B(バラドル)小町と引き立て役B   作:ボンコッツ

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前回のあらすじ

ラスボスはナレ死するもの。



〇月×日 某番組インタビューより抜粋

 

【都内某所 居酒屋『刺青』】

 

 

「で、お嬢ちゃんが今回の……あー、インタビュアーってやつかい?」

 

 

居酒屋『刺青(いれずみ)』……炭火焼鳥が有名な店であり、夜の営業よりも昼の焼き鳥ランチの方が売れているという変わった居酒屋だ。

 

とはいえ、水物である飲食店でしっかりと常連を掴み、ブームなどの一時の繁盛ではなく数年間しっかり黒字を維持しているのは、間違いなく『人気店』と言っていい範疇だろう。

 

この店の店主である『塚内 一鉄(つかうち いってつ)』(43歳)は、スキンヘッドの頭に撒いたねじり鉢巻きを外して席についた。

 

店でも使っているピッチャーから氷水が入ったコップを用意し、手慣れた手つきでテーブルへ置く。

 

身長は170㎝後半ほど。無精ひげに加えて体格もゴツめの強面という事もあり、街中ですれ違ったらちょっとだけギョっとしそうな外見だ。

 

今日は定休日なのだが、自営業の飲食店はこういう日も仕込みや仕入れを行わないといけない場合もある。

 

インタビュアーである『彼女』が来る直前まで塚内も厨房に立っており、ほんの少しだがタレのあまじょっぱい香りが漂ってきた。

 

 

「美味しそうな匂いですね」

 

「お、あんがとよ。実際香りも味も評判いいのさ、ウチのタレ。

 最初は業務用のヤツを使ってたんだが、調合試してる内にハマってな。

 一年かけて色々試して、今のレシピに落ち着いてるよ」

 

 

勿論レシピの内容は秘密だがね、と朗らかに笑う。強面のわりに、意外と気さくな人柄であった。

 

……だが。

 

 

「とはいえ……今回の『取材』は、ウチの店の事じゃあねぇな?俺の『前職』の事かい?」

 

「……気づいてましたか」

 

「ハハハ、明らかにお嬢ちゃんもスタッフも表情が強張ってるからなぁ。

 『カタギ』相手に半分詐欺みてぇな『取材』するのたぁワケが違うだろ?」

 

 

それを言われると、とインタビュアーが僅かにたじろぐが、塚内の方は「まあいいさ」と話を続ける。

 

 

「話してもいいが、大半は『例の本』に書かれてる事だぞ?

 俺もずっと現場にいたわけじゃねぇ、あくまで知ってる範疇だ。

 なおかつ、ウチの店と俺の名前は出さない……いいんだな?」

 

「はい、その条件で構いません」

 

「ま、それならいいや……で、何から話すかな」

 

 

水を一口飲み、塚内は当時の事を思い出し、語り始めた。

 

 

「あの『事件』の時、俺は集英組の本邸にいた。組長がいる屋敷さ。

 ま、立派な家屋でね、そりゃあ悪い事してたんまり稼いだ金で建てたんだろう。

 ヨソの組の鉄砲玉はいつだって怖い、本邸にゃ、常に何人も腕利きがいた。

 

 そのうちの一人が俺さ、元はプロボクシングのミドル級日本ランカーだった」

 

 

昔の話だがね、と自嘲気味に笑う。

 

リングの外で暴力事件を起こし、ライセンス失効、後は堕ちるままに堕ちるとこまで。

 

道を踏み外した格闘家にはよくある話だ、と。

 

 

「ウワサは聞いてたよ、若頭が仕事で女一人ハジく*1つもりだってな。

 名前ぐらいは当時の俺も知ってたさ、テレビで見かけるアイドルだってな。

 風呂に落とすんじゃないのか?と思ったが、そん時は気にもしなかった。

 

 だが、最初の異変は、二次か三次の団体に所属してる鉄砲玉から連絡が来なかったことだ。

 そして、気が付いたらその二次団体の事務所は襲撃されて、そっから若頭の事が割れて。

 最終的に、若頭がいるビルまで一人で制圧しやがったのさ、あの女は」

 

 

「……うわぁ」

 

「意味不明だろう?だが、俺が遭遇したあの女のトンデモは、こっから先が本番だった」

 

 

ドン引きしているインタビュアーを前に、へっへっへ、と笑いながら得意げに話し始める。

 

いくら本や映画で語られているシーンであろうと、『当人』の話に勝るリアリティはない。

 

当時の思い出と『恐怖』を思い出すように、塚内は少し目を細めて。

 

 

「屋敷の中で他の奴とタバコ吸ってると、外が何やら騒がしくなってな。

 慌てて仲間と飛び出すと、庭にいたウチの『兵隊』が5~6人ぶっ倒れてやがる。

 若頭をシメてから速攻で乗り込んできたせいで、当初俺たちゃ何が何だかわからなかった。

 どこぞのカチコミか?!と思ったね……意識があったヤツから事情を聞くまでは」

 

 

『女が一人乗り込んできた』……倒れていた組員からそんなうわごとを聞き出したという。

 

よくよく見てみれば、脳震盪らしき症状で倒れているモノや、手足の骨を折られたり関節を外されたりした者ばかり。

 

一人たりとも『死者』はおらず、あくまで戦闘力を奪われるだけの状態だった。

 

 

「おそらく、庭にいたヤツを全員潰して、窓かどこかから侵入したんだろうな。

 背後の屋敷が騒がしくなったもんで、慌てて俺らは引き返した。

 つっても、そこまで焦っちゃいない。いつも本邸には『50人』近い腕っこきがいるんだ。

 鉄砲玉の5人や6人乗り込んできても平気なようにな……しかし」

 

 

『あの日』は違った。

 

屋敷の中から悲鳴や怒号が響き、駆け付けてみると腕利きの組員が倒されている。

 

ポン刀やドス、拳銃(チャカ)で武装した組員だろうと関係ない。

 

何かしらの格闘技の心得がある組員ですらいつのまにかやられている。

 

そして気づいた。同行していた腕利きと自分を含めた5人、これ以外の気配が屋敷から消え去った、と。

 

 

「いつの間にか、屋敷の中から響く悲鳴や怒号は収まってやがった。

 しーんと静まり返った屋敷、俺がいたのは組長がいる奥の部屋に繋がる廊下の入り口。

 この時は流石に全員で察したね、『俺達以外は全員ヤられちまった』ってよ」

 

 

廊下の向こうから歩いて来る影。

 

身長は2m弱、女らしいボディラインだがしっかりがっしりとした体格。

 

ところどころ怪我こそあれど、フラつく気配すらない『歩く大樹』のような威圧感。

 

『こいつだ!こいつがやったんだ!』、見ただけで全身の細胞が確信を得られるほどの『脅威』だったという。

 

 

「ボクサー時代に一度だけタイトル戦もやりましたがね。

 ミドル級の日本チャンピオンが可愛いワンちゃんに思えるぐらいの『脅威』!

 ……咄嗟に持ってたポン刀で切りかかって、気が付きゃこっちがやられてた」

 

 

しかし、ボクサーとしての優れた動体視力は、自分達がそこから『何をされたのか』見えていたという。

 

彼のナチュラルウェイト*2は70㎏。

 

現役を辞めた後でも、殆どそれに近い体重を保持したままだった。

 

即ち、体のキレは現役時代に劣るものの、日本刀を振り回す腕力は十分。振り下ろされた刃の速度と威力も十分。

 

そんな彼が振り下ろした日本刀を簡単に避け、両手首を掴んで『へし折る』ことで武装解除。

 

悲鳴を上げて倒れこんだ塚内の前で、割り込んできた別の組員が突き出したドスを避け。

 

足払いで軽々とその体を跳ね上げ、空中で腕を鷲掴みにすると……。

 

 

『振り回した』のさ、ああ。大の男一人を。

 カンフー映画の武器……ヌンチャクってあるだろう?アレと同じさ。

 人間一人を容易く振り回せる腕力、重心をブレさせない体幹の強さ。

 なにより、腕力だけじゃなく、繊細な技術も必要な『魔技』……!」

 

 

そして、振り回した哀れな組員を、ついた加速そのままに残る三人目掛けて『投擲』。

 

勢いよく人一人分の重量を叩きつけられ、もんどりうって転倒した四人はまとめてノックアウト。

 

それでも、塚内の目には振り回されていた組員が最もダメージが大きいように見えたという。

 

 

「もう恥も外聞もなかったね、砕かれた両腕の痛みも忘れて、這ってでも逃げ出したよ。

 しばらく後におっとり刀で駆け付けた警察官に、砕かれた両腕突き出して自首したさ。

 『あんなの』と相対するぐらいなら、ケジメつけられて殺された方がマシだ、ってね!」

 

 

少なくとも、イバラのやった『人間ヌンチャク』は、彼にそれほどの恐怖を刻み込んだという。

 

 

「組員だけじゃなく、あの女を消せとか言ってきた社長さん*3もまとめてお縄、塀の中だ。

 全部の詳細を知ったのは、それから数年、真面目に『お勤め』を終えた後だったよ。

 日雇いの仕事で金を溜めて、昔のツテでこの店を開いて、少し余裕が出てきた頃。

 ふと思い至って、あの女が出した『小説』を買って、あの後の顛末を知ったのさ。

 

 奥にいた組長脅して、『YouTubeの生配信で集英組の解散宣言させた』んだろう?

 海外でも『マフィア潰しのレディオーガ』って有名になったらしいじゃねーか。

 元々スペインじゃ牛殺しで有名らしいが……」

 

 

未だに思い出すとブルっちまうぜ、と当時の恐怖を思い出して身震いする塚内。

 

それは演技でもなんでもなく、今でも思い出すと体が震えるらしい。

 

 

「……だがな、あの女の一番恐ろしい事は、あんだけの暴力があるのに頭が回る事だ。

 あの小説、今度映画化するんだろう?そのスポンサーだがいくつか知ってる名前があった。

 そう、10年以上前だが、ウチの組に『仕事』を頼んでた連中だよ

 

「!? ほ、本当ですか、それ!?」

 

「ああ、まあ、大抵は売れねぇ元アイドルや役者なんかを『風呂』に沈める依頼だったがね。

 そして、あの女はそーいう仕事を実質的に取り仕切ってた若頭をぶっ潰した。

 ……若頭がいたビルにゃ、ウチの組の『顧客リスト』があったはずだ。

 そう、後ろ暗い仕事をウチに依頼してきた『芸能界のお得意様』のリストさ。

 

 ソレが警察に押収されてんなら、当時の関係者からごっそり逮捕者が出てもおかしくねぇ。

 だというのに、特に真っ黒だった人間以外は今も芸能界に残ってやがる」

 

 

もうひと口氷水を飲むと、若干厳しい顔で続きを語る。

 

 

「恐らくだが、リストの大半を持ってるのは『あの女』だ。

 あんだけブっとんだ小説だぞ?映画化なんて考えたら普通はスポンサー集まらねぇよ。

 だが、協力しなけりゃそのリストが表に出る。時効があっても社会的信用は死ぬ。

 勿論真っ当なスポンサーもいるだろうが……あの女に逆らえない人間も多い」

 

「……え、これ地上波で流していいヤツですか?」

 

「ソレはそっちの事情だな、俺は知らん」

 

 

最後に全部の問題を『番組側』にぶん投げて、元集英組組員・塚内一鉄へのインタビューは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのすいません!?これ本気で『深掘れワンチャン』で放送するんですか!?」

 

「来週も俺達と一緒に地獄へ付き合ってもらうぞ、インタビュアーのルビーちゃん!!」

 

「わーん!イバラちゃんのバカぁー!!!」

 

 

※無事放送されて最高視聴率を更新しました。

 

*1
殺す、とか始末する、とかの意味

*2
ボクサーとして最も自然な体重。

*3
当然カミキヒカルの事。組員や組長、若頭の証言に加えて余罪もゴロゴロ出て来たので、しっかりお縄になった。





感想で『よくわかんなかった』というモノが来る(しかもBAD爆撃食らってる)

こりゃあいかん!と解説回を考える。

新生B小町に当時の事を語るイバラって形式で4000文字ほど書いて「つまんねーし冗長なんだよ!」と全削除。

面白い解説回とはなんだ……!?と月曜日から今まで思案。

過去回を読み返して「こ、これだッッッ!」となる

完成品がこちら。
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