しばらくぶりに投下ー。今回は最終回の翌日ぐらいのお話。
新連載の『君は、このソラを飛べる』も投稿しましたので、
よければどっちも閲覧&感想&評価くれると嬉しいですー。
https://syosetu.org/novel/320510/
「由々しき事態が発生しました」
苺プロダクションの会議室(※無断使用)にて、星野ルビーは集まった面々にゲンドウポーズで宣言した。
集められたのは、彼女以外には元天才子役兼新人アイドル『有馬かな』。
そして、劇団ララライ所属の天才若手女優『黒川あかね』。
大物YouTuberにしてティックトッカー『MEMちょ』。
この4人が、なぜか微妙に薄暗い会議室で机を囲んでいる。
「で、なによいきなり。オフの日なのに緊急事態とか言って集められたんだけど?」
「私も、別の事務所なのに呼ばれるのはちょっと……引き抜き疑惑とか立ちそうだし」
(あれー、なんだか私だけ場違いな予感がバリバリするぞー?)
ものすごく不機嫌なかなとあかね、そりゃそうだ、ルビーをガン無視で火花散らしていればそうもなる。
永遠のライバルにして相手に対して嫉妬と憧憬が複雑に入り混じった感情を抱き合っているこの二人。
それに加えて、かなはアクアに片思いしていたのだ。
『今ガチ』の都合とはいえ、アクアと付き合い始めたあかねに対し良印象があるはずもない。
寧ろ内心では「NTRやんけーっ!!」とキレ気味である。寝てから言え。
で、それらを年の功その他で察知しているMEMちょ(25歳)は戦慄を隠し切れないのだ。
「私だけ年齢入れる必要あるかなぁ!?」
「どうしたのMEMちょ?」
なにはともあれ、MEMちょのツッコミのおかげで場の空気が少しだけ切り替わった。
とっととこの茶番を終わりにしたいのか、かなが「で、緊急事態ってナニ?」と若干ダルそうに先を促し……。
「お兄ちゃんがキスしてました」
「「あ゛ぁ?」」
「しかも舌入れてました」*1
「「は?死ね」」
(ぎゃあああああ威圧感が藍染 惣右介が霊圧でやるアレえええぇぇぇ!?)
ミシッ、ギシッ、と周囲の家具や建物が軋むような音を立てるほどの威圧感。
半泣きになったMEMちょが心の中で絶叫しているが、他三名の空気はそれどころではない。
なにせ三人全員目に黒星の光が見える。原作でもまずない地獄の光景だ。
「相手は?ちょっと色々聞かなきゃいけないことあるでしょ。アクアもシメるけど」
「うん、そうだね。でもかなちゃんはそんなことする権利も理由もないよね?
だって付き合ってるのは私なんだから、恋人である私が怒るべきだよね?」
「はぁん?」
「何かな?」
「さっきから空気が30~40年ぐらい前のヤンキー漫画なんだけどぉ!?」
完全に巻き込まれ枠と化したMEMちょだが、ここにきてルビーが自分を呼んだ理由を察した。
『あ、これ制御不可能になった時のストッパーとして呼ばれたな私!?』と。
ついでに『彼女いるのに誰となにやってるのアクたーん!?』とも思っているが。
「で、ルビー。相手は?」
「イバラちゃん」
「「「……うっわ……」」」
全員の表情と反応はバラバラなのに、口から出た言葉は一致した。
有馬かなは「え、アイツ三十路過ぎの女がいいの?ウソでしょ?」とアクアの性癖を誤解し。*2
黒川あかねは「どうしよう、どうやってもイバラちゃんはマネできない……!」と今後の対応に頭を抱え。*3
MEMちょは「あー、これはイバラちゃんからしたのかなぁ。マジかー」とおおむね事態を把握したからこそ頭を抱えていた。
そして、立ち直りが一番早いのは、流石と言うべきか恋人であるあかねであった。
「……番組のラストで私とキスしてたから、ファーストではない、ヨシ!」
「それ舌は入れたの?」
「んぐっふ……!!」
そして立ち直って5秒で横からかなに言葉で殴られて机に突っ伏した。
唇が触れ合うような軽いキスの記憶しかない、完全にカメラに撮らせるためのソレ。
命の恩人であり(ビジネスライクな)恋人でありガチ恋しちゃった相手のディープキスが、30超えの女性に奪われたというダメージは回避しきれなかった。
なお、それを言ったかなもそもそもキスなんて未経験なので、反射ダメージで同じく机に突っ伏した。
「あによぉ!あんな女のドコがいーのよアクアは!」
「うう、そうだよアクア君、イバラさんなんて……!」
「伝説を越えて神話級のアイドルで!」
「おっぱいもお尻も大きいのにくびれすごくて!」*4
「八ヶ国語ペラペラで!」
「ギネス記録いくつか持ってて!」
「看板番組もいくつか抱えてて!」
「家事も万能で料理はメチャウマで!」
「初主演ドラマの視聴率が13%突破して!」
「初主演映画が興行収入100億突破して!」
「ソロで出したCDがオリコン八位入って!」
「お兄ちゃんや私と幼い頃から知り合いで!」
「ついにはハリウッドからスカウトが来ただけの!」
「「「よく考えたらスペックじゃ勝てなァーいッ!!!」」」
「うん、そうだよね、冷静に考えたらそうなるよね……」
机どころか床に体全体で落下した二人。
ついでに途中から混じっていたルビーも精神ダメージに巻き込まれて床に転がった。
因みにオリコン八位に入ったのは『B小町』時代後期に出したソロCDだ。
当時既に3人になっていたメンバーごとにイメージに合った曲が宛がわれ、同時発売したのである。
ちなみにアイがオリコン三位、いーちゃんが五位、イバラが八位であった。
が、歌手路線に行こうとして盛大に赤字出しまくったかなにとっては、ソロでオリコン八位は雲の上の話。
それも歌唱力だけなら間違いなくかなの方が上で、本人の知名度とキャラクター性で八位をもぎ取られたせいで余計に怒りの行き場が無いのである。
「何気に私のピーマン体操使った踊ってみた動画でバズってたしね……」
「なんでかなちゃんの黒歴史*5であれだけ人気出せるんだろうね……」
「キャラクターじゃないかなぁ、やっぱり……」
「三人とも床で横になったまま会話するのやめない?」
精神的に虐殺された後の三人が、のろのろと机の上に戻ってくる。
そして、同時に今回の『緊急事態』の内容をおおむね理解した、理解したが。
「……なんでルビーはアクアとイバラちゃんがくっつくのを阻止したいのよ」
「え、いずれ私があかねちゃんから寝取って兄妹ルート入る障害になるからだけど?」
「あ゛?」
「重曹先輩はまあ……奇跡が起きてお兄ちゃんと結ばれてもなんとかなりそうだし」
「お゛?」
(アクたーん!ミヤコさーん!社長ー!アイさーん!イバラちゃーん!誰でもいいから助けにきてーッ!!)
何が一番恐ろしいって、ここまできてこの場の全員本気でギスってるわけじゃないことである。
本気でギスってるなら空気はプレッシャーを通り越して殺意に満ちたモノになっている。
そーなったらMEMちょは全部無視して誰かを呼ぶ。なんならアメリカからイバラを呼ぶ。
じゃあなんで本気のギスギスになってないかといえば。
「「「とりあえずお兄ちゃん/アクア/アクア君をシメよう」」」
「アクたん、骨は拾ってあげるからね……」
全ての矛先がアクアとイバラに集中しているので、その点だけは一致団結できるせいであった。
この一時間後、何も知らずに苺プロの事務所にきたアクアが3人の手で会議室に連行。
イバラとのディープキスの件について三時間ほどガチ尋問されることになるのだが、それはともかく。
「……というわけで、お兄ちゃんは後でシメるとして、イバラちゃん対策!」
「対策って言っても、あの人がガチでアクア狙いにきたらどーしようも……」
「ううん、イバラさんはアクア君に本気になってない。寧ろソレとは程遠い」
プロファイラー・あかねにとって、イバラはある程度解析が難解な対象ではあった。
が、原作で故人であるアイのプロファイリングだけで隠し子の存在に至った女だ。
既にイバラの分析を終えているからこそ、まだゲームセットではないと判断していた。
「イバラさんはアクア君のことを、弟か息子みたいな距離感で見てる部分も強い。
もちろん一人の男としても見てるけど、だからこそタイプと正反対なのがデバフ!
つまり、イバラさんがアクア君に本気になる確率自体はそんなに高く無い!」
「おぉ、それなら……!」
「ただしアクア君がイバラさんに本気になる可能性は低くないけどね」
「「ダメじゃん!!」」
「あかねが今ガチの時には見たことない顔してる……」
戦慄するMEMちょが若干置いてけぼりになっている。
ぴえヨン&ミヤコさんと並んで作者の最推しキャラなのに扱いがこんなだが、まあそれはともかく。
ここに至って、3人は現状の打開策を1つ思いついた。
(まてよ、イバラちゃん→お兄ちゃんはあり得ないけどお兄ちゃん→イバラちゃんがあり得るってことは)
(……そこでアクア→私にしちゃえば、少なくともイバラちゃんは障害にならない)
(なら、付き合ってる私が一番有利!ビジネスの恋をガチ恋に変えるだけ!)
ドドドドドドド……と荒木飛呂彦じみたプレッシャーを放ちながら、三人が立ち上がる。
もうさっきから部屋の隅でぷるぷる震えるしかできないMEMちょは小動物のソレだ。
そして、恋する乙女×3は同時に宣言した。
「「「お兄ちゃんの/アクアの/アクア君の推しの子になってやる!!」」」
……女三人寄れば姦しいと言うが、恋する乙女三人寄れば逞しいらしい。