B(バラドル)小町と引き立て役B   作:ボンコッツ

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前回のあらすじ

止まるんじゃねぇぞ……。



バラドルと退院

 

伝説を超えて神話になった……そんな表現をされる事になるライブからしばしの時が経過した。

 

イバラは速攻で石動医院に連れ戻され、この日二回目の手術を受けてどうにか回復。

 

その後は脱走しづらいように看護師の定期的な巡回組まれるわ、窓から脱走できないよう四階の病室を宛がわれるわ。

 

まあいざとなったらコイツは四階の窓から五点着地で脱出できるのだが、意外にも入院中は大人しかった。

 

せいぜい『病院食じゃ大盛りにしてもまるで足りない!』という問題が発生したぐらいである。

 

当然、プロの管理栄養士がしっかり計算した量のカロリーは取れているのだが、

 

現実問題として入院してからごりごり体重が減っていったことで特別措置となった。

 

 

「いやー、ステーキのデリバリーができるようになるたぁ、入院生活とは思えないな!」

 

「特例中の特例ですからね本当に……ウチの管理栄養士が自主退職しかけたんですから……」

 

 

成人女性に必要なカロリーを摂取しても筋肉が痩せていく状態となり、スポーツ選手用のメニューに切り替えてもまだ痩せる。

 

普通なら肥満体になるような量の食事をぺろりと平らげるどころか、人体に収まるのが不思議な量の食料が消えていく。

 

これを見たせいでSAN値がゴリっと減って一時的狂気に陥った管理栄養士が、ハイライトの消えた目で「やっていく自信を無くした」と言って退職届を出しかけたのだ。

 

今は『これは私じゃなくて患者さんがおかしい』とある程度折り合いは付けたようで、カロリーはともかく栄養バランスを管理する方に舵を切った模様。

 

今もビスケット・オリバが食べてそうな分厚さと質量のステーキが、ホイホイと口の中へ消えていく。

 

これは自腹なので手数料も含めれば結構な出費なのだが、売れっ子アイドルにとっては必要経費だ。

 

 

「流石に赤ワインとステーキだけ……ってわけにはいかないけどさ。

 うん、出前って言う割に味は中々……割といい肉使ってるな」

 

「そもそも貴方まだ未成年でしょうに」

 

「あと一ヵ月もしたら成人するって!アイちゃんよりちょっと誕生日遅いから一緒に酒飲みに行くのもオアズケなんだぞー?」

 

 

入院期間は終始こんな調子で、石動院長や看護師たちを困惑させながらも、連日大量の食事をとる以外は普通の患者の範疇であった。

 

暇つぶしの道具ということでミヤコに家にある漫画をごっそり持ってこさせたり、いつのまにかダンベルカールやってたり。

 

リハビリ代わりと言って屋上でチャリティコンサート開いたり、ふさぎ込んでいる患者の所へ凸ってはメンタルケアしたり。

 

途中から石動院長すら「まあ、米金イバラが入院してると考えたら大人しい方だな、ヨシ!」と開き直っていた。

 

少なくとも動物園を脱走したライオンが病院に乱入してきたとか、そういうレベルの事件は想定していたらしい。

 

ナースステーションに猟友会へのホットラインが常備されていたあたり、石動院長はジョークでもなんでもなく本気であると思っていた。

 

 

「まあ、盛大に破天荒極まる経緯とはいえ、恩ができましたからね……いや、これマッチポンプじゃないか?」

 

 

『恩』を産んだ経緯が彼女の暴走じゃないか?と頭を抱える石動院長。

 

……イバラ脱走の件は当然病院の中でも問題となり、これを機会にまだ(比較的)若い石動院長を引きずり降ろそうとする策謀等もあったのだが……。

 

どこから聞きつけたのか、病院の会議室で行われていた会議という名の査問会にイバラがドア蹴破って乱入。

 

騒然とする医局の面々の前で、何故か部屋に持ち込んだパイプ椅子を持ち上げ……。

 

 

「じゃあ今から会議室の窓ブチ破って脱走したらアンタら全員の責任問題なんだな?

 石動院長は体張って止めたんだ、アンタらもチン〇ついてんならかかってくるよな?」

 

 

と言って、目の前でパイプ椅子をひん曲げて四つ折りにしたことで誰も何も言えなくなった。

 

「はい、止めます!」と言ったら次は自分の体があのパイプ椅子みたいにされる。

 

「いいえ、無理です!」と言ったら石動院長に対して何も言えなくなる。

 

全員が「沈黙!!それが正しい答えなんだ」と盛大に日和った。

 

そしてノリで会議室の窓から脱走しようとしたイバラと石動院長による石動医院脱走阻止バトル第二ラウンドが開催し、

 

今度こそイバラの脱走阻止に成功した石動院長と、部屋の隅で青い顔で震えていた医局の面々という対比もあり、

 

リアル『白い巨塔』*1が起きかねない状態だった石動医院はいろんな意味で中央集権化された。

 

よいこの読者の皆は絶対にマネしないように!

 

悪い子の読者の皆は自己責任でやるように!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー……普通の入院生活だったな!」

 

「どこが!?」

 

 

そんな『いつものイバラ』極まる入院生活も遂に終わり、迎えに来たミヤコの車に乗って斎藤家に向かう。

 

アイの家は例の事件の後に『有志』の手によって住所から何から割り出されてしまったようで、とても住居には使えない。

 

次の住居が見つかるまでは、一時的に親子三人で斎藤家に居候しているらしい。

 

本来ならイバラも自分の家に帰るつもりだったが、アイ達の様子が気になったようだ。

 

ミヤコに無理を言って斎藤家に同乗させてもらい、後部座席で寛いでいる。

 

 

「アイのヤツ、入院中も頻繁にお見舞い来てたからなぁ。おとといなんて仕事に穴開けかけたんだっけ?」

 

「そーなのよねぇ、なんとか大事にならずにすんだけど……やっぱり、自分の代わりに刺されたことを引きずってるのかしら」

 

「……ま、退院しても元気な所見せりゃ落ち着くだろ!しばらくぶりにアク坊やルビーちゃんにも会いたいしな」

 

 

最初の頃はアイと一緒にお見舞いに来ていたのだが、イバラが病院内でもフリーダムなのを見て双子揃って遠い目になってからは来なくなっていた。

 

あの時の視線は口に出さずともわかる。「あ、これ大丈夫だな」という目だった。

 

 

「残念、アクアは五反田監督に誘われてお仕事よ。家にいるのはアイとルビーだけ」

 

「うわ、マジか。アイツ本格的に役者目指す気なんだ。まー、『親譲りで』顔はいいし、頭もよさそうだしなぁ……」

 

「……その発言、色々ギリギリだからほんっと外では言わないでよ……!?」

 

 

ストーカーの発言から、アイと双子の関係が親子という真実にたどり着いた事は、一応斎藤夫妻や星野家にも話してある。

 

とはいえ、元々アイと双子が血縁関係にある事まではたどり着いていた女だ。斎藤社長も時間の問題と思っていたらしい。

 

今までと変わらない距離感で、外にバレないよう協力してくれるならヨシ……という事にまとまっていた。

 

ギリギリの発言についても、こういう場所でミヤコに言って反応を楽しむタイプというだけで、アイと違ってポロっと外で零す事はない。

 

 

まあ、代わりにコイツはアイの妊娠に近いレベルの事件を定期的に起こしまくるので、ある意味アイ以上の問題児である。

 

 

斎藤邸の駐車場に車が停まり、後部座席から降りたイバラがぐーっと伸びをする。

 

ラフな格好なせいでわがままボディが強調されているが、幸いにして見る者もそういない。

 

久々のシャバの空気だぜー!と色々勘違いされそうなことを言いながら、ミヤコと共に家に入った。

 

 

「イバラちゃーん!」「おわっぷ!?」

 

 

そして、入ったとたんに今日本を代表するアイドルがダイブしてきた。

 

平均的な女性より小柄なアイを受け止めるのは、イバラにとっては容易い。

 

飛び込んできたアイをさっくり抱き留め、あぶねーだろ!と言いつつひょいと立たせる。

 

 

「だって今までずーっとベッドの上だったんだもん!心配だったんだから!」

 

「アタシがフリーダムに活動してるタイミングを毎回外す方が悪い!」

 

「いやそもそも病院でフリーダムに活動するんじゃないわよバカ!」

 

 

ボケとボケの相乗効果でアレな事になってる空気にツッコむミヤコ。最近はもっぱらこんな役回りである。

 

ルビーも「あ、イバラお姉ちゃんだ!」とトテトテ歩いてきたが、アイと抱き合う形になっているのを目撃。

 

 

「ふんぬっ!!」「なんでぇ!?」「ルビぃー!?」

 

 

何を推しのアイドルに手ぇ出されとんじゃオラー!という感情を込めて、思いっきりイバラのスネに蹴りを入れた。

 

なお、イバラはノーダメージ。蹴りを入れたルビーの方が「うに゛ゃー!?」と転げまわるハメになった。

 

曰く『ゴムを巻き付けた太い鉄の棒を蹴ったような感じ』だったという。

 

 

 

「まったく、ママが取られたと思ってキックしに来るとは……バラドル適正アリだな」

 

「私イバラちゃんみたいにならないもん。ママみたいになるもん」

 

「はっはーそうか。今アタシをバラドル扱いした事も含めてあとでゲンコツグリグリな

 

「私の頭野原しんのすけじゃないんだけど!?」

 

 

仕事に穴を開けかけた件についてお説教中のアイを放置して、リビングで寛いでいる二人。

 

ゲンコツグリグリの刑をこめかみを両手でガードすることで防ごうとするルビーに対し、イバラのデコピンが炸裂。

 

み゛ゃん!?という声と共に撃沈したルビーを放置して、ガキンチョはアニメでも見てろとテレビをつけた。

 

 

「プリキュアでも見てろプリキュアでも。アタシ見たことないけど」

 

「いたた……なんで自分で見たことないのに勧めるのよぉ……」

 

「ぶっちゃけアタシが仮面ライダーにドハマリしてただけで、周りみんなプリキュア見てたからな」

 

 

ミヤコちゃんちのテレビ、動画配信サービスとか入ってるかなー?と適当にリモコンを弄っていると、

 

今の彼女と星野家に関係のあるニュースがちらりと見えた。

 

イバラの本能と言うかなんというか、自分の出ている番組やニュースはつい見てしまう。

 

自分が出演したドラマは全て録画しているし、雑誌の切り抜きだってファイリングする。

 

アイドル【米金イバラ】にとっての活動記録に等しく、だからこそ自分に縁のあるニュースに敏感だ。

 

 

その【癖】が、もうひと波乱を呼び込んだ。

 

 

『アイドルユニット【B小町】の米金イバラさんが刃物で襲われた事件について……』

 

「お、アタシの事件だ。なんか追加情報でも出たのかな」

 

「結構経ってるのに、未だにちらほらニュースでやってるもんねー」

 

「ふっ、人気者はつらいぜ」

 

「自分で言うな」

 

 

『本来なら』、ドーム公演の中止と相まって、この事件は雑多なニュースの波にのまれていくはずだった。

 

だがしかし、イバラが無理を押して駆けつけたために【B小町】の知名度は急上昇、ライブも伝説となった。

 

その知名度上昇に合わせ、ニュース等でも長く取り上げる番組が増えたのである。

 

だからこそ、このタイミングで『この情報』が二人に届いた。

 

 

届いてしまった。

 

 

 

『容疑者の証言をもとに、先日から宮崎県の山中を宮崎県警が捜索したところ。

 数年前から行方不明になっており、宮崎中央病院から捜索願が出されていた、

 同病院に勤める【雨宮吾郎】氏と思われる遺体が発見され……』

 

「……は?」

 

「……え……せん、せ……?」

 

 

このニュースにより、米金イバラの物語は最後の山場に突入する。

 

 

 

*1
山崎豊子の長編小説。とある大学病院の派閥争いを描いた名作。

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