前回のあらすじ
ミヤコ「……ところで、仮面ライダーのバイクに使われてたからVMAXを買ったのよね?」
イバラ「おう!」
ミヤコ「……なんで実際に使われたVMAX1200じゃなくて、フルモデルチェンジされたVMAX (RP22J)の方を買ったの?」
イバラ「三年間定期点検が無料&一年間の盗難補償がつくって聞いて……」
ミヤコ「そういう所が妙に常識的よねアンタ……」
中華料理というのは、『炎と油の芸術』と称される事がある。
日本料理が水による調和にこだわるように、中華料理は油をもって食材を征服する料理とも言える。
ガスコンロに中華鍋を置き、多めに油を注いでから火にかけ、熱する。
塩コショウや紹興酒等で下味を付けた豚肉の細切りをその中へと叩き込み、くっつかないように素早くほぐす。
本格的な中華料理屋ならもっとたっぷりの油で『油通し』を行うのだが、家庭料理でソコまでの無茶はできない。
多めの油を使って炒めることで似たような効果を期待する程度が関の山だ。
次に、最近ではスーパーでも売られているタケノコ水煮の細切りをポン。
最後に、黄・橙・赤のパプリカとピーマンの細切りをポン。
強火で炒め合わせ、完全に火が通る一歩前ぐらいまで炒め続ける。
(で、次はコイツだな)
醤油・オイスターソース・鶏がらスープ・片栗粉・刻みネギ等で作った混合調味料が入ったボウルを手に取り、今しがた炒めていたモノに注ぎ込む。
中華鍋を強火にかけたまま素早くかき回し、全体にとろみが出て具材が纏まって来た所で火を止める。
大皿に盛りつけ、運ぶ先は……。
「夕飯できたぞー」
「わーい!」
「「いや多いよ!?」」
無邪気に喜ぶルビーに対し、アクアとミヤコは盛大にツッコミを入れた。
あの後、調味料に加えてスーパーに売られていたブロックの肉やら三割引きの野菜やらをどかどか購入。
たっぷりの食材をミヤコの車に預け、バイクに跨って車の後ろを追走。
そしてなぜか帰宅早々に「もう我慢できねぇ!」と言いながら台所に向かい、ジャケットを脱いで料理をおっぱじめた。
ちらほら覗いていたルビーとアクアから見ても、明らかに手慣れている仕草。
体格に恵まれているというのもあって、大きな中華鍋を振る姿が妙に似合う。
問題は、これが『何回目なのか』という点だ。
「いや何度目だよ!もう青椒肉絲が山になってるよ!っていうかウチにこんな大皿あったっけ!?」
「おっとそうだな、子供には小皿に取らないと食いづらいな。よっと」
どさっでもばさっでもなくどちゃあ、という音と共に、アクアの前に置かれたカレーとかに使うタイプの皿にたっぷりの青椒肉絲。
ご飯も子供用のお茶碗に山盛り、マンガでしか見ない富士山ライス。
「小皿の『小』の部分どこいった?!」と全力でツッコむアクアをよそに、イバラは炊飯器から白米を取り出し次々おひつへとIN。
アイの家にある電子ジャーはあくまで一般家庭レベルのそれなので、さきほどから早炊きモードでフル回転だ。
材料費は払うから!ということで、買ってきた食材以外にもいろいろと冷蔵庫から拝借しているらしい。
六色*1青椒肉絲、五穀米、チンゲン菜の中華スープ、白菜とカブの浅漬け、玄米茶。
テーブルの中央に置かれた青椒肉絲の山が、下手するとアクアやルビーの身長ぐらいはありそうな高さという事を除けば美味しそうなラインナップだ。
ブロック肉や野菜を大量の千切りに変え、それを次々と中華鍋×2に放り込んで最大火力で調理し、完成するたびにテーブルの上の大皿にブチこんでまた作り始める。
数回の調理の果てに、大皿の上に山と積まれた青椒肉絲山脈が完成した。
「っていうかこれ、何日分……?」
「俺一週間かかっても食い切れる気がしないぞ……」
「いや、普通に一食分だろ。ダメだなー、食べ盛りなんだからもっと食べないと大きくなれないぞ?」
「俺達食べ盛りだけど人間のソレであってカービィか何かの食べ盛りじゃないんだけど!?」
「ちゃんと食べればアイちゃんやアタシみたいなナイスバディばでぃー!になれるぞ?」
「イバラちゃんは過剰積載だからそこまではいらないかな……いただきまーす」
「誰が過剰積載じゃコラ」
ルビーからの厳しいツッコミを受けつつ、イバラも席について食べ始める。
くわしい事情は家で……というミヤコの言葉に乗っかって家まで来たものの、前に行ったことがある斎藤夫妻の家とは違う場所。
それも、そうそう家賃が安く無さそうなそれなりに質のいいマンション……となれば、おおよそ想像もついてくる。
話し合いより先に調理をおっぱじめたのでそれどころじゃなくなっていたが、食事をしながら会話も進めるつもりなのだろう。
「とりあえず詳しい事情を聞きたいところだけどさ、その前にいいかな、ミヤコちゃん?」
「……何?言っておくけど、守秘義務に引っかかるコトは言えないからね?」
「うーん、それもそっか。となると微妙なラインなんだけどさー……。
ココ、もしかしてアイの家?」
背筋が凍る、という感触を、斎藤ミヤコは生まれて初めて味わった。
表札を見た?……ありえない、そもそもアイは苗字すら非公開にしている。星野という表札を見てもアイにはたどり着けない。
ならば部屋の中で写真やアルバムを見た?……これもない、万が一の為に、双子と一緒に写った写真や映像は引っ越しまで隠すように言ってある。
なにより、帰宅早々に料理をおっぱじめてキッチンに籠っていたのだ。部屋を物色する時間などない。
(どうしようお兄ちゃん!?もしかしてイバラちゃん気づいてるんじゃ……)
(あ、ああ……意外と頭がキレるんじゃないか、とは思ってたけど……もしかしてカンか?)
「なんで、そう思ったのか聞いてもいい?」
こそこそと相談する双子と、何とか冷静を取り繕いながら【根拠】を尋ねるミヤコ。
このあたりは彼女も流石の社長夫人、今までアレやコレやの危機を乗り越えてきただけの事はある。
まあ、双子に関しての危機で言えば、彼女が心労で暴走して週刊文〇に双子の事をタレコミしようとした時が一番ヤバかったのだが、それはともかく。
「冷蔵庫の冷凍スペースに、アイの好きなダッツのフレーバーが買い置きしてあったのが1つ。
玄関に置いてあった靴のサイズが、ミヤコちゃんの普段履いてる靴より少し小さい、
身長……150㎝ぐらいの小柄な体格の女性が使うようなレディースシューズだったのが1つ。
部屋干ししてあった服の中に、アイがレッスンの時に着て来た私服が混じってたのが1つ。
で、次にそこの双子……あー、名前は?」
「……愛久愛海(アクアマリン)。アクアって呼ばれてる」
「る、瑠美衣(ルビー)です」
「……キラキラネームは将来困るぞ、ミヤコちゃん」
「そ、そうね……」
私がつけたんじゃないわよ!と全力で叫びたくなったのをグっと堪え、なんとか平静に返答する。
……が、体当たり案件ばかりとはいえ、役者として演技の経験もしっかり積んできたイバラをごまかすのにはあまりにも力不足であった。
「名前を否定されてスネた……って感じじゃないなぁ、ミヤコちゃん。『名付け親は別にいる』、そうだろ?」
「───────────── ッ!!」
「自分がつけたわけでもない名前で自分のネーミングセンスディスられちゃあ、なぁ?うん、ごめんごめん、意地悪した」
(なにこのひとこわい)
(カンどころか10割理詰めで詰めてきてる……?!)
「あと、部屋の中にちらほらダンボール見かけたよね。荷造り中?
引っ越し予定ってところかなぁ、アタシも最近また引っ越したからわかるんだ。
だけど新居ってほどじゃないけど、引っ越すには悪くない部屋だよなー、ここ。
お値段も相応、ミヤコちゃんや社長が意味もなく家とは別に借りるとは思えない程度に。
となると『部屋主は別にいて、防犯上定期的に引っ越さなきゃいけない立場の人間』。
こじつけに近い部分もあるけど、アタシはアイだと推察するね。どう?」
「……ええ、そうよ。といっても、ドーム公演が間近に迫ったら、防犯を考えて引っ越すけれど」
「ま、だよなー。アイちゃんの部屋にファンが押しかけてー、なんてシャレにもならねぇし」
自分の心臓が煩いほどに高鳴り続ける現状に、段々と頭がクラクラしてきたミヤコ。
ここがアイの家だ……という情報は、隠したかったが別に重要なモノではない。
ミヤコがプライベートで定期的に遊びに来て、厄介なおっかけファンがこの家がアイの家だと特定してSNSに書き込む、というパターンさえなければなんとでもなる。
なんとでもなる、が……もう1つの秘密の方はそうもいかない、
(この双子がアイの子供であるという秘密、これだけは、なんとか……!)
「なあ、ミヤコちゃん。もうちょっと気になることがあってさ」
もりもりと青椒肉絲を頬張りながらも、イバラの追及は止まらない。
好奇心旺盛な性質と無駄に出来の良い頭が組み合わさるとこんなに厄介なのか!とイバラ以外の三名は戦慄した。
アクアはどうにかして誤魔化す手段を考えるが、最悪な事に先ほどの問答で『アクアとルビーの名付け親がミヤコではない』のは割れている。
ミヤコが産んだが名付けたのは別の人間、という言い訳は流石に厳しい。実の子供に他人が考えたキラキラネームをつける親はそうはいない。
(なら、こっちに引き込むしかない!なんでもいい、秘密を共有する関係にできる糸口を探せ!)
(頑張っておにいちゃん!応援してるから!!)
(お前も何かしろ!せめて頭使え!)
(急展開すぎて何にも思いつかないよ!?)
「この【アイと顔が似てる】双子の事なんだけどさ……。
どっかで見たことあると思ったら、何年か前にSNSでバズった動画。
『オタ芸する双子の赤ん坊』って、コイツらだろう?
そして、その頃からアイのポテンシャルが妙に上がり始めた……。*2
特に笑顔だ。『自然な笑顔』を『無理なく作れる』ようになってる」
ヤバい絶対気づかれてる、と絶望するミヤコ、驚愕するルビー、思考を巡らせるアクア。
三者三様の思考の海に叩き込まれたところで、イバラが考察の果ての結論を出した。
「アイは施設出身だったよな?コイツら、まさかアイの【弟と妹】か?」
(((セエエェェェェェッフ!!!!!)))
九死に一生を得る、そんな貴重な経験をした三名であった。*3