前回のあらすじ。
『脇役(モブキャラ)では終われない』
(沖縄かー、そういや行ったことないな。熱帯といえばインドネシアぐらいだし)
米金イバラにとって、この手の出張ロケはいつもの事だ。
寧ろ、国内なのでパスポートその他の確認が無い分楽でいいなー、とすら思っていた。
海外ロケも慣れっこになった以上、プライベートで旅行に行こうと思えば言葉が通じる場所ならどこでも行ける。
スケジュール的にそんな時間は中々取れないだろうが、マルチリンガルで旅慣れしている以上、ハードルは非常に低い。
アイが国外ロケNGを出しているので、その手の仕事が集中したのもあるのだろう。
……が、問題はそこではない。
(今度は何が起きるんだろうな……いやほんと、ハブの群れぐらいで済んでくれよマジで……)
スペインに行って牛追い祭りに参加しようとしたら暴れ牛に襲われ。
サバンナのサファリに行けばバスがエンストした途端にライオンの群れに囲まれ。
豪華客船の旅を体験取材に行けば途中で海賊にシージャックされて人質になり。
北海道でデカ盛り札幌ラーメンの取材にいったら【穴持たず】*1の熊が人里に降りてきて。
釣り番組のゲストに呼ばれて漁船に乗ったらフカ*2の群れに囲まれ転落=死のクルーズとなり。
ご存じの通り、インドネシアではコモドドラゴンの群れと追っかけっこするはめになった。
B小町に加入してから3年と少し、とにかくロケに行った場所で何かが起きる。
そのせいか撮影スタッフや鬼瓦プロデューサーも慣れっこになってしまい、トラブルが起きたらイバラの反応を見ながら撮影続行する始末。
なぜかトラブルの種になったナニカはイバラの方へと吸い寄せられるため、
スタッフもイバラとの相対距離がギリギリのラインに立っていれば撮影は可能なのだ。
当然死ぬほど危険だが、ご存じの通りこいつらは視聴率のためにエゴを強化した人でなし集団だ。
イバラに対してだけ危険を押し付けるクズと言うだけなら、とっくの昔にイバラの手でフルボッコにされている。
穴持たずのヒグマにイバラが飛び蹴りを叩き込んで追い払った際に、3mも離れてない距離でカメラを回し続けていたバラエティサイボーグ共だからこそ、ギリッギリイバラも許しているのだから。
(まあそれはそれとしていずれあのド鬼畜プロデューサーはぶっ殺すけど)
ところが世の中そう上手くはいかないようで、しっかりとプロデューサーだけはターゲットされているのであった。
さて、何はともあれ東京から飛行機で二時間半と少し。
日本の都道府県の最南端、沖縄県にて今回のロケは始まる。
ハブ退治の名人に同行し、ハブ酒の製造まで体験してから帰ってくる、そんなよくある(?)体当たり企画だ。
『これアイドルじゃなくて若手芸人とかがやらされるタイプの仕事じゃね?』と思った読者諸君もいるだろう。
安心してくれ、作者もそう思う。
だが彼女は最強で無敵のバラドル、今更ハブ程度恐れはしない。
「まあきっちり装備は整えていくけどな!毒とか普通に死ねるわ!!」
「嬢ちゃんガタイええのぉ」
「ええ、鍛えてますから!鍛えてても沖縄でこの格好とか正気じゃないけどさ!!」
帽子に長袖、長ズボンに長靴。
軍手も頑丈なものを選び、服は二枚重ねにして蛇の牙が通らないようにする。
意外と蛇の牙は短いため、頑丈で分厚い服を着こんでガードすれば安全性は保障されるのだ。
いくら人類でも上位勢に入るレベルのフィジカルの持ち主だろうと、人間は人間。
超人的なアイドルというだけであって、決してアイドル超人*3ではない。
ちょっと外見がワイルド系美人なジェロニモ*4なのだ。
事実、上記のトラブルについても途中からは自分なりに対策を講じてはいる。
だいたい予想のナナメ上に事態がかっとんでいくだけで。
「ハブはなぁ、スルスルっと家の中にまで入ってくんの。飼い猫の子猫が食われたなんてこともあってなぁ……」
「うへぇ……家の中に毒蛇が、はシャレにならないッスね」
「ネズミ食ってくれる益獣でもあるんだが……昔から『毒さえなければ、ハブほど役に立つ動物はいない』なんて言われるぐらいさ」
初老を超えた老人であるハブ取り名人と共に、ある程度人の手の入った森林を歩いていく。
沖縄の気温ととんでもない厚着のせいで濁流のように汗が流れるが、こまめに水分補給を挟みながらついていく。
野山を歩きなれているのはイバラも同じだ。持ち前のフィジカルで最悪の暑さをねじ伏せる。ほとんど根性論だけど。
そして、イバラのハブ対策は防護服だけではなかった。
「うおっしゃー!!一匹目ぇー!!」
「ほぉー、嬢ちゃんスジがいいな。『あいどる』引退したら沖縄こないかい?」
「いやー、両親の家が神奈川にあるんで」
イバラが担いでいるのは、沖縄の市町村役場で無料で貸し出している『ハブ捕獲機』だ。ヘビつかみ棒とも言う。
長い棒の先端が閉じるようになっており、距離を取ったままハブをひっつかんで捕獲できる優れものだ。
今回はアルミ製の取り回しやすいタイプを使用、ひょい、とあっさり捕まえてみせた。
「頭に近い所を掴んじまうと死んじまうし、かといって真ん中すぎると暴れるんでな。頭のちょっと下、ぐらいを意識するといいよ」
「なるほどぉ……そういえばハブって買い取ってくれるんでしたっけ?」
「一匹三千円でな。手続きやらなんやらもあるし、正直割に合わん」
「ですよねー……男はつらいよ、みたいにハブ酒で一儲けとはいかないよなぁ」
「懐かしいモン知ってるな嬢ちゃん!つってもあれ、最後はハブに噛まれて死ぬけどな!いやウチナーンチュ*5にとっちゃシャレにならんが!」
あっはっはー!と笑いながらも、ハブ捕獲ロケは意外とスムーズに進んでいった。
この後のハブ酒を造るシーンの事も考えると、ハブ捕獲に使える放送時間はコーナーの三分の一から半分程度。
何匹かのハブを捕獲して帰路につく傍ら、歩きながら録画した映像を軽くチェックしつつ。
こうして録画した映像も、カットと編集で大半は使わないんだろうなぁ。とちょっとむなしくなるスタッフだったが……。
「あれ、名人。あそこに見えるアレ、ヘビの尻尾じゃないッスか?」
「あん?……いや、ヘビの尻尾じゃあるが、柄がハブじゃないなぁ。それに妙に……」
「太いぞ?」とハブとり名人のおじいさんが言い切る前に、がさりと音を立てて茂みから何かが顔を出す。
デカい。 最初にイバラ達が感じた感想はソレ。
グラップラー刃牙風に言うなら「デカァァァァァいッ説明不要!!」。
だが、元ネタであるアンドレアス・リーガン(2m40㎝)よりさらにデカイ。当然、最近身長190㎝に届きつつあるイバラよりもデカい。
『シャアアアァァァァッ!!』
「……いや待て待て待て!!おかしいだろ!!主にサイズ感!!」
「カメラまわせぇ!『イバラ案件』だッ!!」
「毎回思うけど撮ってないで助けろ!!!」
イバラ案件……寧ろ説明不要なのはこっちだろう。
ロケ先で何らかの『数字が取れそうなトラブル』が起きる事である。
撮影スタッフが慣れた手つきでハブとり名人のおじいさんを避難させつつ、録画機材でイバラと『蛇』を捉える。
最大全長990cm 体重100㎏以上
現存する爬虫類最長種。
インドネシアでは人を丸のみして殺したという事件も報告されている大型爬虫類。
ニシキヘビ科最大種 アミメニシキヘビの成体である。
「日本にいていい種じゃねーだろ!?どっから沸いて出た!!」
「ペットとして輸入・飼育するのは許可されてるから、逃げ出して成長したんじゃね?」*6
「ザッケンナコラー!ペットには責任もちやがれチクショー!!」
しかも、既にお目当てのハブは捕獲して帰路についていたので、ここは意外と民家のある場所から近い。
その上、明らかにあのアミメニシキヘビはイバラ達を『エサ』に見定めたようで、ズルズルと這いながら追ってくる。
このまま逃げたら一般人を巻き込む危険性がある以上、引くと言う選択肢はない。
ニシキヘビは獲物に巻き付き、凶悪な力で締め上げて心臓を破壊、殺害する。
上手く締め付ければ獲物が死ぬまではたった数秒、力も強く、噛まれれば人間の手足程度は引きちぎれる。
故に、イバラが取れる選択肢は1つであった。
「やったらぁクソッタレェー!かかってきやがれニョロニョロ野郎ーッ!!」
「アクションッ!!」
「映画じゃねーんだよクソプロデューサーぁ!!」
……というわけで、予定を変更されてお茶の間には『世界最大級のニシキヘビVS最強で無敵のバラドル』の映像がお届け。
決まり手は巻き付いて絞め殺しにきたニシキヘビの頭部を逆に締め付け、そのまま絞め殺したサイド・ヘッドロック*7であった。
放送を見た佐藤さんもとい斎藤社長が「ドーム公演まであと一週間なのに何やってんだ?!」と全力でツッコんだのは言うまでもない。
一方の星野家は。
「永久保存版にしなきゃ!アクア、空いてるDVDどれだっけ!?」
「なんだこれは、たまげたなぁ……」
「アイドルとかバラドルとか以前に、段々人間辞めつつあるね、イバラちゃん……」
……とまあ、こんな感じだったそうな。
アイは目をキラッキラさせているが、双子は呆れとドン引きが入り混じった顔である。
撮影中のトラブルですら、お茶の間に笑顔を送り届けるバラドル『米金イバラ』。
最後にはニシキヘビを担いで村役場に突入。*8
すったもんだの末に警察呼ばれかけたりしたが、なにはともあれ、沖縄ロケは大成功であった。
そして、ついに。
B小町のドーム公演、その当日がやってきた。
次回『米金イバラとアイドルの嘘』
ククク……キキキ……。
一日二話投稿して、ドーム公演当日の話を日曜日に持ってくるという奇手……!
まさに悪魔的……!(ざわ……ざわ……)