前回のあらすじ
ミヤコ「というわけでイバラにバレかけました」
佐藤さん「ぎゃあああああああああああああ!?」
その日、斎藤社長は不安で眠れなかったという。
速 報
【豊臣幕府が滅亡する引金となった、【大阪春の陣】事変より一年】
【あの傾奇者が、帰ってくる】
【暴れる場所をスクリーンに移して!】
どこか古めかしい造りの建物の中で、談合を行う男たち。
血気盛んで剣呑な雰囲気を放つこの連中は、太平の世に生きる場所なき武辺者たち。
「豊臣幕府が完全に打ち倒されれば、次は徳川の世……それはよい」
「だがしかし、徳川一強となれば、我ら武芸者の生きる場所は無くなる」
「この国には末永く、戦乱の世を続けてもらわねばならんのだ」
「徳川が豊臣にトドメを刺すための一戦を、応仁の乱の再来としようぞ……!」
【太平の世へと向かいつつある日本を、再度戦乱へと導こうと暗躍する者達】
【『血気衆』を名乗る彼らは、最後に一旗揚げようと画策する大名と結託】
【徳川の持つ、この歴史においては征夷大将軍の権威を保証する金の蝗……】
【秘宝『馬蝗絆』を巡った最後の戦いが……勃発した】
「このままいっても、徳川にへぇこらするだけ。子孫代々、ずっとな」
「ならぁよぉ……もう一度やろうじゃねぇか、戦国をよぉ!」
【馬蝗絆を破壊し、世を戦乱に巻き戻そうとする血気衆】
【馬蝗絆を奪取し、己こそが官軍であるという権威を得たい外様大名】
【そして、天下泰平のために馬蝗絆を守り抜きたい徳川家と……『もう一人』】
燃え上がる城を前にして、不敵な笑みの『女武者』が、短槍を軽く振るって歩いていく。
「さぁて……まだまだワシも、休めんようだなぁ?」
※ここらへんで劇場版主題歌『風吹けば婆娑羅』が流れ始める。
「なんでいるのよ貴方!?」
「おぉ、お蜜!また暴れに来たぞ!」
【立ちふさがるのは、かつて倒した刺客たちに勝るとも劣らない豪傑集団】
【再び巡り合った蜜姫と共に、婆娑羅が乱世を駆け抜ける!】
「何故、その力をもって乱世を呼ぼうと思わぬのだ!
貴様も我らも、太平の世では持て余される側だろうに!」
「生きるために力を得た、だが力のために生きようとは思わないからだ」
【ド迫力のアクションはさらにパワーアップ!】
【天下の傾奇者、婆娑羅の生き様を、劇場で見届けろ!】
【劇場版 婆娑羅剣風帳 ~天獄の章~】
「婆娑羅ッ!?」
「うおおおおおぉぉぉっ!!」
【何のために、我らは戦い、生き延びたのか】
蜜姫の叫びと共に、敵の剣豪らしき男と婆娑羅が城の天守から飛び降りるシーンで映像は終わる。
「いやー!!悪いねアイちゃん!主演映画で先んじちゃってさぁー!!」
「むむむむむ……!!」
「いいじゃん!マ……お姉ちゃんのほうが映画出演自体は早かったもん!」
「っていうかコレを自慢するために【婆娑羅剣風帳】の最終回を俺達の家で見に来たのか……?」
「そうだけど?」
((大人げない……))
よりにもよって、小学生にもなってない双子から【大人げない】と思われる自称アイドル(19歳)がそこにいた。
件の名探偵?イバラから数日後、約束通りミヤコとアイの負担軽減を理由にした子育ての手伝いを引き受けたイバラ。
ドーム公演のための最終調整があるので、斎藤夫妻はあっちこっちに駆けまわっている。
当然スケジュールはカッツカツ、ドーム公演のためにロケが控え目になっているアイとイバラのほうが時間があるぐらいである。
特にイバラは海外ロケが一時的に0になっているので、久方ぶりにマトモ?なアイドルの仕事に専念できた。
ドーム公演のためのレッスンの追い込み、声優業と俳優業の収録・撮影、ラジオやバラエティ番組への出演……。
まあようするに、斎藤夫妻よりはマシというだけでこちらも相応に忙しいのだが。
「【婆娑羅剣風帳】の最終回で撮影中の映画*1の番宣も流すってのは聞いてたからさぁ。
それまではネタバレ防止で緘口令が敷かれてたんだよね、俳優にもスタッフにも。
アイちゃんに先んじた報告をずーっと禁止されてたからさー!」
「……つまりそれに加えてアイが悔しがる姿を見るためだけに今日家に来たのか」
「おう!」
「ぬぬぬぬぬ……!!」
((重ねて言うけど大人げない……))
はっはっはー!と上機嫌で胸を張るイバラと、なぜかハンカチ噛んで悔しがるアイ。
アクアがつい「リアクションが昭和か!」とツッコんでしまうコントの一場面だ。
とはいえ、こんな子供っぽい事をするのにはちょっとした理由もあり……。
「でも、【婆娑羅剣風帳】の最高視聴率はお姉ちゃんのドラマに負けてたよね」
「ごぶがはぁっ!!」
「(無言でコロンビアのポーズ)」
「アイの反応も大人げない……しかもルビーのサポートで無言の勝利宣言するあたりが特に」
【婆娑羅剣風帳】の最高視聴率は『14.1%』。
昨今は今期ドラマの最高視聴率が13%行かない事例も多発する中で、この数字は驚異的だ。
……ただし、今期ドラマの最高視聴率ランキングでは『二位』。
アイの主演ドラマが最高視聴率『14.2%』*2を記録し、ギリッギリで追い抜かれたのである。
「いいもんねー!悔しくなんてないもんねー!バラエティ番組ではアタシの圧勝だもんねー!!」
「いやそこはアイドルとして歌やダンスで競えよ……」
「ダンスはともかくボーカルは諦めた!そっち方面はいーちゃんに任せる!」
「それでいいのか自称アイドル……!?」
「よくなーい!だからお姉ちゃんを慰めてアク坊ー!!」
「だからなんだよアク坊ってうわっぷ!?」
陽キャというか光の者というか、強気にコミュを押していくイバラが馴染むのは早かった。
アクアの事を『アク坊』と呼び始めたのは例の青椒肉絲を食べ終えた直後からで、その日は帰るまで双子にべったり。
なんのかんの言って仕事は多いので、来れて週に一度程度だが、それでも家事の手伝い要員としてはひじょーに優秀であった。
「近い!距離感がちかーい!」と二人纏めてぽかぽかルビーに叩かれながら、アクアが褐色おっぱいの中で溺れている。
(っていうかお兄ちゃん、前世の事はあんまりつっこまないけど中身オッサンでしょ!?未成年のおっぱいを堪能するなんて恥ずかしくないの!?)
(どこが堪能してるように見えるんだよ?!っていうかアイに授乳されてバブってたお前に言われたくない!自称前世は大人の女だろうが!)
(自称じゃないもん!!)
そして、イバラが来るようになってからこの兄妹のアイコンタクトの精度はさらに増していった。
本格的にニュータイプかイノベイターかカテゴリーFみたいな能力になりつつある。
ともあれ、ぽかぽか叩いてくるルビーに目を向け、ようやくアクアが谷間の海から解放された。
「おーっと、お兄ちゃんを取られて寂しかったのかー?よーし、ルビーちゃんもほれ、ぎゅー!」
「もがっ……! むっ!」
(ハリ、ツヤ、形状、大きさ!どれをとっても一級品!むっちり感は経産婦であるママには負けるけどこれは中々……!)
(いや何を真剣な顔で胸について考察してるんだお前)
谷間に顔面サンドされた瞬間、いきなりキリっとした表情になりおっぱいソムリエと化すルビー。
最初こそ「これでボディーガード兼料理人が非常勤でウチに来るね!」とわりかしドライな事を言っていたのだが。
今ではアイとは別方面にオモシロ生物なイバラにすっかりなついてしまっている。
「おねえちゃーん、わたしもー!」
(いやアイも悪乗りするのかよ!なんで親子で胸の谷間の定位置を取り合うんだよ!)
「こんな大きな妹ができた記憶はないぞー♪」
(そしてそっちは乗らないのかよ!!)
悪乗りしてきたアイまで参戦し、よくわからない光景に「新手の百合営業か……?」とジト目を向けるしかできないアクア。
なにせ現状の星野家+二名の状態を判別してみると……。
星野アイ ボケ
星野アクア ツッコミ
星野ルビー ボケ
斎藤ミヤコ ツッコミ
米金イバラ バランス
こんな状態である。何の判別だよ!と言われたらそれまでだが。
イバラが来る時は大抵ミヤコが忙しい日なので、必然的にツッコミ型のミヤコが抜けてバランス型のイバラが加わる計算となる。
イバラはアイをツッコミ役にできるぐらいの『ボケ』と鬼畜プロデューサーに磨かれた『ツッコミ』。
2つの性質を併せ持つ伸縮自在の愛(バンジーガム)*3みたいなバラドルだ。
が、星野家にいる間は妙なスイッチが入るのか、普段のボケ5に対するツッコミ5の黄金比ではなく、ボケ9のツッコミ1という盛大なボケ型に変貌する。
すなわち、現在の星野家はボケ3名にツッコミ1名というとんでもないツッコミ過労死空間と化しているのだ。
「ドーム公演まであと三週間。来週には新居に引っ越しだったろ?」
「うん、住所は佐藤さんから聞いてるんだっけ?」
「ああ。双子の『事情』を知ったのもあって、こっち側に引き込むつもりみたいだし。
国内で移動するロケがあるから引っ越し当日は来れないけど、後で新居祝いに来るよ」
「ホント?ありがとー!って、あれ?
この時期に日帰りできないほど遠出するようなロケがあるの?」
「準レギュラーやってる【ワールドワイド・アニマル】*4の撮影があってな……。
今回は沖縄でハブ退治の体験だ」
「自称でもアイドルなんだからもうちょっと仕事選べよ……」
「右にお姉ちゃんの胸、左にイバラちゃんの胸……ここがパライソ……!」
「ソドムとゴモラの間違いだろ」
完全にボケに振り切った会話をブン回す三人に、一人でツッコミ入れて回るアクア。
頑張れアクア!負けるなアクア!
多分今後も星野家のメインツッコミ役はお前だぞ!!