B(バラドル)小町と引き立て役B   作:ボンコッツ

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前回のあらすじ

管理栄養士「ええ、私が組んだのは成人したアスリート向けの高たんぱくメニューでした……一般女性ならば肥満体になるカロリーの」

石動院長「うむ。正直今見ても信じられんのだが……」

管理栄養士「なぜか3日で10キロも体重が落ちたんです、もう何が何だかわかりません」

石動院長「そしてステーキを食べさせたら翌日には12キロ太ってたな……痩せてたはずの筋肉もむっちむちに……」


※この後管理栄養士さんはSANチェックに失敗して一時的狂気のまま退職届を出そうとしました。



バラドルとツーリング

 

(どーも様子がおかしいぞ、あのニュースから)

 

 

雨宮吾郎の遺体が発見されたというニュースは、あの後に星野家と斎藤夫妻の知る所となった。

 

同時に『雨宮吾郎』を通じた奇妙な繋がりがここにいる一同にあると分かり、世間は狭いな……という変な感想になったのもつかの間。

 

親切にしてもらった医師が何年も前に殺害されていたという悲報は、確かに星野家と斎藤夫妻を動揺させるのに十分だった。

 

しかも犯人がイバラを刺した男と同一人物ときた。その衝撃は言葉を無くして余りある。

 

が、イバラはその時の『全員の様子』を観察できる程度には余裕があった。

 

確かに恩人?ではある。自分の人生の『転機』となった人物ではある。

 

だがしかし、雨宮吾郎と会っていたのはほんの2~3日程度。なにより本人に救われたというより、本人がアイにドハマリしてる姿が転機になったという側面が強い。

 

故に、この場にいる人間の中では『二番目に』冷静だった。

 

 

(明らかに動揺しすぎなルビーちゃんと、逆に冷静すぎるアク坊。どうにもピントが定まらない)

 

 

アイや斎藤夫妻に聞いたところ、雨宮吾郎……イバラにとっての『ドルオタのセンセー』については、雑談交じりに話したことがあるらしい。

 

妙にルビーの方がその時の話を聞きたがったとか、アクアの方は心底興味無さそうにしてたとか、当時の印象も同時に聞けた。

 

そして、双子の出産後は宮崎に行ったことも無く、雨宮吾郎がこちらに来た事も無い、ということを。

 

 

(つまり、あの双子は『センセーに会った事は無い』。アイちゃん達の話で聞いたことがあるだけ……そのはずだ)

 

アイの子供であるとバレないように、双子にはほとんど常時アイかミヤコのどちらが張り付いているのがこの数年間だった。

 

ドーム公演の少し前にそのメンバーにイバラが加わったので、少なくとも双子がこっそり誰かと接触できるようなタイミングはまず無いと判断できる。

 

とすると、こっそり東京に来ていた雨宮吾郎が双子と会っていた、という可能性もあり得ない。

 

当然、双子が宮崎県まで勝手に外出した、なんてことはもっと無い。

 

小学校にも入っていない子供では、金銭的にも体力的にも治安的にも、現代日本での長距離移動は色々と無理がある。

 

 

(アク坊は、まあ、まだわからなくもない。意外とドライな所あるし。

 親から聞いてた自分が生まれた時の恩人が死んだ、って言われてもなぁ。

 実感沸かねぇってのもまだわかる。ちょっと冷静すぎる気もするが)

 

 

では一方のルビーはどうか。

 

 

(わからんのはこっちだ……なんであそこまで動揺する?

 親から聞いただけで、生まれてから一度も会ったことが無い相手だぞ?

 感情移入しやすいとか多感な時期とか、そういうレベルの話か?)

 

 

まだ『理解できる』理屈がつくアクアに対し、ルビーの方はイバラをもってしても理解不能だ。

 

いつかアクアが出会う『プロファイリングを極めた女優』ならば近い位置まで迫れたかもしれないが*1、イバラではここが限界。

 

なにをどうロジックをこねくり回しても、ルビーが雨宮吾郎の死に激しく動揺する理屈が掴めないのだ。

 

そんな風に悩みつつ、あのニュースを見た日から三日が経過した。

 

仕事の本格的な復帰は『退院した次の月から』と決めていたので、今のイバラは毎日がオフ状態。

 

穴をあけてしまっている映画の撮影やバラエティ番組については多少罪悪感も感じるが、

 

それはそれ、これはこれ、事務所の方針だから!の三段活用で休暇を楽しめる程度にはこの女のツラの皮は厚い。

 

そんなわけで、オフであることを活かしてなるべくミヤコやアイの代わりに双子の面倒を見ているのであるが……。

 

 

(アク坊のヤツ、最近五反田監督のトコに行く事が増えたな……。

 ルビーの様子はまあ、表面上落ち着いちゃいるがまだなんか引きずってやがる。

 妙に『嘘を隠す』のが上手いけど、アタシやアイも気づいてるぐらいだしなぁ)

 

 

アクアがルビーの様子に気付いているかは、イバラ視点だと半々程度。

 

本格的に子役としての仕事が入り始めたと考えれば、だいぶ早熟とはいえ幼稚園に通ってる子供に『妹の変化にまで気づけ!』と言えるほど、イバラは無責任ではない。*2

 

そのアクアの方も、最近はどことなく緊張したような顔になることが増えている。

 

イバラからすればこちらもなんとなーく気になるのだが……。

 

 

(カンだが、まずはルビーちゃんから対処したほうがいい気がする。

 アク坊の方は何かしら腹に抱えてるけど、それが重しになってない。

 ルビーちゃんは最悪精神的に潰れる。ドルオタのセンセーとマジで何があった?)

 

 

斎藤家の前にバイクを停めて、貰っていた合鍵で中に入る。

 

「ルビーちゃーん、イバラおねーちゃんだぞーぅ」と若干ふざけながら中に入れば、どことなく家が薄暗い。

 

明かりがついていないのではない、そもそも今は昼前、アイやミヤコ達が出かけた後だ。

 

だが、全体的に『家の空気が薄暗い』のだ。

 

 

「……イバラお姉ちゃん」

 

 

そして、奥からやってきたルビーの顔色は、先日会った時と同じく悪いままだ。

 

だが、あの時の動揺極まっていた精神状態とは若干感じる印象が違う。

 

なにか腹を決めたような、一歩踏み出したような、覚悟と危うさを同時に感じる顔つきだ。

 

 

「……どーしたよ、ルビーちゃん。ちょーっとそれはガキのしていい顔じゃないぜ?」

 

「ごめん、ちょっといつもみたいにふざけられる余裕が無いの。

 ……その上で、お願い。お姉ちゃんのバイクに乗せてくれるって約束、今日でいい?」

 

「あん?あー……そーいえばしてたな、そんな約束」

 

 

イバラが星野家にちょくちょく来るようになった数日ほど後に、イバラは当然のように買ったばかりのバイクを皆に自慢した。

 

アイとアクアはそこまで興味無さそうだったのだが、ルビーはどこか物珍しそうに見ていた記憶がイバラにはある。

 

その時に、ちょっとした口約束で『週末にサイドカーも買うから、そしたら乗せてやるよ!』と言っていたのだ。

 

VMAX用のサイドカーは購入してあり、現在は買い物時の荷物入れその2として有効活用されている。

 

当然今もつけっぱなしなので、乗せようと思えば乗せられるが……。

 

 

「どっか行きたい場所でもあるのか?」

 

「……なんでわかったの?」

 

「ワガママ言うにしちゃ目が据わってるからなぁ、欲しいのは『足』でしょ。

 とすると行きたい場所があるか、単に気晴らしに風でも感じたいか。

 後者ならもっと急ぐはずだ、不安や恐怖からの逃避に近いわけだし」

 

 

「幼稚園児に何言ってんだろアタシ」と思いながらも、推測するのに使ったロジックはサクっと語る。

 

アクアほどではないが、ルビーも相当な早熟だ。少なくとも同年代だった頃のイバラはここまで大人びていない。

 

なんなら有馬かなだって4~5歳の頃のイバラよりはずっと大人びていただろう。

 

だからこそ、イバラは彼女らを『子供として見ながらも、子供扱いしすぎない』。

 

いざという時は体を張って守るが、その判断はなるべく尊重しようと考えて居た。

 

 

「ほらよっ」「わっ!?えっ……」

 

 

バイクから何かを取り出し、ぽいっとルビーに放り投げる。

 

ルビーの手に収まったのは、イバラが被っているソレよりは小さな『ヘルメット』。

 

恐らく子供用のオートバイヘルメットだ。

 

 

「乗るんだろ?ちゃんと被りなよ。アタシの運転は荒っぽいからな」

 

「……うん!」

 

 

既に出かける準備はしてあったのか、動きやすい服装のまま靴を履いて外に飛び出してくる。

 

ヘルメットの付け方をレクチャーしながら、イバラはある予感を感じた。

 

首筋がピリピリするこの感覚、イバラの持つ『厄介事センサー』がギンギンに働いている。

 

『ああ、今日は絶対何かロクでもない事になるな』という確信だけが、イバラの心中を埋めていた。

 

 

 

 

斎藤家を出発し、アイやミヤコにはルビーと共に外出する旨をメールで伝え、YAMAHA VMAXが都内を駆け抜ける。

 

黒いライダーインナーに金田の赤いジャケット、そこにゴツい大型二輪という、80年代後半~90年代前半のバイカーなら一度は憧れたスタイルが駆け抜けていく。

 

しいて言えばサイドカーに幼児が乗っているのが結構な違和感を生み出しているものの、

 

『AKIRA』を見たことがある人間なら『あのヘルメット外したら老人みたいな顔があるんじゃね?』と脳内補完できるので問題ない。*3

 

ルビーの道案内で走る先は、東京都内のとある住宅地。

 

途中からは広い道も減って来たので、大型二輪に似つかわしくない低速でトコトコと走る。

 

「USJは流石にアレだけとTDLなら連れてってやるぞー?」と言ってみるものの、ルビーは頑なにその場所を指定した。

 

行きたいってんなら止めないけどさと否定も肯定もしない返答をしながら、周囲をざっと観察した。

 

 

(つっても、言うほど変な場所じゃねーよな?見た感じ高級住宅地。

 高所得向けの一戸建てやらビルやらが立ち並んでるだけの……)

 

「……イバラちゃん、あそこ……」

 

「? なんだ、ついたのか?」

 

 

こんな場所になんの用がと今更聞くわけにもいかず、ルビーの指さす建物に目を向ける。

 

バイクを停め、ヘルメットを脱ぐ。まだ距離はあるが、イバラの視力ならこの距離でも十分細かい部分まで見える。*4

 

 

(表札の名前は……『天童寺』?社長やアイにそんな知り合いいたっけ?)

 

 

バイクを押してその家に向かう途中、ルビーもヘルメットを外して家を見た。

 

安全のためにベルトでガッチガチに固定されているので、イバラじゃないと手早くは取り外せないのだ。

 

なので、目的地である家の前まで行ってからベルトを外そう……とイバラは考えていた。

 

そして、それが結果的に功を奏した。

 

 

ガチャリと音を立てて、天童寺家の玄関が開く。

 

出てきたのは40代半ば程度に見える女性。若干シワが深いのは、加齢よりも何かしらの気苦労が見て取れる。

 

緩くカールさせた髪型が特徴で、ああ、若い頃は美人だったかもなー、とイバラが思うぐらいの顔立ちだ。

 

エコバックらしきモノを下げているのを見た感じ、恐らく近所のスーパーかどこかに買い物にでも行くのだろう。

 

そして、彼女を遠目に見た瞬間に、ルビーが「あっ……!」と声を上げた。

 

嬉しそうな、悲しそうな、それでいてずっと求めていたナニカを見た様な。

 

イバラですら一瞬では理解できないほどに、複雑な感情が込められた顔をして……。

 

 

 

 

彼女が連れている『小学生ぐらいの子供二人』を見た瞬間、ルビーの全てが凍り付いた。

 

 

 

 

*1
具体的には彼女なら『間違いなく長期的に接していた時期があり、恋心もしくは父性愛に近いレベルまで信頼関係を築いていた』まではたどり着いて来る。どうやって会ったのか、いつ会ったのかまではオカルト&ファンタジーすぎて無理だけど。

*2
まあその4歳の中身はその異変の原因になったドルオタなのだが。

*3
詳しくは『AKIRA』を見よう。ネトフリで推しの子見てる人ならそのまま見られるぞ!(ダイマ)

*4
ちなみにイバラの視力は両目8.0。本人曰く、昔は3.0だったが鍛えたら伸びた。実質マサイ族である。





作者は原作120話の『めでたしめでたし』のシーンで、『芸術』をみたザックレーみたいな顔をしておりました(唐突)。
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