前回のあらすじ
君は完璧で究極のアイドル
「やりきったなぁ……」
「やりきったねぇ……」
完全燃焼という言葉すら生温いほどに、B小町の面々は己の全てを燃やし尽くしてライブを終えた。
大歓声と割れんばかりの拍手、数えるのもイヤになるほどのサイリウムの光がB小町を見送る。
イバラの体調を考えればアンコール等をしている余裕もなく、終了の挨拶を終えた後はそそくさとステージの裏に引っ込んでいった。
幸いライブ中にイバラの傷が開くこともなく、B小町一同は晴れやかな気持ちで舞台から降りた。
「あ、そうだ!イバラちゃん、急いで病院に戻らないと!?」
「プロデューサーがまた車回してくれるってさ。それまでは待ってろって言われた。
朝の一件があったから、B小町の皆は付き添いで家に送り届けてくれるみたいだし」
言うまでもなく、朝の一件とはイバラが刺されたあの事件である。
なんせ刺されてからまだ半日すら経過してないのだ。
え、なのになんでイバラはライブに飛び入り参加してるのかって?
スゴいね、人体♡
と、ここでいーちゃんが「あれ?」と首をかしげる。
ミヤコが迎えに来て病院まで運んでくれる、というのはまあ、いい。
問題は、真っ先にイバラを車に叩き込んで直送しそうな『彼』ではなく、ミヤコが担当になっている事だ。
「……鬼瓦プロデューサーは?」
「ドームの近くでネズミ捕りやってたみたいで、今警察に注意受けてる」
「プロデューサーェ……」
コラテラルダメージを盛大にブチこまれたプロデューサーだけが無事ではなかった。
まあ、一応あの状況でも免停にならないギリッギリを攻めるぐらいの余裕はあったので、運転免許そのものは無事だろう。
ゴールド免許についてはボッシュートになります。
「デデッデデッデーン」
「ボッシュートになった時の音を口でいうのやめたげてよぉ!」
「スーパーひとし君人形じゃなくてゴールド免許がボッシュートだね」
「アイちゃんも追い打ちしない!」
「……うん、アンタらドーム公演終えてもこれっぽっちも変わらないのね……」
いつものB小町が戻って来たなぁ、と妙な感慨に浸るB小町メンバー。
間違いなく人生の中で何度来るのかもわからない大舞台、それを無事終了させた実感は、まだ完全には沸いていない。
早い者なら、帰りの車の中で実感がわいてくる。
あるいは、家に帰ってから何かの拍子にわいてくるかもしれない。
もしくは、何年もしてからようやく実感が追いつくメンバーだっているかもしれない。
それだけの大仕事をやり遂げて、B小町の面々はここに立っているのだから。
と、ここでイバラのスマホに着信が入る。アウトドア用のゴッツい機種だ。
「もしもしー、ふむ、ふむふむ。アイちゃーん、社長が車回してくれたから乗り込めってさ」
「あれ、なんで佐藤さん私に電話しないの?」
「焦って社長の車にスマホおきっぱになってたってよ」
「え? ……あ、本当だ!バッグに入ってない!」
今気づいたあたり、アイも精神的に限界ギリギリだったのだ。
初のドーム公演、しかし目の前で知人が死にかけたのを数時間前に見たばかりで、その上その知人は精神的な主柱となる一人。
アイの中でのイバラの立ち位置は、斎藤社長や『双子の父親』クラスに重い。
元はと言えば、双子の父親に連絡を取ったのも『ルビーが父親に関することでカっとんだ認識になっていた』のが原因だ。
……逆に言えば、アイの中で人物的な優先順位で言えば同率二位の人間が、血みどろで倒れているのを見たその日にドーム公演をやり切ったのである。
とはいえ、母は強しと言うにも限度はある。
さっきまで脳内麻薬ドッバドバで無理やり精神の均衡を保っていたにすぎない。すごいねアイドル。
なお、隣にいるバラドルも脳内麻薬ドッバドバで痛み吹っ飛ばしてライブやってた模様。
なんでドーム公演やるようなアイドルユニットのセンター×2が脳内麻薬オーバードーズするほどキメて乗り切ってるのかと言えば。
まあだいたいこれはそういう小説だからとしか言いようがない。
「そーゆーわけだ、行ってこい。アイちゃんが一番だ。
プロデューサーも減点は1点か2点だから、罰金で済んでるだろ。
最悪ミヤコちゃんに運んでもらうし、アタシが多分二番目だな」
「そういうことならいいけど……これ以上無理しないでね?」
「走って病院帰ろうと思ったけど止められたわ」
「本当に無理しないでね???」
色んな意味で大丈夫かなぁ、と心配になるアイだが、ここにいても解決しないので出口の方へ向かう。
なんだかイバラが意味深な笑顔してる事が気になったが、アイにとっては『心配ない』相手だから警戒しない。
なにせ、イバラはアイとドア一枚挟んだ先でストーカーとやり合っていたのだ。
ドアの向こうにいたアイにも、当然二人の会話は聞こえていた。
(イバラちゃんは、アクアとルビーが私の子供だって気づいてる。
私の笑顔が……愛してるが、偽物だって事にも、気づいてる。
二人に向ける愛が偽物になるかもしれない恐怖にも、気づいてる)
自分が抱えていた秘密も嘘も悩みも、全てイバラは知っていた。
知っていたはずなのに、イバラは今まで一言たりともそれを口に出さなかった。
それも、死の間際になって出て来た、この3つへの彼女の本音は……。
『アイドルがガキ産んじゃ悪いのかよ。男に抱かれちゃ悪いのかよ』
『アイは、嘘は嘘なりに……本物じゃなくても『本気』だったんだよ!』
『アイツが……嘘じゃない『愛してる』が言えなくて、一番苦しんでんだ!
刺されたアタシでも、裏切られたと思ってるアンタでもなく、アイツが!』
(……イバラちゃんが男の人だったらプロポーズしてたかも、私)
こっちもこっちでだいぶ頭が茹った結論に達しているが、きっとライブの疲労のせいだ。そう思いたい。
寧ろ『女の子でもいい!』とならないのは、アイの性癖はノーマルだからか、あるいは双子への悪影響を考えてか。
なにはともあれ、この小説のタグに『ガールズラブ』を付けるような事態は免れた。
スタッフ用の通路を通り、警備員に見送られながら駐車場に降りる。
視線の先には、斎藤社長が回してくれた車と……。
「マ……お姉ちゃん!」「アイ!」
「! ルビー、アクア!」
駆け寄って来た『この世で一番大切な家族』を、両手を広げて抱きとめる。
この二つの宝物のためならばなんでもできる、本気でそう思えるほどに、アイの心は『母親』になっていた。
確かに母親としての適性は『下の上、良くて中の下』*1。
それでも間違いなく、母親失格のラインを超えないのが星野アイという女だった。
その原動力は、たった1つ。
湧き出てくる『ソレ』に逆らわず、アイは抱きしめた二人を離さない。
「お姉ちゃん?」「アイ……?」
様子がおかしい母親に、双子が心配そうに声をかける。
中身が12歳とアラサー医師*2とはいえ、二人は別にエスパーでもなんでもない。
だから、『一筋の涙を流しながら』双子を抱きしめる理由が分からない。
だがしかし、口元には何故か笑顔を浮かべ、流す涙は冷たいモノではなかった。
疲弊しきったはずの体と心に、暖かなモノがあふれだす。
それが涙となって漏れてしまったダケなのだから。
『……手当、ありがとな、アイ、アク坊。 『愛してるぜ』?』
(ああ、ようやく分かった。あの時のイバラちゃんが、笑ってた理由)
彼女の愛してるは、いつだって本気で本物だ。
笑顔という風船を嘘の愛で膨らませたソレとは、すこしだけ違う。
内から湧き出る『愛』が、自然と笑顔の風船を膨らませてくれる。
星野アイは生まれて初めて、その感情と表情の動きを実感し、理解した。
「アクア、ルビー……」
それでもまだ。
君(アクア)と君(ルビー)にだけは言えずにいたけど。
ああ、やっと言えた。
これは絶対、嘘じゃない。
「『愛してる』っ!」
一番星の笑顔に、太陽の光を乗せて、星野アイの『本物の愛』は輝いた。
「なんだよ、『本物の』笑顔浮かべられんじゃん。アイちゃんも」
「ちょ、イバラちゃん!いないと思ったら!」
「とと、悪いいーちゃん。ちょっと野暮用でさ」
「じゃあせめてライブ衣装着替えてから出てよぉ!」
「仕方ねーだろ、アタシの服この車の中だぞ!鬼畜プロデューサーが戻ってくるまでこの服でいるしかねーよ!」
駐車場の片隅、車に乗り込み離れていくアイを物陰から見送って、イバラはどこか満足げな笑みでいーちゃんに答える。
ぷりぷり怒っているいーちゃんは、怪我をしているのにこっそりどこかに離れたイバラを探してここまで来たのだ。
まあ、当の本人は『念のため駐車場でもアイちゃん見ておこ』という過保護な心で抜け出してきたのだが。
「その結果としていいもん見れたしいっかー!」と相も変わらず開き直っているので、
後から駆けつけてきて笑顔(ソレ)を見ていないいーちゃんはアームロックの構えを取ったのだが……。
(……? なに、『鉄の匂い』?)
「いやさ、アイちゃんに対して過保護なのもあるんだけどさ。
ライブ終わったばっかの皆に、コレ見せられないだろ」
いーちゃんの視線が匂いの元をたどってみれば……。
イバラの衣装の脇腹部分が、赤く染まり始めていた。
やはりというべきか、しっかりと施術されていてもライブに突入するのは無理が過ぎた。
本来なら今も傷の癒着を待たねばならない時期であり、輸血と点滴が必要な体である。
じわじわと刺された傷が開き始めたのだ。
※ここから皆さんご存じ、例のBGMを流しながらご覧ください。
「でも、石動院長もいい仕事してくれたわ。
なんだよ、ライブ終わるまで持つじゃねぇか……へっ……」
「い、イバラちゃんっ!?!」
「ハ……なんて声……出してやがる。
アタシはB小町のセンター……米金イバラだぞ。
こんくれぇなんてこたぁねぇ」
身を隠すのに使っていた、鬼瓦プロデューサーの車にもたれかかり、ずるずると体が滑り落ちていく。
元々脳内麻薬の過剰分泌で色々抑えていたのだ、痛みは既に復活している。
開いた傷から流れてくる血を片手で抑えながらも、口元は不敵に笑っていた。
(アイ、やっと分かったんだ。アタシたちにはたどりつく場所なんていらねぇ。
ただ進み続けるだけでいい。止まんねぇかぎり、道は続く)
「アタシは止まんねぇからよ……お前らが止まらねぇ限り、その先にアタシはいるぞ……!」
そのまま体の力が抜け、左手の人差し指を立てた状態で倒れこんだ。
「だからよ……止まるんじゃねぇぞ……!」
「イバラちゃん、まさかと思うけどライブじゃなくてコレがやりたくて脱走したの!?」
「まあ半分ぐらいは」
宇宙世紀シリーズフルマラソンの後も、3日に一度はイバラの家でガンダム履修タイムを強制させられているいーちゃんは気づいた。
『あ、これオルガが死んだときのアレだ』と。
まあ、鉄血のオルフェンズ見てなくても、散々ネットで玩具にされまくったので知ってる人が多すぎるシーンである。
「ふっ、流血が約束されてる体で、コレをやらない理由が……。
え、まっていーちゃん。なんでうつ伏せのアタシに馬乗りになるの?
今のアタシ割とガチなケガ人だよちょっといーちゃんちょっタンマタン……
ぎゃあああああああああああああああ!!??」
いーちゃんの新必殺技『キャメルクラッチ』*3を叩き込まれ、イバラは今度こそ戦闘不能になった。
鬼瓦プロデューサーが戻って来たのは、この3分後。
イバラはきっちり車に積み込まれ*4、流れでいーちゃんも病院に同行。
当然病院で三人そろって石動院長からこっぴどく怒られました。
前半部分だけで二日かかったので連日投稿が途切れてしもうた。
後半?一時間で書けたよ。