前回のあらすじ
カケル「……ちなみにお二人とも、お好きなガンダム作品は?」
イバラ「ポケ戦と逆シャア」
あこちー「WとOO」
カケル「さっきまであれだけ激論交わしてたSEEDは!?」
二人「「好きだけどトップ3にギリ入らないぐらい……?」」
ライブ会場というのは、他のイベントと比べても独特の熱気と空気がある。
主役となる者が舞台の上に上がり、観客へ自身のパフォーマンスを見せつける……という意味ではスポーツ観戦や演劇と同じという見方もできる。
しかし、音楽系のライブというのは観客との【一体感】が他とは大きく違う。
舞台の上にいる人間だけが会場の空気を作るのではない。
舞台の上にいる人間が観客を引っ張っていき、一体となって会場の空気を作り出す。
そこには麻薬にも似た高揚感と陶酔感が生まれ、他では経験できない興奮を味合わせるのだ。
だからこそ、そんな世界にどっぷり浸かった人間にとって、舞台の上にいる主役たちは『信仰対象』に等しい。
人気のアイドルやバンドのファンが第三者からすると危ないクスリでもキメてんのかと言いたくなるような行動に出るのは、
軽いトリップ+信仰心という何から何までヤバい気配しかしないコンボをキメている者が出てくるからだ。
だがしかし、いや、だからこそ。
そんな光り輝く世界に魅せられた者は死ぬまで……あるいは『死んでも』推しを推し続けるのだ。
「もー!なんで久々の大きなハコでのライブなのに私達はテレビの前で応援なのー!?」
「仕方ないだろ、風邪ひいた自分を恨め、っていたたたた!?叩くな叩くな!?」
少なくとも、【星野愛久愛海(ほしのあくあまりん)】と【星野瑠美衣(ほしのるびい)】の双子は、『死ぬ前』からずっと、母親でもある星野アイを推し続けている。
彼/彼女は前世の記憶を持った『転生者』であり、前世では医者と患者の関係で、なおかつどちらも『アイ』推しのドルオタだったのだが……。
紆余曲折あってアイの赤ん坊に転生し、双子としてこの世に生を受けたのである。
細かい事は『推しの子』一巻かアニメ一話を見るといいよ!(ダイマ)
なにはともあれ前世からアイが最推し、いやむしろ一回死んだ事で『再推し』にもなっている二人からすれば、生まれ変わってもアイの晴れ舞台は近くで見たいのが信条というもので。
病弱な体で記憶に焼き付くほどアイを見続けた瑠美衣/ルビーも、医者なのに病室にB小町のDVD持ち込んで患者と一緒に見てた愛久愛海/アクアも、それこそ乳児期からアイのライブは現地で見たがっていた。
なるべく怪しまれないようにという常識と前提を忘れ、サイリウムでオタ芸する赤ん坊の双子が盛大に目撃されるなんてポカもあったが、なんやかんやで今もなんとかやれている。
双子が生まれてから、アイはマルチタレント路線に舵を切ってアイドル以外の仕事も増えてきたものの、やはり二人からすれば舞台の上でアイドルとして輝くアイがみたいと言う欲求もあったわけで。
……その久々のライブ当日に、ルビーが風邪をひいたので家でお留守番。
アクアも流石にこの状態の妹を置いて一人だけライブを見に行くのは忍びなかったのか、斎藤社長の妻である【斎藤ミヤコ】と共に、アイの自宅でルビーの看病に残る事にしたのだった。
幸い風邪をこじらせることも無く、ライブもテレビの前で観戦できる程度には回復傾向にある。
ライブで使う予定だったサイリウムを手に持って盛大なオタ芸をカマすルビーに「(気持ちは分かるけど)やめろ」と注意するアクア。
そんな二人の視線の先では、B小町の面々が盛大に輝きを放っていた。
「でも、今でもちょっと慣れないよね。私達が知らない内にB小町に新メンバーがいる、って」
「いや、加入してからもう3年目なんだし、いい加減に慣れろって……ちょっと分かるけど」
この双子は、自身の前世については互いに明かさない方針で動いているため、お互いの前世が医者と患者の関係であったことを知らない。
とはいえ『米金 茨になじむ前に死んでいた』というのは共通らしい。
ルビーの前世、【天童寺さりな】はイバラが加入する4年ほど前に難病で死亡、そのためイバラの存在を知ったのは転生した後だ。
アクアの前世、【雨宮吾郎】は産婦人科医としてアイの出産にてんてこ舞いの時期にイバラが加入したため、
イバラの存在は「アイが不在の間に新メンバー入れるのかー」ぐらいに考えてる内にストーカーに刺されて死亡した。
結果として、ルビーとアクアがアイドルとしてのイバラをしっかり見たのは、例の【赤ん坊がサイリウム握ってオタ芸してる】でバズりかけた時が初めてである。
「ちょっとフクザツだけど、ホントにダンスはキレッキレだよね。歌もうまいし」
「ああ。正直ダンスだけならアイに負けてないと思う」
(……っていうか、仮にダンス『だけ』で勝負したら、下手したらアイよりも……)
アイ最推しを死んだ後も維持しているアクアですらそう思ってしまうほどに、イバラのダンスはキレッキレだ。
足の指先にまで神経が通っているようなステップは、同じタイミングで同じ身振り手振りを行っているはずの【B小町】のメンバーより早送りに見えてしまうほど。
少々アレな例えだが、イバラだけアニメの作画枚数増やしたようなヌルっとした動きをしている……と言えば伝わりやすいかもしれない。
重心移動があまりにもスムーズで、なおかつ体幹が相当安定している。こればかりは厳しいトレーニングと天性のフィジカルの賜物だ。
歌の方も、やはり天性のフィジカルが肺活量と声量を担保しているのが大きい。スパルタで仕込まれた歌唱力をいかんなく発揮している。
なにより、イバラはB小町の面々よりも若干声が低い。イケメン女子ボイス、と言えばいいのだろうか。
どちらかと言えば高い声質の多いB小町の面々にギリギリ馴染めるラインを突きつつ、彼女のパートに入った時点で歌にメリハリがつく。
歌唱力で言えばアイとは雲泥とはいえ、そこを勢いと個性でゴリ押せるモノはしっかり持っているのだ。
「問題は……」「ああ、問題は……」
「「普通のアイドルグループだとすっごい悪目立ちする」」
結局のところソレが一番の問題である。
アイの身長は【151㎝】、他のB小町の面々も、そこから大きく外れた身長の持ち主はいなかった。
つまり身長150~160㎝の面々の中に、一人だけ身長184㎝の女性が紛れ込んでいるのである。
ルックスはいい、いろんな意味でアイドルって存在に適合できてるのが奇跡なだけで美女と言ってもいい。
目鼻立ちはスっと通り、若干キレ目の視線がぴったりとハマっている。
3サイズは言うまでもない、ウェストだけ若干太いのはだいたい腹筋のせいだ。
一般的な体格のアイドルしかいないB小町に交じると、周りがチワワなのに一匹だけグレート・デンが混じっているようなとんでもない事になる。
……が、逆にこんなトンチキアイドルもといバラドルが収まることができるのも、B小町しかいない。
「元々アイのワンマングループな側面があったせいか、とんでもない個性の持ち主が並んでもあんまり違和感ないんだよな……」
「アイと並んでも埋もれないイバラちゃんがすごいのか、イバラちゃんが隣にいてもいつも通り輝けるアイがすごいのか、ってこと?」
「そうなる。なんというか、アイドルグループ界のレバニラ炒めを見てる気分だ」
アイもイバラも、普通のアイドルグループで使うにはあまりにも強すぎる素材だ。
アイはそこらのアイドル程度は存在を纏めて食ってしまい、グループメンバーを引き立て役に変えてしまう。
一方のイバラは、アイドルの性質云々を議論する前にアレはアイドルなのかどうかを議論しなければいけないキワモノだ。
どちらもアイドルグループという料理に放り込めば、片方は美味すぎて、片方はクセが強すぎてほかの食材(メンバー)を食いつぶしてしまう。
「アイが光り輝いて、そこにイバラがメリハリを与えて……だからぎりぎり『アイドルグループ』として成立してる」
そういう意味では、本格的にイバラに『アイドルの才能』は無いのかもしれない。
一番星として舞台の上で輝くことはできない、味の濃い素材と一緒に使わないと全てを台無しにしてしまう諸刃の剣。
事実アイが産休のために活動休止していた時期のB小町において、はっきりいってイバラはイロモノ新メンバーでしかなかった。
穴埋めにすらならない、話題づくりのための補修テープ……インターネットの過去ログを漁れば、そんな評価がゴロゴロでてくる。
加入一ヵ月もしない内に今や伝説となった【猛牛締め落とし事件】をスペインでやらかしてバラドル街道を歩みだしたからこそ今があるのだ。
あの女は本当に『持っている』側である。主に悪運とか。
予定していたステージが終わり、最後のシメであるトークタイムに移ったライブを見ながら、無邪気に楽しむルビーをよそにアクアは思案を巡らせる。
グループのメンバーが次々と『今日は来てくれてありがとー!』と観客席に呼びかけて、特にアイの時には一段も二段も大きな歓声が上がった。
(ただ、なんでだろうなぁ……米金 イバラ……前世の雑誌で見る前に、どこかで見たような、聞いたような……?)
『楽しんでいったか野郎共ー!今回の衣装は生地がしっかりしてるから乳揺れ楽しめなくて残念だったなー!』
「「っぶっふぉ!?」」
『イバラちゃーん!?』
『特に最近のアイちゃんはおっぱいさらに育ってきたからより一層残念だったなー! ちょっとウェスト油断気味だけど』*1
『イバラちゃあああああぁぁぁぁぁん!!?』
画面の前で双子がまとめて吹き出し、アイはライブの興奮以外の要因も込めて絶叫しつつツッコミを入れ、当のイバラは生放送でも一切ノンストップ。
『なんでスタイル変わったの知ってるの!?』『自慢じゃないが3サイズは一目見ただけで服の上からでもセンチ単位でわかる』
という会話を生放送で垂れ流しつつ、その特技を今知ったB小町のメンバーが自分の体をサっと両手で隠しながら後ずさり。
会場のボルテージが落ち着くどころか、別方向に加熱させた状態でライブは終幕に向かっていった。
「……お、大勢の前でママの素を引っ張り出せるなんてすごいね、イバラちゃん」
「無理に良かった探しをしなくていいぞ、ルビー」
ちなみに、今回のライブはハコの大きさもあるが大好評だったとだけ言っておく。