前回のあらすじ
だいたいグラップラー刃牙。
「飛ばせ飛ばせ!アンタの免許が免停食らってもいいから!!」
「よくねーわゴールドだぞこのアマ!あの交差点曲がったらドームの裏手だから焦るな!」
「もう16:20なのに焦らねー理由ねーだろバーカ!あと10分でドーム公演終わりだぞ!?」
鬼瓦プロデューサーの車が、時折制限速度という概念に盛大にケンカを売りながらドームの裏手へと到着する。
関係者のみが停める駐車場に車を停車させれば、車のドアを勢いよく開ける。
飛び出してきたのは、既にライブ衣装に着替えたイバラであった。
イバラが加入してから、B小町の衣装はふりふりとしたモノからややクール&スタイリッシュなモノが増えた。
流石に原作でアイ達が使っていたタイプの衣装はイバラには色々キツすぎる。*1
「途中で止められたら最悪アタシは下着姿だったんだけどぉ!?」
「下手すりゃAVの撮影と間違えられてたな。
ロケ用のマイクロバスでよかった。後ろカーテンで仕切れるし」
普段は撮影機材やスタッフを積んでいるスペースを利用し、イバラは車内で着替えを終えている。
有名人であるイバラが乗っている事がバレないように、後部座席にカーテンで仕切りをつけていたのが功を奏した。
カーテンの中でアイドル生着替え!……こう書くと昭和のバラエティの企画である。バラドルとしての温故知新というやつだ。
ダッシュで駐車場を駆け抜け、警備員にIDカードを突きつけて、関係者用入り口からステージの裏側に回る。
最後に一度だけ、ここまで連れてきてくれたプロデューサーに振り返った。
「……ありがとな、鬼瓦さん」
「アホ。礼を言うのが早え。全力でステージ終えてから言え」
「……ああ!!」
アイのように、全ての人間を引き付ける笑顔ではない。
しかし、見た者の心に温かな光を届ける笑顔を浮かべて、イバラはステージへと飛び出していった。
そして、視点は『現在』に戻る。
「があああああああ」
「なんでさらっとここにいるのかな?かな???」
「お、折れるぅ~!?」
「いーちゃんやめて!それ以上いけない!
いくらイバラちゃんでもそれ以上は折れちゃうから!」
「折れるんじゃないよ!へし折るんだよ!」
「それアイドルがしちゃいけない発言だから!?
あとその表情もマズいよ?!目から黒い光出てるから!?」*2
登場して5秒でいーちゃんからアームロックを食らった。
駆け寄って来たイバラの腕をスムーズに掴み、アイに声をかけた直後にきっちりキメる。
アイがツッコミを入れつつなんとかいーちゃんを止めに入ろうとしているが、下手に止めたら次のアームロックが自分に飛んできそうなので止めるに止められない。
B小町の面々も、アイと共に止めようとする者もいれば「そりゃそうなるよ」とあきれ顔の者まで様々だ。
なお、それを見ているファンは『でたー!いーちゃんのアームロックだー!』と大喜びである。
この世界のB小町ファンは変人と変態と狂人の比率が原作より高いのだ。
だいたいイバラのせいである。
「まさか本気で病院脱走してくるなんて……」
「いてて……しない理由が無いだろ、B小町の晴れ舞台だぞ!」
「だからって、ナイフで刺されたばかりなんだよ!?」
「縫って来たから大丈夫だっての!」
アイやいーちゃんに心配されながらも、へーきへーき!と言い切るイバラ。
本当なら無理するなと押し切りたいところだが、この場にいる面々にとって、イバラは最強で無敵のバラドルだ。
もしかしたら本当に大したことないんじゃ……と思えてしまうほどに、その体は活力がみなぎっている。
刺された場面を見ているアイですら、そう思ってしまうほどに。
「じゃ、円陣組もうぜ円陣!いつもライブの前にやってるやつ!」
「ええ!?あれ控室でやるモノじゃない!?」
「それに今回はもうやったよ!?」
「うるせー!アタシだけのけもんでやったんだろぉ?ずるいじゃん泣くぞ!!」
「えぇ……」
仕方ないなぁ、といった風にメンバーがステージの中央に集まる。
まあ、このぐらいの奇行なら慣れたものだ。突然レッスン4とか言い出すよりはよっぽど。
B小町のメンバーも既にだいぶ慣れてしまっているようで、黙々と円陣を組む。
ライブ会場の観客からすれば『あれがうわさに聞くライブ前の円陣か!?』状態である。
イバラが始めた円陣はウワサにこそなれど、基本的に控室で行うのでファンが見るのはこれが初めてだ。
全員の距離が近づいたところで、イバラが外に聞こえないギリギリの声量で囁く。
「悪い、多分一曲しか持たない」
「え……」
隣りに立っているアイといーちゃんが、同時にイバラの方を向いた。
前にも言ったが、イバラは超人的な人間ではあっても、本物の超人ではない。
刺された傷は縫合したままの状態であり、その上から包帯とサポーターをがっちり巻いて誤魔化しているのだ。
なにより、気合で麻酔から無理やり目覚めたということは、刺された痛みもぶり返している。
今も、脇腹には常人ならぶっ倒れそうなほどの激痛が走っているのだ。
「オマケに中途半端に麻酔が残ってやがる。普段が10なら……。
4か、多めに見積もって5。今のアタシの性能(パフォーマンス)がソレだ」
「なおさら病院戻らなきゃダメじゃない!?」
「ああ、そうだな、常識的に考えりゃ、そうなんだ……。
だから、これはアタシのワガママだ。エゴイズムだ。傲慢だ」
掛け声を上げる直前に、イバラは真っすぐB小町の面々を見まわした。
「アタシを助けてくれ。このライブを成功させるために」
瞬間、B小町全員の表情から『迷い』が消えた。
今まで散々、米金 イバラはB小町の面々の背中を押してきた。
本人は無自覚かもしれないが、助けられたと思っているメンバーしかこの場にいない。
アイに至っては、自分の子供と自分の命を救われた恩人でもある。
その彼女が、『助けてくれ』と言ったのだ。
このライブを成功させてくれ、と言ったのだ。
ならば、彼女たちの答えは一つ。その為に腹を括った。
返答はいらなかった。全員の目に宿った覚悟だけで、イバラはその意思を察した。
「……行くぞぉ!!」
「「「「「「「おぉー!!」」」」」」」
全員の手が真上に掲げられ、同時にドームの中に歓声が爆発する。
B小町の中に『太陽』が加わったことで、星々を照らす光源すらもそろったのだ。
これから始まる5分間の夢は、いまだ誰も見たことが無い『神話』になる。
この時ドームに集っていたファン全員が、本能から感じ取った予感であった。
……が、その5分間のスタートは、イバラの困惑から始まった。
「っておい!?初っ端から立ち位置間違えてるじゃねーかバーカ!?
アタシが戻ってきて困惑してるのは分かるけどさぁ!?」
恐らく、もう10秒もしない内にスタッフの手によって『ラスト一曲』が流れ始めるはず。
なのに、その曲のポジションにつこうとしたら、何度も練習したはずの初期位置が盛大に間違っているのだ。
『これアタシがいない間のライブ大丈夫だったのか!?』とイバラが心配してしまうのも無理はない。
……だからこそ、普段の自分がいるポジションにいたアイの手を引っ張ってでも移動させようとした事は当然で。
その手をするりと抜けられて、いつのまにか後ろにいたいーちゃんに背を押されて前に出されたのは、完全に想定外だった。
「ちょ、おい……!?」「いいからいいから!」「ちゃんと『練習』してるんでしょ?」
そんなやり取りの末に、イバラが立たされた場所は……。
「は……?」
スポットライトが彼女をいっそう強く照らす。
ドームに満ちたファンの歓声が、人の気配の圧となって彼女を打ち据える。
視界に他のメンバーはいない。なぜならここが『一番前』。
B小町のセンターに、イバラは立っていた。
困惑のまま、後ろを振り返る。
アイも、いーちゃんも、他の皆も、誰一人何も言わない。
ただ、自分を送り出すような笑顔だけで応えた。
もう一度前を振り返る。ファンの皆が、今か今かとラストナンバーを待っている。
ごくり、と生唾を飲み込んだ。いつのまにか、腹の痛みは吹っ飛んでいた。
不調だったはずの体は、生まれてこの方味わったことが無いほどに活力に満たされている。
マイクをしっかり握りしめ、心は誰よりも熱く眩く燃え上がらせて。
太陽のごとき笑顔と共に、米金 イバラは最後の曲名を言い放った。
「サインはッ!!」
『B(ビー)~~~~~~~~~!!』
その日、B小町は不滅の神話になった。
ガイドライン読み込んだら曲名のみの場合コード不要でよかった()