B(バラドル)小町と引き立て役B   作:ボンコッツ

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前回のあらすじ


イバラ「いやー、大変だったわー。天守閣のセットから下のクッションまで飛び降りて、そこから屋根のセットに飛び降りた場面を合成して……」

アクア「なんで世紀末ドラマ撮影伝でありそうな無茶を現代でやってるんだ……」




バラドルとレッスン

 

今をときめく【B小町】も、油断をすればシチューの底へと沈んでいくのが芸能界。

 

アートではなくビジネスの世界、美と娯楽を最適化・効率化して売りさばく魑魅魍魎の巣。

 

その中のごく一部だけが這いあがり、人々の脳に輝きを焼き付ける機会を手に入れる。

 

アイドルというのは、そんな芸能界の中でもことさらに『偶像的』な存在だ。

 

泥臭い部分は可能な限り隠し、努力の果てに積み上げた成果だけを使って人々を魅了する。

 

美しい白鳥が、水面下で必死に足を動かしているのを見せないように。

 

アイドル達が行っている日々の努力の象徴、その1つがレッスンだ。

 

 

一般的によく知られているボーカル・ダンスレッスン等は序の口。

 

ファンの前で醜態を晒さないための演技指導やマナー講座、基本的なメイクの指南。

 

とにかく『裏の泥臭さを隠す』ための技術を一つ一つ学んでいくのがレッスンだ。

 

故に、アイドルを名乗る者ならば、日々の努力の一環としてこれに熱心に取り組むわけで……。

 

 

 

「いいか、レッスン4……そう、確かレッスン4だ。『敬意を払え』。

 お前はこれから4回だけ、『できるわけがない』と言っていい」

 

「できるわけがないっ!」

 

「いやはえーよ!内容聞いてないだろーが!」

 

「初っ端から私のツッコミが必要な事態を引き起こさないでよ二人ともぉ!?」

 

(また始まった……いーちゃんがツッコミ入れるからすぐわかる……)

 

 

いきなりアメリカ大陸を馬で横断してる最中にやりそうな感じのレッスンを始めた二人目掛けて、今日もいーちゃんのツッコミが飛ぶ。

 

アイとイバラがいる場所ではアイもツッコミに回る……が、周囲に別のツッコミ担当がいるとアイまでボケ倒すのはご存じの通り。

 

アクアがひたっすらツッコミ倒してた時のように、いーちゃんをツッコミ担当にすることで、二人そろってボケ担当へと変貌する。

 

右のイバラをボケごと右回転、左のアイをボケごと左回転。

 

結構呑気してたいーちゃんも、ボケとボケの無限ループが始まりそうなバラドル圧力にはビビった!

 

その二つのボケの間に生じる圧倒的漫才空間は、まさに歯車的ギャグ嵐の小宇宙!

 

何より、注意ではなくツッコミで済んでいるのはまた別種の面倒くささが同居しているからだ。

 

 

「つまり、ターンの時は体幹をずらさず、ステップの勢いを軸足で巻き込んで……」

 

 

振付の一環であるステップからのターンを、非常に滑らかに実演してみせるイバラ。

 

むっ、とその動きをしっかり目に焼き付けるアイといーちゃん。

 

当然、その後ろで漫才交じりの会話にジト目を送っていた他のメンバーもだ。

 

 

「こうしたほうがいいかも、ってことだな。その方がスムーズに見える。

 最近、体幹を安定させるトレーニングを積んできたろ?ソレを活かさなきゃ。

 アタシはこの動きを『黄金の回転』と名付けた。黄金長方形?知らね」

 

「なるほどー……体のブレを補正できる体幹を鍛えたんだから、激しい動きになる時ほどソレを意識して活かさなきゃいけない、ってことなんだ!」

 

「アホみたいな会話を通り越してアホの会話なのに参考になるのが本当に理不尽……!」

 

 

そう、イバラはB小町の中だとルックスはイロモノ、ボーカルは並。

 

トークはバラエティ一本でもやっていけるモノがあるが、アイドルとしての技能とは少し違う。

 

だが、ダンスだけは持ち前の運動神経もあってキレッキレ。

 

なおかつ要領も良い方なのでコツを掴むのも早い。

 

アイドルのダンスは、元々そこまで難易度が高い振付は組み込まれない。

 

激しすぎるダンスだと歌に専念できなくなるし、アイドルのウリである顔が見えなくなるからだ。

 

一般的なダンスが『ダンスそのものを見せるため』に存在しているのなら、アイドルのダンスは『ダンスするアイドルを見せるため』に存在している。

 

だからと言ってそれが簡単というわけではない。振付がシンプルなのはそうだが、逆に言えば一般的なダンスとは別種の技術が要求される。

 

踊っている間も笑顔を絶やさず、ファンを魅了するための一挙一動としてダンスを肉体に染み込ませる。

 

そのために、アイドルは日々のダンスレッスンに全力を尽くすのだ。

 

 

「ドーム公演は間違いなくいつもとは段違いの客入りになるからな、未知の状態でもパフォーマンスが発揮できるよう、やれることはやっとかないと」

 

「……の、割に、イバラちゃん別に新しいテクニックをどうこうじゃなくて、普段の動きの修正に近い練習が多いような……?」

 

「ここに来て新しいナニカなんて取り入れたら、逆にパフォーマンス下がるって。

 なるべく無駄を省くための微調整と、反復練習による積み重ね。

 大舞台だからこそ、基礎をガッチリ固めた方が上手く行くのさ」

 

「じゃあなんでいきなりレッスン4とか言い出したの?」

 

「アタシの趣味だ、いいだろう?」

 

 

ソレを聞いた瞬間、スムーズな動きでいーちゃんがイバラの腕を掴み、くるりと抱え込む。

 

イバラの腕をくいっと曲げて、肩と手首を掴んでキメる。

 

いーちゃんの身長は162㎝。イバラとの差は20㎝以上だが工夫次第で十分通じる。

 

綺麗なアームロックがキマり、イバラの腕がきっちり抑え込まれた。

 

 

「むんっ」「がああああ」「やめて!それ以上いけない」

 

 

「いーちゃんもあっち側に染まって来たね……」

 

「通信教育で学んだだけであれだけ身につくモンなのかな……?」

 

 

B小町の面々も、既に慣れて来たのか止めもしない。

 

少し前にイバラに相談*1した後、ガンダムシリーズの無間地獄にブチこまれたいーちゃん。

 

何とかそれらを全てこなしただけではなく、一緒にやったはずなのにピンピンしているイバラを見て、フィジカルの大切さを痛感。

 

ラジオ番組用のトークの練習の傍ら、通信教育で護身術を習い始めたのである。

 

アイドルとしての基礎トレをこなしつつ、筋肉が付きすぎない程度に護身術講座を受ける日々。

 

……だったのだが、それが活かされるのは不審者の撃退ではなく、主にふざけ始めたイバラへのお仕置きである。

 

後にとある番組のロケ*2でコレを披露してしまい。

 

『アームロックのいーちゃん』

『井之頭いーちゃん』

『孤独のいーちゃん』

 

等のあだ名をつけられる事になるのを、彼女はまだ知らない……。

 

 

 

 

「よーし、んじゃあボイトレいってみっかー!」

 

「大声になると音がハズれる悪癖治ってからボイトレの時うっきうきだよね、イバラちゃん」

 

「私がトレーナーさんと一緒に修正のためにすごい頑張ったからね……」

 

 

(……そうだ、イバラやアイだって成長してる。

 いーちゃんもそれに引っ張られるみたいに伸びてきてるんだ!

 アタシだって……そうだ、アタシだって、まだ……!)

 

 

B小町の『本来なら名前も出てこない一人』は、その事実を前にグっと拳を握る。

 

レッスンの量を増やし、自己練習も増やし、自分の持ち味を活かすための工夫も欠かさない。

 

かつてアイという才能にへし折られたはずの面々に、もはや俯くだけの負け犬……いいや、引き立て役は一人もいない。

 

 

(競うな、持ち味を活かせ!ダンスのキレならイバラにだって追いつけるって信じるのよ!)

 

(トークだ、トークを学んで印象に残す!ライブの前後だってチャンスはある!)

 

(せっかく良く通る声質持って生まれたんだから、同時に歌うパートでもアピールチャンスになるはず!)

 

 

アイへの妬み、嫉妬、信仰、信頼、その全てを薪として積み上げて、そこにイバラという火がついた。

 

一番星の光に焼かれるだけの弱者はもういない、届かなくても、手が触れなくても関係ない。

 

挫けそうな両足が折れるまで……いいや、例え折れたとしても、這いずってでも、泥を噛んででも。

 

その背を太陽(イバラ)に焦がされながら、夜空に輝く星(アイ)に向かって歩み続ける。

 

全員が己の武器を磨き上げ、アイの首(センター)を取ろうと踏み込んでいく。

 

その執念が、結果的にB小町全体のパフォーマンスを大幅に向上させているのだ。

 

 

何度地に堕ちたとしても、何度でも星に手を伸ばす。

 

イバラという炎に焼かれながら、アイという光に手を伸ばす。

 

真っ先に走り出したいーちゃんを筆頭に、B小町は急成長を続けていた。

 

 

 

(……なんだか最近私の背に向けられる視線がピリピリしてるような……!?)

 

なお、当のアイ本人はいつもの鈍感さを発揮してぜんっぜんソレの詳細に気づいていない模様。*3

 

ドーム公演まで、残り、二週間 ──── 。

 

*1
アイドル・ザ・オリジンの一件

*2
スタジオで映像を見ていた元プロレスラー曰く「ウチの団体にいる新人よりよっぽどスムーズなアームロックだったね!」とのこと。

*3
ルビーのボロに対し「ウチの子天才では?」って言ってた時の状態に近い。

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