ計ってアタシのおっぱいを再現したんだぞ!

 ドルオタならそりゃあもう餓鬼のように求めるグッズだろ、これこそ!」

 

「ウチは芸能プロダクションであってアダルトビデオメーカーじゃねぇっての!!」

 

 

感心してソンした!と一通りツッコみ倒した後、とりあえずこれはきっちりボツにしておいた。

 

いや、売れるかもしれない、売れるかもしれないが、ドーム公演が現実的に見えてきた時期にコレはない。

 

結成初期のネタグッズとしてならワンチャンあったかもしれないが、どっちにしても諸刃の剣である。

 

 

「ふっふっふ、ここは真打登場ってやつでしょ!」

 

「え、アイ。まさかお前も?」

 

「うん!流石に試作品までは準備できなかったから、イラストだけどね。

 イバラちゃん。食べ物もいいけど、やっぱりグッズは実用性も考えなきゃ。

 それにこういう食品は在庫抱えても長持ちしないし!」

 

「くっ……アイちゃんに正論で諭されるとか、屈辱!」

 

「どういう意味!?」

 

(そうだアイ、流石B小町の不動のセンター!……いや、まあ、問題点はそこじゃないんだが、まあいいや)

 

 

アイが取り出したスケッチブックをぺらぺらめくるのを見ながら、なんだかんだいってアイも成長したんだなぁ、と感慨深くなる斎藤社長。

 

出会ったばかりの頃はそりゃあもうアレな奴で……いや今も割とアレな奴か、と微妙にノスタルジーに浸りきれない回想を挟みつつ。

 

 

「これが私の『イバラちゃんおっぱいマウスパッド』!」

 

「どう違うんだよ!?」

 

「実用性重視!」

 

「実用性の意味が最低だろうが!!」

 

「くっ……その手があったか!」

 

「ねぇよ!!!」

 

 

やっぱり今でもアレなヤツだった星野アイ、16歳で父親黙秘の双子出産した女だ、面構えが違う。

 

イラストには無駄に再現度の高い『おっぱいマウスパッド』が描かれており、しかもイバラの似顔絵付き。

 

絵心については……公式でアイのイラスト力が不明なので触れないでおく。上手いのか画伯なのかも不明だし。

 

なにはともあれこちらもボツ。ぶーぶー言ってるアイとイバラに再度ツッコもうとしたところで。

 

 

「……社長、今度は私が」

 

「また下ネタだったら減給だからな?」

 

「(そそくさ)いやまさかそんな……」

 

「おいなんで今カバンにあったフリップと元々出してたフリップ取り換えた!?」

 

「あの二人と違ってサブプランも用意してます、彼女らとは違うんです!!」

 

「つまり元々出してたアイディアはあの二人と同系統ってことじゃねーかバーカ!」

 

 

この三人が今の苺プロダクションとB小町を支えている最高戦力であることにひっじょーに強い不安を抱きつつ。

 

もう何でもいいから次のアイディア出してくれ、というテンションで鬼瓦の発表を促した。

 

 

「まず、食品関係は避けます。ライブ後に売ることを考えれば、販売時間が短い。

 売れ残ったので次のライブで、とはいかない以上、ハケないとリスクが高い。

 とすると、アイの言う通り、実用性重視のアイテムを作りつつ……。

 その『印象』をイバラの持つイメージに近づけます。使用用途も含めてね」

 

 

というわけで、と言って鬼瓦が出してきたアイディアは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【しばらく後 ライブ会場にて】

 

 

「……売れてるらしいなー、これ」

 

「ええ、そうね……初心者にはうってつけなんだとか」

 

「初心者、ねえ」

 

 

ライブの物販コーナーで、イバラ推しのファンが購入している新グッズ。

 

どこか遠い目をしている斎藤夫妻が、イバラがノリノリで自作していたポップを読み上げる。

 

 

『最大重量10㎏!差し替えで1~10㎏まで調整可能!』

 

『設地部分はラバーで覆われているので床を傷つけにくい!』

 

『専用オプションをつければ、腹筋用の固定具にも!』

 

『推し活には体力も必須、ヲタ芸用の筋肉を鍛えよう!』

 

『イバラちゃん印のダンベル 税抜4200円』

 

 

「アイドルのグッズか、これ……?」

 

少なくとも、アイドルのライブの物販でダンベルを売ってる前例は作者も知らない。

 

*1
イバラが『イケ緬無罪!』で呼び始めたせいで仲間内どころかB小町のファンクラブでも通用するあだ名になってしまった模様。本人はあきらめ気味。

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